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AFERC
Active Fault and Earthquake Research Center
NEWS
TOPICS
● 水文学的・地球化学的手
法による地震予知研究につ
いての第 9 回日台国際ワー
クショップ報告
…1
ニュージーランド南島で発
生した地震について
…6
●  学会・研究会参加報告
…9
● 外部委員会活動報告 2010 年 9 月 … 11
http://unit.aist.go.jp/actfault-eq/index.html
水文学的・地球化学的手法による地震予
知研究についての第 9 回日台国際ワーク
ショップ報告
板場智史・小泉尚嗣(地震地下水研究チーム)
● 地中レーダー探査の活断
層調査への応用例
…4
● 2010 年 9 月 4 日 に
September 2010
1.はじめに
2010 年 9 月 14~16 日に標記ワークショップが,活断層・地震研究センターと台
湾成功大学防災研究センターとの共同研究である「台湾における水文学的・地球化
学的手法による地震予知研究」の一環として,つくば中央第 7 事業所他にて開催さ
れた(主催 : 活断層・地震研究センター,共催 : 台湾成功大学防災研究センター).
このワークショップは,産総研と成功大学とで毎年交互に開催している(小泉,
2009).9 月 14 日にワークショップ,15~16 日には静岡県函南町・伊豆市・伊東市・
神奈川県鎌倉市周辺への巡検が行われた.
2.ワークショップの概要
ワークショップの冒頭,主催者を代表して地質調査総合センターの加藤碵一代表
が挨拶を行った(写真 1).引き続いて午前のセッション,ランチミーティング,午
後のセッションを行った.発表は 11 件行われ,参加者は約 20 名であった(写真 2).
発表では,台湾から琉球トレンチ,南海トラフ,伊豆半島と対象地域が広い事も
1
2
3
4
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さることながら,内容について
も, 水 文 学・ 地 球 化 学 は 勿 論,
地表~海底での GPS,歪等の地
殻変動,地震活動について,観
測~理論まで幅広く紹介された
(表).ワークショップ終盤では,
成功大学の Wen-Chi Lai 氏より,
2003~2009 年に台湾で観測され
た,地震に伴う地下水変化につ
いての取りまとめが報告された.
これは,本共同研究のこれまで
の台湾側での総決算とも言える 写真1 ワークショップ冒頭に挨拶を行う加藤代表.
も の で あ っ た. 締 め く く り は,
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AFERC NEWS No.17 2010/9
AFERC NEWS No.17
Contents
No. 17
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September 2010 No.17
小泉による本共同研究のこれまでのレビューと,こ
れからの課題について発表であり,その後総合討論
を行った(表).
ワークショップでは一貫して,「その研究が地震
予知にどのように役に立つのか」といった点での議
論がなされ,参加者の地震予知に対する熱意が高い
のが印象的であった.本ワークショップの講演論文
集は,過去 8 回分の論文集(地質調査総合センター
研 究 資 料 集 の 384, 403, 420, 441, 463, 484, 493, 522
号)と同様に,研究資料集として http://www.gsj.jp/
GDB/openfile/index_j.html からダウンロードできる
ようにする予定である.
AFERC NEWS No.17
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DGNTU
DPRC
DPRI
FSRU
GSSUT
IESAS
LECUT
NUCHS
写真2 地質標本館前での集合写真.
ワークショッププログラム(2010/9/14)
10:00 加藤碵一 (地質調査総合センター代表):挨拶
10:10 中村衛(FSRU).Interplate coupling along the central Ryukyu Trench inferred from
GPS/acoustic seafloor geodetic observation
10:35 LIN Cheng-Horng (IESAS) Foreshock Characteristics in Taiwan: Potential Earthquake
Warning
11:00 村瀬雅之(NUCHS),Creeping distribution on the Longitudinal valley fault at Yuli area
estimated by precise leveling survey, Southeast Taiwan 2
11:25 安藤雅孝(IESAS) Seafloor geodetic survey in Taiwan- A progress report
12:00 写真撮影会(第7事業所 )1階ロビー
12:20 Lunch Meeting
14:00 角森史昭(LECUT),New Continuous Radon Monitoring in Nakaizu Observatory
14:25 田中秀美(GSSUT)Chemical monitoring of the Atotsugawa Fault zone by using new
designed QMS
14:50 HU Jyr-Ching (DGNTU) Analysis of strain anomalies by strainmeters in Taiwan
15:15 休憩
15:40 加納靖之(DPRI),Hydraulic diffusivity around the Kamioka mine estimated from
barometric response of pore pressure
16:05 北川有一(AFERC),Frequency characteristics of the response of water pressure in
closed well to volumetric strain in high frequency domain
16:30 LAI Wen-Chi(DPRC),The study of the mechanisms of earthquake-induced
groundwater variation in Taiwan, 2003~2009
16:55 小泉尚嗣(AFERC), Review of cooperative hydrological and geochemical research for
earthquake prediction in Taiwan
17:20 議論
18:00 懇親会
活断層・地震研究センター
Department of Geosciences, National Taiwan University
Disaster Prevention Research Center, National Cheng Kung University
京都大学防災研究所
琉球大学理学部
東京大学大学院理学系研究科
Institute of Earth Sciences, Academia Sinica, Taiwan
東京大学地殻化学実験施設
日本大学文理学部
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3.巡検の概要
あったとの声があった.
