耕作放棄地再生利用緊急対策事業 実証圃場報告書 雄武町耕作放棄地対策協議会 【雄武町の概要】 本町は、約 400kmにわたるオホーツク海沿岸のほぼ中央にあり、オホーツク総 合振興局管内の最北部に位置する人口が約 4,600 人の町である。 町の行政区域の海岸線延長は 35kmで、その海岸線沿いに中心市街地のほか3つ の集落が点在し、町の総面積は東京都特別区(23 区)の合計(612.42 ㎢)よりも 広い約 637 ㎢を有しており、その内、畑・牧場は 97.81 ㎢となっている。 本町の農業は、厳しい気象条件や土壌が重粘土質という不利な条件にあるため、酪 農に特化して農業経営が行われてきたが、地域に根付く新作物を求める声も多く、韃 靼そば(北海 T8 号他)の試験栽培を数年間行った結果、本町の環境においても充分 収穫が見込めることが分かり、近年、民間企業による韃靼そばの栽培が開始された。 【実証圃場の目的】 実証圃場を設置した上幌内地区は、古くから酪農が営まれていたが、担い手の高齢 化や後継者不在に伴う離農により、耕作放棄地が増加していた。 加工販売等6次化にもつながる韃靼そば(満天きらり)の実証圃場の設置を通じて、 耕作放棄された農地の再生やその継続的な利用を実証・展示し、耕作放棄地の再生・ 利用に係る地域の機運を醸成し、その促進を図ることを目的とした。 【実証圃場の設置・運営】 ⑴ 実証圃場の概要 実施年度 : 平成27年度 設置場所 : 上幌内地区 圃場番号10 作付作物 : 韃靼そば(満天きらり) 作付面積 : 30a ⑵ 実証圃場の実績 収 反 量 : 13.6kg 収 : 4.5kg ⑶ 再生作業実施状況 再生前 再生後 ⑷ 生育・収穫状況 生育状況 収穫作業 収穫したダッタンソバ 収量測定 【新商品の開発】 オホーツク地域で収穫される農産物の付加価値向上を目的に、機能性に富む韃靼そ ばの消費拡大に向けた麺の試作を行った。実証圃場で収穫した韃靼そば(満天きらり) は、普通のそばに比べてルチンを約 120 倍多く含む。ルチンは穀物ではそばだけに 含まれており、毛細血管に弾力を与え、血圧を下げる作用があるとの報告がある。 しかし、韃靼そばには特有の苦味があるため、あまり一般には普及していない。こ こ数年、オホーツクで普及が進んでいる満天きらりは、ルチンの機能性は保持しつつ、 苦味が少ない特徴を有する。この満天きらりを用いたそば粉にて、誰もが食べやすい 韃靼そばを開発するため、韃靼そばの割合を変えた場合の水分測定等を実施し、それ ぞれの官能評価を行った。 ⑴ 韃靼そばの調整 そばの基本レシピを参考に、PHILIPS ヌードルメーカーを用いて試作を試みた。 水と食塩は同量にし、そば粉と強力粉の配合を(10、9、8、7および6割)に変え て最適な材料配合を検討した。 10割そばは、繋ぎとしての小麦粉がないため、製麺の際に麺が短く切れてしま い、製麺された麺の量は少なかった。8割、7割、6割そばは、それぞれ小麦粉の 配合が増加したため、小麦粉の配合比の増加に伴って生地がしっかりし、製麺後 の麺も扱いやすいものに変化して、麺の表面も綺麗なものが製造できた。 検討を行った韃靼そばの材料の配合割合 10 割 9割 8割 7割 6割 そば粉(g) 125 112.5 100 87.5 75 強力粉(g) 0 12.5 25 37.5 50 食塩(g) 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 冷水(cc) 45 45 45 45 45 (東京農業大学生物産業学部 食品香粧学科 食の化学研究室調べ) ⑵ 韃靼そばの水分測定 各そば粉配合における韃靼そばの水分含量の結果は下表のとおりとなった。生 麺・茹で麺ともに、6 割で少し水分含量が減ってしまったが、小麦粉配合が増加 するに従い水分含量が増える傾向を示した。 