生産者とJAから要望される「労働力支援」を活用した 生産基盤

グリーンレポートNo.573(2017年3月号)
視 点 JAグループ地域生産振興:JA全農おおいた
生産者とJAから要望される
「労働力支援」
を活用した
生産基盤維持・拡大に向けた取り組み
∼JA全農おおいたが主導し、収穫組織の育成や事業システムを構築∼
JA全農おおいたが「労働力支援」に目を向け始めた
して企業として存続できる仕事を受注できるか②企業が
のは、JAから受けたある相談からだった。
「管内には広
納得する労働対価を生産者から支払ってもらうことがで
大な露地野菜面積があるが、生産者はつくるまでで、県
きるか③作業人員を指揮できるリーダーを育成できるか
外を含めた青田買い業者が収穫・販売するので、JAに
④生産者が納得する収穫調整技術を習得できるか⑤作業
露地(重量)野菜が集まらない」と。この話を受け、ま
人員を送迎する車両の取得⑥作業人員の駐車場の確保、
ず重量野菜の収穫がどういうものであるかをJA全農お
などの課題をひとつずつ解決していくこととした。
おいたの職員が自ら体験すべく、はくさい畑10aを生産
特に①については、毎月3ha以上のキャベツの収穫が
者から預かり、園芸部の有志数名で収穫を行った。この
できるよう産地づくりから始めた。大分県は標高0m地
収穫体験により、生産者の高齢化が進むなか、
JAグルー
帯から900mまで耕地があり、県内で産地リレーが可能
プにおいて収穫組織の育成が急務であることを痛感した。
であるため、多様な品目でさまざまな作業を行うよりも、
そこで、JA全農おおいたでは、
「労働力支援」の事業
品目を絞り作業のスキルアップ、機械の稼働率を高める
構築を行うこととなった。事業開始当初の課題を「収穫
ことを考慮した。
組織の作業人員を募集・派遣できるパートナー企業の育
作業人員の募集については、当初は通勤費の問題から
成」
「収穫に必要な農業機械の取得」
「生産者に満足して
収穫圃場周辺での雇用を基本とし、新聞折り込みを含め
もらえる販売金額の支払い」とした。
て募集したが集まらず、現在は大分市内で募集し現地に
送迎する方式で人数を確保している。
収穫組織の作業人員を募集・派遣できる
パートナー企業の育成
また、県内の福祉施設と連携した作業委託も、4年前
に加工カボスの収穫から始まり、年々増加してきている。
まず、全農の「労働力支援」の趣旨を理解し協力して
平成27年度は、JA選果場の調整作業も含め、24作業に
もらえる企業を探すことから始めた。JAから「農業分
延べ103の施設が携わる体制にまで拡大している。
野に人材を派遣することに興味を持っている会社がある
収穫に必要な農業機械の取得
が会ってみないか」との打診があり、協議した結果、パ
ートナー企業として㈱菜果野アグリ
(大分市)を選定した。 農業機械の取得に関しては、
機械のメンテナンス・運搬・
パートナー企業を維持発展させるうえで、①1年を通
㈱菜果野アグリ
農業機械のレンタル料金支払い
労働力の提供
適正な料金設定
(全農・
JA・農家と協議)
農業機械のレンタル
労働力提供
料金支払い
料金支払い
企画提案
農機レンタル事業の検討を含め、JA全農おおいた農業
JA全農おおいた
労働力支援のコーディネイト
㈱菜果野アグリとの協議・調整
収穫作物販売企画・立案
農業機械のレンタル
JA
(単収相場変動による)
全量契約販売
支援
料金
支払い
1
2
3
青果物
出荷
料金
支払い
台
数
トタクター
(軽油) ヤンマー EG65CYUXQW 1
機種
付属
(EG65)
メーカー
型式
ヤンマー フロントウエイト 1
RL801CRA00
1
YPC4530T
1
5 野菜移植機(ガソリン) ヤンマー
PH1W
2
6 野菜移植機(ガソリン) ヤンマー
PH1WA
2
7 野菜移植機(ガソリン) ヤンマー
PH1A
1
8
労働力提供
軽作業の労働力提供
№
4
労働力支援需要のとりまとめ
圃場の決定と生育状況確認
生産者との作業受託料の協議
県内福祉施設(県斡旋) 労働力
表−1 JA全農おおいたが
労働力支援に使用する農機リスト
リヤリフト(EG65付属) ヤンマー
コンバインカー
畝立機
ヤンマー
ササオカ STA-D121・SKB 1
9 畝立管理機(ガソリン) ヤンマー
MK85FWMKRE15C
1
10
運搬用
CD193SLD
4
運搬車
(軽油)
ヤンマー
(ガソリン) ヤンマー 運搬用NC16HW 2
11 運搬車
12 トタクターマルチ
生産者
ササオカ
STA121M
1
13 トラクター
(軽油) ヤンマー EG118VUS-4G 1
作業委託の要請
作業委託料の支払い
図−1 労働力支援のイメージ図
4
14 畝立マルチロータリー
ヤンマー
15 トラクター施肥機
ヤンマー G-F10-3K(JH-1) 1
16 管理機用マルチ機
ヤンマー
RCA950MK
ハイマルチ
R315-C1-9
1
1