参考文献
写真3 静岡県函南町の火雷神社において.写真手前
には丹那断層があり,1930 年の北伊豆地震では,断
層上にあった鳥居が崩壊した.現在は鳥居の一部が残っ
ている.
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9 月 15 日朝につくばを出発し,静岡県に向かった.
函南町では,1930 年北伊豆地震により 2.6m ずれた
石組み遺構や,トレンチ調査跡を利用した断層地下
観察室等が整備されている丹那断層公園などで,丹
那断層を観察した(写真 3).伊豆市では,1970 年
代よりラドン観測を行っている中伊豆観測点(東京
大学)を視察し,東京大学の角森史昭氏によるラド
ン観測について説明があった(写真 4).同観測点
は,1978 年伊豆大島近海地震(M7.0)の前に異常
なラドン濃度変化があった所である(Wakita et al.,
1980).伊東市では,産総研の大室山北観測井を視
察し,伊豆東方沖の群発地震時の同観測井や周辺の
地下水位や体積歪変化に関して,小泉が説明を行っ
た.翌日は神奈川県鎌倉市の鎌倉観測点(東京大学)
を視察した.地下水や地球化学以外を専門とする参
加者も多く,普段目にする機会の少ない地下水観測
の様子を直接見て議論する事ができ,大変有意義で
小 泉 尚 嗣(2009),GSJ ニ ュ ー ス レ タ ー,61, 7-8,
URL: http://www.gsj.jp/gsjnl/gsj_nl_no61.pdf
Wakita, H., Y. Nakamura, K. Notsu, M. Noguchi and T.
Asada (1980), Science, 207, 882-883.
写真4 東京大学中伊豆観測点を見学中の風景.東京
大学理学研究科の角森氏により,ラドン観測について
説明を受けた.
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September 2010 No.17
地中レーダー探査の活断層調査への応用例
木村治夫(地震災害予測研究チーム)
AFERC NEWS No.17
地中レーダー探査とは,制御された電磁波を地中
に送信し,例えば地層面のような,電磁気的性質
の異なる媒質の境界面で反射した電磁波を受信す
ることにより,地下の構造を求める調査方法です
(例えば,Daniels, 1996; 物理探査学会,1998).地
下 10 m 程度までの浅層構造を比較的簡便・短時間・
高分解能でイメージングできる非破壊調査法であ
ることから,土木・建築分野や遺跡調査や地雷検知
作業などにも応用されています.最近は日本でも活
断層調査への応用事例が増えており(例えば,笠井・
他,1996; 安江・他,2005; 苦瓜・宮田,2008),地
震災害予測チームでも 2009 年度に地中レーダー探
査システムを導入しました.現在までに,糸魚川-
静岡構造線活断層系の神城断層・松本盆地東縁断
層・茅野断層や,関東平野北西縁断層帯の綾瀬川断
層での探査を行いました.ここではそれらの一部を
紹介します.
査によって連続したデータを取得することによっ
て,より正確な対比を行えます.また,比較的簡易
に広範囲のデータを取得できるので,幅広い撓曲変
形帯などの場合,トレンチ調査サイトの周辺をも含
めた広範囲の地盤変形をイメージングできます.さ
らに,群列ボーリング調査やトレンチ調査に先だっ
て,掘削地点選定のために地中レーダー探査を行う
ことも効果的だと思われます.とくに,人工改変
や浸食・埋積によって断層変位地形が不明瞭になっ
ている場合,このような方法が有効でしょう.
図 1 はプロファイル法(物理探査学会,1998)と
呼ばれる計測方法で行った,神城断層での探査の様
子です.200 MHz の送受信アンテナは中央のオレ
ンジ色の箱の内部にあり,ノイズ軽減のために電磁
シールドが施されています.アンテナユニットは 1
辺が 60 cm,重量約 18 kg で,図 1 のように 1 人(図
中の左端の人が引っ張っています)で移動可能で
す.制御・記録ユニット(図中の右から 2 人目が持っ
ています)の操作やその他の補助も合わせて,数名
居ればデータ取得作業を行えます.
