グリコーゲンが胎児の脳の発育に大きく関与

[PRESS RELEASE]
平成28年9月12日
グリコーゲンが胎児の脳の発育に大きく関与
~脳の発生期におけるグリコーゲンの関与に関する 研究論文の掲載~
京都府立医科大学大学院医学研究科
神経発生生物学
助教
後藤 仁志らは、グリコー
ゲンによる細胞内エネルギー代謝が胎児期の脳の正常発生に影響を与えていることを 解明
し、本研究に関する論文が平成 28 年 9 月 6 日(火)に科学雑誌『Journal of Cerebral Blood
Flow and Metabolism』に掲載されましたのでお知らせします。
グリコーゲンは細胞のエネルギー貯蔵物質として働くことが知られて いましたが、発生
期の脳形成における働きは不明なままでした。今回の研究成果により、胎児期の脳の発生
に重要な細胞内エネルギー代謝経路の一部が解明されたため、今後は胎児の脳の正常な発
生にどのようなエネルギー源・栄養素が必要か明らかとなっていくことが期待されます。
【研究代表者】
京都府立医科大学大学院医学研究科
神経発生生物学
助教
後藤仁志
【論文名】
Glycogen serves as an energy source that maintains astrocyte cell proliferation
in the neonatal telencephalon
[日本語:グリコーゲンは発生期の終脳においてアストロサイトの増殖を維持するエネ
ルギー源として働く]
【掲出雑誌】
科学雑誌 Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolism
[2016 年 9 月 6 日(火)オンライン掲載]
参考 URL: http://jcb.sagepub.com/content/early/recent
【共同研究者】
同教室
小野 勝彦、野村 真
【研究概要】
1.研究の背景
細胞は生物が基本的な生命活動を 行うために、細胞内に備えた代謝経路によってエネルギ
ー産生を行い、グルコースが主要なエネルギー源として働くことが知られています 。
グリコーゲンはグルコースの貯蔵源として、大人の筋肉や肝臓の細胞内に豊富に存在し、運
動や血糖値の制御を行うために重要なエネルギー源で あることが解明されています。一方で、
発生期の脳にもグリコーゲンの存在は知られていましたが、その 機能は、不明なままでした。
正常な脳形成の機構の理解のためには、最も脳が大きくなる時期である発生期に、細胞がど
のようにエネルギー源を使用しているか を解明することが必要とされてきました。 そこで、
我々はグリコーゲンの脳形成に おける働きについて解析することにしました。
2.研究の内容
はじめに、発生期の脳内グリコーゲンの分布を解析す
るため、マウスを用いた組織学的解析を行いました。
その結果、終脳の脳室下帯 (SVZ)という領域のアスト
ロサイトという細胞にグリコーゲンが特に多く存在して
いました(図 1)。
さらに、発生の各段階のグリコーゲンの分布・量を詳
細に調べたところ、マウスの出生直後に SVZ のグリコー
ゲンが減少していること が確認されました(図 2)。この
ことは、グリコーゲンが出生後にエネルギー源として代
謝してされていることを示して います。
また、グリコーゲン代謝の発生における機能を解析す
るため、グリコーゲンを利用する酵素の阻害剤を脳内に
投与すると、SVZ のアストロサイトの増殖が減少するこ
とが確認されました(図 3)。
これらのことから、1)発生期の SVZ 領域のアストロサイトがグリコーゲンをエネルギー 源
として使用していること、 2)SVZ のアストロサイトに蓄えられたグリコーゲンは、出生直後
のアストロサイト自身の細胞増殖を維持するために使用されているということが明らかとな
りました。
3.まとめと今後の展開
脳が形成され、成長する時期に細胞がどのようなエネルギー代謝を行うことによって発生
が進んでいくかについては多くが不明でした。特に、成熟個体で重要なエネルギー源である
グリコーゲンが、発生期の脳においてにどのように機能しているかは知見がありませんでし
た。
今回の研究により、胎仔期及び新生仔期の脳においてグリコーゲンが正常な脳の細胞増殖
に関わっていることが示され、これまで不明であった発生期の細胞に存在するグリコーゲン
の生理的意義が明らかとなりました。
今後は、発生期におけるグリコーゲンエネルギー代謝の異常が、成体になってどのような
影響を及ぼすかを明らかにすることで、胎児の脳の正常な発生にどのようなエネルギー源・
栄養素が必要か明らかとなっていくことが期待されます。
神 経発 生生 物学
問 い合 わせ
電
助教
後藤 仁志
話 : 075-703-4941
E-mail: [email protected]