プレスリリース全文

プレスリリース
2016 年 9 月 8 日
報道関係者各位
慶應義塾大学
磁気の流れによる新しい磁気抵抗効果を発見
-界面スピン機能デバイス研究開発を加速-
慶應義塾大学理工学部の中山裕康特任助教と安藤和也准教授らの研究グループは、界面における電
流-スピン蓄積相互変換現象により発現する新しい磁気抵抗効果を発見しました。
磁気抵抗効果は物質に磁石を近づけると物質中の電気抵抗が変化する現象で、センサ等に幅広く利
用されている身近な現象です。今回、スピン軌道トルクと磁気抵抗効果を精密に測定することで、ビ
スマス/銀界面における電流-スピン蓄積相互変換現象を介した磁気抵抗効果の存在が初めて明らか
になりました。この発見は、現在世界規模で研究が進められているスピン流およびスピン軌道トルク
の利用技術の基盤となる新しい知見であり、今後、省エネルギースピントロニクスデバイスの実現に
向けて大きな推進力となることが期待されます。
本研究成果は、2016年9月7日(米国時間)に米国科学誌「Physical Review Letters」で公開
されました。
<本研究成果のポイント>

界面における電流-スピン蓄積変換現象(ラシュバ・エデルシュタイン効果)を介した磁気抵抗効果
を世界で初めて発見

界面スピン蓄積を利用した新原理の省エネルギー・高機能デバイス研究開発に期待
<研究の背景と経緯>
物質に磁界を加えると電気抵抗が変化する現象は「磁気抵抗効果」と呼ばれます。磁気抵抗効果は固
体中の電子の有する電荷(電気的)自由度とスピン(磁気的)自由度が強く結合した現象であり、電子のス
ピン自由度の積極的な利用を目指す新しい電子技術分野「スピントロニクス」において盛んに研究され
てきました。これまで、異方性磁気抵抗効果、巨大磁気抵抗効果、トンネル磁気抵抗効果といった様々
な磁気抵抗効果が知られており、磁気センサやメモリなどに幅広く活用されています。これまで知られ
ている磁気抵抗効果では、物質内部の磁気の流れ「スピン流」の生成やスピン軌道相互作用を利用して
おり、物質界面におけるスピン流生成およびスピン軌道相互作用は注目されていませんでした。
本研究では、物質界面のスピン流によって発現する新しい磁気抵抗効果(ラシュバ・エデルシュタイ
ン磁気抵抗効果)を発見し、実験的に実証しました。今回明らかとなった手法は、これまで進められて
きたスピントロニクスデバイスの研究を加速させるとともに、界面スピン蓄積を利用した新原理の省エ
ネルギー・高機能デバイス実現に向けた大きな推進力となることが期待されます。
1/3
<研究の内容>
今回、ビスマス/銀/強磁性体積層構造を作成し、磁気抵抗効果の精密測定を行いました。ビスマス/
銀界面では大きなラシュバ・エデルシュタイン効果(注1)を示すことが知られており、電流を印加す
ると界面にスピン蓄積が形成されます。一般的に濃度勾配があれば拡散流が流れますが、スピンの濃度
勾配(スピン蓄積)があれば、拡散スピン流が流れることになります。このようにして駆動される拡散ス
ピン流は強磁性体層まで到達します(図1(b)左図)。強磁性体層に到達した拡散スピン流の分極方向が
強磁性体の磁極の向きと平行な場合、スピン流は反射され、ビスマス/銀界面へと戻されます。ビスマス
/銀界面に戻ったスピン流はラシュバ・エデルシュタイン効果の逆過程「逆ラシュバ・エデルシュタイン
効果」により電流を生じます(図1(b)右図)
。このため、見かけの電気抵抗値は下がることになります。
一方、拡散スピン流の分極方向が強磁性体の磁極の向きと直交する場合、スピン流は強磁性体に吸収さ
れることとなります。この場合、ビスマス/銀界面に戻る拡散スピン流量は減少します。そのため、逆ラ
シュバ・エデルシュタイン効果により生成される電流も小さくなり、見かけの電気抵抗値が増大します。
本研究では、このようなラシュバ・エデルシュタイン効果を介した新しい磁気抵抗効果「ラシュバ・エ
デルシュタイン磁気抵抗効果」の存在を初めて実証しました。
<今後の展開>
本研究成果により、物質界面における電流-スピン蓄積変換現象が比較的簡便な電気抵抗測定により
検出可能であることが分かりました。これは現在世界規模で研究が進められている物質表面・界面にお
けるスピン流生成・検出手法に関する研究を加速させるものであり、今後、省エネルギースピントロニ
クスデバイスの研究を大きく推進させることが期待されます。
本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(さきが
け)の一環として実施されました。
<論文タイトル>
"Rashba-Edelstein Magnetoresistance in Metallic Heterostructure"
(金属ヘテロ構造におけるラシュバ・エデルシュタイン磁気抵抗)
<用語解説>
注1)ラシュバ・エデルシュタイン効果
物質界面に外部電界を印加した際、界面にスピン蓄積が発生する現象。このスピン蓄積によって拡
散スピン流が駆動される。
※ご取材の際には、事前に下記までご一報くださいますようお願い申し上げます。
※本リリースは文部科学記者会、科学記者会、各社科学部等に送信させていただいております。
1.研究内容についてのお問い合わせ先
慶應義塾大学 理工学部 特任助教 中山裕康(なかやま ひろやす)
TEL:045-566-1582 E-mail:[email protected]
慶應義塾大学 理工学部 物理情報工学科 准教授 安藤和也(あんどう かずや)
TEL:045-566-1582 E-mail:[email protected]
研究室 HP:http://www.ando.appi.keio.ac.jp/
2.本リリースの配信元
慶應義塾広報室(竹内) TEL:03-5427-1541
E-mail:[email protected]
FAX:03-5441-7640
http://www.keio.ac.jp/
2/3
<参考図>
図1.界面におけるスピン分極とラシュバ・エデルシュタイン効果の模式図
(a) ビスマス/銀界面におけるスピン分裂と外部電界によるスピン蓄積(ラシュバ・エデルシュタイ
ン効果)。(b)ラシュバ・エデルシュタイン磁気抵抗効果の測定実験に用いた積層構造試料の模式図。
強磁性体界面におけるスピン移行トルクによって外部磁界の方向に応じて電気抵抗が変化する。
図2.観測されたラシュバ・エデルシュタイン磁気抵抗効果
(左図) ビスマス/銀/強磁性体積層構造における磁気抵抗効果の測定結果。Hy 方向に磁界を印加し
た際、スピン流媒介磁気抵抗効果に特徴的な電気抵抗値の減少が観測された。 (右図) ラシュバ・
エデルシュタイン磁気抵抗効果の観測に用いた積層構造と測定配置の模式図。
3/3