グローバル税務 PPA

Transaction M&A News
グローバル税務パーチェス・プライス・アロケーション
(グローバル税務 PPA)における税務上の留意点
Issue 91, August 2016
In brief
日系企業が、日本事業及び複数国に存在する海外事業をカーブアウトし、第三者と JV を組成する場合、あ
るいは、第三者に完全売却する場合に、当事者間で合意される単一の取引価格を、税務上の観点から複数
国(異なる税務当局が管轄する司法管轄)へ配賦することが求められる場合があります。当該配賦がカーブア
ウトに係る税コスト(日本及び海外)に対して大きな影響を与える場合があり、結果として、取引ストクチャ―の
変更にまで発展するケースが散見されます。
本ニュースレターでは、売手である日系企業の観点から、グローバル税務パーチェス・プライス・アロケーショ
ン(グローバル税務 PPA)の影響について、例示的に以下の税務上の留意事項をまとめています。グローバ
ル税務 PPA の論点は、個別案件の属性により検討範囲・検討内容が大きく異なる点に留意が必要です。
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グローバル税務 PPA とは
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グローバル税務 PPA と日本組織再編税制
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グローバル税務 PPA と海外税務上の時価との整合性
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グローバル税務 PPA と価格調整条項
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グローバル税務 PPA と税コスト
In detail
1.
グローバル税務 PPA とは
クロスボーダーM&A 取引では、カーブアウト取引の取引ストラクチャーの法的な形態により、売却価格総額を
現地各国(日本及び海外)のカーブアウトされる個別の事業体へ各国別・各事業体別に配賦するという税務
上のパーチェス・プライス・アロケーション(以下、「グローバル税務 PPA」)が必要となる場合があります。グロ
ーバル税務 PPA は、連結財務諸表ベースで買収プレミアムを無形資産へ配賦する会計上のパーチェス・プ
ライス・アロケーションとは本質的に異なるものである点に留意する必要があります。
グローバル税務 PPA の実施に当たっては、カーブアウト対象事業の過去あるいはカーブアウト後の将来の移
転価格の設定方針と整合的であることが、実務的には必須であると考えられます。従って、カーブアウト取引
を実施する場合には、事前にカーブアウト対象事業の移転価格の設定方針を整理することが推奨されます。
グローバル税務 PPA の実施方法は、個別案件ごとにその個別案件の法的な取引形態、当事者間の交渉上
の優劣関係、交渉の時間軸等により様々なバリエーションが存在しています。例えば、契約書上一切の記載
がない場合、固定の個別金額を具体的に記載する場合、グローバル税務 PPA の詳細なロジックを記載する
場合、グローバル税務 PPA の概念のみを記載する場合、第三者の会計事務所を起用しその評価結果に依
拠することを明記する場合等が挙げられます。
www.pwc.com/jp/tax
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2.
グローバル税務 PPA と日本組織再編税制
日本におけるカーブアウト取引が、日本法人税上、適格組織再編となる場合、グローバル税務 PPA を実施し
ないとのアプローチに一定の合理性がある場合も想定されます(この場合でも現地税務上の要請により個別
の時価評価を行う場合があります)。このような場合であっても、カーブアウト対象取引に税務実務が発展途
上の国が含まれる場合には、現地の海外税務当局よりグローバルベースでのグローバル税務 PPA のロジッ
クの説明を求められるケースが散見される為、留意が必要です。グローバル税務 PPA のロジックが整理され、
現地国の税務当局に対して十分に合理性を主張できない場合には、結果として、売手に二重課税が発生す
る可能性があります。
日本におけるカーブアウト取引が、日本の法人税法上非適格組織再編となる場合、資産調整勘定・負債調
整勘定の算定の為にグローバル税務 PPA が実施されると考えます。グローバル税務 PPA により、日本以外
の海外のカーブアウトされる個別の事業体に、相対的に高い価値が配賦される場合には、日本のカーブアウ
トされる個別の事業体において、負債調整勘定(負の税務上ののれん)が計上される可能性があります。従っ
て、カーブアウト対象事業の将来の企業価値に影響を与える場合が想定される為、事前の税務上のシミュレ
ーションの実施が推奨されます。
3.
グローバル税務 PPA と海外税務上の時価との整合性
グローバル税務 PPA を実施する場合、グローバル税務 PPA において配賦される海外各国のカーブアウトさ
れる個別事業の価値と海外税務上の時価とが整合的であることが望まれます。例えば、中国やインドにおけ
る非居住者キャピタルゲイン課税が生じる場合、現地の税務執行実務に応じて、カーブアウトされる中国・イ
ンドの個別の事業の税務目的の第三者の評価レポートを取得するケースが多いと理解しています。この場合、
取得された海外税務目的の第三者の評価レポートの結果とグローバル税務 PPA の結果は整合的であること
が望まれますが、当該価値評価の結果の差異について実務的な対応が必要になる場合があります。
4.
グローバル税務 PPA と価格調整条項
クロスボーダーM&A 取引(カーブアウト案件等)では、コンプリーション・アカウント方式によりカーブアウト財務
諸表(連結ベース)の数値に基づいて、価格調整が行われるのが一般的です。グローバル税務 PPA により売
却対価総額を各国の売却事業に個別に配賦する必要がある取引の場合には、例えば以下のような論点が想
定されます。
① クロージング日における初回の売却対価の額の算定上、価格調整条項にターゲット運転資本との
差額について運転資本調整が実施されることが規定されている場合、通常、ターゲット運転資本
は連結カーブアウト財務諸表ベースで合意される為、グローバル税務 PPA を行う場合には連結
ベースの運転資本調整の金額を、現地各国のカーブアウトされる個別の事業体へどのように配賦
するのかについて検討が必要となる場合があります。
② コンプリーション・アカウントの作成・確定後に実施される最終価格調整が行われる場合、クロージ
ング日における初回の売却対価の額と最終価格調整を考慮後の確定した売却対価の額に当然
に差異が生じることとなります。グローバル税務 PPA を実施し、海外の非居住者キャピタルゲイン
課税や海外取引税が発生する場合、海外の税務申告上、最終価格調整による差額(増額の場合
と減額の場合)について、どのタイミングで、どの数値を用いて申告(或いは修正申告)を行うのか
現地税務実務に照らして検討することが必要となる場合があります。
5.
グローバル税務 PPA と税コスト
グローバル M&A においては、カーブアウトに係る税コスト(キャピタル・ゲイン課税、各種取引税)は、カーブ
アウトの対象資産を保有している者(売手)の負担となるケースも多くあります。グローバル税務 PPA は、売手
のカーブアウト取引に係る日本及び海外の税コストに大きな影響を与える可能性があります。従って、売手は、
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カーブアウト取引の初期策定段階から日本及び海外税務に知見を有する税務専門家を関与させることが推
奨されます。特に株式・資産売買契約書や取引基本合意書について、税務専門家による税務上の観点から
のレビューが推奨されます。カーブアウト案件の取引ストラクチャーによりますが、税務専門家の関与が海外
現地子会社の申告期限までとなるケースがあり、この場合にはクロージング後長期間にわたり税務専門家が
関与することとなります。取引ストラクチャーによっては、一連の税務関連のワークストリームを管理する為のプ
ロジェクト・チーム(会社担当者と外部税務専門家の混成チーム)の設置が推奨されます。
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