認知症高齢者グループホームとの関わりと保険調剤薬局の役割

チ ー ム 医 療と
薬剤師
認知症高齢者グループホームとの関わりと
保険調剤薬局の役割
株式会社ファルコファーマシーズ 薬局統括部 京都第2ブロック ブロック長 後藤吉志 先生
認知症高齢者グループホーム
(以下、
グループホーム)
では、看護師や薬剤師が常駐していないため、入所者の
薬剤管理や服薬介助は介護職員が行っている。介護職員の多くは医療を専門的に学んでいないため、薬剤の使
用に対し不安を感じる場合が多い。京都府を中心に東海から四国・九州に調剤薬局を多店舗展開する
(株)
ファ
ルコファーマシーズ(本社:京都市中京区)は、在宅医療の取り組みの1つとして、介護職員などを対象に薬剤や医
療・衛生材料などの適正使用に向けた勉強会を開催してきた。その実際と今後の展望について、
ファルコファーマ
シーズの後藤吉志先生にお伺いした。
ITの導入で確実な在宅医療を効率よく実践
り込むことで、現地でメモをとる作業の手間を省いています
(帰局後、必要に応じて薬歴に転記)。
さらに、当日の処方
̶ いつ頃から、
どのように在宅医療に取り組まれてこら
箋はスキャンして画像データをタブレット端末、電子薬歴の
れましたか。
PC、
レセプトのPCの3台で共有します(個人情報なので処
後藤 会社設立当初から在宅医療への薬剤師の参画を
方後すぐに削除)。
このようにITを活用することで、在宅医
推進し、現在では、多くのグループ薬局が在宅医療に取り
療を効率よく正確に行えるようになりました。例えば季節の
組んでいます。当社みのり薬局北山(以下、当店)
も、開局
変わり目は体調を崩す高齢者が多く、臨時薬の処方が増
時より在宅医療に力を注いでおり、午前は外来を中心に、
えますが、迅速に対応することができています。
午後は在宅医療を中心に業務を展開しています。現在、
̶ 他職種とは、
どのように連携されていますか。
月1,000枚ほどの在宅医療関連の処方箋を応需しており、
後藤 在宅医療は薬剤師だけではできません。その実践
4名の薬剤師が曜日ごとの担当制で、
月曜∼土曜の午後
にあたっては、医師や看護師などの医療職だけでなく、
ケ
に、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、
グループホー
アマネジャーや介護職員など他職種との深い関わりが必
ムや個人宅を訪問し、配薬や服薬指導などを行っていま
要です。当店では、
ケアマネジャーと密に連絡をとることを
す。
また、在宅医療担当薬剤師は当番制で、
日曜・祝日お
心がけているほか、介護職員が一堂に会して実施してい
よび深夜などでも、施設や個人宅からの要請を受けられ
るケアカンファレンスには、
ケアプランや診療方針の変更時
るように薬局の携帯電話を持っています。
だけでなく、声がかかれば必ず参加させていただいてい
2011年からは、訪問薬剤管理指導支援システムを導入
ます。
このような取り組みを通じて、患者さんの情報の共
したタブレット端末を携えて在宅医療を行うようになりました
有化を図るとともに、顔の見える関係を構築しています。
(図1)。
タブレット端末には、地図や位置情報(薬剤師の位
置確認に有用)、臨床検査情報、添付文書情報を見られる
薬剤使用に対して大きな不安を抱える介護職員
様々なアプリがインストールされています。
また、
カメラアプリ
̶ 在宅医療の一環として、
グループホームで勉強会を
では、訪問先の施設外観をはじめ、併用薬の処方や往診
開催したそうですが、そのきっかけを教えてください。
スケジュールなど様々な情報を撮影し、画像データとして取
後藤 グループホームでは、主に介護職員が入所者の薬剤
管理や服薬介助を行っていま
す。看護師が常駐しているよう
な有料老人ホームなどでは、薬
物療法で何か問題があっても
介護職員はすぐに看護師に相
談できますし、
自立した高齢者
が入所するケアハウスでは基
本的に入所者自身が薬剤を管
みのり薬局北山
(京都市北区上賀茂ケシ山1-46)
3
理・服薬しているので、介護職
図1.タブレット端末を活用した在宅訪問
図2.グループホームの介護職員を対象としたアンケート結果
訪問薬剤管理指導支援システムを導入した
タブレット端末を持参して在宅訪問。
現在までに学校やセミナー、書籍などで薬剤について
専門的な教育を受けたことがありますか?
