前立腺がんに対する内照射治療(密封小線源療法)と外照射治療(3D-CRT または IMRT) 前立腺がんとは? 前立腺は膀胱のすぐ下に、尿道を取り囲むように存在し、精液の成分を作る臓器です。最近、前立腺の中で 尿道から離れた辺縁部にがんが発生することが知られてきました。辺縁部にがんが発生することから、何ら かの症状が出てくることが少なく、たまたまおしっこが出にくいだとか、おしっこが近いといった前立腺肥大症 の症状で泌尿器科を受診して、医師から前立腺がんと言われることが多い病気です。また最近は PSA 検査 と呼ばれる、前立腺がんで高くなる血液検査を検診などで受けることにより発見されることも少なくありませ ん。 近年、わが国において、前立腺がんと診断される患者さんが急速に増加しています。 治療は? 患者さんによって、ホルモン治療(男性ホルモンを抑える治療)や手術(お腹を切って、あるいは腹腔鏡を用 いて前立腺を取る治療)、放射線治療などを選択します。がんの状態によっては、それらを組み合わせて治 療することがあります。 放射線治療とはどんな治療? 一言で言えば、切らずに治す治療です。放射線は目に見えず、身体に当たっても痛みや熱さを感じることは ありません。放射線治療は、麻酔の必要もなく、身体の外観や機能を損なうことも非常に少ない治療ですの で、一般に身体への負担は少ないと言えます。そのため、高齢の患者さん、何らかの理由により麻酔や手 術を受けられない患者さん、手術に不安がある患者さんなど、多くの患者さんに適応となることが多いもの です。また治療期間中も、普段通りの生活ができます。 → 内照射治療(密封小線源療法)・・・«詳細はp.2~5» → 外照射治療(3D-CRTあるいはIMRT)・・・«詳細はp.6~8» 前立腺密封小線源療法 初めに この治療は前立腺内にヨウ素 125 という放射線物質を挿入して前立腺がんを治療する方法です。比較的短 い入院期間で身体への負担も少なく、海外では 20 年以上前から行われており、その手技や安全性も確立し ております。日本に於きましても平成 15 年から認可を受けています。当院では平成 18 年 6 月より、第一回 目に 2000 例以上の経験をお持ちのカリフォルニア大学サンフランシスコ校の篠原克人先生に指導を仰ぎ導 入しました。それ以降、平成 28 年 7 月末時点まで 134 人の前立腺がん患者さんの治療を行っております。 途中、2 回に渡りこの治療の第一人者であるニューヨークマウントサイナイ病院 Stone 先生に直接指導を受 けております。大学病院という特性を生かし、各方面のスペシャリストから学びながら最先端で精度の高い 治療を行うように心がけております。 適応 前立腺局所に限局した前立腺がんで、悪性度を示すグリーソンスコアが 3+4 以下かつ、腫瘍マーカーPSA が 20ng/mL 以下である事。前立腺体積が大きい方や、悪性度やマーカーが高めの方にはホルモン療法を 併用する事もあります。 治療の流れ 1.外来受診 外来受診時に本治療法や他治療法(3DCRT, IMRT などの外照射療法、手術療法)も含めた説明を致しま す。 2.プレプラン 治療に先立って、実際に治療を行う部屋で前立腺の大きさを測定します。その結果を参考にして使用する線 源の個数を決めます。この日に手術の具体的内容などを説明します。 【コンピューターに描かれた前立腺(赤)と線源(緑)】 3.入院 月曜日の午前中が治療の為、前の週の金曜日に入院して頂きます。 4.治療 月曜日の 9 時から 12 時くらいまでかけて行います。全身麻酔を基本としている為、痛みは全くありませんし、 夕方には座位や飲水可能になります。翌日朝までは基本的に部屋から出る事は出来ません。 【治療の様子】 5.術後経過 翌日朝より食事が再開され、レントゲン、CTを撮影した後に尿の管を抜きます。殆どの場合、排尿障害や発 熱を認めず、その翌日には退院されます。 【実際に挿入された線源】 後は外来に術後 1 カ月、その後は 3 か月於きに受診して頂きます。勿論、何か変わった事があれば 24 時間 365 日対応可能です。 当院における治療成績 中央値で年齢 70 歳(56 歳から 83 歳)、PSA6.7ng/mL、前立腺容積は 25.8cc。表に示すように現時点では全 ての患者さんに於いて、腫瘍マーカーの PSA は順調に低下しています。PSA は再発とは関係なく一過性に 上昇する事もあり、慎重に経過を診させていただきます。 【PSA】 将来的に前立腺がんが再発をきたした場合は、ご相談の上、速やかにホルモン療法などの追加治療を行い ます。今までに術後 2 週間たってからの尿閉と 1 年以上経過してからの尿道狭窄の合併症をお一人ずつ経 験しましたが、適切な治療を行い排尿状態も治療前の状態に改善しております。 