中国小売業における決済サービス

特集:今こそ中国に広がる新たな商機
中国小売業における決済サービス
みずほ銀行
(中国)
有限公司
中国トランザクション営業部 次長 前田 宜亮
に資金回収・売上管理等の仕組みも準備する必要がある。
最も基本的な決済手段である現金であっても
「売上金の回収」
「回収口座への入金」
「つり銭の準備」
が必要であり、
銀聯であれば
レジと連動しカードを読み取る端末
(銀聯POS端末)
を準備しなくては
現代中国都市部における個人の
ならない。
決済手段は多種多様である。スー
支付宝・微信支付も同様に対応端末が必要で、
チャージ式のプリ
パーのレジで会計する人々を見れば、
ペイドカードにはチャージ用の仕組みが別途必要となる。
さらにショッピ
ごそごそと現金を財布から出す人は驚
ングモールなどでは、
モール全体の売上管理のため独自の仕組みを
くほど少数派で、
大半の人は銀聯カー
持っているケースも少なくない。
ドやスマートフォンを利用し会計を済ま
店舗によっては、
これら全てに対応するため、
いまだにレジの横に複
せている。
数端末をずらりと並べていることもあるが、
近年では複数の決済手段
また、
すでに世界一のEC大国と
を1つの端末でカバーすることも可能となってきている。
なった中国では、
ショッピングサイトで
中国で小売企業がこのような決済手段を提供するためには、
地場
物品やサービスを購入することは日常の一部となっており、
そこでも中
の中資銀行に依頼する以外選択肢がないと誤解されている向きもあ
国独自の決済手段が用いられている。
ろう。
しかし、
外資銀行である当行でも表2のとおり大半のサービスが
さまざまな決済手段がある中でも、
近年激しく市場の覇権を争って
取り扱い可能である。新規に中国進出されるケース、
新たな決済手段
前田次長
ジーフーバオ
ウェイシンジーフ
(Alipay)
、
微信支付
(WeChat Payment)
の
いるのが、
銀聯、
支付宝
に対応されるケースのみならず、
現状の中資銀行のサービスレベルや
三者である
(表1)
。数年前までは
「リアル店舗では銀聯デビッ
トカード」
料率に不満があるケースなど、
お気軽にご相談いただきたい。
フラン
「ネットECでは支付宝」
という大まかなすみ分けがあったが、
現在は
チャイズチェーン等で、
店舗ごとの資金回収と売上データのマッチング
両者ともに互いの領域を侵食。
そこにSNSで圧倒的シェアを誇るテン
に苦労されているようなケースなどもご支援可能である。
セント社が参入し、
激戦となっているのが現在である。
中国における決済手段多様化の影響は中国内にとどまらない。増
中国の個人は、
これらの電子マネー決済に加え、
現金、
クレジット
加を続ける中国人旅行者のニーズに応えるため、
日本国内でも中国
カード、
プリペイドカードなどの手段を使って決済を行う。
プリペイドカー
固有の決済手段に対応する動きが加速している。
ドは、
かつては企業の福利厚生目的や贈答用のギフト券的な用途が
従前から加盟店・対応ATMを増やし日本でもブランドが浸透してい
多かったが、
近年は物理的カードだけでなく、
スマートフォンアプリでポ
る銀聯に加え、
支付宝
(Alipay)
や微信支付
(WeChat Payment)
も、
イントカードと連動する等、
進化している。
コンビニエンスストアや家電量販店を皮切りに利用可能な店舗が多
中国において個人向けに小売業を行う場合、
これらさまざまな決済
くなってきている。
手段に対応することはすでに必須条件であり、
加えて、
決済手段ごと
近年は、
日本法人が直接越境ECにて中国個人に商品販売する
表1. 中国独自の決済手段
ケースも増えているが、
その際の決済手段も中国独自の支付宝や銀
支付宝
微信支付
銀聯
(Alipay)
(WeChat Payment)
運営
アリババ
テンセント
中国銀聯
(阿里巴巴集团)
(腾讯集团)
母体
銀聯加盟の銀行カード アリババの提供する決 中国最大のSNS微信
を利用したデビットカー 済手段。銀行口座と連(WeChat)から発 展し
ドサービス。2016年2 携するバーチャル口座 た決済手段。使い勝手
