五味 一博 後抄録

歯周薬物療法を再考する
鶴見大学歯学部歯周病学講座
教授
五味一博
歯周病は紀元前より人類を悩ます疾患であり、今なお人類の最も罹患してい
る疾患である。古代人の歯周病への対応は主に外科的な対応と薬物による対応
であり、歯周薬物療法の歴史は古い。歯周病が細菌により引き起こされる疾患
であることが示された時代には、長期間の抗菌薬投与が行われ耐性菌の出現や
副作用が大きな問題となった。薬剤の応用としては洗口剤や抗菌薬の局所投与
や全身投与があるが、これらの薬剤を応用する場合には適切な時期に適切な方
法で行う必要がある。
まず洗口剤として用いられる殺菌剤や消毒薬では SRP と併用することで歯面
にプラークの再沈着を防ぐことが可能であり、歯肉炎の発症を抑制できること
が知られている。耐性菌の出現も抑えられることから適切に用いることで効果
的な歯周病の治療と予防に応用できると考える。
これまで積極的な歯周治療に経口抗菌薬は用いられてこなかったが、薬剤の
特性と応用する時期を十分に考慮することで効果的歯周治療が行えることが明
らかとなった。特にアジスロマシンは抗菌作用と共にファゴサイトデリバリー
やバイオフィルム形成抑制と破壊作用によるバイオフィルムのコントロール。
歯肉組織におけるコラーゲンの合成抑制と分解促進による歯周ポケットの減少
作用などにより安定した細菌叢を獲得することが可能である。実際に、我々は
歯周薬物療法を行った歯周ポケットは、薬物療法を行わない通常の歯周治療に
より獲得された歯周ポケット内細菌叢より明らかに歯周病原細菌の比率が少な
いことを報告している。このようにアジスロマシンは歯周治療に優れた性質を
有するが、その一方でアジスロマイシン投与により心停止を起こすリスクが高
まることが報告されている。これは QT 延長に伴う心室細動などが原因と考えら
れている。このように薬剤を用いるには、薬剤の特徴と特性そして危険性につ
いて十分に考慮すること、さらに細菌検査を行うことでその効果を評価するこ
とが必要である。