その先のアクティブラーニングへ -学び続ける生徒の育成-

産業能率大学 第5回授業力向上フォーラム 2016年8月21日(日)
その先のアクティブラーニングへ
-学び続ける生徒の育成-
溝上 慎一
(京都大学高等教育研究開発推進センター/教育学研究科)
http://smizok.net/
E-mail [email protected]
今日の講演スライドは明日溝上HPにアップします。必要な方はダウンロードしてください。
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お題
 昨今の「アクティブラーニングブーム」の流れについて思うこと
 生徒の「主体的な学び」とは?
-学び続ける生徒の育成、アクティブラーニングと関連させて-
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昨今の「アクティブラーニングブーム」の流れについて思うこと
 ブームではない! 施策として進められている課題である
 形から入ることは悪いことではない。理解して行動というス
タイルでは、現代の改革のほとんどは進まない
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お題
 昨今の「アクティブラーニングブーム」の流れについて思うこと
 生徒の「主体的な学び」とは?
-学び続ける生徒の育成、アクティブラーニングと関連させて-
*
「主体的」とは(定義)
・主体とは、「他に対して、働きかける当のもの。認識に関しては主
観と同義であり、実践的には意識と身体を持った行為者をさす」
・ 主体的とは、「他に強制されたり、盲従したり、また、衝動的に行っ
たりしないで、自分の意志、判断に基づいて行動するさま」
( 『日本国語大辞典(第二版)』小学館, 2001)
☞ポイントは
・行為者が主体である
・行為の先にある対象としての人・ものが客体となる
・その上で、主体-客体の関係性がある
主体的
働きかけ
主体的とは
対象
客体(object)
行為者
主体(subject)
「行為者(主体)が対象(客体)にすすんで働きかけるさま」
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と定義される
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「主体的」に当てる英語は?
「行為主体(agent)」→「主体」
「行為主体的(agentic)」→「主体的」
「行為主体性(agency)」→「主体性」
☞心理学ではBandura( 1989; 2001)、Ryan & Deci(2000)
Tomasello(1995)など
☞社会学では、社会(構造)に対する個人の主体性を
「行為主体性(agency)」と呼んで研究が進められている
行為主体的(Agentic)
対象
行為主体性(Agency)
行為主体 ( 行為者)
(Agent)
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主体的な学習とは
主体的(agency)とは
「行為者(主体)が対象(客体)にすすんで働きかけるさま」
主体的な学習(agentic learning)とは
「行為者(主体)が課題(客体)にすすんで働きかけて取り
組まれる学習のこと」
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三層で理解する主体的な学習
(III)
対自的
主 体的な学習の深まり
即時的
自己物語型の主体的学習
・中長期的な時間的展望
をもとにした今ここの自己
中長期的な目標達成、アイデンティティ形
成、ウェルビーイングを目指して課題に取
り組む
(II)
・自己の観点
自己調整型の主体的学習
目標や学習方略、メタ認知を用いるなどし
て、自身を方向づけたり調整したりして課
題に取り組む
(I)
(1) 強意(intensive)
(2) 再帰(reflexive)
課題依存型の主体的学習
興味・関心をもって課題に取り組む
書く、話す、発表する等の活動を通して課
題に取り組む
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Reference: 梶田叡一 (1996). <自己>を育てる-真の主体性の確立- 金子書房
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アクティブラーニングとは(定義)
◆一方向的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える
意味での、あらゆる能動的な学習のこと。能動的な学習には、書く・話
す・発表する等の活動への関与と、そこで生じる認知プロセス(*)の外化
を伴う。
◆主として知識習得を目指す伝統的な教授学習観の転換を目指す文
脈で用いられ、その授業においては「アクティブラーニング型授業」とし
て使用されるべきである。
(*)認知プロセスとは
「知覚・記憶・言語・思考といった心的表象としての情報処理プロセス」
(論理的 / 批判的 / 創造的思考、推論、判断、意思決定、問題解決など)
☞ポイント:
個人内
自己-他者の
相互作用
・講義一辺倒の授業を脱却してAL型授業(講義+AL)
・とくに学習の社会化
他者
他者
自己 自己
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他者
自己
他者を巻き込んでの
理解のパス
Reference: 溝上慎一 (2014). アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換 東信堂