グリーンレポートNo.573(2017年3月号)
機械課が管轄することとなった。
収穫圃場の機械使用料について
は、後述する 単収相場変動ル
ール"の基礎控除項目として生
産者からいただくこととした。
平成28年度の収穫目標面積を
40haと設定し、農業機械の運用
にかかるコスト(減価償却費、
メンテナンス料、運賃)を賄う
計画を立てた。また、収穫する
作物ごとに新たな農業機械が必
要となるため、収穫面積と機械
の運用コストとのバランスを考
えた機械取得を検討している。
生産者に満足してもらえる
販売金額の支払い
JA全農おおいたでは、
“単収
表−2 平成28年度労働力支援作業実績
(類似調整収穫作物のグループ化・ローテーション化検討資料)
作業種別
品 目
キャベツ
地 区
中津市・宇佐市
竹田市・豊後大野市
大分市・日田市
いちご
杵築市・大分市
ベビーリーフ
臼杵市
収穫
うめ
大山町
ピーマン
竹田市
ほおずき
佐伯市
かぼす
大分県全域
かんしょ
臼杵市野津町
にんじん
竹田市
スイートピー
佐伯市
管理など
いちご
杵築市・大分市
(農家派遣)
トマト
竹田市
稲苗育苗
竹田市
育苗など
花苗育苗
九重町
ねぎ
宇佐市・国東市
にら
大分市・佐伯市
トマト
竹田市
豊後大野市
選果場出荷 ピーマン
調整など
みかん
杵築市・津久見市
かぼす
竹田市・津久見市
かんしょ
津久見市
七草
豊後高田市・杵築市
いちご
大分市
ハウス被覆 おおば(内張り) 大分市
にら
臼杵市・大分市
4月
5月
6月
7月
8月
9月 10月 11月 12月 1月
2月
3月
めていく。
相場変動ルール”
(例「キャベツ」
:単収6t、販売単価kg
当たり65円、10aを作業人員7人で収穫=税込145,000円、
最低保証額50,000円、支払上限200,000円)で運用して
いる。収穫にあたり、生産者に対し「生産者は圃場の単
生産振興に欠かせない「労働力支援」
㈱菜果野アグリの作業人員の一人に長崎県出身の22歳
収を最大限高める努力をしてください。JAグループは、 の女性がいた。応募した理由を聞くと「実家は長崎県で
㎏当たり単価を最大限高く売ることを目標とします。生
たまねぎ農家をしています。実家にはまだ他作物をつく
産者への支払額はお互いが最大限がんばった結果です。
るだけの面積があり、㈱菜果野アグリに就労すれば、い
このルールに賛同いただける生産者から圃場を預かり、
ろんな作物の収穫体験ができると聞き、大分県に来まし
収穫・販売します」といった内容の説明をしている。
た」という。将来めざすべき「労働力支援」の形は、現
販売については、JAグループに一任していただいた
在の生産者の経営やJA事業の維持拡大の手助けをしな
うえで圃場を預かるが、必ずしも「収穫適期=販売適期」
がら、将来農業を志す者の体験の場となり、新規就農に
とはならない。そのため、JA全農おおいたは、収穫前
つながっていくことである。全農はそのことを切に願っ
に、
「安定感重視の加工契約で収穫するか」や「半分加
ている(ちなみにJA全農おおいたでは、大分県立三重
工契約・半分相場の市場販売で売るか」などをあらかじ
総合高等学校久住校と「次世代の就農育成に関する協定
め生産者に対して示すこととしている。
書」を締結するなどし、就農者育成に取り組んでいる)
。
現在、後継者のいる栽培作物は必ず“生産者が儲かっ
類似調整収穫作物のグループ化・ローテーション化
ている”品目である。基本的に親が子に“農業”を継が
現在、JA全農おおいたが検討しているのは「類似調整
せるとき、将来安定した収入が得られると判断すれば継
収穫作物のグループ化・ローテーション化」である。例え
がせるし、将来に不安があり現状に満足できない状況で
ば、①「夏∼秋トマトの葉かき・摘果・誘引・収穫」→「冬
あれば薦めない。まずは現段階において、
“生産者の所得
スイートピーの誘引・調整・収穫」②「小ねぎの調整業務」
増大”を念頭に最大限の事業展開を行いたい。そのため
→「にらの調整業務」→「小ねぎの調整業務」
……③「キャ
の生産振興に「労働力支援」は欠かせないものだと考え
ベツ収穫」
→
「はくさい収穫」
→
「キャベツ収穫」……であ
る(平成28年度は毎月1,000人役以上の派遣を目標とし、
る。このように、類似調整収穫作物をグループ化・ローテ
年間10,000人役に向け取り組んでいる)
。
ーション化することで、作業人員の技術習得度が増し、
【全農大分県本部 園芸部 直販課】
生産者の信頼が得られる。平成29年度に向け、
全農がJA
次号は、JA全農ひろしまの「
『JA施肥アドバイザー』
『JA施肥マ
スター』制度による営農指導員のスキルアップ」を紹介する。
に対して実施した収穫作業意向調査結果・施設作業意向
調査結果をふまえてグループ化・ローテーション化を進
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