CLTに寄せられる期待と普及に向けた 課題について

Report.1
CLTに寄せられる期待と普及に向けた
課題について
住宅金融支援機構 東海支店 営業推進第二グループ 主任調査役(総括)
中山 拓郎(なかやま たくろう)
平成 12 年神戸大学工学部建築学科を卒業後、住宅金融公庫に入庫。建設
サービス部、大阪支店、北海道支店、審査部住宅審査室、東京ガス(株)
(出向)
及びCS推進部住宅技術情報室にて主に建築・営業業務に従事した後、平成
28 年4月より現職。一級建築士。
板を、合板と同様に繊維方向が直交するように積み重ねる
1. はじめに
ことで、木材の異方性や反り割れの発生を低減している。
「CLTの建築材料としての普及促進」
が安倍内閣の日本
ちなみに、CLTとは、その製 造 方 法に由来した略称
再興戦略において具体的施策として明記されている※1こ
(Cross(交差して)La m in a t ed(積層された)T imbe r
とをご存知だろうか。
(木材))であり、日本農林規格では直交集成板と称され
今年に入り、CLTに係る建築基準法告示
※2
が公布・
施行されたほか、国内初の量産工場が稼働※ 3 するなど、
官民の取組みが活発化してきた。
ている。
写真1 木質建材 CLT
他方、我が国でCLTを用いた建築物の実績は全国でも
数十棟程度と、一般的な利用はこれから、という状況であ
る。
本稿では、
CLTについて、材料・工法としての特徴等を
紹介するとともに、本格的な普及に向けて今後取り組むべ
き課題について考えてみる。
出典 :(一社)
日本CLT協会
2. CLTとは
(1)
材料としての特徴
図表1 木質建材の構成原料と繊維配向
CLTは、丸太から切り出した挽き板(厚さ3cm× 幅
10c m 程度)を水平・垂直方向に3層以上積層接着させる
ことにより、設計上必要な寸法と強度を確保する工場生産
の木質建材である。 同様の木質建材では、集成材や合板の利用が一般化し
ているが、
CLTはこの両者の長所を兼ね備えている点に特
出典:
(独)
森林総合研究所 宮武チーム長、
国土交通省国土技術政策総合研究所
中川貴文主任研究官作成資料(一部加工)
徴がある。具体的には、集成材と同様の厚さを持った挽き
※1 平成 28 年6月2日付「日本再興戦略 2016」第二部(具体的施策)
※2 平成 28 年4月1日付「CLTパネル工法を用いた建築物又は建築物の構造部分の構造方法に関する安全上必要な技術的基準を定める件」、平成 28 年3月
31 日付「建築物の基礎、主要構造部等に使用する建築材料並びにこれらの建築材料が適合すべき日本工業規格又は日本農林規格及び品質に関する技術
的基準を定める件」及び「準耐火構造の構造方法を定める件」等
※3 銘建工業(株)が、岡山県真庭市に年間生産能力 30,000㎥のCLT専用工場を建設
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[レポート1]CLT に寄せられる期待と普及に向けた課題について
(2)
工法としての特徴
写真3 CLT パネル工法を用いた9階建集合住宅(英国)
CLTパネル工法は、構造耐力上主要な部分である壁や
床版にCLTを用いた壁式構造である。
建築現場においては、工場生産であらかじめ必要な寸
法・形状や開口部等が設定されたパネルを搬入し、これ
を金物やビスを用いて接合することにより、建築物の構造
部分を組み立てていく。
同様の壁式構造として、プレキャストコンクリートを用いた
鉄筋コンクリート(RC)造と類似する点が多いが、
CLTの自
出典 : 政府広報オンライン
(h t t p : //w w w . g o v o n l i n e. g o . jp /u sef u l /a r t i cl e/201310/3. h t ml)
重は同じ体積のRCの 1/6 程度と軽量であるため、基礎の
簡素化や運搬・施工手間を軽減できる工法であると言え
写真4 CLTを屋根材に用いた商業施設
(オーストリア)
る。
なお、木造軸組工法や枠組壁工法の床版として用いる
など、
CLTパネルをその他の工法に部分的に使用すること
もできる。
写真2 CLT パネル工法の建築現場
出典 :(一社)
日本CLT協会