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溝上「アクティブラーニング」を主体的な学習論に位置づける
(III)
対自的
主 体 的な学習の深まり
即時的
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自己物語型の主体的学習
中長期的な目標達成、アイデンティティ形
成、ウェルビーイングを目指して課題に取
り組む
(II)
自己調整型の主体的学習
目標や学習方略、メタ認知を用いるなどし
て、自身を方向づけたり調整したりして課
題に取り組む
(I)
By Mizokami
課題依存型の主体的学習
興味・関心をもって課題に取り組む
書く、話す、発表する等の活動を通して課
題に取り組む
アクティブラーニング
・活動への関与
・認知プロセスの外化
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ディープ・アクティブラーニング
アクティブラーニング
アクティブラーニング
ディープラーニング
①+深い学習
②+深い理解
学習の形態を強調
学習の質を強調
学生参加
協同/協調学習
問題解決
概念を既有知識や経
験と関連づける
バリエーション理論
事実・知識
事実的知識
(例)
・ヒトラーの台頭
転移
概念化
転移可能な概念
(例)
・戦争における
手段と目的
(e.g. 原爆)
個別的スキル
(例)
・年表の作成
複雑なプロセス
(例)
・歴史的な探究
原理と一般化
原理・一般化
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(例)
・戦争の中には“正義の”戦争
とみなされるものがある
マクタイとウィギンズの知の構造
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Reference: 松下佳代・京都大学高等教育研究開発推進センター (編) (2015). ディープ・アクティブラーニ
ング-大学授業を深化させるために- 勁草書房
松下「ディープ・アクティブラーニング」を主体的な学習論に位置づける
(III)
対自的
主 体 的な学習の深まり
即時的
1
自己物語型の主体的学習
中長期的な目標達成、アイデンティティ形
成、ウェルビーイングを目指して課題に取
り組む
(II)
自己調整型の主体的学習
目標や学習方略、メタ認知を用いるなどし
て、自身を方向づけたり調整したりして課
題に取り組む
(I)
By Matsushita
ディープ・アクティブラーニング
By Mizokami
課題依存型の主体的学習
興味・関心をもって課題に取り組む
書く、話す、発表する等の活動を通して課
題に取り組む
アクティブラーニング
・活動への関与
・認知プロセスの外化
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教育課程企画特別部会『審議まとめ(素案)』(2016年8月1日)
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深い学び
各教科等で習得した知識や考え方を活用した、「見方・考え方」を働かせて、学習
対象と深く関わり、問題を発見・解決したり、自己の考えを形成したり、思いを元に
構想・創造したりする「深い学び」が実現できているか。
各教科等の見方・考え方(案)
教育課程企画特別部会『審議まとめ(素案)』
(2016年8月1日) 参考資料2
☞より深い学習(deeper learning)
+21世紀型スキル
 習得-活用-探究
 思考力・判断力・表現力
国語科:自分の思いや考えを深めるために、創造的・論理的思考、感性・情緒、他者
とのコミュニケーションの側面から、言葉の意味、働き、使い方等に着目して、対象と言
葉、言葉と言葉の関係を捉え、その関係性を問い直して意味付けること。
数学科:事象を数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え、論理的、統合的・
発展的、体系的に考えること。
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教育課程企画特別部会『審議まとめ(素案)』(2016年8月1日)
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文科省「アクティブ・ラーニング」を主体的な学習論に位置づける
探究
(III)
対自的
主 体 的な学習の深まり
即時的
2
自己物語型の主体的学習
中長期的な目標達成、アイデンティティ形
成、ウェルビーイングを目指して課題に取
り組む
(II)
自己調整型の主体的学習
目標や学習方略、メタ認知を用いるなどし
て、自身を方向づけたり調整したりして課
題に取り組む
(I)
課題依存型の主体的学習
興味・関心をもって課題に取り組む
書く、話す、発表する等の活動を通して課
題に取り組む
活用
総合的な学習
の時間
(SSH、SGH)
教科内
習得
By 文科省
アクティブ・ラーニング
「主体的・対話的で、深い学び」
「学ぶことに興味や関心を持ち、自己の
キャリア形成の方向性と関連づけながら、
見通しを持って粘り強く取組み、自らの学
習活動を振り返って次に繋げる「主体的
な学び」ができているかどうか。
アクティブラーニング
(例)「キャリア・パスポート(仮称)などを
・活動への関与
活用し、自らの学習状況やキャリア形成
・認知プロセスの外化
を見通したり振り返ったりする
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ご清聴有り難うございました
 昨今の「アクティブラーニングブーム」の流れについて
思うこと
 生徒の「主体的な学び」とは?