取得したフィールドデータは地中レーダー探査
用のデータ処理ソフトを用いて解析し,断面を作成
します.データ処理については,一般的な反射法地
震探査のデータ処理で行われている処理方法が用
いられています.そのため,データ形式を変換すれ
ば,反射法地震探査用のデータ処理システムを用い
て,地中レーダーのデータ処理も可能です.
図1 糸魚川-静岡構造線活断層系での探査風景.
地 中 レ ー ダ ー 探 査 で は 一 般 的 に は 15 MHz~
1 GHz の周波数帯の電磁波を,探査対象深度や必要
分解能にしたがって選択して用います.我々の探
査では中心周波数 200 MHz の送受信アンテナを使
用しています.これは地表から最大深度が数 m~
10 m 程度までの地下構造をイメージングするのに
適しており,群列ボーリング調査やトレンチ調査で
対象としている領域とほぼ同じ地下深度です.そう
いったことからも地中レーダー探査はトレンチ調
査や群列ボーリング調査と組み合わせて行うこと
により,より効果的な活断層調査を行うことがで
きると考えられます.活断層近傍では断層運動の
結果,浅層部では地質構造が乱れていることが多々
あります.その他にも局所的なレンズ状構造の存在
などによって,群列ボーリング間の対比が難しいこ
とがあります.このような場合でも地中レーダー探
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AFERC NEWS No.17 2010/9
図 2 糸魚川-静岡構造線活断層系の神城断層での地
中レーダー探査結果.撓曲崖を横切る測線の深度変換
断面.
神城断層で取得したデータの処理結果が図 2 の深
度変換断面です.この測線に沿って Scan No. 2000
付近~1 付近(断面の右 3 分の 1 程度)でトレンチ
調査が行われ,トレンチの西端付近(地中レーダー
断面の Scan No. 2000 付近)で西傾斜する撓曲変形
が観察されています(丸山・他,2010).撓曲崖は
トレンチのさらに西方にのびており,現場条件に
より掘削溝を延伸することができないため,丸山・
他(2010)はこのトレンチ調査に群列ボーリング
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September 2010 No.17
調査を組み合わせることによって,神城断層の評
価を行いました.地中レーダー断面では Scan No.
4000 付近~2000 付近にかけて明瞭な撓曲変形構造
をイメージングできており,図中の赤破線の位置,
あるいはその周辺に断層を推定できます.さらに.
既存の群列ボーリング調査やトレンチ調査結果を
参照しつつ,撓曲変形構造について解析を進めてい
くことが望まれます.
次に,関東平野北西縁断層帯の綾瀬川断層での探
査事例を挙げます.この探査地点では,段丘面の変
形から,数百 m 以上の幅広い撓曲崖の存在が指摘
されています(石山・他,2005)
.また,撓曲崖の
一部の範囲で掘削深度 5~6 m の群列ボーリングも
行われています(須貝・他,2007).このような既
存研究成果や,さらに深い深度を対象とした反射法
地震探査の結果と組み合わせるため,撓曲崖全体を
横切る総延長約 1.5 km 以上の測線で地中レーダー
探査を行いました.これは地中レーダー探査として
は非常に長い測線です.しかし,同程度の深度を対
象とする他の調査方法に比べると比較的短時間で
現地調査を行えます.この時の探査日程は,測線の
記載・位置測量を含めて 3 日間,計測そのものは 1
日半でした.
図 3 にその結果の一部として,撓曲崖基部周辺
の約 500 m の区間の探査結果断面を示します.先
に挙げた神城断層の地中レーダー断面に比べると,
反射面が非常に乏しいですが,それでもいくつか
の比較的明瞭で連続性の良い反射面が見られます.
これらの反射面の深度について,須貝・他(2007)
の群列ボーリングデータを参照すると,浅間板鼻
黄色軽石 As-YP,北本軽石 KMP といった火山灰層
に相当することがわかりました.このようにして,
地中レーダー断面からこれらの火山灰層の変形パ
ターンや変形量を正確に求めることができます.ま
た,この図では範囲外ですが,さらに南西方(図 3
図3 関東平野北西縁断層帯の綾瀬川断層での地中レー
ダー探査結果.上図:撓曲崖基部周辺区間の深度変換断面.
下図:同断面の地質学的解釈.解釈断面内に記した線は
テフラ層を示すと考えられる反射面.青色線は浅間板鼻
黄色軽石 As-YP(15-16.5 ka: 町田・新井,2003),緑
色線は北本軽石 KMP.
の断面のさらに左方)でも地中レーダー探査を行っ
ており,少なくとも 350 m 以上の幅で撓曲変形が
生じていることがわかりました.
