の成果 第6回 ITコンバインによる水稲の 収量計測・可視化手法と生産

グリーンレポートNo.567(2016年9月号)
●巻頭連載 :
「農匠ナビ1000」の成果(農業経営者が開発実践した技術パッケージ)
第6回
ITコンバインによる水稲の
収量計測・可視化手法と生産履歴システム
∼I
T農機で管理圃場の収量を把握し、生産性を上げる∼
平石 武
ソリマチ㈱ 農業情報事業部 取締役 伊勢村浩司
ヤンマー㈱ アグリ事業本部 農業研究センター 金谷一輝
ヤンマー㈱ アグリ事業本部 農業研究センター 部長 担い手農家にとっては、収益性向上をめざして、いか
に生産性を上げるかが大きな課題である。今回紹介する
ITコンバインによる水稲の収量計測・可視化手法と生
産履歴システム「フェースファーム」は、特に収益に直
結する“収量”に着目し、ITコンバインでは収穫作業
時に収穫流量とロスを“見える化”し、
「フェースファ
ーム」では圃場・品種ごとの収量や品質のバラつきを
“見える化”している。ITコンバインには、マシン状
況をモニタリングするM2Mシステム「スマートアシス
線の色
青
青緑
緑
黄緑
黄
黄橙
橙
橙赤
赤
ト」を搭載しており、そのデータを「フェースファー
ム」に連携させることで、農家が収量向上の打ち手を的
確に判断することができる。
面積(㎡)当たり
の収量(㎏)
0∼0.1
0.1∼0.2
0.2∼0.3
0.3∼0.4
0.4∼0.5
0.5∼0.6
0.6∼0.7
0.7∼0.8
0.8∼ 図−2 圃場内の収量データをマップ化
新開発の収量測定システム
国内唯一のロスモニター搭載収穫機
従来のコンバインは、グレンタンク下部にあるロード
セルで全籾重量を測定していたが、ITコンバインは、
コンバインの機能には“脱穀機能”と“選別機能”が
グレンタンク投入口に小型センサーを搭載することによ
ある。ITコンバインのロスセンサーは2つあり、脱穀
り、1回の投てき籾ごとの衝撃力から瞬時に収穫流量を
機能によるロスは主に扱胴ロスセンサーで検出し、選別
算出できる機構とした。これにより、リアルタイムに正
機能によるロスは主に揺動ロスセンサーで検出する(図
確な収量が測定できる(図−1)
。この新しい収量センサ
−3)
。
ーを搭載することで、図−2のように、圃場内の収量の
グレンタンクへ
送塵弁
バラつきまではっきりとわかり、翌年の肥培管理の効率
化につなげることができる。
籾投入口
籾の流れ
塵の流れ
扱胴
籾投入口
送塵口
処理胴
小型収量センサー
あざやかロータ
吸引ファン
受け網
2番還元装置
揺胴選別板
プレファン
後支点
唐箕ファン
大型ロードセル
旧型式:グレンタンク全体の
重量を測定する方法
一筆ごとの管理
本機振動により
リアルタイムの収量を
正確に測定できなかった
クリーンセレクション
新型式:投入口からの投てき籾の
衝撃力を測定する方法
一筆内を
さらに精密に
把握可能!
扱胴ロスセンサー
図−1 収量測定システムの改善イメージ
図−3 ロスセンサーの設置
2
揺動ロスセンサー
グリーンレポートNo.567(2016年9月号)
タをクラウド版生産履歴システム「フェー
インターネット
ヤンマー
データ
サーバー
スファーム生産履歴」に自動送信すること
ソリマチ
クラウド
サーバー
で、
圃場別の収量が記録できるようになった。
図−4のように、ITコンバインは、稼
働する緯度経度情報、籾収量、水分、燃料
GPS
緯度経度情報や収
量など、さまざま
なコンディション
情報が自動送信さ
れる
夜中に以下のデー
タが送信される
・時間(1分間隔)
・緯度経度情報
・収量データ
・燃料消費データ
消費量などの情報を記録し、ヤンマー㈱の
圃場ごとに、
・作業時間
・収量
・燃料消費量
が保存される
データサーバーに蓄積する。そのデータは
夜間に「フェースファーム」のクラウドサ
ーバーに自動でデータ転送され、
「フェー
図−4 IT農機と生産履歴システムとのデータ連携
スファーム」側でグーグルマップ航空写真
ロスモニターの効用
に設定した圃場の矩形と照らし合わせて圃場を特定し、
これまで、国内の収穫機にはロスの情報をアウトプッ
圃場での作業時間や収量を自動記録する。
トできる機種がなかった。従来機の場合、ロスは目視で
圃場別情報の地図化のメリット
きても、それが脱穀機能による扱胴ロスか、選別機能に
よる揺動ロスかを見分けられなかったため、コンバイン
経営全体の収量を上げるには、もともと高い収量が見
の調整箇所の特定も困難であった。本機は、ロスモニタ
込める圃場をさらに高めるよりも、生産性が低いいくつ
ーを搭載したことで、脱穀機能によるロス(扱胴ロス)
かの圃場を底上げするほうが効率的である。当システム
が多い場合は、送塵弁を適正位置まで閉じ、選別機能に
では、図−5のように圃場別に収量の色付きマップを作
よるロス(揺動ロス)が多い場合は、クリーンセレクシ
成したり、また図−6のように品種別のヒストグラムに
ョンの隙間を適正位置まで開く、というように、ロス状
よって収量の低い圃場を把握することができるため、管
況に応じたコンバインの自動調整が可能になり、ロスを
理圃場全体の収量の底上げに役立つ。
減らすことができる。
このように、当システムは①手入力することなく全自
動で圃場ごとに作業時間や収量を記録できる②圃場ごと
ITコンバインと生産履歴システムとの連携
の“見える化”が容易にできる③作業や肥培管理に無理
収量アップやコスト低減を実現するには、まず圃場別
や無駄がないか反省し、翌年度に効率的な栽培計画を立
の収量を把握し、その圃場での肥培管理を確認・反省し
てることができるため、担い手から非常に高い評価を得
て次年度への計画につなげることが重要である。毎日の
ることができた。
肥培管理を生産履歴システムに手入力することや、圃場
なお、ヤンマー㈱のITコンバインと、ソリマチ㈱の
別の収量を把握して記録することは非常に困難であった。 「フェースファーム生産履歴」は、どちらも市販されて
おり、すぐに利用することができる。
しかし、スマートアシスト(GPS+通信機能付き)搭載
のITコンバインでは、緯度経度と収量を記録したデー
18
17
収量分析
(あきたこまち)
16
14
圃
場
数
14
12
11
10
10
8
8
7
7
6
3
2
2
0
1
1
1
1
0
1
000
900∼
875∼
850∼
825∼
800∼
775∼
750∼
725∼
700∼
675∼
650∼
625∼
600∼
575∼
550∼
525∼
500∼
475∼
450∼
425∼
∼425
0
0
5
4
4
6
収量
(㎏/10a)
図−6 10a当たり収量のヒストグラム
IT農機(https://www.yanmar.com)
フェースファーム生産履歴(http://facefarm.jp)
図−5 10a当たり収量を可視化
3