(57)【要約】 【目的】ハロゲン化処理を必要としない、非極性の熱可 塑性エラストマーの極性樹脂皮膜形成方法を提供するこ とを目的とする。 【構成】無水マレイン酸で部分変性したスチレン系エラ ストマー、あるいは、該変性スチレン系エラストマーま たは無水マレイン酸で部分変性したポリプロピレン、ポ リエチレンもしくはエチレン酢酸ビニル共重合体と、無 変性のスチレン系、オレフィン系または1,2−ポリブ タジエン系エラストマーとの混合よりなる熱可塑性エラ ストマーの成形体を作製し、その表面にN−メトキシメ チル化ナイロン、共重合ナイロン、ポリウレタン、ポリ 塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニルまたはポリフッ化ビニ リデンのうちの一種または二種以上の混合物の溶液を塗 布し、その後加熱して溶媒を揮散させると、該成形体の 分子構造中の無水マレイン酸と該樹脂の官能基が化学的 に結合して密着した、該樹脂皮膜が形成される。 (2) 1 【特許請求の範囲】 【請求項1】無水マレイン酸で部分変性したスチレン系 熱可塑性エラストマーの成形体、あるいは、該変性スチ レン系エラストマーまたは無水マレイン酸で部分変性し たポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)もし くはエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)と、無変性 のスチレン系、オレフィン系または1,2−ポリブタジ エン系熱可塑性エラストマーとの混合よりなる成形体の 表面に、N−メトキシメチル化ナイロン、共重合ナイロ ン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニ ルまたはポリフッ化ビニリデンのうちの一種または二種 以上の混合物の皮膜を形成させる、非極性エラストマー の極性樹脂皮膜形成方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、非極性の熱可塑性エラ ストマーの成形体の表面に、極性の樹脂の皮膜を形成さ せる方法に関する。 【0002】 【従来の技術】成形を可能とする熱可塑性エラストマー のうち、非極性のものは、極性のものと比べ柔軟でゴム 弾性に優れ、安価であるが、耐油性、耐摩耗性に劣り、 また、摩擦抵抗も大きい。しかし、用途上においては、 弾性体としての優れた柔軟性、ゴム弾性を有し、かつ、 耐油性、耐摩耗性、褶動性にも優れた熱可塑性エラスト マーの要求は高く、そうした状況の中、前記非極性の熱 可塑性エラストマーの成形体の表面にN−メトキシメチ ル化ナイロン、共重合ナイロン、ポリウレタン等の極性 樹脂の皮膜を形成させることで、該成形体に、良好なゴ ム弾性を活かしつつ優れた耐油性、耐摩耗性、褶動性、 そしてガスバリア性を付与することが見い出された。 【0003】非極性の熱可塑性エラストマーに、極性の 樹脂の皮膜を形成させるその具体的方法として、従来 は、スチレンブタジエンスチレン(SBS)、スチレン イソプレンスチレン(SIS)などの不飽和結合を有す る熱可塑性エラストマーを用い、該エラストマーの成形 体の表面をハロゲン化処理した後、適当な溶媒に溶かし たN−メトキシメチル化ナイロン、共重合ナイロン、ま たはポリウレタン等の極性樹脂をコーティングし、しか る後、加熱して該溶媒を揮散させるという方法があっ た。 【0004】しかし、この場合、本来親和性のない非極 性のエラストマーと極性の樹脂とを密着させるため、エ ラストマーの表面にハロゲン化処理を施すことが必要不 可欠であり、それゆえ、使用できる熱可塑性エラストマ ーは、ハロゲン化処理を可能とする不飽和結合を有した ものに限定されるものであった。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記問題点 を解決するためになされたもので、ハロゲン化処理を必 10 20 30 40 50 特開平6−9805 2 要とせず、容易に非極性の熱可塑性エラストマーの成形 体表面に極性樹脂の皮膜を密着させ、したがって、使用 できる該エラストマーの種類は従来のように不飽和結合 を有したものに限定されないことを特徴とする、非極性 エラストマーの極性樹脂皮膜形成方法を提供することを 目的とする。 【0006】 【課題を解決するための手段】まず、無水マレイン酸で 部分変性したスチレン系熱可塑性エラストマーの成形 体、あるいは、該変性スチレン系エラストマーまたは無 水マレイン酸で部分変性したポリプロピレン(PP)、 ポリエチレン(PE)もしくはエチレン酢酸ビニル共重 合体(EVA)と、無変性のスチレン系、オレフィン系 または1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー との混合よりなる成形体を作製する。但し、無水マレイ ン酸変性のPP、PEまたはEVAを混合したエラスト マーを作製する場合、エラストマーとしての柔軟性、ゴ ム弾性を失わせないよう、無水マレイン酸変性のPP、 PEまたはEVAの混合量は50重量%以下に抑えるべ きであり、好ましくは、10∼30重量%程度とする。 