2. 数値流体力学(CFD)解析の活用

第 20 回
CT サミット報告
●エキスパートによる新たな技術の展開─その 1
2.数値流体力学(CFD)解析の活用
笹森 大輔 札幌白石記念病院放射線部
脳動脈瘤の発生・増大・破裂の機序は
なお 不 明 な 点 が 多く, 数 値 流 体 力 学
(computational fluid dynamics:CFD)
による血行力学的要素の解析が数多く報
未破裂動脈瘤の治療
『脳卒中治療ガイドライン 2015』5)に
WSS
CFD 解析において,
「流れによる摩擦
おいて未 破 裂 動 脈 瘤の治 療に対する
力」すなわち「血流が血管内皮細胞を
八木ら 4)は,2000 年以降を患者個々
recommendation が示されている。これ
こする力」を W S S と定義している 7)。
の医用画像から血管形状を構築し,CFD
は“International Study of Unruptured
Malek ら 8)は,血管内皮細胞の機能を
による計算科学により血流を可視化でき
Intracranial Aneurysms(ISUIA)
”や
正常に保つには適切な WSS(1 . 5 Pa 以
告されている
。
1)
∼ 3)
る時代と位置づけている。CT の歴史を振
“Unruptured Cerebral Aneurysm
上)が必要で,低すぎる WSS(0 . 4 Pa
り返ると,1986 年にヘリカル CT(ヘリカ
Study in Japan(UCAS Japan)
”など
以下)により動脈硬化・アポトーシスな
ルスキャン)が開発され,1998 年には
をエビデンスとするもので,脳動脈瘤の
どが引き起こされ,強すぎる WSS によ
4 列 MDCT が登場。2000 年以降も多列
形態や部位に応じて生涯の破裂率を予
り血管拡張・蛇行・動脈瘤発生などが
化が進み,高速に高精細な画像の取得が
測し,手術合併症率を上回る場合,治
引き起こされると報告している。また,
可能となった。CT の長足の進歩は,患
療を検討することが推奨されるというも
Kamiya ら 9)は,血管は血管壁に作用す
者個々の高精細な血管形状の画像構築に
のである。患者個々の血流を CFD 解析
る WSS が一定になるように内皮依存性
寄与し,臨床レベルで CFD 解析による血
で可視化できる現在,プラスアルファの
に径を変化させていると報告している。
流の可視化を可能とした。
破裂予測が期待される。
このように,血管がその形態を変化させ
現在のところ,脳動脈瘤に対する CFD
解析に用いる医用画像の満たすべき条件
を示した報告は数少ない。本稿では,デ
ジタルファントムを用いて脳動脈瘤に対す
脳動脈瘤の増大・破裂
と CFD 解析
る CFD 解析における形態学的因子に関す
Tardy ら は脳動脈瘤の増大・破裂
る基礎的検討から,医用画像の満たすべ
には血行力学的因子が関与すると報告
き条件について解説する。
している。近年,医用画像を利用した
6)
ながら適切な WSS を保とうとすることは,
一致した見解が得られている。
医用画像における
形態学的因子が
WSS に与える影響
CFD 解析で血行力学的負荷を定量的に
われわれは,医用画像の形態学的因
評価した報告が散見され,CFD 解析パ
子が WSS に与える影響についてデジタ
ラメータの一つである壁面剪断応力(wall
ルファントムを用いて解析を行った。デ
shear stress:WSS)が脳動脈瘤の増
ジタルファントムの作成には,Autodesk
大や破裂に強く関係しているという観点
社の“123 D Design”を使用した。形態
では共通している。しかし,どのように
学 的 因 子 として, 助 走 距 離( 以 下,
関与しているかについては,解析結果が
entrance length)
,血管直径(以下,
一定していない。この原因の一つとして,
vessel diameter)
,流入角度(以下,
CFD 解析の条件設定が適切でない可能
f l o w a n g l e)
,動 脈 瘤サイズ( 以 下,
性が考えられる。安定した CFD 解析の
a n e u r y s m s i z e)
,ネック径( 以 下,
ための医用画像の標準化が望まれる。
neck diameter)を変化させたデジタル
ファントムを作成し,stereo lithography
( 以 下,S T L)ファイルに変 換した。
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INNERVISION (31・10) 2016 17