3 期待される役割
「CLTの建築材料としての普及促進」
が日本再興戦略の
具体的施策に位置づけられる理由は、前項で述べた材料
出典 :(一社)
日本CLT協会
(3)
欧州で利用が進むCLT建築物
CLTは、1990 年代にオーストリア・ドイツを中心として本
格的な開発と普及がなされたものである。
(一社)
日本CLT
協会によると、現在、欧州では壁及び床にCLTを用いた10
階建のアパートや屋根の大断面をCLTパネルで覆う公共
建築物が建設される等、その生産量が年間 650,000㎥を
超えるなど利用が増加しているという。
や工法としての有効性に加えて、その木材使用量の多さと
原材料に対する許容度の高さにある。
例えば、我が国で既に建設されたCLTパネル工法の建
築物においては、単位面積あたりの木材使用量がその他
の木造住宅の2倍程度となったケースが確認できる。また、
CLTは木材を細分化して再構成することから原材料によ
る性能のバラツキを軽減でき、製材用には不向きとされる
杉の曲がり材などの中質材(B材)の活用も可能とされて
いる。
このような特徴から、
CLTは国産材の需要拡大の可能
性を秘めた材料・工法として、自治体や林業関係者の注
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Report.1
図表2 C LT パネル工法の単位面積当たりの木材使用量
使用部位
CLT使用数量
(㎥)
高知おおとよ製材
社員寮
真庭木材事業協同組合
CLT勝山共同住宅
延床面積当たりの使用量
CLT構造部分面積当たりの使用量
延べ面積
単位使用量
CLT構造部分
単位使用量
(㎡)
(㎥/㎡)
(㎡)
(㎥/㎡)
壁、床、屋根野地
119.55
267.39
0.447
282.00
0.424
壁、床、屋根野地
220.25
543.12
0.406
528.00
0.417
真庭市営CLT春日住宅
壁、床、屋根野地
110.12
281.06
0.392
264.00
0.417
湯川村CLT共同住宅
壁、床、屋根野地
183.96
387.16
0.475
400.00
0.460
オホーツクウッドピア
CLTセミナーハウス
壁、床、屋根野地
71.34
143.50
0.497
143.50
0.497
床(一部)
7.19
107.50
0.067
47.90
0.150
0.191㎥/㎡
くりばやし整骨院
HAYAMA STUDIO PROJECT
壁、屋根野地
155.00
735.01
0.211
735.01
0.211
0.173㎥/㎡
北出丸アドリアカフェ
床、屋根野地
47.57
406.58
0.117
406.58
0.117
0.153㎥/㎡
出典(左)
CLT等新たな製品・技術の開発促進事業のうち中高層建築物等に係る技術開発等の促進
((公財)
日本住宅・木材技術センター、
(一社)
日本CLT協会)
(右)木造住宅の建築工法別木材使用比率(平成9年)
((一社)全国木材組合連合会HP)
目も集めている。つまり、
CLTの利用促進を通じて、本格
造計算等を実施することで、これまで必要であった大臣認
的な収穫期を迎えている我が国の国産材の消費を拡大し
定を受けずともCLTを使用することが可能となった。2点
ていくことが期待されているのである。
目は、
CLTの防耐火性能を認めて燃えしろ設計の適用を
可能としたこと。これにより、建築物の立地、規模、用途に
図表3 人工林の林齢別面積の長期推移(予測)
林齢101年以上
林齢61年 100年
林齢61年~100年
より準耐火構造としなければならない建築物の壁や床な
どの主要構造部にCLTを防火被覆無しの「 あらわし」で
用いることができるようになった。
林齢31年~60年
林齢6年~30年
図表4 C L T の普及に向けたロードマップ(抜粋)
林齢~5年
出典:森林総合研究所研究成果選集(平成 23 年版)
((国)森林総合研究
所)
4 CLT の普及に向けた取組み
高まる期待を背景に、平成 26 年 11 月、国土交通省と林
出典:国土交通省・林野庁HP
図表5 C L Tに係る建築基準法告示の効果
野庁は、
「CLTの普及に向けたロードマップ」
を公表し、今
後取り組むべき施策の目標と時期を具体的に提示した。
