慢性腎臓病モデルマウスにおける分子時計機構の腎”肝.腎速闘を介した

慢性腎臓病モデルマウスにおける分子時計機構の腎”肝.腎速闘を介した
新規腎機能悪化機序の解明
薬 剤 学 分 野 3PSI2021R j
農村賢吾
【序論】
慢性腎臓病( Chr叩 i
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e)、以下 CKDとは、腎機能が 50%以下の状態が慢性的に続く病態
の総称を指す。一般に、 CKD患者に薬物を投与する際、腎排f
世型薬物の血中濃度上昇等を考慮する必要
がある。近年、これら薬物動態学的変化に影響を及ぼす因子として、腎臓のみならず肝臓の薬物代謝を担う
酵素であるシトクロム P450(CYPs)の発現量が健常時と比較して顕著に減少することが報告されている。中
でも CKD時に発現量が減少する CYPs分子種の CYP3A4は現在臨床で使用されてし、る医薬品の 50 %
以上の代謝に関与する代表的な分子種である。現在、これら問題のポイントとして 2点挙げられる。第一に、
腎機能低下と肝臓 CYP3A4 の代謝能低下の因果関係が臨床レベノレで認識されていないことである。第二
に
、 CYP3A4 の発現量を回復させる有効な手法が確立されていないことである。したがって臨床現場では、
副作用が出てから投与量を調整するとしづ後ろ向きの投薬設計がなされているのが現状である。 CKD 患者
の代謝能力を超えた、薬物過剰な投与による副作用防止の観点、からも、 CKD 時における肝臓薬物代謝酵
素 CYP3A4発現量低下機構の解明が望まれている。
一方、ヒトを初めとする多くの晴乳動物には、概日周期で生体機能を制御する体内時計が備わっている。
体内時計の本体は、時計遺伝子 Clock,Bma!J,Per,Ciy が構築する転写/翻訳フィードパックループであり、
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n (DBP)に代表される時計出力遺伝子を介してさまざまな生体機能の概日リズムを制
御している。時計出力遺伝子により制御される分子には、異物の代謝に関わる多くの代謝酵素が含まれて
いる。そのため、薬物の効果や副作用も投薬時刻により変化することが報告されている。
本研究の第一章では、 CKD モデル 7 ウスを対象に、分子時計機構を基盤として肝臓薬物代謝酵素発現
低下機構の解明を行った。また、肝臓の CYPsは多くの生理活性分子の合成、代謝に関わっている。そこで、
CKDの病態に及ぼす肝臓薬物代謝酵素発現低下の影響を検討するため、第二章では CYPsの低下により
過剰に蓄積されたレチノールに着目し腎機能に与える影響を評価した。これまでに、 CKD の腎機能に関す
る下測分子(バイオマーカー)が数多く発見、報告されている。しかしながら、 CKD時における肝臓薬物代謝
能を予測するマーカーの同定、また予測方法は構築されていない状況にある。この課題を解決するため、第
三章では血清エクソソームを用いて、エクソソーム中に含まれる時計遺伝子 DBP発現低下機構の解明を行
なった。
【方法】
実験動物及び CKDモデルマウス
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1
3摘出、翌 8週齢時に右腎を全摘出手術
後、さらに 8週間飼育した 1
6週齢マウスを CKDモデノレマウス(5
i
6
N
x)として使用した。
マウス肝臓初代培養細胞:雄性マウスからコラゲナーゼ潅流法により肝細胞を単離した。単離 4時間後の細胞
を各実験に使用した。
レチノーノレ欠損給餌群の作製: 5/6Nx手術 4週後からレチノールを含まない餌( KBTオリエンタル社)に切り替
え、そ¢後 4週間自由摂食・摂水、 1
2時間の明暗周期条件下で飼育した7 ウスを R
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l(−)群として使用した。
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伝子のクンパク質発現量は westernb
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g法にて測定した。 mRNAの発現量は m
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逆転写反応した後に問a
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ePCR法によって定量した。
腎機能評価方法:血清クレアチニンイ直( SCr)、血中尿素窒素(BUN)を製品プロトコールに従い測定することで評
価した。
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エクソソーム抽出方法:マウス血清中エクソソームの抽出は ExoQuick"1悶 oso
Biosciences 社)を用いた。培養細胞培地中エクソソームの抽出は ExoQuick-TC™ exosomep
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用し、それぞれ製品プロトコールに従い単離した。
盤貴坐主主独立多群の比較には
元配置分散分析( one-wayANOVA)、および Tukey'spost-hoct
e
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臼を用
いた。また、日内変動の解析には cosi
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sを使用した。有意水準は 5%
以下を有意な差とした。
【結果および考察 1
i
.
