ふるさと納税全国まちづくり サミット in 上士幌町

ふるさと納税全国まちづくり
サミット in 上士幌町
神戸大学 経営学研究科 准教授
保田 隆明
[email protected]
自己紹介
• リーマンブラザーズ証券、UBS証券にて投資銀行業務(資金
調達、M&A)に携わった後、2004年に起業し、ソーシャルネッ
トワーキングサイトを立ち上げる。
• 同事業を売却後、ベンチャーキャピタルファンドの組成・運営を
行い、財務コンサルタント、金融庁金融研究所専門研究員(
IPOを研究)を経て、
• 2010年4月に小樽商科大学大学院(MBA)准教授、2014年4
月から昭和女子大学准教授、2015年9月より神戸大学経営学
研究科准教授
• 商学博士(早稲田大学)
• 専門は、コーポレートファイナンス(企業の財務戦略)とベ
ンチャービジネス。2012年よりふるさと納税の研究を開始
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ふるさと納税を研究する動機
• 2010年4月から2014年3月まで、札幌に在住し、小樽
商科大学に勤務
• 2012年4月から2年間、テレビ北海道「けいざいナビ北
海道」のキャスターとして、北海道各地の経済状況を伝
える
 それら経験から、ふるさと納税(クラウドファンディン
グ)は、地域のファン作り、あるいは地方特産品の購
入者開拓と資金調達を一度に行える非常に適した
ツールだと思うように
 地域のマーケティングツールとしても非常に有用
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本日の内容
• どういう人たちがどのような動機でふるさと納税を行
っているのか
 北海道上士幌町、北海道東川町の事例
• ふるさと納税がもたらした最大のものは何か?
• ふるさと納税の論点整理(今後の発展に向けての
課題)
• ふるさと納税によるシティプロモーション
• ふるさと納税による流通革命
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北海道を独立国として仮定
すると、本州に対して貿易
赤字
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エンゲル係数:
生活費に占める食費の割合
食費÷生活費(税金や社会
福祉費用を除いたもの)
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日本:23%
米国:7.2%
ドイツ:6.9%
英国:11.4%
日本では食費が生活を
圧迫している
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日本において食ビジネスを
拡大、成長するのは容易で
はない。海外では安い食品
が多数
だからふるさと納税がウケる
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なぜ北海道に人を
呼ぶことがそんなに重要か
経済の成長モデル
経済成長=資本(カネ)
+労働(人)+技術革新
北海道経済の成長に必要な
ことは・・・?
-道外からカネを呼び込む
-道外から人を呼び込む
-技術革新をする
どれが簡単・・・?
カネを呼び込む一つの手法とし
てのふるさと納税
次はヒト。ここに結び付けない
と成長しない
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上士幌町と東川町の分析結果の要旨
•
リピーターや返礼品を受け取らない人のほうが納税額が大きい
•
ふるさと納税での平均納税金額は、自治体への訪問歴や居住歴あるい
は友人知人がいるなど、何らかの関係がある人たちの方が、全く接点の
ない人たちよりも高くなる。
 資金調達者(自治体)は事前に潜在資金提供者と接点を持つことが
重要
•
お礼の品目的と思われる層は納税金額が高くなる傾向にある
•
マーケティングではウェブとリアルなクチコミでは開拓しうる層が異なる。
 20~40代の比較的若い年代にはインターネットメディア、それ以上
の年代ではテレビ・ラジオ、クチコミが重要
 特に規模が小さいうちはクチコミが重要である
•
交流政策の有無がリピーター育成に重要となりそう
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ふるさと納税1.0からふるさと納税2.0へ
• 納税者が使途を指定できる唯一の税金
• いかに資金調達をするか、から、いかに有効活用するか
• 返礼品での差別化は1.0の世界。使い道での差別化で2.0の世
界へ
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ふるさと納税はパンドラの箱をあけた
• かつては、地方自治、行政学、財政学(地方財政)、公共政策
が自治体運営、および自治体職員に求められる能力であった
• ふるさと納税では、それらに加えて「経営学」の視点が極めて
重要
• 自治体は「運営」する時代(1.0)から「経営」する時代へ(2.0)
 この流れは後戻りできない
 ふるさと納税とは、自治体に対して「自分たちで経営しなさ
い」という国のメッセージ
 MBA的発想が求められる(資金調達、マーケティング、組織
戦略(人的管理論)、会計、戦略)
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ふるさと納税の論点整理
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返礼品をめぐる議論
• 地域産業の強化につながるものなのか、あるいは、衰退させる
ものなのか
 返礼品をめぐる二つの対立する見方
 地場産業の強化v.s.自治体による強制買い上げはモル
ヒネと同じで地場産業を衰退させる
• 返礼品の自治体の買い取り価格についての議論
 自治体は返礼品のマーケティングを担っているという発想:
市中価格以下での買い取り(例:鳥取県等)
 地場の零細農家の支援策としての活用:市中価格以上で
の買い取り(例:北上市等)
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返礼品をめぐる議論(続き)
• 返礼品を潤沢に用意できる自治体は限られている
 地元産にこだわる自治体v.s.外部調達をする自治体
 広域連携の可能性と課題(例:四万十町等)
 資産性の高い返礼品、高額な返礼品を巡る議論
 家電品、商品券の功罪
 後発自治体の主張
 還元率をめぐる議論
 地域経済波及効果v.s.特定補助金
 横並びの必要性?