月には中国内でApple を活用した電子マネー。はほぼ支付宝と変わら
特徴 Payと連携したサービス 当初はネットECのエス ないが、微信をはじめさ
を開始。物理的なカー クロー決済が主であっ まざまなアプリと連携し
ドなしでもスマートフォ たが、現在はワンタイム たサービスを提供する
ンで決済が可能となっ QRコードを活用しリア
た
ル決済にも利用可能
カード・スマートフォン
スマートフォン
スマートフォン
(Apple Pay)
リアル デビットカードおよびス スマートフォンを使った スマートフォンを使った
マートフォン
(iPhoneの ワンタイムQRコードペ ワンタイムQRコードペ
み)
を使った決済
イメント
イメント
アリババの運営するEC
サイト
(タオバオ・Tモー
ネットECの決済手段と ル)
の圧倒的シェアとエ ネットECの決済手段と
EC
しても利用可能
スクローによる安全性を しても利用可能
生かし、
ネットEC決済で
は圧倒的シェアを誇る
12 mizuho global news | 2016 SEP&OCT vol.87
聯への対応が求められる。新しいテクノロジーを受け入れることに抵
抗感の薄いデジタルネイティブ世代
(90後
[1990年代生まれ]
、
00後
[2000年代生まれ]
)
を主な受け手として、
日本と比較し異次元のス
ピードで社会インフラが進化していく中国。引き続き最新の市場動向
をしっかりと見極めスピード感ある対応が必要となってくる。
表2. 中国における
〈みずほ〉の決済サービス
現金
○
銀聯
◎
支付宝
◎
(Alipay)
微信支付
◎
(WeChat Payment)
プリペイドカード
◎
中資銀行との提携でサービス提供中。資金回収
(AT
M等も利用)
・つり銭準備等
中資銀行等との提携でサービス提
供中。回収口座にみずほ
(中国)
を
複数の決済手段
指定可能
にマルチに対応
ネット・リアル決済ともに回収口座
したサービスも提
にみずほ
(中国)
を指定可能
供 可 能 。いずれ
ネット・リアル決済ともに回収口座
の場合も回収口
にみずほ
(中国)
を指定可能
座 にみず ほ( 中
資金管理銀行としてみずほ
(中国)国)
を指定可能
を指定可能。カード発行等につい
ても提携社を紹介可能
今こそ中国に広がる新たな商機:特集
みずほ銀行 中国営業推進部について
を行っており、現在では国際戦略情報部直投支援第一チームが
みずほ銀行 中国営業推進部
部長 広瀬 俊
に対し、同チームと協働しお取引先への各種サポートを行ってい
担当していますが、当部においても日系お取引先のこうしたニーズ
ます。他行では有償アドバイザリー業務を銀行本体ではなく、関連
中国営業推進部は邦銀唯一の
会社であるシンクタンクやコンサルティング会社に業務委託する
中国関連ビジネス専門部として、現
ケースがほとんどです。
〈みずほ〉
では、
ビジネスとしてフィーをいただ
地法人銀行であるみずほ銀行
(中
くのはもちろんですが、
あくまでお取引先の事業に協力させていた
国)有限公司をはじめ、国内外の関
だくアドバイザリーサポートの提供が目的ですので、何よりもお取
連部署と連携し、
みずほ銀行におけ
引先の目線に立ってアドバイザリーサポートを行うことが可能とな
る中国関連ビジネスを推進していま
ります。
す。当部には2つのチームがあり、営
近年、中国から日本への観光客は増え続けており、
こうしたイン
業推進チームは、
日系企業はもとよ
バウンド観光客によるいわゆる
「爆買い」
や個人輸入など、
日本製
り、中国系企業における日系企業
品に対する個人需要は合計1兆3千億円に達すると言われてい
との提携や海外進出サポートといった中国関連業務における営
ます。
より安全・安心・快適なものを求め購買力が着実に高まりつ
業支援や企画推進、
また環境、医療・介護・ハイテクといった戦略
つある巨大市場を持つ中国は、
日本の成長戦略にとっても欠かす
的テーマの企画推進などを行っています。中国戦略情報チーム
ことのできない経済大国です。中国に進出される日系企業のビジ
では、中国政府機関等との交流・人脈構築などを目的としたプロト
ネスモデルも、従来の主に輸出加工型製造拠点としての位置付
