「コミュニティ・スクールを基盤とした小中一貫教育の推進」

特集
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教職員の資質・能力の向上に向けた教育実践
コミュニティ・スクールを基盤とした小中一貫教育の推進
~「地域立学校・太東学園コミュニティ・スクール」への歩み~
学校運営の状況が保護者や地域の方に分かりにくく、学校の閉鎖性や画一性などの指
摘の中、学校教育に対する多様で高度な要請や開かれた学校運営を求める声が寄せられ
る現状に鑑み、法的にも整備された「コミュニティ・スクール」の導入を図った、久喜
市立太東中学校の取組について紹介する。
まつざき
なおおみ
久喜市立太東中学校 校長 松崎 直臣
1 はじめに かい り
学校が地域と乖離している状況や、閉鎖性や画
一性が叫ばれる中、平成16年の地方教育行政の組
織及び運営に関する法律の改正により、
「保護者や
地域住民が学校運営に参画する〔学校運営協議会〕
制度により、地域の力を学校運営に生かす。
」と規
定された。久喜市では、従来より「小中連携」や
「小中一貫教育」の実践を行ってきたところだが、
よりよい教育の推進のために「コミュニティ・ス
クール」の導入を目指し、平成27・28年度、太東
中学校区(太東中学校、久喜東小学校、太田小学校)
3校に、
「コミュニティ・スクールを基盤とする小
中一貫教育の推進-9年間をつなぐHOTプラン
-」を研究主題として、研究委嘱を行った。市内
34校の先陣を切り、3校は、平成28年度の「コミュ
ニティ・スクール」の開校を期した。ここでは開
校までの様々な実践や、開校後の成果、及び今後
の展望等について紹介する。
2 研究主題について
本校及び小学校2校において、従来より実践し
てきた「小中一貫教育」の推進の効果的な方法は、
「地域総がかり」で、地域の子供たちを育てるとい
う「コミュニティ・スクール」の発想である。そ
のため本校及び小学校2校は、上記研究主題を設
定し、研究を進めることとした。副題の「-9年
間をつなぐHOTプラン-」のHOTは、
H=東小、
O=太田小、T=太東中である。
3 学校運営協議会設置の準備
 コミュニティ・スクール(CS)推進会議の実施
各校「学校運営協議会」設置のための「学校運
営協議会設立準備委員会」は、平成27年度中に6
回実施された。 すでに各校で、学校に関わっていた地域の方を
中心にその準備会は設立されたが、その協議内容
を設定し、会議の運営について協議されたのが、
「コ
ミュニティ・スクール推進会議」である。
この会議は、3校長を中心に、時に教育行政C
S担当職員や指導課長同席のもと、20回を超える
熟議の末に効果的な「設立準備委員会」が実施さ
れたと考えている。
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 学校運営協議会設立準備委員会の設置
地方教育行政の組織及び運営に関する法律では、
「
『学校運営協議会』が設置された学校を『コミュ
ニティ・スクール』とする」という規定から、3
校はそれぞれに「学校運営協議会」を設置するた
めに協議を重ねた。そのために「準備委員会」を
立ち上げたが、現行法では、例えば同一中学校区
で一つの「学校運営協議会」の設置で中学校区全
校の「コミュニティ・スクール」とすることは認
められていない。そのため、3校は、後述する「太
東学園コミュニティ・スクール委員会」を視野に
入れ、
「設立準備委員会」は、太東中学校区で一つ
の会議として立ち上げた。メンバーには、すでに
小学校を中心に放課後子ども教室や学校応援団で
学校に大きく関わっている地域の方、PTAの正
副会長等を選出した。
 学校運営協議会設立準備委員会の協議内容
ア コミュニティ・スクールの理解
イ 「学校運営協議会」設立までの計画
ウ 「学校運営協議会委員」の選出・調整
エ 太東中学校区コミュニティ・スクール委員会
の活動計画
オ 「太東学園」教育目標、目指す児童・生徒像
カ 合同研修会講演会(後述)
キ 「HOTフォーラム」
(後述)
ク 先進地域視察
ケ 「土曜の学習」
コ 「学校管理規則」
「学校運営協議会規則」
等
 先進地域視察
協議でも取り上げられた先進地域視察は、学校
運営協議会設立準備委員を中心に2回実施された。
1回目は、三鷹市立の「東三鷹学園」の三鷹市立
第一小学校と、八王子市立宮上中学校を訪問した。
「東三鷹学園」では、第一小学校の校長より三鷹市
版の「コミュニティ・スクール」の理念と、成果
と課題について、宮上中学校では、学校運営協議
会長と校長より、生徒指導困難校だった中学校を
運営協議会の設置により、落ち着いた学校に変化
させた経緯等を、それぞれ詳しく説明を受けるこ
とができた。その実践者の話は、非常に有意義な
ものであった。