-学び続ける生徒の育成、アクティブラーニングと関連させて-
*
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興味があればお読みください
溝上慎一 (2014). アクティブラーニングと教授学習パラダイ
ムの転換 東信堂
アクティブラーニングを理論的・実践的に包括的に概説した著書。
第1章:アクティブラーニングとは 第2章:なぜアクティブラーニングか
(教えるから学ぶへ、情報・知識リテラシー) 第3章:さまざまなアク
ティブラーニング型授業(ピアインストラクション、LTD話し合い学習法、
PBLなど) 第4章:アクティブラーニング型授業の質を高めるための
工夫(ディープ・アクティブラーニング、授業外学習、逆向き設計、反転
授業) 第5章 揺れる教授学習観(ラーニングピラミッドの功罪など)
溝上慎一監修 (2016年3月新刊)
『アクティブラーニング・シリーズ全7巻』(東信堂)
・第1巻 アクティブラーニングの技法・授業デザイン
(安永悟・関田一彦・水野正朗編)
・第2巻 アクティブラーニングとしてのPBLと探究的な学習
(溝上慎一・成田秀夫編)
・第3巻 アクティブラーニングの評価(松下佳代・石井英真編)
・第4巻 高等学校におけるアクティブラーニング:理論編(溝上慎一編)
・第5巻 高等学校におけるアクティブラーニング:事例編(溝上慎一編)
・第6巻 アクティブラーニングをどう始めるか(成田秀夫著)
・第7巻 失敗事例から学ぶ大学でのアクティブラーニング(亀倉正彦著)
各巻の詳細はこちら(http://smizok.net/ALflier03-2016.pdf)
(このチラシにある申込書を使えば、全巻セッ11,800円が10,000円で購入できます)
チューリップMLを作りました
中学高校に関するイベントや研究会の案内を受け取る、あるいは自由
に投稿できるチューリップMLを作りました。
全国の中学高校関係者に配信されます。
情報を欲しい方、発信したい方はメンバー登録の上、どうぞご利用下さ
い。
http://kyoto‐u.s‐coop.net/tulip/index.html
桐蔭学園の「授業見学」のご案内
◆桐蔭学園はAL型授業向上を目指して、外部からの授業見学をいつでも受け
付けています。見学したい方は下記にご連絡下さい。
担当: 佐藤透([email protected])
11/12‐13:桐蔭学園「アクティブラーニング公開研究会2016」
11/12(土) 午後
・中学高校の授業20科目公開授業+検討会
・探究的な学習の発表会
・講評 数学:川添充(大阪府立大学教授)
◆
古典:吉野朋美(中央大学教授)
11/13(日)9:00~
・基調講演 森朋子(関西大学教授)
◆
「アクティブラーニング型授業としての反転授業
-「わかったつもり」を「わかった」へ-」
・全国の事例報告
郡司直孝(北海道教育大学附属函館中学校) (社会科)
三好達夫(大阪府立四条畷高校)(理科)
山田英雄(かえつ有明中学校・高等学校)(サイエンス科)
瓜生純子(福岡県教育センター)
(福岡県立学校 新たな学びプロジェクト)
・総括講演 溝上慎一(京都大学教授)
・参加者同士の交流を兼ねたリフレクションセッションもあります
会場:桐蔭学園 http://toin.ac.jp/
9/1(木)の9:00~上記URLにて申込受付を開始します。詳し
くは、http://smizok.net/ でご覧ください。
講師プロフィール
http://smizok.net/
1970年1月生まれ。大阪府立茨木高校卒業。神戸
大学教育学部卒業、1996年京都大学高等教育教
授システム開発センター助手、2000年講師、2003
年京都大学高等教育研究開発推進センター准教
授。2014年より教授(現在に至る)。大学院教育学
研究科兼任。教育アセスメント室長。京都大学博
士(教育学)。
日本青年心理学会常任理事、大学教育学会常任理事、『青年心理学研究』編集委
員、『大学教育学会誌』編集委員、“Journal of Adolescence”Editorial Board委員、公
益財団法人電通育英会大学生調査アドバイザー、学校法人桐蔭学園教育顧問ほか、
大学のAP委員、高校のSGH/SSH指導委員など。日本青年心理学会学会賞受賞。
専門は、青年心理学(現代青年期、自己・アイデンティティ形成、自己の分権化)と高
等教育(学習と成長パラダイム、アクティブラーニング、学校から仕事・社会へのトラ
ンジションなど)。著書に『自己形成の心理学-他者の森をかけ抜けて自己になる』
(2008世界思想社、単著)、『現代青年期の心理学-適応から自己形成の時代へ
-』(2010有斐閣選書、単著)、『大学生の学び・入門-大学での勉強は役に立つ!
-』(2006有斐閣アルマ、単著)、『高校・大学から仕事へのトランジション-変容する
能力・アイデンティティと教育-』(2014ナカニシヤ出版、編著)、『活躍する組織人の
探究-大学から企業へのトランジション-』(2014東京大学出版会、編著)、『アクティ
ブラーニングと教授学習パラダイムの転換』(2014東信堂、単著)など多数。