電子薬歴以外にも様々なアプリをインストール
処方箋の画像
位置情報
臨床検査情報
手書きメモ 添付文書情報
33%
(4人)
ある
67%
(8人)
ない
薬剤について、
どのようなことで不安になりましたか?
(複数回答可)
外用薬などの
使用方法、注意点
4
員の薬剤管理や服薬介助に対する精神的・身体的な負担
便秘薬や睡眠薬などの
調節方法
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はさほど大きくないようです。
しかし、常駐の看護師がおら
副作用や、他の薬剤・
飲食物との相性
8
ず、認知症などのために入所者自身で薬剤管理や服薬が
できないグループホームでは、
そうはいきません。
疾患別に見た
治療薬の特徴など
以前、新規開設したグループホームの訪問薬剤管理指
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1
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7
8
9(人)
導を始めたところ、介護職員から、調節が必要な便秘薬や
睡眠薬の頓服ならびに貼付薬などについて「使用に不安
後藤 グループホームでの勉強会開催の経験を通じて、
がある」
との訴えが多くありました。そこで、同グループホー
今後、高齢者介護施設の入所者により質の高い薬物療
ムの介護職員を対象に、使用薬の特徴や具体的な使用
法を提供するためには、介護職員に対し薬剤管理指導
方法・調節方法についての勉強会を開催することになりま
を行うだけでなく、勉強会などを定期的に開催し、介護職
した。実際、同グループホームの介護職員12名を対象に実
員の薬剤使用に対する疑問や不安を軽減していく必要
施したアンケート調査でも、7割が薬剤について専門的な
があると感じています。当店では、施設から要望があった
教育を受けた経験がなく、全員が「入所者の使用している
場合や施設を訪問した際に、薬剤について疑問や不安
薬剤について不安になったことがある」
との結果が示され
の声を聞いたり、
あるいは薬剤管理に問題がありそうだと
ました
(図2)。
感じたりした場合に、薬剤師から勉強会の開催を提案し
̶勉強会はどのように行いましたか。
ています。最近では別の施設で、
グレープフルーツや納豆
後藤 介護職員から知識や使用方法について不安がある
などの食品と薬の飲み合わせに関する勉強会を開催し
薬剤を聞き取り、
その中から特に不安が多かった便秘薬(1
ました。
回目)、
およびアルツハイマー治療薬(2回目)
を勉強会で取
また、今後ますます保険調剤薬局における在宅医療
り上げることにしました。教材は、各製薬企業が発行してい
が推進されていく中、多くの薬剤師が在宅医療に関わっ
る患者・介護者向けのパンフレットのほか、
日本薬剤師会作
ていく必要があると考え、他職種とともに在宅医療を実践
成の『薬剤師による食事・排泄・睡眠を通した体調チェック・
できる薬剤師を育成するための研修プログラムを開発中
フローチャート』
を使用しました。
いずれの勉強会でも、
薬剤
です。各グループ薬局では、薬剤師の立場についてある
について、疾患と関連させた具体的な特徴、
および適正使
程度理解している3年目以降の薬剤師を中心に「中途半
用についての情報を提供した上で、
『 体調チェック・フロー
端に関わるな、関わるなら本気で」をモットーとして、在宅
チャート』
を使用して、入所者の日常生活や生活機能の変
医療の実践ノウハウをOJT(on the job training)方式
化から、副作用発現によるADLの低下の有無や状態ごと
で伝授しています。当店でも、新しく入局した薬剤師(薬
の適切な対処法を確認する方法を説明しました。
剤師歴3年)
を先輩薬剤師と同行させ、在宅医療の経験
̶その成果は?
を積んでもらっています。その中で、
「ともすれば薬剤師
後藤 勉強会に参加した介護職員からは、
「薬の効果や副
は、他職種からも患者さんからも、
“ お薬を持ってきてくれ
作用を知ることができ、
どのようなことに気をつけて介護を
る人”
になりやすい。そうならないために、常日頃、薬剤師
行えばよいかが分かった」、
「疑問や不安が解消され、調
から他職種に対して積極的にコミュニケーションを図り、
節の可否や医師への連絡が必要な場合を判断できるよう
患 者さんに真 摯にアプローチしていかなければならな
になった」などの評価を得られました。
い」
といつも伝えています。
このように、在宅医療を実践で
薬剤師からコミュニケーションを図る
̶今後の展望についてお聞かせください。
きる薬剤師を少しずつ増やし、居宅でも質の高い薬物療
法を提供していきたいと考えています。
̶ありがとうございました。
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