これらのように,トレンチ調査や群列ボーリング
調査などの他の手法と相互補完的に用いることに
よって,地中レーダー探査は活断層調査にとって有
効な手法のひとつになると言えるでしょう.さら
に,地中レーダー探査の特色を生かして,3 次元的
な浅部地下構造を求めることにより,横ずれ変位の
検出や詳細な古地形の復元など,多くの応用法があ
ると考えられます.ただしそれらの場合でも,ボー
リング調査などと組み合わせた的確な探査計画が
必須であると言えます.
引用文献
物理探査学会(1998)物理探査ハンドブック,物理
探査学会,東京,1336pp.
Daniels, D. J. (1996) Surface-penetrating radar, The
Institute of Electrical Engineers, 300pp.
石山達也・水野清秀・杉山雄一・須貝俊彦・中里
裕臣・八戸昭一・末廣匡基・細矢卓志(2005)
変動地形・ボーリング・反射法地震探査によ
り明らかになった綾瀬川断層北部の撓曲変形,
活断層・古地震研究報告,5, 29-37.
笠井弘幸・阿部信太郎・鈴木浩一(1996)活断層の
地中レーダー法によるイメージング:その現
状と展望,活断層研究,15, 73-86.
町田 洋・新井房夫(2003)新編火山灰アトラス
-日本列島とその周辺-,東京大学出版会,
336pp
丸山 正・遠田晋次・奥村晃史・三浦大輔・佐々
木俊法・原口 強・都司嘉宣(2010)より詳
しい地震活動履歴解明のための地質学および
史料地震学的研究,糸魚川-静岡構造線断層
帯における重点的な調査観測 平成 17~21 年
度 成果報告書,文部科学省研究開発局・国土
交通省国土地理院・東京大学地震研究所,230254.
苦瓜泰秀・宮田隆夫(2008)大都市市街地における
伏在断層の GPR イメージング法,地質ニュー
ス,642, 30-33.
須貝俊彦・水野清秀・八戸昭一・中里裕臣・石山達
也・杉山雄一・細矢卓志・松島紘子・吉田英嗣・
山口正秋・大上隆史(2007)表層堆積物の変
形構造からみた深谷断層系綾瀬川断層北部の
後期更新世以降の活動史,地学雑誌,116, 394409.
安江健一・廣内大助・中埜貴元・酒井英男・奥村
晃史・海津正倫(2005)活断層の横ずれ変位
によって形成される変動地形と極浅部地質構
造との関係:雁行断層について,地質学雑誌,
111, 29-38.
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AFERC NEWS No.17 2010/9
AFERC NEWS No.17
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September 2010 No.17
2010 年 9 月 4 日にニュージーランド南島で発生
した地震について
吾妻 崇(活断層評価研究チーム)
AFERC NEWS No.17
2010 年 9 月 4 日 4 時 35 分( 現 地 時 間:UTC で
は 9 月 3 日 16 時 35 分)に,M 7.1 の地震がニュー
ジーランド南島北東部で発生しました.クライスト
チャーチ周辺では,改正メルカリ震度階で震度 9(気
象庁監修(1996)によると,日本の気象庁の震度階
では 5 強から 6 弱に相当)の揺れが記録され,多く
の建造物に被害が出ました.ニュージーランド地
質・核科学研究所(New Zealand Institute of Geology
and Nuclear Science,GNS と略す)がホームページ
で公表したところによると,震央の位置はクライス
トチャーチ西方約 40 km(図 1 の丸印)で震源の深
さは約 10 km とされています.この地震は,震央
付近の地名にちなんで「ダーフィールド(Darfield)
地震」あるいは「カンタベリー地震」と呼ばれてい
ます.この地震に伴って,最大変位量 4 m(主に右
横ずれ)におよぶ地表地震断層が長さ約 22 km に
わたって出現したことが報告されていますが,地震
発生前にはこの場所に活断層が存在することは知
られていませんでした.
173˚
172˚E
ペガサス湾
ダーフィールド
クライストチャーチ
ロールストン
バンクス半島
カンタベリー平野
44˚S
0
50 km
図 1 ダーフィールド地震の震央位置(丸印)と地表
地震断層の出現位置(赤線).震央の位置は GeoNet の
ダーフィールド地震に関するサイトの詳細情報(http://
www.geonet.org.nz/earthquake/quakes/3366146g.
html)に,地表地震断層の位置については GNS のカン
タベリー地震に関する特集サイト(http://www.gns.cri.
nz/Home/News-and-Events/Media-Releases/Mostdamaging-quake-since-1931/Canterbury-quake)
の図に基づき作成した.基図には「ニュージーランド南
島 100 万分の 1 地形図」(South Island, New Zealand,
1:1,000,000,Info Map 社)を使用した.
