アプリケーション・ノート(AN-1122)

アプリケーション・ノート: AN- 1122
75V耐圧のハイサイドIPSシリーズ「IPS70xx」
David Jacquinod
International Rectifier Corporation
目次
頁
はじめに .............................................................................................. 2
標準的な周辺回路 ............................................................................ 2
接地の結線....................................................................................... 2
診断機能 .............................................................................................. 2
オフ時の負荷の断線検出 ................................................................. 3
オン時の短絡検出 ............................................................................ 3
オン時の過熱検出 ............................................................................ 3
保護機能 .............................................................................................. 3
電流制限と温度サイクル ................................................................. 3
接地の損失保護................................................................................ 4
アクティブ・クランプ ........................................................................ 4
バッテリの逆接続................................................................................ 6
最大電圧定格....................................................................................... 6
推奨動作条件....................................................................................... 6
信頼性高いハイサイド駆動 ................................................................. 6
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AN - 1122
概要
内部構成
• 診断機能
V cc
Rdgp
Dg
• 保護機能
• アクティブ・クランプと最大誘導性負荷
+Bat
+5V
• はじめに
C o n tro l
Rdgs
R1
V D ia g
• バッテリの逆接続
In
O ut
G nd
R in
Load
In p u t S ig n a l
標準的な使い方
• 白熱電球
• ソレノイド
• バルブ
図1
標準的な周辺回路
はじめに
接地の結線
耐圧75Vで保護機能付きパワーMOSFETのIPS70xxシリー
ズは、5ピンのハイサイドIPS(インテリジェント・パワ
ー・スイッチ)です。IR社独自の最新製造技術P3 (ピー・
キューブ:power product platform)を使って製造していま
す。パワーMOSFET部は縦型構造ですが、制御部は横型構
造 の MOSFET で 構 成 し た 保 護 回 路 を 内 蔵 し て い ま す 。
IPS70xxシリーズは、アクティブ・クランプ付きの高効率
パワーMOSFET、過熱保護機能、過電流に対する電流制限
機能を備えています。
論理回路の接地であるGNDピンは、入力ピンとDGピン
の基準となるので、負荷電流がデジタル接地に流入しな
いように、制御回路ブロックのデジタル接地に接続して
ください(図2)。GNDピンを電源の接地に接続する
と、負荷電流によって接地の経路に電位差が生じるた
め、入力のしきい電圧が変化してしまいます。
論理レベル入力ピン(IN)、電源の接地に対して絶縁さ
れた論理回路の接地ピン(GND)、診断ピン(DG)を備
えています。内蔵のチャージ・ポンプがあり、外付け部品
なしで、ハイサイド構成でMOSFETを駆動できます。この
アプリケーション・ノートでは、ハイサイドIPSシリーズ
の機能を説明し、車載環境でのこれらデバイスの使い方を
提案します。
+
C o n tro l
b lo c k
Vcc
IN
DG
G nd
-
IP S
O ut
G nd
lo a d
D ig ita l g ro u n d
P o w e r g ro u n d
標準的な周辺回路
図1にハイサイドIPSシリーズの標準的な周辺回路図を
