展望台

展望台
防衛装備庁におけるこれか
らの研究所の役割
久島 士郎
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防衛省技術研究本部は、平成27年10月1日
に、防衛装備庁へ組織改編され、まもなく1年
が経とうとしている。これまで装備品等の国内
開発を目指して技術研究開発に励んできた技術
研究本部であったが、これからは諸外国との防
衛装備・技術協力や、防衛生産・技術基盤の維
持強化等の幅広い防衛装備行政における役割が
期待されることになってきた。それを実現する
ために、内部部局においては、大幅な組織改編
が行われたが、旧技術研究本部の研究所および
先進技術推進センター(以下「研究所」という)
は、見た目は旧技術研究本部時代と同じような
状態である。しかし実際には、防衛省の「特別
の機関」である技術研究本部の「附置機関」と
いう位置づけから、防衛省の「外局」の防衛装
備庁の「施設等機関」という位置づけとなり、
しっかりとした行政組織として位置づけられ
た。
行政上の所掌範囲が広まったことにより、当
然、施設等機関としての研究所においても、こ
れまでより更に広い目をもって業務を行うこと
が期待されるようになるものと考えている。
ここでは、旧技術研究本部の研究所において
装備品等の研究開発の現場で業務を行ってきた
一個人として、これからの研究所の役割につい
ての私見を述べてみたい。
防衛技術ジャーナル September 2016
旧技術研究本部では、自衛官および研究職技
官が主体となって、装備品等の研究開発業務を
行ってきた。両者が契約相手方となる企業と力
を合わせて、装備品等の国内開発に汗を流して
きたのである。技術研究開発の現場である研究
所に勤務する研究職技官は、試作段階における
技術審査等を通して事業の着実な進捗に貢献し
てきた。また試作品の所内試験や技術試験にお
いては、単にその性能の達成状況を確認するだ
けでなく、試作品を用いての技術課題の解明
や、試作品の不具合時の原因究明等にも大きな
役割を果たしてきた。
装備品等の細部設計や製造は契約相手方が
担っており、研究職技官はこれらには携わって
いない。それでも、技術的な面で研究開発に貢
献できているのはなぜか。それは、研究職技官
は防衛省に採用された後、ほとんどの者がまず
研究所に配属され、所内研究等の小規模な研究
において自ら研究計画を立案し研究を実施し、
試作品の所内試験・技術試験等においては自ら
試験データを取得し、解析・評価に携わる等、
研究開発の現場で、上司・同僚に鍛えられ、企
業の技術者とともに知恵を出し合ってきたから
である、と考える。近年、研究開発アイテムが
大きなシステムとなり、すべての技術的課題に
対して自らデータの取得・解析を行うことが難
しい装備技術分野も増えてきたと思われるが、
技術者養成の基本は、現場での実作業を通して
の経験を糧とすることが不可欠であり、今後
も、そのような機会を積極的に設け、継続させ
ていく必要があるものと考える。
一方、近年の科学技術の進展は著しく、諸外
国の装備品等が性能の面で飛躍的に向上してい
く中で、既存の防衛技術の延長だけで装備品等
を作り上げようとしていくことは不可能なこと
である。将来の高性能な装備品等の創製のため
に必要な技術を模索していくことが不可欠とな
るが、それらの研究を防衛装備庁の研究所や防
衛装備関連企業の研究部門だけで対応していく
ことは、技術の専門性、研究態勢の柔軟性等の
点からも、効率的ではない。そのため、防衛装
備庁においてもデュアルユース技術を対象とし
て安全保障技術研究推進制度により、先進的な
研究に目を向けており、研究所からは研究者の
立場からプログラムオフィサーとして、研究課
題の進捗状況の把握等を行っている。このよう
な先進的な技術に追随していけるのも、日頃か
ら研究所において調査研究業務に従事している
研究職技官ならではのことである。
研究所では、装備品等に関わる技術の調査研
究や試験を行うことをミッションとしている
が、同時に、このような研究開発業務での経験
を通して、多彩な技術的業務に対応できる研究
職技官を育成するということも大きな役割と
なっている。
旧技術研究本部は、政策庁である防衛装備庁
に改編され、政策的対応を実際に行うことが可
能となったため、防衛省本省が担っていたとき
に比べ、政策決定に係る業務のスピードがこれ
までより速くなっている。これに伴い、先進技
術推進センター等の防衛装備庁の研究所も、技
術政策の実施に十分対応すべくスピード感を意
識することが必要であり、また多種多様な技術
的要求に応じる柔軟性をもつ必要もある。
市ヶ谷の防衛装備庁内部部局においても、さ
まざまな分野で多くの研究職技官が研究開発に
関わる業務に従事している。彼らの多くは、前
述したように、採用直後に研究所に配属され、
研究や試験評価の現場を歩き、自ら技術的貢献
もしてきた技術者である。彼らは航空機の専門
家であったり、火器弾薬や電子機器の研究開発
に従事してきた者であり、決して幅広い技術分
野を歩んできた訳ではない。しかし、そのよう
な者が研究開発全般を技術的観点から見ること
ができるのは、研究所という現場において研究
開発業務に携わった経験をもち、そこから多く
の知見を得て、しっかりとした視点で業務を見
ることができるように育てられてきたからであ
る。これからも、防衛装備庁の有為な人材を育
てていく礎の器として、先進技術推進センター
等の研究所の役割はさらに大きく重要なものと
なると考える。
人材育成というのは、すべての組織において
最も重要な課題であるので、これからも世の中
の動向を見ながら、防衛装備庁にとって有為な
人材を育てていきたいと考えている。
防衛装備庁先進技術推進センター 所長
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