6
AFERC NEWS No.17 2010/9
1.ニュージーランドとクライストチャーチ
ニュージーランドは北島と南島の 2 つの島から
なっていて,自然が豊かな国として日本からも毎年
多くの人々が訪れています.かくいう私も,学生時
代に指導教官の案内で北島と南島をほぼ縦走して
以来 3 回この地に訪れており,その自然の素晴らし
さと変動地形や氷河地形の見事さに魅せられた一
人です.ニュージーランドは島国であるという点で
日本と共通しているだけでなく,プレート境界に位
置していて地震や火山活動が活発な場所であるこ
とも共通しています.首都のウェリントンの市内を
活断層が通過していることもあり,古くから活断層
の研究が進められてきた国でもあります.
クライストチャーチは人口約 38 万人(国内で第
2 位)の都市で,ニュージーランドで最初に設立さ
れた市であるとともに,緑が多い美しい街並で知
られています.カンタベリー平野の東部に位置し,
東はペガサス湾に面し,南には鮮新世の火山噴出
物(玄武岩や凝灰岩)からなるバンクス半島が南
太平洋に向かって突き出ています.市の北側には,
南島の脊梁山脈であるサザンアルプス山脈に源を
発し,平野を東西に流れるカンタベリー平野最大の
河川,ワイマカリリ川が流れています.クライス
トチャーチでは,1888 年 9 月 1 日に M 7.3 の地震
(north Canterbury 地 震 ),1929 年 3 月 9 日 に M 7.1
の地震(Arthur's Pass 地震)が発生したことが記録
されているほか,1869 年のクライストチャーチ地
震(Christchurch earthquake)
,1870 年のエルスメア
湖地震(Lake Ellesmere earthquake)によっても,建
築物が被害を受けています.
2.ダーフィールド地震の震源断層
今回のダーフィールド地震が発生した場所は,
ニュージーランドの南島の北東部に分布するカン
タベリー平野の北西部にあたります.本震の震源メ
カニズム解と余震分布によると,東西走向の断層面
上で右横ずれのすべりが発生したと推定されます.
余震の分布域は,東西約 50 km の範囲に及んでい
ます.カンタベリー平野の北西にはサザンアルプ
ス山脈がそびえていますが,山脈内およびその周辺
部の地質構造や断層は,山脈内を横切るアルパイン
AFERC
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NEWS
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September 2010 No.17
173˚
172˚E
ル
ア
172˚E
層
断
ン
イ
パ
た断層で過去に発生した地震の痕跡は,最終氷期
の最盛期が終わって温暖化が進んだ時期(約 1 万 6
千年前以降)に,サザンアルプス山脈から流れ出た
厚い河成堆積物に覆われてしまっているものと考
えられます.
ア
層
断
ン
イ
パ
ル
173˚
層
ス断
レン
クラ
層
プ断
ホー
43˚S
43˚S
0
44˚
0
50 km
図 3 ク ラ イ ス ト チ ャ ー チ 周 辺 の 活 断 層 図. 出 典 は
「Late Quaternary Tectonic Map of New Zealand
1:2,000,000」(New Zealand Geological Survey,
1983).
AFERC NEWS No.17
断層に調和した北東-南西走向となっています(図
2).ですから,今回の地震のメカニズム解を聞いた
時には,「どうしてそんな走向の断層が?」と疑問
に思い,この周辺の活断層を確認してみることにし
ました.
50 km
図 2 ク ラ イ ス ト チ ャ ー チ 周 辺 の 地 質 構 造. 出 典 は
「Geological Map of New Zealand 1:1,000,000」
(New
Zealand Geological Survey, 1972).図の左上を斜め
に横切る断層がアルパイン断層.アルパイン断層の南東
側に沿って分布する茶色-ピンク色の部分には変成岩が,
その南東側の水色の部分にはグレイワッケ(graywacke)
と呼ばれる中生代の堆積岩が分布する.薄い黄色で塗ら
れた部分がカンタベリー平野で,最終氷期以降の河成堆
積物で覆われている.クライストチャーチの南のバンク
ス半島は鮮新世に噴出した玄武岩や凝灰岩からなる.
