Special 記憶に残る仕事 ~データセンタービルの買収~ 宮島 大祐 ケネディクス株式会社 代表取締役社長 50 当社は米国カリフォルニア州を拠点とするケネディ・ スによる資金調達 」の組み合わせにより実現しまし ウィルソン・インク( KWI ) の日本における不動産事業 た。具体的なスキームは、倒産隔離がなされた SPC の拠点として1995 年 4月に設立されました。その後 、 を設定し、当社はアセットマネジメント会社として RKT 市場環境の変化を見極めながら業務転換を進め、 の受益権を取得しました。米国 Colony Capital 社 、 1990 年代後半には不動産アセットマネジメントビジネ KWI および当社で JV を組み購入資金を調達 、オ スの礎を築きました。 リックス株式会社( オリックス)からファイナンスを調 当社の実質的な初仕事であり、私の記憶に残る仕 達。オリックスの小島一雄さん( 現副社長 )、村上 事の1つが1999年2月に株式会社リクルート( 当時 ) 修一さん( 現執行役 )、安田信託銀行( 現みずほ より買収した川崎市にあるデータセンタービル( RKT 信託銀行 ) の薦田晶さん( 現ジャパン・シニアリビン ビル)の案件です。本案件に取り組んだ90 年代後 グ・パートナーズ株式会社 )、ホワイト&ケース法律事 半は、バブル崩壊からの回復を目指す不動産市場が 務所の森本哲也先生 、株式会社リクルートビルマネ 投資家によるエクイティを必要とし、エクイティ獲得の ジメント( 現株式会社ザイマックス) の小野良明さん ためには不動産の所有と運用を切り分け、投資リター ( 現株式会社リンクマックス代表 ) ら、関係者と夜を ン向上のために新たな投資スキームを導入する必要 徹してスキームを作り込んだことはかけがえのない経 がありました。 験であり今でも心に残っています。このスキームが現 RKT ビルの買収は、一般的な不動産取引に組み 在でも不動産ファイナンスの原形になっているのを見 込まれる「 売主による買戻条件 」を含まず、買収対 ると少し嬉しく思います。その後の当社は、不動産 象物件のみを返済原資とする「ノンリコースファイナ 証 券 化 市 場の成 長とともに業 容を拡 大しました。 ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.33 2004 年には東証 1 部上場 、2008 年のリーマンショック スの台頭は、従来の業界構造を変え得る可能性を を乗り越え、現在は J-REIT のメインスポンサーとして 示唆しています。 5 つの J-REIT と50を超える私募ファンドの運用をし ています。運用資産高は約 1.6 兆円に達しました。 かつて当社は、合理的なリスクを取りながら RKT ビルの買収に取り組みました。市場変化を慎重に見 昨今の不動産証券化市場は、世界的なディスイン 極め合理的リスクを取るタイミングを逸しなかったこ フレと同時に、日銀が打ち出した異次元の金融緩和 と、常識にとらわれずに新たな投資スキームを創造す 政策により新たな局面に入ったように見受けられま る柔軟な姿勢を維持したことが、RKT ビル買収の成 す。マイナス金利は投資家の投資方針に影響を及 功要因であったと思います。目下の最大の経営課題 ぼし始めており、新たな投資対象として不動産を組 は、異次元金融緩和策によってもたらされる新たな み入れる動きが広がっています。市場変化を乗り越 局面でのビジネス拡大であると認識しています。私 えて成熟してきた現在の不動産証券化市場は、投 を含めた経営陣の役割は、Fintech/RETech ビジネ 資家が合理的にリスクを判断できるだけの十分な情 スを牽引できる精鋭社員の育成と合理的なリスクを 報が蓄積されており、特に大型優良不動産が有する 許容する度量 、そして「 不動産の限りなき可能性を 透明性と流動性は長期投資家の期待に応えるレベ 切り拓く」という当社のミッションステートメント実現の ルに到達していると思います。加えて、不動産分野 ために、800 億円にのぼる株主資本を最大限に活用 においてもIoTの概念は急速に浸透しつつあります。 しながら顧客の投資機会創造に努めることだと思っ 金融界の Fintechと不動産業界の RETech ビジネ ています。 September-October 2016 51
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