CKDモデルマウスにおける肝 CYP3All、CYP26Al発 現 低 下 機 構 の 解 明
5/6Nx肝臓における発現低下遺伝子の網羅的解析
A
まず、腎臓を 5
1
6 摘出することにより作成した CKD モデルマウス
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(5/6Nx)の肝臓において、遺伝子発現変化の網羅的解析をマイクロアレ
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イ法で行った。結果、 5/6Nxの肝臓において多くの薬物代謝に関わる遺
伝子の発現量が低下することが明らかとなった( F
i
g
. IA)。その中でも、
レチノール代謝の変容に着目した。
.
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レチノーノレは、ビタミン A の主要因子であり大部分が食事により摂取される。そこ
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とが明らかとなった( F
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.
1
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分子種の Iつであり、 CYP26AIはレチノーノレ代謝の律速酵素の一つであることか弘
以降ではこの2つに着目した。
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27
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.
1
7
2
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・
,
Cy
ρ
3a41b
CYPs転写因子発現量に対する腎障害の影響
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.
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.
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E阻 Z
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Cy
ρ
,
2c38 ・2
4
3
5
5/6Nxにおける肝 CYP3Al1
、CYP26Al発現低下機構の解明のため、まず、
’
CYP3Aの基本転写、因子である Pxr、Car、Hザ7
α 、H i
f
4α発現量に着目したが、
Cyp3'16
22
1
10
4
3
8
腎障害時において変化しないことが明らかとなった( F
i
g
.2A)。先のマイクロアレイ
Cyp2'50
占的。
解析の結果から、時計遺伝子の変化が示唆されたことから発現量を測定したと
ころ、転写促進因子の D
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n(DBP)発現量が有意に低下して
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。
)
いることを見出した( F
A
Cyp3all、Cyp26al 発現リズムの制御
機構解析
ヒ
ト CYP3A4 発現に日周リズムが存在
することは明らかとされているが、マウス
CYP3All、及び CYP26Al 発現では不
明であった。そこで E 常 時 に お け る
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Cyp3aII、Cyp26al遺伝子の発現日内変動制御機構の解析を行った結果、これら mRNA発現に日内変動が存
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n(DBP)、転写抑制因子
在し、このリズムは CYP3A4と同様、時計遺伝子で転写促進因子の D s
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n4(E4BP4)によりリズミカルに制御されていることを明らかとした。
の E4promoterbindingp
次に、
5/6Nx肝臓における C
yp3all、Cyp26alm R N A発現量の日内変動を測定したところ、 5/6Nxマウスでは有
意に発現量が減少しており、 Sham-operated 群でみられた発現日内変動が消失していることを見出した( Fig. 3 A
。
)
また、 CYP3Al1、及び CYP26Al の発現リズム制御因子である
DBPの発現量を測定したところ、有意に低下して
いることを見出した( Fig.3B),
B
A
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さらに、これらの発現低下は
angiotensin
H 受容体阻害剤と投与した
5/6Nx
においては起こらず、原因因子
transforminggrowthfactorPl (TGF-Pl)を同定した。損傷部位である腎臓における過剰な TGF-Plの発現充進が
血液循環を介し肝臓に移行し、 transcriptionfactor7-like 2 (
T
c
/
1
1
2)
、さらにその下流遺伝子であることを同定し
の発現を上昇させた。
た inhibitorofD N Abinding2 (Jd2)
ld2の上昇により DBPの発現量が減少し、 CYP3All、
及び CYP26Alが減少することで、レチノーノレが代謝不全により過剰に蓄積することを明らかとした。
2
.