各そば粉配合における韃靼そばの水分含量(生麺) 割合 水分(%) ± 標準誤差 10 37.32±0.00 9 43.08±0.02 8 52.43±0.001 7 50.22±0.00 6 40.33±0.03 各そば粉配合における韃靼そばの水分含量(茹で麺) 割合 水分(%) ± 標準誤差 10 57.43±0.06 9 72.64±0.00 8 73.81±0.00 7 75.28±0.00 6 67.05±0.01 (東京農業大学生物産業学部 食品香粧学科 食の化学研究室調べ) ⑶ 官能評価 雄武町産「満点きらり」はルチンの機能性を保持しつつ苦味が少ないとされた そば粉であったが、実際に食べてみると 10 割は苦味と渋味を強く感じた。9 割、 8 割は食べた際は苦味を感じなかったが後味で苦味を感じた。7 割は後味で少し 苦味を感じたが、気にするほどの苦味ではなく、一番食べやすい配合のそばとな った。それに対し 6 割は苦味を感じなかったが、小麦粉の配合が多いことから、 そばの風味が薄れてしまった。 商品開発の検討 試作品の製造 【試食、アンケート調査】 前段の検証結果を参考に、実証圃場で収穫した韃靼そば(満天きらり)7割、オホ ーツク産小麦(きたほなみ)3割の試作品(生麺)を製作した。 試作品に対する消費者の評価を把握し、今後の更なる商品の改良に役立てるため、 網走市や札幌市において試食会とアンケート調査を行った。 開催日 平成 28 年 2 月 24 日(水) 場 網走市(オホーツク総合振興局) 所 インバウンドセミナーにて アンケート回収人数 (網走会場) 45 人 開催日 平成 28 年 2 月 25 日(木) 場 所 札幌市(水土里ネット北海道) アンケート回収人数 20 人 (札幌会場) ⑴ アンケート調査項目の内容 ①商品の見た目(色や形等)についてどのような印象を持ちましたか。 ②苦味・風味・食感についてお伺いします。 ③味、風味、食感のなかで特に改善すべき点はどれですか。 ④価格についてお伺いします。(店舗希望価格:350 円/240g) ⑵ アンケート集計結果 ①見た目の印象について 色 形 長 あざやか 普通 発色がよくない 無回答 38 名 26 名 1名 - 太い ちょうどいい 細い 無回答 2名 53 名 10 名 - 長い ちょうどいい 短い 無回答 - 31 名 34 名 - 感じない 少し感じる 苦い 無回答 41 名 21 名 2名 1名 良い 普通 悪い 無回答 24 名 38 名 2名 1名 良い 普通 悪い 無回答 35 名 25 名 5名 - さ ②苦味・風味・食感について 苦 風 食 味 味 感 ③改善すべき点について 食 改善点 感 苦 16 名 味 風 7名 味 無回答 23 名 19 名 ④妥当な購入価格について 購入価格 300 円以下 300~400 円 400~500 円 500~600 円 無回答 13 名 36 名 13 名 1名 2名 【まとめ】 実施圃場については、満天きらりの作付けから収穫まで行って一定の収量を得る ことができたが、長期間、耕作していない土地のためか、他の圃場と比較すると生 育が遅れ気味で、2年目の土壌改良の必要性が感じられた。 また、新商品の開発については、満天きらりや北海道産小麦粉を配合した生麺を 試作し、試食会やアンケート調査を行った。 アンケートの集計結果から商品化に向けた課題を把握することができたので、将 来の市販化に向けて新商品の改良に役立てたい。また、韃靼そばを使ったパンや菓 子など6次化商品の可能性についても、今後、検討を進めていく必要があるので、 当協議会として継続した取り組みを進めていきたい。
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