日本経済新聞 夕刊(8月17日)

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こだわりの家 ぐっと身近 建築家への依頼 施工会社が橋渡し 2016/8/17付 日本経済新聞 夕刊
家を建てるなら、デザインや設計が優れた建築家に依頼したい――そんな希望を持つ人と
建築家を、施工会社がつなぐ動きが広がってきた。橋渡しのしくみを上手に活用すれば、人
生最大の買い物と言われるマイホーム造りで、仕上がりや費用面の満足度を高められそう
だ。
田畑が点在する高松市郊外の分譲地。20ほどある区画の1つ
に、焦げ茶色の外観が際立つ1軒が建つ。建築家が設計したモデ
ルハウスだ。住宅施工のセンコー産業(高松市)が力を入れる分
譲開発の一例だ。
ここでは建築家の作品の実物を、実際の分譲地で見ることがで
きる。見学者は周囲の風景との調和も見極めつつ、自宅設計の参
考にできる。気に入ったデザインを手掛けた建築家への設計依頼
も可能だ。同社は市内4カ所の分譲地で同様のモデルハウスを設
置、集客にも生かす。
「カーテンが不要で、スッキリした造りが快適」と語るのは、
その区画に木造2階建てを新築した公務員の男性(47)。昨年
ASJは専用スタジオで、施主と
建築家らの接点を設けるイベント
を開いている(大阪市北区)
12月、妻と子供2人の家族4人で入居した。中庭を囲んで北に
リビング、南に和室、西にキッチンを配置。「ロの字」の間取り
が特徴の家は、兵庫県西宮市の建築家、谷ノ口義弘氏(46)が
手掛けた。
設計にあたり(1)外部の目が気にならない(2)両親らがゆっくり
泊まれるよう和室とリビングを離す(3)充実した収納――を希望
建築家が設計した家で、カーテン
なしでも外からの目を気にせず過
ごす一家(高松市)
した。外周部は小窓に統一し、中庭側に大きな窓や吹き抜けを採
用、「外は閉じて、中庭に向けて開くイメージにした」(谷ノ口
氏)。一家は分譲地巡りで谷ノ口氏の作品に出合い、営業担当者
を仲介役に打ち合わせを重ねた。
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家造りのスタート地点となる設計を建築家に頼む場合、作品の模型や施工例の写真を手掛
かりに探す例が多い。個別に依頼すると、実際に建築する施工会社との間でズレが生じた
り、着手金などの費用が予想より膨らんだりするなど、後からトラブルになるケースがあ
る。
今回分譲した区画の購入者が建築家に設計を依頼した場合、同社が計画段階から関わるの
で円滑な施工につながる。正式契約前の建築家変更やキャンセルによる追加費用は発生しな
い。
実際の作品を顧客に直接アピールできるため、建築家も協力的だ。オンリーワン住宅なが
ら「業界で中の上くらいの価格帯」(同社)で提供できるという。
全国的なネットワーク「アーキテクツ・スタジオ・ジャパン(ASJ)」(東京・港)を
利用する方法もある。全国195の工務店・建設業者が専用のスタジオ(拠点)を運営し、登
録する2700人以上の建築家と施主を結びつけるしくみだ。
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大阪・梅田のスタジオでは阿佐建築工務(大阪府高槻市)が年4、5回、複数の建築家を
集めて建築家展を開き、施主との出会いの場を用意する。参加は予約不要で、来場者は建築
家と直接やりとりができる。ASJに会員登録(現在は無料)すれば、ASJに登録する建
築家からのプラン提案、仕様の仮決め、コスト確認などを期間・回数の制限なく受けられ
る。
希望のヒアリングや土地の現地調査を経て、建築家が設計案を提示する。建築家の旅費は
ASJが負担するので、好みの建築家が遠隔地にいても頼みやすい。正式契約すると、工事
費に対してあらかじめ定めた率の報酬で建築家が請け負い、設計と現場監理で計画通りに仕
上げていく。
ASJは2人の建築家からコンペ形式で提案を受ける仕組みも用意。画一的な造りを望ま
ない人におすすめだ。スタジオを運営する工務店が施主と建築家の間に入ることで「提案を
断ったり、修正を頼んだり、直接だと言いにくいことも伝えやすい」(阿佐建築工務の秋実
秀吉取締役)。
建築家との家造りは、好みや価値観などの相性がカギを握る。満足できるマイホームを手
に入れるため、提案内容に加え、実績や条件といった情報を幅広く集めて判断するなど、手
間暇をかける価値がありそうだ。
(高松支局 深野尚孝)
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