コールや、中国関連情報の収集、行内外向け情報発信等を行っ
けから、世界最大の市場における内販型製造・販売・サービス網
ています。
構築という位置付けにシフトしてきています。
当行中国ビジネスの特徴として、特に邦銀他行との
『3つの違
今回の特集では、
そうした新たなビジネスモデルで事業拡大す
い』
について触れたいと思います。
るお客さまの事例紹介をはじめ、多様化する決済サービスなど中
まず1つ目の違いは、部の名前に
「中国」
という国名を冠して
国に広がる新たな商機について取り上げています。
〈みずほ〉
で
いるという点です。当部は
「中国営業推進部」
と部の名前に
「中
は、当部に蓄積されてきた知見やノウハウ、
また部員一人ひとりが
国」
がついていますが、邦銀では当行のみと思われます。他行で
持つこれまでの中国関連業務の経験等を最大限生かし、
引き続
は、
たとえば国際部の中の「中国課」や「中国室」
などといったよう
き、
日系企業の中国への進出、
また中資系企業の日本を含む海
な1つの課・チームの名前に
「中国」
がついているケースはありま
外への進出など全力でサポートしていきます。
広瀬部長
すが、当行は部の名前についており、
これは中国地域を重点エリ
アとして位置付けていることの表れでもあり、現在約50名のメン
【中国情報サイトのご案内】
バーでお取引先のさまざまなニーズに応えています。
当部では中国経済・金融に関する最新レポート、地域概要の
2つ目の違いは、毎年開催している
「みずほファイナンスセミ
他、
セミナー等さまざまな中国関連情報を、
みずほ銀行HPで発信
ナー」です。このセミナーは毎年、各政府機関・中資系企業など
しています。
の中堅幹部の方々に日本に来ていただき、約1週間、
日本の経
http://www.mizuhobank.co.jp/corporate/world/info/
済動向や産業動向などを学んでいただくほか、工場視察などを通
cndb/index.html
じて、
日本を広く知ってもらうと同時に、
〈みずほ〉
ファンになってい
ただくために開催しているものです。中国における改革開放直後
の1979年に第一回セミナーを開催して以降、毎年途絶えること
なく開催し、
2016年で38年目を迎えます。他行も同様のセミナー
を開催していますが、毎年継続して開催しているのは当行のみで
す。
3つ目の違いは、
お取引先向けサービスとしての有償アドバイザ
リー業務を銀行本体で行っていることです。当行では主に日系お
取引先の中国への投資や進出に際し、
有償でアドバイザリー業務
中国営業推進部スタッフ一同
mizuho global news | 2016 SEP&OCT vol.87 1 3
近年のアメリカにおけるビザ
株式会社ガルベラ・パートナーズ 代表取締役 吉住 幸延氏
吉住代表取締役
移民の国、アメリカ
は、厳しく審査されることになる。特にアメリカはアジア諸国に比べ
近年、アジア諸国を含む各国の
ても就労ビザの取得は高いハードルが設けられており、正確な知
GDPが伸び悩むなか、GDP世界第
識をもって事に当たる必要があると言える。
1位と第2位のアメリカと中国はGDP
日本人がアメリカ国内で働くために取得しなければならないビ
が伸び続けている。中国は一時期の
ザは、
その者の能力や職務内容、現地法人の業種や投資状況な
成長スピードに比べると鈍化しつつ
どに応じて、
さまざまな種類に分類される。なかでも特に多いのは
あるが、
その中国に勝るとも劣らない
投資駐在員ビザ
(E2ビザ)
と企業内転勤ビザ
(L1ビザ)
だ。前者
GDP成長率を維持しているのがアメ
は就労ビザではなく、
アメリカに投資をした会社の役員や従業員
リカの底力だ。
に発給されるものであり、後者は就労ビザのうちの1つに該当す
アメリカでは、
その広大な国土と豊かな国力を背景に継続的に
る。大半の駐在員は、
これらのいずれかのビザを取得することにな
移民を受け入れており、国内マーケットはまだまだ成長していくもの
るが、
それぞれに発給要件が定められており、
それが足かせになる
と考えられる。
そうしたなか、
日本企業も飲食、
サービス、販売等の