示します。2つの抵抗RinとRdgsは、バッテリの逆接続時や
バッテリ電圧Vbatに負パルスが現れたときに、コントロー
ラを保護するために挿入します。R1 は、負荷の断線を検
出したいときに必要です。
図2
接地の結線
診断機能
診断機能は、IPS の状態をマイコンに通知するときに使
います。IPS は、過電流、温度上昇(過熱)、負荷断
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線などのさまざまな故障に対して自分自身を保護します。
IPS が故障状態を検出すると、診断情報が DG ピンを介し
て出力されます。表 1 に真理値表を示します。
表1
診断の真理値表
動作状態
入力
出力
H
H
通常
L
L
通常
H
H
負荷の断線
L
H
負荷の断線(1)
H
接地との短絡
L(制限)
L
L
接地との短絡
H
過熱
L(繰り返し)
L
L
過熱
(1)出力とVCCの間にプルアップ抵抗を接続。
DG ピン
H
L
H
H
L
L
L
L
電流制限と温度サイクル
出力が接地に短絡すると、デバイスは MOSFET を線形
(リニア)動作領域に駆動して電流を制限します。この
領域では、消費電力が大きくなり、過熱保護機能によっ
てデバイスが停止します。図 3 のように、接合部の温度
が 7℃低下すると、デバイスは再起動します。再起動す
るときの波形が図 4 です。
Vin
Iout
limiting
Thermal cycling
Ilim
Tj
Tsd+
Tsd-
オフ時の負荷の断線検出
オフ状態のときにも負荷の断線検出が必要な場合があ
ります。この場合、負荷が断線したら、すぐにマイコン
が認識します。IPS はこの状態も検出できますが、外付け
のプルアップ抵抗が必要です。
パワーMOSFET がオフのときは、出力の電位と接地
(GND)の電位を比較することにより、負荷の断線状態
を検出します。通常の状態では、負荷が接地(GND)に
接続されていて、電流(出力の漏れ以外)は負荷に流れ
ません。ソース電圧はほぼゼロです。負荷が切断された
場合、内蔵比較器で負荷の断線状態を検出できるように、
外付け抵抗が出力をプルアップします。
DG
図3
保護機能のタイミング図
オン時の短絡検出
デバイスがオンのとき、バッテリ電圧と出力電圧の差
(Vbat - Vout)が短絡検出電圧(データシートの Vsc)
よりも大きいとき、診断機能は短絡を検出できます。
オン時の過熱検出
入力がハイ・レベルのとき、過熱状態は、熱センサを
使って検出されます。
図4
短絡した回路を再起動したときの波形
チャネル1:入力
保護機能
IPS70xx シリーズは、短絡または過熱時にデバイスの故
障を防止するための保護機能を備えています。故障状態
が解消された後、デバイスは自動的に再起動します。ア
クティブ・クランプ時とバッテリの逆接続時には、保護
機能はありません。
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チャネル2:負荷電流Iload(縦軸は10A/div)
電流制限機能と過熱防止機能は、保護目的のためにだ
け、使わなければなりません。通常モードでは、これら
の保護機能はトリガされないようにしてください。そう
しないと、デバイスの信頼性に影響します。例えば、負
荷の突入電流は電流制限値よりも小さくしてください。
AN - 1122
Input current into the Microcontroller
+Bat
Vcc
+5V
Micro
Rdgp
Dg
Vcc
In
Out
Gnd
Vclamp
L
Rdgs
Dg
5V
In
Gnd
Vin
Out
0V
Rin
+
14V
-
Vout
Rem :
During active
clamp, Vload
is negative
R
Iout
Load
図5
接地の損失保護
図6
接地の損失保護
接地が断線すると、デバイスは故障を防止するため、
自動的にオフします。入力ピンとドレイン・ピンとの間、
および診断ピンとドレイン・ピンとの間の 2 つの寄生バ
イポーラ・トランジスタがオンして、電流がドレインか
らマイコンへ流れます。2 つの抵抗RdgsとRinが、IPSとマ
イコンを保護するために電流を制限します。
アクティブ・クランプ
アクティブ・クランプ法
MOSFETのVDS を制御する1つの方法は、線形(リニ
ア)領域に追い込むことです。負荷電流と独立に、IPS内
部の帰還ループが出力MOSFETのゲート電圧を調整する
ことにより、VDSを目標のアクティブ・クランプ電圧に安
定化します。この内蔵回路は、ドレインとゲートとの間
に接続したツェナー・ダイオードと、ゲートと接地の間
の抵抗によって構成されます。アクティブ・クランプ
時、出力MOSFETは線形領域で動作するため、消費電力
はオン抵抗RDSONに依存しないことに注意してください。
アクティブ・クランプ時、電流は負荷によって制御さ
れます。従って、このモードのときは保護機能(温度ま
たは電流)が動作しません。電流と温度の最悪条件で、
オフ時の消費電力が IPS の安全動作領域(SOA)内にあ
ることを必ず確認してください。
アクティブ・クランプの目的
オフに切り替わると、誘導性負荷が端子両端に電圧を
発生させ、その振幅は電流の傾きとインダクタンス値に
よって決まります。ハイサイド構成では、インダクタン
ス両端の過電圧により、ドレイン-ソース間電圧がバッテ
リ電圧よりも高くなります(図 6)。このために、外付
けツェナー・クランプ・ダイオードまたはフリーホイー
ル・ダイオードを使わない場合、ボディ・ダイオードが
アバランシェ領域に入ってしまいます。
アクティブ・クランプの目的は、MOSFET 両端の電圧