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返礼品をめぐる議論(続き)
• 返礼品を通じた地場産業の強化
 商品・デザイン改良、新商品開発(例:平戸市、西和賀町
等)
 新規事業創造(例:東川町のワイン事業等)
 ふるさと納税以外の直販事業の成長(例:平戸市)
• 返礼品による地場産業衰退の懸念
 百貨店ルートをやめてしまう畜産農家
 特定事業者に対する補助金では?
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何らかの制度改正が行われる可能性
は高い?
• 地方交付税の取り扱い
 ふるさと納税で地元のお金が流出しても、その75%は地
方交付税で翌年補てんされる
 自治体「経営」に取り組まなくても、救済される
 不交付自治体の場合はこの措置はない→不公平とい
う声が東京23区から上がっている
 一方、ふるさと納税は寄付金なので、これで資金流入が
増えても地方交付税は減額されない
 地方交付税をめぐる議論は国会議員の委員会等でも議
論はされている
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何らかの制度改正が行われる可能性
は高い?(続き)
• 地元住民の取り扱い
 取られるぐらいなら地元に落としてほしい、は理解できる
が住民税の根幹とは合致しない
 一般財源→寄付金に変身
 住民税の減額分も地方交付税で補てんされる
 地元住民にも返礼品(ティシュペーパーなど):従来は
行政サービスに使われていたお金が、地元の特定事
業者に流れる(特定補助金化)
 でも、何もしないとほかの自治体に取られるだけ
 地元住民からのふるさと納税はどうあるべきか?? 22
何らかの制度改正が行われる可能性
は高い?(続き)
• 使途の一般財源化問題
 有効な使い道を見いだせない自治体が多い
 本来なら一般財源で取り組むような使途も増えている
(例:子供の医療費無料化)
 ふるさと納税の制度が終了したらどうなるのか
 一般財源化すると、あとの揺り戻しが怖い
• 一時的な負担減は、元に戻ったときの負担感がよ
り大きい→消費マインド減退の可能性?
 一般財源化してしまうことが、ふるさと納税を恒久化させ
る早道かも?(笑)
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資金使途
• 幼稚園、保育園は注意が必要
 東京圏では、保育園不足による待機児童問題が非常に
深刻
 今回の都知事選でも大きな議論のポイントとなった
 ある地方で、「ふるさと納税でこんな立派な保育園を
作りました」とアピールすると、反感を買う可能性
• 東京の保育園整備のお金が、地方の保育園整備
に化けた
 ゼロサム的な使い道(つまり、東京から地方にお金が付
け替えられただけ)のみではだめで、地方でお金を増や
すための使い道を見つけるべき
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資金使途(続き)
• ふるさと納税は、将来お金を生み出してくれるものに使うべき
 北海道東川町の事例:ワイナリー観光事業
 神戸市の事例:ベンチャー企業投資・助成(飯田市)
 白馬村、軽井沢町の事例:教育支援(高校存続、奨学金)
 ①事業投資、②教育、③移住定住(移住支度金)が有
効な分野か
 地元住民、地元議会との折り合い
 受益者は誰であるべきなのか?税の大原則は、負担
者と受益者が同一であること
• 使い道については慎重な議論と対応が必要
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GCF(Government Crowd Funding)
をどう考えるべきか
• 税金ではやや取り組みにくい(または優先度が低い)が、民
間資金でもやりにくい分野にお金を使う
 文化財の補修・保護、NPO法人への助成、特定医療項
目の治療への補助など
•
ふるさと納税は、そもそもガバメントクラウドファンディングで
もある
•
域外の人たちに、域内の課題・問題は認識できるであろうか
?