ケースもある。
また、
これらのビザ以外にも知っておいたほうがよさ
分野を中心にアメリカ進出が続いており、
すでに進出している日
そうなビザも含めて、近年のアメリカにおけるビザについて、以下
系企業においても、
アメリカ国内でより低賃金・低税金の州への
に解説を進める。
進出が進んでおり、
アメリカ国内での業容拡大をもくろんでいる日
系企業も多いようだ。
投資駐在員ビザ(E2ビザ)
アメリカにすでに進出し、
あるいは今後進出する日系企業がしっ
多くの日系企業の駐在員は、投資駐在員ビザと呼ばれるE2ビ
かりと認識しておくべきことの1つに、
ビザの問題がある。
まず、
アメ
ザを取得する。
このビザは、最長5年間アメリカに滞在することを
リカのビザには、移民ビザと非移民ビザがあり、移民ビザはアメリ
許され、比較的容易に取得することができる。
ただし、発給要件の
カ国外の人々が永住権を求めるもので、
日系企業の駐在員が一
なかには投資金額や米国現地法人の出資条件などが定められ
般的に取得するビザは非移民ビザに該当する。今回は、非移民ビ
ており、
これらの要件に合致しない場合はE2ビザを取得すること
ザについて解説する。
ができない。
日本人駐在員がアメリカ国内で働く場合、
ビザの問題は避けて
日本企業が米国現地法人を立ち上げ、
そこに日本人幹部を派
通れない。
どこの国においても自国民の就労機会の創出が最優
遣しようと考えた場合、
どのようなスケジュールでE2ビザの取得手
先であり、
自国民の就労が阻害されるような外国人の就労許可
続きを進めるのか、例として、近年進出が多い飲食業を挙げて以
図表1. 日本、米国、中国のGDP推移
下に解説する。
まず、
アメリカで飲食店を立ち上げる場合、内装工事その他の
(単位:10億ドル)
20,000
18,000
16,000
費用として、20万ドル以上の資金が必要となる。
日本企業は資本
日本
米国
金を定めて米国現地法人を設立するわけだが、
この段階ではまだ
中国
14,000
会社を設立しただけの話であり、実際に資金を使用しているわけ
12,000
ではない。
このような状況ではE2ビザを取得できず、
ビザ取得のた
10,000
めには実際の設備資金や運転資金としてコスト支出が必要とさ
8,000
6,000
れる。
4,000
ただし、必ずしも支出がなされている必要はなく、契約などで支
2,000
0
1990
(年)
1995
2000
2005
2010
出典:IMF
14 mizuho global news | 2016 SEP&OCT vol.87
2015
出が見込まれるということでも構わない。
そして、
申請書類の作成
から日本における大使館・領事館での申請、面談を終えて審査が
完了するまでには2~3ヵ月が必要なので、
アメリカ進出時の駐在
員の滞在スケジュールを策定する際はこれらの手続き期間を見積
もっておく必要がある。
また、E2ビザの申請には、
ビジネスプランの提出も必要となる。
ビジネスプランの内容によっては、審査の結果、有効期間が短縮
されてしまったり、
あるいはそもそも審査が下りなかったりもする。
ビ
ザを更新する時も、実際の事業の状況を見て判断されることにな
るため、黒字であることや給料を払える財政状態であることが要
求される。
なお、E2ビザに対して、
貿易駐在員ビザと呼ばれるE1ビザがあ
図表2. 米国で就労するための主なビザとその発給理由
種類
発給理由
E1
貿易駐在員ビザ。
日米間で貿易を行う企業が駐在員を派遣する場合
E2
投資駐在員ビザ。米国へ一定額の投資を行う企業が駐在員を派遣する場
合
L1
企業内転勤ビザ。米国外の多国籍企業が役員や管理職を米国に派遣す
る場合
O
特殊能力ビザ。
コンクール全国1位など特殊な能力を有する者が米国で就
労する場合
B1
商用ビザ。報酬を伴わない商談や現地の立ち上げのために90日以上半年
以内米国に滞在する場合
る。
こちらは、貿易会社の駐在員に対して発給されるものであり、
の滞在をしなければならない場合に取得を目指すことになるが、
も
投資要件はないが、
貿易取引額などを見られることになる。
し90日以内に日本に帰国することができるのであれば、
