イオンクロマトグラフィーにおけるグラジエント条件の設定

サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社
Application Note IC16008
イオンクロマトグラフィーにおけるグラジエント条件の設定
キーワード
グラジエント分析、
分離、
濃度勾配
はじめに
グラジエント条件の設定
イオンクロマトグラフィーにおいてカラム分離に影響を与える要
今回、グラジエント条件の検討を行った分析条件を表 1に、無機
因に、温度や溶離液に使用する溶離剤イオンの種類などが挙げら
陰イオンおよび有機酸の混合標準品を表 2に示します。
れます。
表1:グラジエント条件の設定に用いた分析条件
イオンクロマトグ ラフ法では、溶 離 条 件は一 般 的にイソクラ
ティック条件が用いられ、主に炭酸ナトリウム/重炭酸ナトリウム
カラム
の混合溶液が使用されます。この溶離条件は、イオンクロマトグ
ラフでよく測定される陰イオン成分、F-、Cl-、NO2 -N、Br-、NO3 -N、
HPO42-*、SO42- の7成分をバランスよく分離するように設定され
溶離液
Thermo Scientific Dionex IonPac AS11 -HC、
4×250 mm
Thermo Scientific Dionex IonPac AG11-HC、
4×50 mm
超純水
EGC-KOH 500
ています。この7成分以外の有機酸類や、よりイオン半径の大きい
流量
1.5 mL/min
イオン種を同時に分析する場合では、良い溶出条件とは言えま
カラム温度
30℃
せん。炭酸ナトリウム/重炭酸ナトリウム混合溶離液では、フッ化
サプレッサー
-
物イオン(F )から亜硝酸態窒素(NO2 -N )ぐらいまでの溶出位
置に多くの一塩基有機酸類が溶出します。イオンクロマトグラフ
による分析では、ぎ酸、酢酸から吉草酸ぐらいまでの一塩基有機
Thermo Scientific Dionex AERS™ 500 4 mm、
リサイクルモード
検出器
電気伝導度
試料注入量
25 µL
酸類の他、コハク酸やリンゴ酸などの二塩基酸の測定も求められ
ます。多様なイオン種成分の分析において、イソクラティック溶出
グラジエント溶出条件の設定は、濃度勾配をつけて分析すればい
条件では分離が難しく、対応できない場合があります。そのため、
いと言うものではありません。グラジエント初期濃度、濃度勾配、
炭酸イオン/重炭酸イオン溶離液よりも溶出力の弱い溶離剤イ
最終グラジエント濃度など、目的イオン種成分に合わせて検討し
オンである水酸化物イオンを使用して、濃度勾配をつけたグラジ
なければなりません。初期濃度の設定と試料導入から何分間初期
エント分析を行うことで多様なイオン種の分離が改善されます。
濃度を保持するのか、濃度勾配をかけ始めてから最終的に何分間
グラジエント分析は分析中に溶離液濃度を低濃度から高濃度へ
で最終濃度まで溶離液濃度を変化させるのかを検討します。
上昇させていくことで、分離の改善や保持されやすい成分を早く
濃度の異なるイソクラティック条件で分析を行ったクロマトグラ
溶出させる方法です。
ムを図 1に示します。どちらの濃度もイソクラティック条件では、
今回は、溶離液の濃度変化によるイオン種の分離、グラジエント
溶離液の溶出力が弱いため、全てのイオン種が溶出することはあ
条件の設定について、
Thermo Scientific™ Dionex™ IonPac™
りませんでした。
しかし、
溶離液濃度の低い図 1a のクロマトグラム
AS11-HC カラムを用いた無機陰イオンや有機酸を分析した例を
では、保持の弱い成分である1から12のピークを分離することがで
ご紹介します。
きます。
グラジエント条件を設定する場合、
初期濃度は保持の弱い
成分が分離しやすい濃度から設定した方がよいと言えます。
2
表 2:無機陰イオンおよび有機酸の混合標準品
ピーク
1 キナ酸
2 F3
4
5
6
乳酸
酢酸
プロピオン酸
ぎ酸
7 酪酸
8 ピルビン酸
9 吉草酸
10 クロロ酢酸
11 BrO3-
mg/L
10 .0
3 .0
20 .0
20 .0
20 .0
10 .0
15 .0
25 .0
25 .0
15 .0
10 .0
ピーク
-
12 Cl
13 NO2 14
15
16
17
トリフルオロ酢酸
BrNO3 ClO3 -
18 リンゴ酸
19 CO32 20 マロン酸
21 マレイン酸
22 SO42-
mg/L
ピーク
mg/L
5 .0
25 .0
10 .0
10 .0
10 .0
20 .0
25 .0
30 .0
30 .0
20 .0
23 シュウ酸
24 タングステン酸
30 .0
30 .0
40 .0
30 .0
40 .0
30 .0
30 .0
20 .0
40 .0
40 .0
25
26
27
28
モリブデン酸
フタル酸
PO43 S2 O32 -
29 クロム酸
30 クエン酸
31 イソクエン酸
32 cis-アコニット酸