これを機に、
CLTの普及に向けた取組みが官民を挙げて
本格的に動き始めた。
本年3月31日及び4月1日には、
CLTに係る建築基準法
告示が公布・施行されたが、これはこのロードマップにも
記載された国土交通省の取組みである。
本告示のポイントは2点ある。1点目は、
CLTの材料強度
と構造計算方法を定めたこと。今後は、告示に基づく構
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出典:国土交通省資料
[レポート1]CLT に寄せられる期待と普及に向けた課題について
CLTを、林業再生や地域の雇用創出の切り札とするべ
仕様書の存在が、その普及に寄与したと言われている。C
く取り組む、自治体や政界の動きも具体化してきた。平成
LTについても、蓄積された知見を反映した仕様書の発行
27 年8月には、林業を抱える高知県や岡山県真庭市等の
が待たれるところである。
10道県と4市町村の首長が「CLTで地方創生を実現する
首長連合」
を結成。また、本年5月には、自民党所属の衆
図表6 C L T の認知度
参国会議員約 100 名が「CLTで地方創生を実現する議員
連盟」
を設立した。両団体は、今後CLTの普及に向けた
政策提言等を行っていく予定であるという。
業界団体の取組みも拡大している。平成 24 年1月に集
成材・製材メーカー3社が立上げた(一社)日本CLT協会
は、大手ハウスメーカー・ゼネコン・不動産大手等も参加
するなど、297 社の会員(平成 28 年6月現在)を抱える組
織となった。同協会では、
平成 26 年 11 月から独自に12 の
ワーキンググループを運営しており、標準仕様の策定や施
工技術の合理化をはじめ、温熱・耐久性・遮音等のCLT
出典:CLT等新たな製品・技術の開発促進事業のうち中高層建築物等に
係る技術開発等の促進(CLT普及戦略の作成)
事業報告書(
(公財)
日本住宅・木材技術センター、
(一社)
日本CLT協会)
の居住性能等について検証を行っている。
5 本格的な普及に向けた課題
6 おわりに
CLTの普及に向けた取組みは、我が国に約 40 年前に
こうした官民の取組は、現在も積極的に実施されてお
導入された枠組壁工法と重複する部分が多い。
り、継続的に技術の検証や開発がなされている。供給体
今でこそ、我が国で建設される住宅の1割強を占める枠
制の整備や価格の低減が進めば、新たな知見の蓄積を背
組壁工法も、かつては建設にあたり個別に大臣認定が必
景に、早晩、
CLTは現在の導入期から成長期・成熟期へ
要な特殊工法の一つと位置付けられていた。
と進展し、実際の現場でも活用が検討されるケースが増加
枠組壁工法の普及にあたっては、昭和 49 年の建築基
していくだろう。
準法告示の制定を皮切りに、住宅工事共通仕様書発行、
しかしながら、現在、
CLTの供給主体となる事業者にお
省令簡易耐火構造の設定、及び住宅事業者向け研修会
いて、
CLTの施工技術が浸透しているとは言い難い。
実際、
の開催等の普及に向けた取組みが積極的に実施されたと
(一社)日本CLT協会が会員企業に対して実施したアン
聞く。これらの活動は、関係者の不断の努力により支えら
ケートでは、
CLTの施工方法について、その4割が「 あまり
れていたことは想像に難くない。
知らない」
か「知らない」
と回答したという。
CLTは、木材活用に新たな可能性を与える木質材料で、
CLTの本格的な普及に向けては、こうした事業者にも、
地方創生の切り札としての期待も高い。筆者も、先人を見
これまで蓄積した技術情報を周知して、我が国にCLTを
習い普及に向けた取組みを適切にバックアップしていける
正しく浸透させていかなければならない。この際、設計か
よう、今後もその動向を注視していく所存である。
ら施工までを丁寧に支援していくためのツールや仕組み
づくりも重要である。
枠組壁工法住宅の導入期においては、具体的な仕様例
※本稿において、意見に係る部分は執筆者個人の見解で
あり、
住宅金融支援機構の見解ではありません。
や施工方法等を示した旧住宅金融公庫の住宅工事共通
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