XAFS の基礎

XAFS の基礎
朝倉清高
北海道大学触媒科学研究所
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1. 緒言
X-ray Absorption Fine Structure (XAFS)とは X 線吸収端からその高エネルギー側に現れる吸
収係数の微細構造である。Figure 1 に Rh K 吸収端の XAFS スペクトルを示す。この XAFS
を解析すると,X 線吸収原子周辺の局所構造と電子状態がわかる。
ここでは,その歴史,原理,測定法,解析法と若干の応用例を述べ,XAFS とはどんなも
のかについて概観する。
2. 歴史
XAFS の歴史は古い。1895 年に X 線が発見されると 1920 年代には X 線吸収スペクトルが
測定されるようになり,XAFS 振動というものが認識され始めた。その理論的解釈を与え
たのが,Kronig である。その後,しばらく,様々な解釈や理論,実験が行われたが,1971
年 Lytle Sayers Stern の PRL の論文でいわゆる短距離秩序理論にもとづく Fourier 変換法が
提案された。一方で,Stanford 大学の SSRL で放射光実験が可能になると XAFS が実際の構
造解析法として,注目を集め始め,現在に至っている。
3. XAFS の特徴
XAFS は,X 線を使うので,物質透過
性が大きく,様々な雰囲気での測定が可
能である。また,結晶性を必要とせず,
粉末や液体でも測定可能である。強度さ
えゆるせば,数分程度の測定で終わる。
また,濃度的にも薄い濃度のものも測定
可能である。(蛍光 XAFS 法を参照)
かなり制約の小さい物質構造解析法とい
える。
4. 原理
XAFS は吸収端近傍の XANES(X-ray
Absorption Near Edge Structure)と EXAFS
(Extended X-ray absorption Fine
Figure 1
XAFS スペクトル
Structure)に分けることができる。
XANES は空いた束縛準位あるいは,周りの原子の多重散乱により説明され,EXAFS は吸
収原子から飛び出した電子の一回散乱により説明される。
NF(k)
χ(k) =
exp(−2𝑘𝑘 2 𝜎𝜎 2 ) sin(2𝑘𝑘𝑘𝑘 + 𝜙𝜙(𝑘𝑘))
kR2
k は波数で
k = �2m(E − E0 )/ℏ
N,R, σは配位数,結合距離,デバイワーラー因子,F(k),ϕ(k)は後方散乱因子と位相シフト
である。
5. XAFS の測定法
XAFS の測定システムを Figure 2
に示す。放射光から出た X 線は分
光器で分光され,サンプル前に置
かれたイオンチャンバーで入射 X
線を、サンプル後のイオンチャン
バーで透過 X 線を測定し,Lambert
Beer の法則で,吸収係数を算出す
る。
𝐼𝐼
µt = −ln � �
𝐼𝐼0
6. 解析
XAFS の解析の流れを Figure 3 に
示す。
最初に吸収スペクトルからバックグ
ラウンドを除去し,振動を求める。
µt − µs
χ(k) =
𝜇𝜇0
その振動をフーリエ変換し,ピーク
部分を取り出し,逆フーリエ変換す
るかフーリエ変換自身をフィッティ
ングして求める。
Figure 2
XAFS 測定システム
7. 応用
応用は広い。半導体,センサー,磁
Figure 3 XAFS の解析 (a)バックグラウンド除去,(b)
性材料,表面,界面,電池,触媒,ナ
XAFS 振動のとりだし,(c)フーリエ変換,(d)カーブフィ
ノ金属,アモルファスなどの材料科学
ッティング
や金属タンパク質などの酵素の構造,
歯科材料,医科材料,環境材料や環境科学、地球科学,宇宙科学などありとあらゆる分野
で利用されている。なにしろ H,He を除く全元素の XAFS を測定できるのである。
8. まとめ
皆さんは XAFS を学ばれることで,強力な物質科学の解析するための武器を手にしまし
た。これを利用して,皆さんの研究がますます発展してくれれば,幸いです。