 分かりやすいものが優先されてしまう可能性
 人気投票の側面も
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使途に批判はつきもの
• 兵庫県:こうのとり命名権の事例
 国の特別天然記念物:兵庫県が最後の生息地:保護、増
殖活動を長年行う
 30万円の寄付で命名権という返礼品
 批判を受けて内容を少し変更
•
北海道北竜町:ひまわりのライトアップの事例
 夜間21時までのライトアップで観光地化を狙う。その事
業費をクラウドファンディングで募集
 虫などの生態系を壊す、星空がなくなるなどの批判を受
けて中止
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不毛な(?)地域間競争
• ふるさと納税は、都市部のお金を地方に、という発想
 実際、半分程度のお金は一都3県(神奈川、千葉、埼玉)
から出ている
 一方で、地方の自治体間での不毛な(?)競争を誘発して
いる状況も
 商品券の返礼品での住民の取り合い(ますます疲弊
する)
 子供むけ医療費無料化など、使途の一般財源化で住
民の取り合い
 広い意味での地域間連携が必要
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観光客増につながるのか
• 上士幌町、東川町のアンケート調査からは、ふるさと納税を
する7~8割の人たちは、上士幌町、東川町への観光に興味
ありと答える
• 逆転の発想:何もないから観光したい(地方の日常は、都市
部の非日常)
• ただし、課題も多い
 宿泊施設と交通手段の不存在
 周遊実現へのハードル(民泊、Uberで解決?)
 成功自治体の事例の積み上げが必要
• 感謝祭、株主総会の開催は交流促進には有効
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移住者増につながるのか
• 上士幌町、東川町のアンケート調査からは、10~20%の人
たちは移住にも興味ありと答える
• お試し暮らしや一時訪問が有効か
 移動コストを一部負担する東川町の事例
• 課題は多いが、
 実は少ない移住者向けの宅地整備が可能な自治体
 言うは易し行うはハードル高い空き家活用
 子育て支援、教育支援の充実による労働世帯の流入(近
隣自治体との潜在的な軋轢)
• まずは2拠点生活として選ばれる場所に
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シティプロモーションのラストチャンス
(モノ、カネは動いた。残るはヒト)
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ふるさと納税の現状
• ふるさと納税による返礼品の提供は、町の知名度向上に大きく貢献
 特産品の直接販売(通販)増、観光客創出、移住定住促進
 しかし実際は、返礼品の提供だけでこれらを期待するのは難しい
 特産品をもう一度食べたいなら、もう一度ふるさと納税をすれば
よく、直販の通販にはつながらない
 返礼品→観光はハードルが高い。移住定住はなおさら
 返礼品はあくまでもツカミ。撒きエサ。町に興味を持ってもらうには、
きちんとしたプロモーション活動が必要
 マーケティング理論でのAIDMA:A(Attention:町への注意喚起),
I(Interest:町への関心を引き出す), D(Desire:町と交流を持ち
たいという欲求を持ってもらう), A(Action:町に来てもらう、交流
を持ってもらう)
 返礼品はAttention。Interest以下を引き出すには、積極的なプ
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ロモーション活動が必要
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ふるさと納税の現状(続き)
• 自治体によるふるさと納税感謝祭が人気
 北海道上士幌町(東京で開催)、長崎県平戸市(横浜で開催)
 町長以下多くの職員と、移住担当職員も出向き、町を大々的にPR
 一定の効果はあるが、町が直接アピールをしているので、自治
体に都合のよい「広告」になってしまう
 第三者目線での評価が欲しい
 北海道東川町では、感謝祭を地元で開催し、直接町を知ってもらう
 もっとも効果が高いが、参加者のハードルは高い
 自治体がもっともアプローチしたいのは、労働世代
 ただし、30代、40代は忙しくてなかなか感謝祭にも来られない
 大学生の活用で、20代とその親である40代を開拓
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ふるさと納税によるシティプロモーション(案)全体像
マーケティング
新規事業創出
地方自治
などを学ぶ
大学生
シティプロ
モーションに
興味のある
自治体群
A大学
A町
B大学
訪問
B村
C大学
調査
C市
D大学
聴衆:
地域住民
大学生によ
る自治体内
での発表
会
参加
終了後
D町
・
・
・
Copy Rights@Takaaki Hoda (当資料の無断転用、転載は禁ずる)
大学生によ
る東京や大
社債購入
阪での発
表会
参加
効果:
外部視点での
地域の魅力
再確認
聴衆:
各自治体へ
ふるさと納税
を実施した人
を中心とする
効果:
ふるさと納税
株式購入
感謝祭の発
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Copywrite(c) Takaaki Hoda. All rights展系
reserved
ふるさと納税によるシティプロモーション(案)全体像
大学生を町のPR役にしてしまう


大学生の活用


ふるさと納税感謝祭
の発展系
ふるさと納税を原資と
するシティプロモー
ション




高齢者による高齢者のためのPRではダメ
研究、調査は大学生にとっては学びなので、それ
に伴う賃料やコンサルティング料が発生しない
 つまり、費用対効果が高い
20代と、その親である40代を狙える
若者視点によるシティプロモーションは、20代、30
代に響きやすい
自治体からの一方的な都合のよいPRではない
返礼品の試食中心ではないため、自治体側の持
ち出しも少なくできる
当事業にかかわる費用はふるさと納税でまかなう
ふるさと納税の使途に「シティプロモーション事業」
を追加、または首長一任から拠出
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ふるさと納税の後は・・・?