33 trans-アコニット酸
図1:溶離液濃度の違いによる溶出(イソクラティック条件)
保持の弱い成分の分離について、その範囲を拡大したクロマトグ
などの分離が損なわれます。このような場合は、図 2 b のように初
ラムを図 2に示します。試料導入直後から溶離液の濃度変化をつ
期濃度をしばらく保持することによって、分離を改善することが
けると、図 2 aに示すように保持の弱い成分、
フッ化物、酢酸やぎ酸
できます。
図2:保持の弱い成分の分離について
溶離液濃度を上昇させていく濃度勾配の上げ方もポイントになり
分析目的イオン種が全てベースライン分離することは難しく、分析
ます。図 3に濃度勾配の違いによる分離状態の違いを示します。図
種の重要度を考慮しながら検討を進めます。
その中で、
分離状態が
3 a のように緩やかな濃度勾配で分析を行うと多くのイオン種が分
良好な濃度勾配を見つけて、グラジエント条件を設定します。しか
離しますが、
分析時間が非常に長くなります。
一方、
短い時間で溶離
し、
図 3 b のようにクロマトグラム上で未分離の箇所が複数ある場
液濃度を高くすると分析時間は短くなりますが、ピークが重なった
合は、それぞれの分離に適した濃度勾配を組み合わせることで、よ
。グラジエント条件の検討に
り、分離状態が悪くなります(図 3 b )
り良い分離条件を設定することができます。
は、いくつかの濃度勾配で分析を行い、分離の状態を確認します。
図3:濃度勾配の違いによる溶出と分離
このような手 順を 踏んで 作 成した グ ラジ エント 条 件でぶどう
離状態が悪く溶出していたイオン種、最終溶離液濃度などを考慮
ジュースを測定したクロマトグラムを図 4に示します。前処理に、
し、分離させたことでサンプルからいろいろなイオン種を検出す
Dionex OnGuard™ II RP で色素の除去、ろ過を行い、10倍に希
ることができました。
釈して測定しました。保持の弱い成分の分離、分析中間位置で分
図4:グラジエント条件で測定したぶどうジュース
3
まとめ
について
グラジエント溶出条件の設定は、保持の弱い成分、分離が難しい
このような グ ラ ジ エ ン ト 条 件を 検 討するにあたり、分 析を
成分、保持が強い成分について考えます。保持の弱い成分は、初期
実 際に 行い、比 較することは 多くの 時 間を 必 要とします。
濃度と試料導入後の初期濃度を保持する時間によって、保持の弱
「Thermo Scientific
Chromeleon™ ワークステーションには、
いイオン種成分の分離が決まります。中間位置に溶出する分離が
Virtual Column™ Separation Simulator(バーチャルカラム)」
困難なイオン種成分は、最終濃度までの濃度勾配に変化をつけ
(図 5)が搭載されています。バーチャルカラムは、測定対象のカテ
Application Note IC16008
Virtual Column Separation Simulator
て設 定します。保持の強い成分である、二価や三価のイオン、イ
ゴリ、測定成分やカラムを選択し、温度や流速などの分析条件、グ
オン半径の大きい、疎水性が強いイオン種は、溶離液濃度の変化
ラジエント勾配を設定すると(イソクラティック条件では溶離液
に対し溶出変化が速く起こります。この事を利用して、最終濃度を
の系や濃度または混合比を設定)、そのグラジエント条件下の仮
決めます。グラジエント条件の検討は、初期条件、中間的濃度変
想クロマトグラムを出すことができます。仮想クロマトグラムの分
化、最終濃度と到達時間を最適化することです。その上で分析時
離状態を確認しながら、最適な分離が得られるグラジエント勾配
間をできるだけ短くすることができれば、好ましいグラジエント
を調整し、実際の測定で得られたクロマトグラムの分離状態を確
条件と言えます。
認して、
グラジエント条件の設定を行います。
なお、バーチャルカラムを使うことで、グラジエント条件の設定
また、違う種類のカラムとの比較も簡単に行うことができ、
既存の
は、
より容易に行うことができます。
分離条件の改善も含めてグラジエント条件の設定に役立てるこ
とができます。
図5:Virtual Column Separation Simulator
Ⓒ 2016 Thermo Fisher Scientifi c K.K. 無断複写・転載を禁じます。
ここに記載されている会社名、製品名は各社の商標、登録商標です。
ここに記載されている内容は、予告なく変更することがあります。
サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社
分析機器に関するお問い合わせはこちら
TEL 0120-753-670 FAX 0120-753 -671
〒221-0022 横浜市神奈川区守屋町3 -9
E-mail : [email protected]
www.thermofisher.com
IC123_A1607CE