わざわざ
B1ビザを取得する必要もなく、以下のビザ免除プログラムを利用
企業内転勤ビザ(L1ビザ)
すれば足りることになる。
投資要件を満たさないなどの理由でE2ビザの取得が困難な場
合は、
いわゆる就労ビザのなかでも、多くの会社がL1ビザの取得
ビザ免除プログラム(ESTA承認)
を目指すことになる。L1ビザは、駐在員が米国現地法人で管理職
日本や西欧諸国など一定の国の国民は、
アメリカのビザ免除
として働く場合に取得を目指すものだが、E2ビザに比べて審査が
プログラムによりノービザで90日以下の滞在が認められる。
この
厳しく、近年は発給を受けることが困難になりつつある。管理職と
制度を利用すれば、商用ビザ
(B1ビザ)
を取得するまでもなく、
アメ
いうものに明確な定義はなく、
どのような組織のなかで、
どのような
リカで一定期間滞在することができるため、
その期間内に米国現
管理業務を行っているのかを細かく説明する必要があり、名ばか
地法人立ち上げ時の各種交渉をしたり、店舗の内装監理やオー
り管理職はもちろんのこと、役員や社長であっても審査に落ちる
プン前の従業員教育をしたりすることができる。ただし、
日本人と
場合がある。小規模な会社にとってL1ビザはハードルが高く、簡
いえども、
イラク、
イラン、
シリアなど一定の国に行ったことがある人
単に取得できるものではないといえよう。
は、政府や国際機関職員でない限りノービザでの渡航は難しいと
いえる。
特殊能力ビザ(Oビザ)
国際コンクールで1位を取ったり、料理の世界で鉄人と呼ばれ
ビザ取得者の注意点
ていたり、
ソムリエの国際大会の優勝者であったり、科学、芸術、
駐在員は、飲酒運転など米国の法律に違反して逮捕されたり、
教育、事業、
スポーツにおいて、卓越した能力を持つ人や、映画や
派手な夫婦喧嘩や家庭内暴力が問題化した場合などは、強制
テレビ製作において卓越した業績を挙げた人、
そしてそれらの業
送還の憂き目に遭ってしまうこともある。駐在員はアメリカでしっか
務遂行の補助者に対して発給されるのがOビザだ。たとえば寿司
りと法律を守り、正しい市民行動をとれる方を選ばなければならな
店の板前さんも特殊技術があるということで発給されたりもしてい
い。
どんなに優秀でも、普通に生活を送れない人を駐在させること
るが、
どのようなレベルの対象者に発給されるかは審査担当者に
は、企業にとって大きなリスクとなるからだ。米国進出企業は、駐
よって左右されることになる。
在員への赴任前研修をしっかりと行い、現地の法律や慣習を意
識させることが必須といえる。
商用ビザ(B1ビザ)
たとえば米国現地法人をまだ設立していない場合や、設立して
ガルベラ・パートナーズグループ
いたとしてもE2ビザやL1ビザの発給要件に合致していない場合
東京、大阪、福岡に事務所を置き、税理士、公認会計士、社会保険労
務士、司法書士などの国家資格者によるワンストップ・コンサルティン
グを行っている。
また、アメリカ、中国、香港、東南アジアに6つの現地
法人を置き、海外での店舗や会社の立ち上げ、販売拠点づくり、海外
企業の買収など、
日本企業の海外進出を税・労・法の分野でトータル
サポートしている。http://www.gerbera.co.jp
は、商用ビザ
(B1ビザ)
の取得が1つの打開策となる。B1ビザは、
米国内での就労は認められず、
日本からの出張者扱いとなり、給
料も日本側で支給しなければならない。米国現地法人の立ち上
げのために現地に赴く必要がある人で、90日を超えて6ヵ月以内
mizuho global news | 2016 SEP&OCT vol.87 1 5
(新)日独租税条約の2017年からの適用
〜ドイツにおける配当源泉税の免税の話を中心にして〜
プライスウォーターハウスクーパース デュッセルドルフ事務所
在独日系企業ビジネスコンサルタント・シニアマネージャー 池田 良一氏
海 外への
「(新)
日独租税条約」における改正内
15%の配当源泉税の納付で済ますこと
直接投資ある
容も多岐にわたっている。
ここでは、
その中
ができる。すなわち、日本の親会社に85
いは海外にお
でも最も重要でポジティブな改正内容で