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教職員の資質・能力の向上に向けた教育実践
4 「太東学園」としての取組
研究主題「コミュニティ・スクールを基盤とし
た小中一貫教育の推進」の実践化のために、
「学校
運営協議会」の設置と共に、小中一貫教育推進校
「太東学園」の具体的な実践も必要であるため、以
下の取組を中心に行ってきた。
「小中一貫教育」と
「コミュニティ・スクール」の関係は下図のとおり
である。
特集
初回であり、
「コミュニティ・スクール」開校前
年度でもあるため、
「コミュニティ・スクール」に
ついての説明を中学校長が基調講演として行い、
その後参加者がグループに分かれて、
「コミュニ
ティ・スクールに期待するもの」をテーマに話し
合った。
9年間を見通した小中一貫教育
「HOTフォーラム」の話し合いの様子
コミュニティ・スクールと小中一貫教育の考え方
 「太東学園」の目標
「小中一貫教育推進校」としての3校の教育活動
の指針となるべき「太東学園」の教育目標及び「目
指す児童・生徒像」をCS推進会議で検討、
「各学校」
及び「学校運営協議会設立準備会」にて承認を受け、
以下の通りに決定し、その実践化を図っている。
学園で目指
す「 目 標 」 に
は、3校の「学
校教育目標」
を出来るだけ
配慮し、
「目指
す 児 童・ 生 徒
像」において
も、 3 校 の 理
想とする「姿」
を取り入れた。
また、
「学園で
伸ばす力」に
つ い て は「 学
力」
「社会力」
「人間力」と、
設定した。
 「HOTフォーラム」の実施
すでに久喜東小学校で実施されていた「地域
フォーラム」を活用し、
「太東学園」として、中学
校区全ての保護者や地域の方を対象に、
「太東学園」
の「地域フォーラム」を開催した。
参加者は、3校の全教員・保護者、地域の方の
希望者の160名であり、夏季休業中に地域の公共施
設を使用して実施した。
 3校合同研修での講演会
3校の教員による合同研修会にて、
「コミュニ
ティ・スクール」の先進地域の前教育長であり、
前全国コミュニティ・スクール協議会会長の貝ノ
瀬滋氏による講演会を実施し、教員の啓発と意識
向上を図った。講演会では、
「コミュニティ・スクー
ル」に関しての最新の情報や効果的な運営の方法
等について丁寧に講演いただき、質疑応答も活発
に行われた。貝ノ瀬氏は本年11月に行われる、太
東中学校区、研究委嘱発表会で、パネリストとし
ても参加していただく。
 9年間をつなぐカリキュラム
「9年間をつなぐHOTプラン」としての、学
力向上への大きな手立ての一つは、各教科、領域
等の「9年間をつなぐカリキュラム」作成である。
すでに、作成されているものを、分かりやすく簡
潔に、各教科、領域等とも、A3版に作成しなおし、
使用しやすいようにした。
太東学園 算数・数学におけるカリキュラム
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特集
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教職員の資質・能力の向上に向けた教育実践
 小中一貫教育「4つのつなぐ」
従来より実施してきた「小中一貫教育」を「コミュ
ニティ・スクール」の基盤として整備するために、
3校教員による検討を重ね、以下のようなパンフ
レットを作成し保護者・地域への啓発を行ってい
る。
 兼務発令による小学校での授業
久喜市では、中学校教員に学区内小学校教員の
兼務発令を行い、
「つなぐ」教科指導を目指し、週
数時間、中学校教員の小学校での指導を行ってい
る。本校では本年度、英語科、保健体育科の教員
2名が兼務発令され、2小学校において、授業を
行っている。
5 保護者・地域への啓発活動
 コミュニティ・スクール啓発パンフレット
学校運営協議会
設立準備委員会に
おいて検討された
保護者・地域への
啓発パンフレット
として、右のもの
を作成し、保護者
への配布及び全戸
回覧を行い、啓発
に努めた。
昨年度中に3校
とも、同様のパン
フレットを作成し、
全保護者、全戸回
覧を行い、啓発に
努めた。
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 「太東学園」だより
「HOTフォーラム」実施を機に、その協議内
容や、今後の「コミュニティ・スクール」への移
行の計画及び「小中一貫教育」について、保護者、
地域の啓発のために「太東学園だより」を作成し、
全戸回覧、保護者配布にて理解・協力を呼びかけた。
内容は、コミュニティ・スクールの説明と、
「HO
Tフォーラム」の意見の代表的なものを掲載した。
 太東学園コミュニティ・スクールの啓発資料
平成28年8月実施の第2回「HOTフォーラム」
では、3校教員、地域の方、保護者の協議のあと、
文部科学省「CSマイスター」の講演をいただき、