をボディ・ダイオードのブレークダウン電圧以下に制限
して、スイッチング時にデバイスに加わるストレスを軽
減することです。
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アクティブ・クランプ回路
T clamp
Vin
Ids
Vcc
Vds
Vds clamp
図7
AN - 1122
アクティブ・クランプの波形
アクティブ・クランプ使用時のエネルギ
アクティブ・クランプはフリーホイール技術よりも高
速な回生を可能にするため、外付けデバイスが不要にな
ります。アクティブ・クランプ技術の欠点はエネルギが
IPSで消費されることです。このエネルギは、IPSの安全
な動作を保証するような値でなければなりません。消費
エネルギの計算を以下に示します。 IPSで消費されるエ
ネルギは、
EIPS
VCLAMP
1
= ⋅ L ⋅ I2 ⋅
VCLAMP − VBATT
2
で与えられます。負荷で消費されるエネルギは、
負荷の「寄生抵抗」が、負荷電流を制限していること
に注意してください。最大負荷電流は、最悪の電源状態
で計算してください。例えば、100μHの負荷に対して、
グラフは最大Iloadmax = 12Aを示しています。最悪の場合
のVBATTが 18Vの場合、図 8 から誘導性負荷の最小直列抵
抗は 18V/12A = 1.5 Ωでなければなりません。
アクティブ・クランプ時の温度上昇
アクティブ・クランプ時のエネルギ消費により、接合
温度が上昇します。アクティブ・クランプ時の温度上昇
は次式で求められます。
1
⋅ L ⋅ I2
2
ΔTj = PCL・ZTH(tCLAMP)
となります。クランプ電圧VCLAMPは、バッテリ電圧VBATT
より大きくなければならないので、IPSは負荷よりも大き
いエネルギを消費します。これは、アクティブ・クラン
プ時に一部のエネルギがバッテリから得られるためで
す。
IPSでのエネルギ消費を小さくするため、VCLAMPをこの
技術のブレークダウン電圧に匹敵するくらいに、できる
だけ高くしなければなりません。IPS70xxシリーズのアク
ティブ・クランプ電圧は 70V(標準値)です。
IPS が消費するエネルギは、負荷インダクタンスと負荷
電流の 2 乗に比例します。データシートには、図 8 に似
たグラフが記載してあります。このグラフを使うと、IPS
で消費できるエネルギ量に基づいて、最大負荷インダク
タンスと負荷電流を見積もれます。
ここで、ZTH(tCLAMP)は温度tCLAMPでの熱インピーダンス
であり、データシートの熱インピーダンスのグラフから
求められます。
PCL = VCL・LCLave:アクティブ・クランプ時の
電力消費
VCL = 70V:IPS70xxのVCLAMPの標準値
ICLave = ICL /2:アクティブ・クランプ時の平均電流
tCL = ICL /|di /dt|:アクティブ・クランプの
期間
di /dt=(VBATT - VCL)/ L:減磁電流
アクティブ・クランプ時の温度上昇は、IPS の損傷を防
止するように制限して設計してください。
100
10
1
0.001
図8
0.01
0.1
1
10
最大出力電流(A)と誘導性負荷(mH)の関係
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AN - 1122
バッテリの逆接続
バッテリの逆接続状態では、他の保護機能が使えない
ことに注意してください。電流は、In、Dg、Gnd、Out ピ
ンから Vcc ピンへ流れます(図 9)。
GND を流れる電流
GND端子を流れる電流は、この端子に外付け部品を接
続できないため、非常に大きくなる可能性があります。
このため、ショットキ・ダイオードを正のVccラインに接
続します。
最大電圧定格
Current path in reverse battery
+Bat
Vcc
+5V
Rdgp
Rdgs
最大Vcc電圧
最大VCC電圧は、ICの製造技術で決まるブレークダウン
しない最大電圧です。
最大連続Vcc電圧
最大連続VCC電圧は、認定時に使われる電圧です。
Dg
In
Gnd
Out
推奨動作条件
Rin
Load
図9
主要な仕様に対して、デバイスが動作する推奨条件が
あります。一般に、推奨動作条件は定常状態でのデバイ
ス動作の限界値を定めます。絶対最大定格は、過渡現象
などの最悪の状態の限界値を定めます。
バッテリの逆接続状態における電流経路
信頼性の高いハイサイド駆動
出力ピンを流れる電流
バッテリの逆接続時には、電流は負荷を通過して
MOSFETのボディ・ダイオードに流れます。IPS内の消費
電力は次のように計算されます。
VBATT
PdIPS = Vf × ――――
RLOAD
IPS の信頼性規則は、MOSFET のそれと同じです。接
合温度の大きな変動は予測寿命を短くします。熱サイク
ル時の接合温度の変動は 7℃です。しかし、デバイスが
長時間切り離された後に再起動させられると、接合温度
の変動は大きくなります。
自動再起動が必要な場合は、コントローラが熱サイク
ルの中にデバイスを維持する必要があります。コントロ
ーラによる切り離しが必要な場合は、熱サイクルに入る
再起動の回数を制限して、高レベルの信頼性を保証する
必要があります。
ここで、Vf はMOSFETのボディ・ダイオードの順方向電
圧降下(標準 0.7V)。
In と Dg を流れる電流
端子(In と Dg)と直列に接続された抵抗が IPS の電流
を制限します。これらの抵抗値は、標準的には 7.5kΩで
す。
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