• 自腹を切ってでも買いたい商品に成長する必要あり
 おいしいのは当たり前。パッケージ、梱包、コミュニケーシ
ョン、アフターサービス。届いた商品を開ける前からワク
ワクできるか
 潜在的な競合は楽天にたくさん存在する
 楽天大学で日々お勉強
• 晴れの日商材は、顧客の期待値が高いため、ふるさと納税
後の攻略の難易度は高い
 この市場で勝負し続けることができるのは一握りか
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流通革命の可能性
生産者
生産者
農協
スーパー
食卓
食卓
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流通革命の可能性
• 晴れの日商材から、日用商材へ
• 返礼品を日用食材にする
 毎週野菜を届ける(追加出費市場ではなく、通常経費の
肩代わり市場を取りに行く)
 必要なものは、①首都圏近郊に物流センター、②一緒に
実施する自治体、③クオリティコントロールをする機関(企
業)
 今からイトーヨーカ堂の中抜きを見据えて、フロントランナ
ーに立っておく(ふるさと納税は先行者メリット大きい)
 アジアも攻めることができる可能性(アリババ等)
 自治体は商社として機能する必要が出てくる
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商社機能の強化
• 各自治体は、返礼品発掘を通じて自治体内にある事業者の
①商材、②強み・弱み、③改善点、④顧客特性などを把握で
きつつある
• それら情報をもとに「商社」として、自治体内のモノを全国、お
よび海外に販売していくべき
 この自治体の「商社機能」が今後極めて重要に
 商社として十分に機能させるには、この部分は役所から
手離れすべきか(地元に民間会社を設立し、ふるさと納税
業務の一部をアウトソーソングし、実態としては商社を作
る。民間会社以外にも、開発公社、NPO、財団法人など
でも可能だが、極めて高い実務能力が必要なので単なる
雇用の受け皿ではいけない)
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データベース化
• 商社機能を強化するには、各自治体において事業者のデー
タをデータベース化していく必要がある
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ポイントの今後の可能性
• ポイント制を導入している各自治体は、今後そのポイントを有
効活用できうる
 擬似通貨として、地元商店街で利用してもらう、東京のア
ンテナショップで利用してもらう
 ポイントを全国共通しとしてしまえば、まさに擬似通貨とな
る(楽天ポイントと同じ)
 各自治体が地元でポイントを使ってもらうことはできな
くなるかもしれないが、ポイントの利便性は圧倒的に
向上するので、ふるさと納税をする人が大きく拡大す
る可能性
 ただし、そうなると、換金性の議論が出てきて諸刃の
矢でもある
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ふるさと納税の健全な発展のために必
要なこと
• ふるさと納税によって地域が活性化した事例を増やし、報告
していくに尽きる
 集金の成功事例はもう必要ない
 活用の成功事例の積み上げが必要
 ようは、どんだけ経済効果があったかの数値が重要
 地域での雇用、訪問者数、観光客数、移住者数、特
産品の生産高など、数値の変化を取ることに自治体
はより目を向けるべき
• 報告は、自らによる開示のほか、大学との共同研究なども有
効活用すべき
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本日の内容
• どういう人たちがどのような動機でふるさと納税を行
っているのか
 北海道上士幌町、北海道東川町の事例
• ふるさと納税がもたらした最大のものは何か?
• ふるさと納税の論点整理(今後の発展に向けての
課題)
• ふるさと納税によるシティプロモーション
• ふるさと納税による流通革命
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ふるさと納税全国まちづくり
サミット in 上士幌町
神戸大学 経営学研究科 准教授
保田 隆明
[email protected]