%相当分を送金することができる。これが
ける事業拡大
ある
「配当源泉税」の免税措置について、
「(新)
日独租税条約」の適用開始ととも
を行う際に、
該
その内容とともに、発効後から2017年の
に、15%ではなく0%
(免税)
になる。すな
当する外国と
適用開始に向けて行わなくてはいけない
わち、配当額を100%日本に送金ができ
日本が二重課
準備作業も含めて解説しておきたい。逆
る。正確に言うと、当該配当を支払う法人
税防止のため
方向の日本からドイツの親会社への配当
( 在 独 現 地 法 人 )に対する議 決 権の保
の
「租税条約」
の場合も基本的に同じであるが、
ここで
有状況(議決権比率と保有期間)
により、
を締結しているか、締結している場合その
は、在独現地法人(日系の在独子会社)
3段階に分けて税率・免税が規定されてい
内容がどんなものであるか、必ずチェック
から日本親会社への配当を具体例として
る
(図表1)
。
する必要が出てくる。日本とドイツとの間
説明しておきたい。
池田シニアマネージャー
には、1966年4月22日に調印が行われ、
1967年6月9日に発効した「日独租税条
約」が締結されている。この「(現行の)
日
配当源泉税の免税措置と
「第一前提条件」
配当支払日基準
ドイツの合 弁 会 社への出 資( 少 数 株
主)
の場合等を除き、
日系企業のほとんど
独租税条約」
は、調印・発効の年度を見て
在独現地法人(子会社)
から日本の親
の場合の対ドイツ直接出資においては、
ド
も分かるように、調印・発効から随分時間
会社に配当する場合、
まずは、
ドイツ国内
イツ現地法人から日本親会社への配当
が経っており、
かなり以前より各方面から
法に基づき、
その配当額に対して、25%の
に関して、後述の今回新たに導入された
改定の要望が出されていた。それを受け、
「資本収益税(配当源泉税)」
と
「連帯付
「特典制限条項」には留意しなくてはなら
数年間の予備交渉の後、2011年12月9
加税」
(その25%の5.5%)
が賦課される。
ないものの、出資比率25%以上のケース
日の正式な改正交渉開始のアナウンス、
合計で配当額に対して26.38%の負担
が大半と思われることから、上述の配当源
2015年7月16日の実質合意の旨の公
となる。
ドイツの子会社は、残額の73.62
泉税の免税(0%)の特典を享受できるも
表を経て、2015年12月17日に、東京に
%分だけを日本親会社に送金することに
のと考えられる。この改定された配当源泉
て「(新)
日独租税条約」の調印が行われ
なる。
しかしながら、
「(現行)
日独租税条
税率
(免税)
の適用は、
ドイツから日本への
た。現時点で日独双方での批准手続きも
約」の適用下においては、
この配当源泉
配当に対するドイツの源泉税については、
ほぼ終了し、2016年7~8月の発効、
そし
税は最大15%までと制限されているため、
配当支払日基準となっている。
また、
ドイツ
て、2017年1月1日付の適用開始の予定
あらかじめ申請して「軽減税率適用査定
の国内法では、配当支払日=納税日とな
である。
書」
を取得しておけば、26.38%ではなく、
っていることから
(ドイツ所得税法第44条
第1項と第2項)、予定通りに「(新)
日独
図表1.「
(新)
日独租税条約」税率・免税規定の3段階
租税条約」が適用される場合、2017年1
当該配当を支払う法人の議決権の25%以上の株式
(出資持分)
を18ヵ月
(配当決議日を末日と
する過去にさかのぼる期間:
ドイツからの場合)
以上にわたって保有している場合
免税
当該配当を支払う法人の議決権の10%以上、25%未満の株式
(出資持分)
を6ヵ月以上
(配当
決議日を末日とする過去にさかのぼる期間:
ドイツからの場合)
にわたって保有している場合
5%
上記に該当しない出資のすべての場合
15%
月1日以降に支払われる配当から免税が
適用になる。
この場合、
どの年度の利益からの配当
であるかは問われない。たとえば、過去数
年の間に内部留保をしてきていて、2017
16 mizuho global news | 2016 SEP&OCT vol.87