ニュージーランドでは 1977 年に活断層図(Late
Quaternary Tectonic Map of New Zealand:縮尺 100 万
分の 1,図 3)が当時のニュージーランド地質調査
所(現在の GSN)から刊行され,1983 年に改訂版
も刊行されています.この図でクライストチャーチ
周辺に示されている活断層としては,クライスト
チャーチから約 20 km 北に位置するアシュレイ断
層(Ashley fault:図中の 10)とその西方にポーター
ズ・パス断層(Porters Pass fault:図中の 9 番)が示
されています.これらの断層は,いずれもほぼ東西
に近い走向です.また,GNS がホームページで活
断層データベースを公開しています(図 4)
.この
マップには従前の活断層図には示されていない活
断層も表示されていますが,今回の震央付近には活
断層は示されていません.今回の地震の震源となっ
0
50 km
図 4 ニュージーランドの活断層データベース.GNS
ホームページから画像を複製.赤線が活断層.
3.地表地震断層
地震発生直後,GNS による緊急調査が行われ,
ダーフィールド付近に地表地震断層が現れたこと
が報告されました.地表地震断層の東端はクライ
ストチャーチ西方のロールストン(Rolleston)と
いう町付近であり,西端は,直後の報告ではダー
フィールド南方のホーキンス川(Hawkins river)と
セルウィン川(Selwyn river)が合流する付近でし
たが,その後公表された図ではさらに西のホロラタ
川(Hororata river)付近となっています.GNS の緊
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AFERC NEWS No.17 2010/9
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NEWS
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September 2010 No.17
AFERC NEWS No.17
急サイトに掲載されている写真をみると,道路や牧
草地の境界の並木が右横ずれしていることがわか
りました.断層に沿って地表面が膨らんだり,河川
の下流側が隆起して小さな池ができている場所も
あるようです.報告によると,最大変位量は約 4 m
に達します.地表地震断層を詳細にみると単純な 1
本のトレースでなく,リーデル剪断と呼ばれる横ず
れ断層に特有な複数の断層に分岐していて,地表面
にエシェロン・クラックという断層の一般走向と斜
交する雁行割れ目が発達していることがわかりま
す.
上述したとおり,地表地震断層の規模は,長さ
が約 22 km,最大変位量が約 4 m と報告されていま
す.日本でよく用いられている松田(1975)の経験
式を用いて地震の規模(M 7.1,USGS の発表では
M 7.0)と比較すると,断層の長さはほぼ合います
が,最大変位量は大きすぎる傾向にあります.また,
地表地震断層と余震分布域を比較すると,余震分布
域は地表地震断層の長さの倍以上(50 km 以上)に
及んでいます.余震のうち,東西両端付近には発震
メカニズムが違うタイプのものもあり,今回の地震
に誘発された地震も含まれている可能性もある(当
センターの今西俊和談)と思いますが,地下の震源
断層と地表で確認される活断層との関係を議論す
るうえで新たに重要な情報が得られました.
4.活動性が低い活断層
ダーフィールド付近には,最終氷期以降に堆積
した河成段丘堆積物が厚く分布しています(図 5).
今回の地震が発生する前には,この河成段丘面上
に断層崖の存在は認められていませんでしたので,
この断層の活動間隔は 1 万 6 千年よりも長いと考え
られます.このことを聞いてすぐに思い出したの
は,ニュージーランドの南島北部で 1929 年 6 月 17
日に発生したマチソン地震(Murchson)の震源と
なったホワイト・クリーク断層(White Creek fault)
においても,それ以前の活動が 1 万年以上前である
ことが知られているということでした.
日本の主要な活断層の活動間隔が数千年のもの
が多いので,このように 1 万年を超える長さの活
動間隔は,我々日本の活断層を研究している者から
すると随分と長いと感じられます.1 万年以上の活
動間隔で 1 回に数 m 程度の変位をもたらすとする
と,活動度 B 級下位から C 級の活断層に相当しま
す.こうした活動性が低い活断層は,侵食作用や堆
積作用により断層変位地形が失われてしまい,今回
のダーフィールド地震の震源断層のように伏在化
していたり,活断層の長さを短めに認定してしまっ
たりする可能性があります.今後の活断層研究で
は,活動性が低い活断層に対しても適切な評価がで
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AFERC NEWS No.17 2010/9
きるような調査の取り組みがなされることが必要
です.
172˚E
0
50 km
図 5 クライストチャーチ周辺の第四紀地質図.出典
は「Quaternary Geology of New Zealand, South
Island, 1:1,000,000」(New Zealand Geological
Survey, 1973).H2a が第四紀後期の河成堆積物の分
布域,H3a が完新世の河成堆積物の分布域を示す.末
尾が d の記号は砂丘砂,a は湿地性堆積物,l はレス(風
成塵)を示す.