「コミュニティ・スクール」への理解をさらに深め
た。その際、現在までの「太東学園コミュニティ・
スクール」を図示したパンフレットを配布し、さ
らなる理解と協力をお願いした。
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教職員の資質・能力の向上に向けた教育実践
6 「学校運営協議会」の取組
 協議内容
ア 組織づくり
正副会長及び各部会(学習支援部、環境整備部、
安全見守り部、広報部、企画運営部)を組織し、
その代表を決め、活動していく。地域や保護者、
地元企業等からの「人材」を発掘し、登録してい
ただく。
イ 実施日等
原則、月一回、実施日時は各校で決定する。
ウ コーディネーターの設置
学校における活動への「人材バンク」への派遣
要望や調整を「統括コーディネーター」が担い、
効果的に活動していく。
エ 本校の実施内容の検討
上記の組織づくりと平行して、具体的な取組を、
運営協議会委員全員で熟議し、学校の課題等を踏
まえ、また、
「何が太東中学生に必要か」を核に、
「今
できることから」を念頭に、以下の具体的な取組
を行っている。
A 環境美化活動
B 学習支援活動
C 「土曜の学習」の実践
「土曜の学習」における「啓発的体験活動」
を通して、
「真の学力」の向上を図る取組を行
う。
・
「キャリア教育」の実践
・数学検定の実施
・ロボットプログラミング作成活動
・陸上競技体験活動(効果的な走り方)等。
(本年度「HOTフォーラム」資料より)
7 太東学園コミュニティ・スクール委員会の取組
 「正副会長会」の取組
各学校に設置された「学校運営協議会」の「太
東学園」としての上部組織に「太東学園コミュニ
ティ・スクール委員会」がある。これは「小中一
貫教育校」として3校の「学校運営協議会」が共
通の方向を目指す必要があるため設置された。学
期一回の実施の準備として、
各校「学校運営協議会」
の正副会長が事前に協議し、方向を確認する会議
である。
 太東学園CS委員会の取組
前述した「正副会長会」の内容を中心に、
「太東
学園コミュニティ・スクール委員会」は3校学校
運営協議会委員が参加し、共通理解、共通の事業
や取組の検討が行われている。
特集
8 成果と課題
何より、中学校では、小学校と比して、地域と
の関わりの希薄さが課題であった。コミュニティ・
スクールに移行して日は浅いが、地域の方々の学
校への関わりと、諸事業の実施により、従来より、
「地域の中の学校」という意識、
「地域に育まれて
いる」という意識が中学生の中にも芽生えたよう
である。
「ありがとうございます。
」という複数の
生徒の声は、地域の方々を感動させ、その関わり
の良さが、今後相乗的に向上して行くと考える。
課題は、
「学校運営協議会」の協議内容の焦点化
をどのように図り、効率的な会議の運営を期すか。
及び、学校として「学校運営協議会」の価値をよ
り理解し、効果的に諸活動につなげて行き、学園
の教育目標、学校の教育目標の具現化につなげて
いくかである。
9 今後の展望
今後は、より効果的な「学校運営協議会」の運
営を通して、委員の「学校経営への参画意識の高
揚」や生徒、保護者、地域の方々含めての「地域立」
の価値の理解を深めていきたい。また、生徒の「啓
発的体験活動」の充実を「学校運営協議会」及び「太
東学園」としてどのように効果的に行い、
「生きる
力」を基礎とした学園教育目標「地域を愛し、未
来をひらく、たくましい児童生徒」を育成してい
くかを「地域総がかり」で考え、
実践していきたい。
10 おわりに
少子化や核家族化が進行し、地域から子供の数
が減った。昔日、
「原っぱ」で行われていた、地域
の子供たちの「ガキ大将」を中心とする縦割りの
インフォーマルな集団活動。その中で知らず識ら
ず培われていた年少者等へのいたわりと、正義、
公正、そして思いやりの意識。
先の中央教育審議会の答申では、
「新しい時代の
教育や地方創生の実現に向けた、学校と地域の連
携・協働の在り方と今後の推進方策について」等
に触れている。
その中核となるであろう「コミュニティ・スクー
ル」の理念は、
「学校運営協議会」による学校経営
への参画や「地域立の学校の意義」という価値と
は別に、
「子供たち」が学校・家庭・地域社会それ
ぞれの場において、様々な生活体験や自然体験、
社会体験などの豊かな体験を積み重ね、様々な地
域の人々との交流の中から、
「人」としてのあり方
や生き方をじっくり内省し、ひいては「生きる力」
を育んでいくのであろうと思う。
そのような、多くの価値を持つ「コミュニティ・
スクール」
。その効果的な姿を模索していきたい。
久喜市立太東中学校の掲載資料は、
こちらから御覧いただけます。
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