ご不明な点があれば、なんなりとお問い合わせください。 外照射治療(3D-CRT または IMRT) 3 次元治療計画装置を用いた放射線外照射治療とは? (Three-dimensional conformal radiation therapy:3D-CRT) 前立腺がんに対する放射線治療で、最も頻度の多い、しかも最も重い合併症は、膀胱直腸粘膜障害です。 これは、膀胱や直腸の粘膜は放射線に対して感受性が高く、前立腺に当たる照射量とほとんど同じ量の放 射線がそれらに当たると、膀胱や直腸から出血を来すものです。ひどい場合は輸血が必要なこともあります。 しかもこの出血は、放射線治療中だけでなく、放射線治療が終わって何年も経った後に、起こることもありま す。 それを避けるために、前立腺周囲への照射量をより少なくできる3次元治療計画装置というものを本院では 導入し、これまでに約 280 例の前立腺がんの患者さんに治療を行ってきました。幸い、治療中ならびに治療 後早期に膀胱や直腸からのひどい出血を経験することはこれまでにありませんでした。さらに海外からの報 告によると、3次元治療計画装置により、それら出血の発生頻度がかなり抑えられることがわかっています。 治療の実際(3D-CRT) 治療を開始する前には治療計画用のCTを撮影し、前立腺に最も効率良く治療できる方法をシミュレーション し、放射線を当てる方向を決めます。その際、皮膚に、位置決めのための印をつけます。 1回の線量を少なくし、回数を増やして、長い期間続けて治療する方が良い効果を得ることができるために、 本院では、週に 5 回、8 週間かけて(合計 36 回)治療を行っています。基本的には外来で治療を行っていま すが、通院するのに不便な方や患者さんの状態によっては、入院して治療を受けることができます。1 回の 治療は 5 分から 10 分で終わります。 強度変調放射線治療とは?(Intensity modulated radiation therapy:IMRT) 専用のコンピューターを用いて、複数のビームを組み合わせることで放射線に強弱をつけ、腫瘍の形に適し た放射線治療を行う技術です。これによって腫瘍に放射線を集中し、周囲の正常組織への照射を減らすこと ができるため、従来の方法ではできなかった理想的な放射線治療が可能となり、腫瘍制御率の向上や合併 症の軽減が期待されています。この方法を用いて、これまでに約 140 例の前立腺がんの患者さんに治療を 行っています。 治療の実際(IMRT) 治療開始前に、3 次元治療計画装置を用いて何度も線量計算を繰り返し、最適の治療法を探ります。また複 雑な照射法になるため、患者さん個別に、人体に当たる 3 次元的な線量分布を実際に再現して、厳密に線 量の誤差を確認します。そのため、治療開始まで 1 週間程度の準備期間を要します。 また、IMRT には、毎回の位置決めなどに高い精度が必要です。身体が動かないように型のようなもので固 定します。さらに毎回の治療に精度確認のための CT 撮影を行い、位置を確認して行っています。そのため に、通常の放射線治療よりも時間がかかります。 これらの 2 種類の治療法(3D-CRT と IMRT)を、前立腺生検前の PSA 値や前立腺生検の結果によって使い 分けます。 ホルモン治療(男性ホルモンを抑える治療)の併用 PSA 値が高い患者さんや前立腺生検の結果によっては、放射線治療前に 6 ヶ月間、ホルモン治療を先行さ せることがあります。これは、前立腺がんを少しでも少なくしてから放射線治療を行うと、再発の可能性を少 なくでき、また再発までの期間を延長させることができるからです。 また、前立腺が高度に肥大している患者さんにも、放射線治療前にホルモン治療を先行させることがありま す。これは、前立腺を縮小させることにより、直腸など前立腺以外の部位への照射量を減らす目的で行いま す。 治療成績 2002 年に 3D-CRT を開始してから現在まで、重篤な副作用を引き起こした患者さんはなく治療成績は国内 外で発表されている報告と遜色ありません。 また、強度変調放射線治療(IMRT: intensity-modulated radiotherapy)という照射方法も当院では可能となり ました。従来の 3D-CRT の発展型であるこの技術は、線量増加と有害事象の軽減を目的とした方法です。 治療前の PSA 値や生検結果により、照射法や照射範囲を変えています。詳しい治療内容や治療対象につ きましては治療担当医にお気軽にご相談ください。
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