インターネット情報の URL
・ダーフィールド地震に関する情報
http://www.geonet.org.nz/earthquake/historic-earthquakes/
top-nz/quake-13.html
http://www.gns.cri.nz/Home/News-and-Events/MediaReleases/Most-damaging-quake-since-1931/Canterburyquake
http://earthquake.usgs.gov/earthquakes/eqinthenews/2010/
us2010atbj/#details
・ニュージーランドで発生した過去の大地震に関す
る情報
http://www.geonet.org.nz/earthquake/historic-earthquakes/
index.html
http://www.teara.govt.nz/en/historic-earthquakes
・ダーフィールド地震による震度分布
http://www.geonet.org.nz/earthquake/quakes/3366146gshaking.html
・ニュージーランド活断層データベース
http://data.gns.cri.nz/af/
引用文献
気象庁監修(1996)震度を知る-基礎知識とその活
用-.ぎょうせい,238p.
AFERC
REPORT
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NEWS
2010
September 2010 No.17
学会・研究会参加報告
吉見雅行(地震災害予測研究チーム)
2010 年 8 月 30 日から 9 月 3 日までマケドニア共
和国のオフリドにて第 14 回ヨーロッパ地震工学会
議(14ECEE)が開催された.ECEE は 4 年に 1 度
開催されている.センターからは吉見が参加した.
オフリドは首都スコピエから約 200 km 南西のオ
フリド湖のほとりにある.ギリシャ,アルバニアと
の国境に近く,スコピエ,ティラナ,テッサロニキ
の 3 空港からほぼ同距離にある.どの空港からもオ
フリドへはめぼしい公共交通機関がないため,各
空港からのバス便が学会によって用意されていた.
主会場はオフリドの南方 10 km ほどのリゾートホ
テルであった.ホテルにはメイン会場になるよう
な会議室がなく,大きなテントがホテル前に設営さ
れ,メイン会場とポスター会場に充てられていた.
このように,会議開催には多大な労力を要したこと
が窺えた.
マケドニアはヨーロッパ地震工学会発足の地と
のことである.1963 年のスコピエ地震を受けて地
震工学会が発足し,第 1 回会議もマケドニアで開催
された.その後開催地はヨーロッパ各国をまわり,
今年マケドニアに戻ってきた.参加者全員にスコ
ピエ地震の写真集 CD が配布され,開会式ではヨー
ロッパ地震工学会を組織した 3 人の研究者の写真が
披露された.
会 議 で は 6 つ の ト ピ ッ ク(Engineering
Seismology, Geotechnical Earthquake Engineering,
Seismic Performance of Buildings, Earthquake
Resistant Engineering Structures, New Techniques and
Technologies, Managing Risk in Seismic Regions)が扱
われ,世界 70 カ国から 1600 余りの発表が寄せられ
た.ヨーロッパや西アジア諸国からの発表が大半
で,先端的研究よりも事例報告や既存手法の適用報
告,あるいは規格制定に絡む研究が多いように感
じられた.なお,少数ながら日本人の参加者も居り,
国内ではなかなか知り合えない異分野の方々とも
ゆっくり話ができた.
毎日午前中にヨーロッパの著名な学者による基
調講演が行われた.基調講演の資料は Earthquake
Engineering in Europe という 500 ページ超の成書に
まとめられ配布された.発表の出来は様々であった
が,基調講演を一過性のものにしない取り組みに好
感が持てた.
筆者は設計用地震動のオーラルセッションにて,
予測地震動のばらつきと 3 次元的地盤増幅について
発表し,有意義な議論ができた.当セッションおよ
び関連セッションでは,筆者のような確定論的評価
事例は少なく,ほとんどが経験的手法(距離減衰式)
および統計的手法であった.経験的手法については
日本が格段に高レベルなのだが,先行する日本人の
論文はほとんど引用されていなかった.英文で報告
しないと埋没することをまざまざと思い知らされ
た.
セッションによっては連絡なしのキャンセルも
多かったようである.この点については閉会式にて
言及があり,迷惑だから止めるよう要請があった.
発表確認後に論文集に載せるなどの対策をする会
議も出始めているが,悩ましい問題である.
閉会式終了後には会場の南方約 20 km にある聖
ナウム教会への無料バスツアーに参加した.オフリ
ド湖は鮮新世の造構運動起源と言われ,車窓からは
湖を取り囲む正断層様の崖を観察できた.オフリド
湖の水源である湧水のほとりに建つ教会を周囲の
風景と共に堪能できた.
次回の 2014 年はイスタンブールで開催される.4
年前と同様に ECEE と ESC の共同開催となる(第
2 回 ECEES になる)とのことである.
AFERC NEWS No.17
14ECEE 参加報告
写真1 会場前に設営されたテント.
写真2 学会終了後に訪れた聖ナウム教会と参加者たち.
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AFERC NEWS No.17 2010/9
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NEWS
2010
September 2010 No.17
ESC2010 参加報告
AFERC NEWS No.17
2010 年 9 月 6 日から 10 日まで南仏のモンペリエ
にてヨーロッパ地震学会(ESC2010)が開催された.