C K Dモデノレマウスにおけるレチノールの肝”腎連関を介した新規腎機能悪化機構の解明
C
/
k
/
C
l
kマウス 5/6Nxにおける腎機能悪化抑制機構の解明
第
章にて 5/6Nxと時計遺伝子との
A
関連を明らかとした。そこで、体内時
したところ、血授における過剰な
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5/6Nx の腎臓において、
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の発現を上昇されること、及び
CLOCK の上昇により腎臓における
TGF-Plの発現充進が起こる機構を
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5/6Nxにおける腎機能悪化に及ぼすレチノーノレの影響の検討
CKD 時にレチノールの血中濃度が上昇することは報告されているが、過剰なレチノーノレの蓄積が生体内に及
ぼす影響は不明であった。そこで、野生型 5/6Nxをレチノーノレ欠損給餌条件下にて飼育したところ、腎繊維化が
抑制されることで( Fig
・SA)、腎機能悪化が抑えられることを明らかとした( F
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。
)
3
. CKDモデルマウスにおける血清エクツソーム中 DBP発現低下機構の解明
血清エクソ yーム中 DBP発現日内変動に対する 5/6Nxの影響
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下機構に時計遺伝子 DBPが関与することを明らかとした。しかしながら、
謝能マーカーとしての有用性を評価した。エクソソームは体液に含まれ
る直径 40-150nmの脂質二重膜である。野生型 5/6Nxの血清よりエクソ
ソームを回収したところ、エクソソーム量には日内変動が認めらないこと、
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低下がエクソソームに反映されることが示唆された。
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CKD 時における肝臓薬物代謝能を予測することは困難である。この課
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第一章にて 5/6Nxの肝臓における CYP3Al1、及び CYP26Al発現低
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【総括】
本研究の CKD モデノレマウスの肝臓を用いた検討で、 TGF-131 が、時計遺伝千で転写促進因子の
DBPの発現を低下させること、また、 DBPの低下により下流遺伝子である CYP3AlI
、および CYP26Al
の発現が低下し、結果レチノーノレが代謝不全により過剰に蓄積されることが示唆された。さらに、腎障
害時におけるレチノーノレの影響をして、過剰に蓄積されたレチノーノレが、腎線維化を介し腎機能悪化
に寄与することを明らかとしました。 TGF-f31 が、腎臓にて発現が上昇していることを踏まえると、 TGF-f3I
による、腎-M 連関、レチノールによる肝ー腎連関を組み合わせて、腎-~f -腎連関が腎障害時には生じて
おり、その過程で時計遺伝子 DBPが関与していることを明らかとした。
さらに、肝臓 DBPの低下は血清エクソソームに反映できることから、 CKD時の肝臓薬物代謝能低下を
予測するマーカーとして血清エクソソーム中の時計遺伝チが有用になりうる可能性があることが示唆さ
れた。
近年、体内時計の異常は様々な疾患の発症や病態の進行に影響をおよぼすことが報告されている。
加えて、体内時計は分子機構の解析が進んでいる。本研究で明らかとした、 CKD 誘発性の肝臓薬物
代謝酵素発現低下機構及び、腎機能悪化に及ぼす肝臓薬物代謝酵素低下の影響解明は、 CKD 時
における病態解明及び創薬ターゲ、ットになりうるだけでなく、他の疾患領域においても応用可能であると
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