ESC は 2 年に 1 度開催されている.センターから
は吉見が参加した.
会場となった会議場はモンペリエの中心地コメ
ディ広場から徒歩数分の場所にあった.気候も過ご
しやすく,会場への行き帰りや昼食時などにフラン
スらしさを味わうことができた.
会議はほぼ終日の基調講演と 5 つのパラレルセッ
ション,およびポスターセッションで構成されてお
り,ヨーロッパの研究者を中心に全体で 900 編近い
発表があった.特筆すべきは基調講演の充実であ
る.ヨーロッパの第一線の研究者が最新の知見を基
礎から発展まで分かりやすく解説する形式で行わ
れ,会場は常に賑わっていた.会議の直前に発生し
たニュージランド地震の解説も基調講演として急
遽実施された.
筆者は Earthquake and Tectonics: From paleoseismicity
to plate tectonics のオーラルセッションにて,断層周
辺の地上レーザー測量について発表した.地震動
以外のセッションでの発表はほぼ初めてだったが,
多くの方が興味を持ってくれたようで,有意義な意
見交換や,新たな知己を得ることができた.
会議は全体的に発表のレベルが高く議論が活発
という印象を持った.特に,新たな理論を展開・適
用する発表が多いように感じられた.また,地震動
のセッションでは,日本の観測記録を基にした議論
が目立ち,まるで日本国内での国際会議に参加し
ているかのように感じるほどであった.16:30 のポ
スターセッションのコアタイム開始時間になると,
ワインと簡単なつまみが提供された.これはいかに
もフランスと言ったところである.
会議に参加した日本人は私一人であったようで
ある.そのおかげか,フランス滞在時の知己との
再会のほか,様々な国の人達や,トレーニングコー
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AFERC NEWS No.17 2010/9
スに参加する若手研究者たちとも交流が持てた.特
にこの若手研究者らは世界各国から集まった 20 名
で,会議後の 1 週間,地震ハザード評価のトレーニ
ングを受けるとのこと.会議を含めた 2 週間をユー
スホステルのルームメートとして過ごし,知見とと
もに交流も深めるとのことである.日本人の参加者
はいなかった(日本への留学生は 1 名参加していた)
が,こういう機会を若いうちから積極的に活かすこ
とは重要だと感じた.
次回 2012 年はモスクワで開催されるとのことで
ある.
写真1 会場となった Le Corum.
写真2 トレーニングコース参加の若手研究者たちと.
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September 2010 No.17
外部委員会等 活動報告(2010 年 9 月)
2010 年 9 月 7 日
2010 年 9 月 14 日
杉山出席 / 文科省) 震・津波,地質・地盤合同 WG(岡村,杉山出席 /
・京都大学 KUR 耐震安全性に係わる評価
・新耐震指針に照らした試験研究用原子炉施設の耐
震安全性評価((独)日本原子力研究開発機構)他
2010 年 9 月 8 日
原子力安全委員会 耐震安全性評価特別委員会(岡
村,杉山出席 / 東京) 原子力発電所の地質,地盤に関する安全審査の手引
きについて 他
2010 年 9 月 9 日
地震調査委員会(岡村出席 / 文科省) 平成 22 年 8 月の地震活動について他
原子力安全・保安院 耐震・構造設計小委員会 地
経済産業省) 耐震安全性評価について(敦賀)他
2010 年 9 月 14 日
原子力安全・保安院 地盤耐震意見聴取会(岡村,
杉山,吾妻出席 / 経済産業省) 上関原子力発電所原子炉設置許可申請に係わる安
全性について
2010 年 9 月 15 日
原子力安全・保安院 耐震・構造設計小委員会 地
震・津波,地質・地盤合同 WG(杉山出席 / 経済産
業省) 2010 年 9 月 14 日
2010 年 9 月 27 日
会第 3 回活断層分科会(吉岡出席 / 東京) 席 / 気象庁) 地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部
AFERC NEWS No.17
文部科学省 耐震安全性評価妥当性確認 WG(岡村,
地震防災対策強化地域判定会委員打合せ会(小泉出
東海地方周辺の最近の 1 ヶ月のデータを持ち寄っ
て検討し,東海地震発生可能性について協議した. 11
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2010 年 10 月 発行
問い合わせ 〒 305-8567 茨城県つくば市東 1-1-1 中央第 7 事業所
発行・編集 独立行政法人 産業技術総合研究所
活断層・地震研究センター
編集担当 黒坂朗子
ホームページ http://unit.aist.go.jp/actfault-eq/index.html Tel: 029-861-3691 Fax: 029-861-3803