次いで、極性樹脂であるN−メトキシメチル化ナイロ ン、共重合ナイロン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデ ン、ポリ塩化ビニルまたはポリフッ化ビニリデンのうち の一種または二種以上の混合物を適当な溶媒に溶かし て、それを前記成形体の表面に薄く塗布し、その後加熱 して該溶媒を揮散させる。この塗布および加熱の操作を 1∼数回行うことにより、前記成形体表面に密着した前 記極性樹脂の皮膜が得られるものである。 【0007】 【作用】本発明は、非極性の熱可塑性エラストマーの中 にとり込まれた無水マレイン酸が、極性樹脂の官能基と 化学的に結合して該非極性エラストマーと該極性樹脂が 密着し、加熱されることによってさらにその密着性が高 められるものである。したがって、非極性の熱可塑性エ ラストマーの表面をハロゲン化処理して活性化し、極性 を与えることによって極性樹脂との密着を可能にしてい た前記従来の方法に対し、ハロゲン化処理を行わず、容 易に非極性のエラストマーに極性樹脂を皮膜を形成する ことができる本発明は、すなわち、製造工程の簡素化、 設備の削減を実現するものである。 【0008】また、使用する熱可塑性エラストマーの種 類において、従来の方法が、SBSやSIS等のような 不飽和結合を有したエラストマーに限定されていたのに 対し、本発明では、成形体の分子構造中に無水マレイン 酸が存在することを条件に、不飽和結合の有無にかかわ らず、スチレン系、オレフィン系、または1,2−ポリ ブタジエン系と広い範囲で使用が可能である。 【0009】熱可塑性エラストマーの成形体表面を被覆 する前記極性樹脂は、いずれも耐油性、耐摩耗性、褶動 性、そしてガスバリア性に優れるものであるが、用途に (3) 3 応じて、その中でも特に耐油性に優れた共重合ナイロン を使用したり、また、高耐油性で、さらに触媒(クエン 酸、酒石酸等)の存在および加熱下で架橋して耐熱性、 耐摩耗性、強度を増すN−メトキシメチル化ナイロンを 使用したり、または、柔軟性の良好なポリウレタンと耐 候性に優れたポリフッ化ビニリデンとの混合物、あるい はポリウレタンと高ガスバリア性のポリ塩化ビニリデン との混合物を使用するなど、選択することができる。 【0010】なお、前記極性樹脂の皮膜の厚みは、1μ m以上でないと皮膜としての効果が表れにくい。一方、 100μm以上になると、被覆される前記エラストマー の柔軟性やゴム弾性がほとんど活かされない。したがっ て、皮膜の厚みは1∼100μmの範囲内で、使用目的 に応じて適宜調整するのが望ましい。調整方法は、前記 極性樹脂の溶液の濃度や、塗布の回数を変化させること による。 【0011】以下、本発明の実施例について説明する が、これにより限定されるものではない。 【0012】〔実施例1〕本実施例は、無水マレイン酸 で部分変性したスチレンポリエチレンポリブチレンスチ レン(SEBS)の成形体の表面に、N−メトキシメチ ル化ナイロンの皮膜を形成する方法である。 【0013】まず、メタノールを溶媒に、N−メトキシ メチル化ナイロンの10重量%溶液を作製する。次いで 該溶液中に、N−メトキシメチル化ナイロンに対して3 重量%のクエン酸を添加し、混合する。できた溶液を無 水マレイン酸で部分変性したSEBSの成形体の表面に 均一に塗布し、その後、80℃で10分間加熱しメタノ ールを揮散させる。そして再度同様に塗布および乾燥を 行った後、さらに120℃で10分間加熱することによ って、無水マレイン酸変性SEBSとN−メトキシメチ ル化ナイロンの密着力を高め、また、N−メトキシメチ ル化ナイロン自身を架橋させる。こうして、無水マレイ ン酸変性SEBSの成形体表面に密着した、厚さ約20 μmのN−メトキシメチル化ナイロン皮膜が形成され る。 【0014】〔実施例2〕本実施例は、無変性のSEB Sと無水マレイン酸変性SEBSを混合してなるエラス トマーの成形体の表面に、共重合ナイロンの皮膜を形成 する方法である。 【0015】まず、メタノールを溶媒に、共重合ナイロ ンの10重量%溶液を作製する。この溶液を、無変性の SEBSと無水マレイン酸変性SEBSを60:40の 割合で混合してなるエラストマーの成形体の表面に均一 に塗布し、その後、80℃で10分間加熱しメタノール を揮散させる。そして再度塗布を行った後、120℃で 10分間加熱してメタノールを揮散させ、該混合エラス トマーと共重合ナイロンを充分に密着させる。こうし 10 20 30 40 特開平6−9805 4 て、無変性のSEBSと無水マレイン酸変性SEBSの 混合エラストマーの成形体表面に密着した、厚さ約20 μmの共重合ナイロン皮膜が形成される。 【0016】〔実施例3〕本実施例は、SBSと無水マ レイン酸変性PPを混合してなるエラストマーの成形体 の表面に、熱可塑性ポリウレタンの皮膜を形成する方法 である。 【0017】まず、DMFを溶媒に、熱可塑性ポリウレ タンの10重量%溶液を作製する。この溶液を、SBS と無水マレイン酸変性PPを80:20の割合で混合し てなるエラストマーの成形体の表面に均一に塗布し、そ の後、80℃で10分間加熱しDMFを揮散させる。そ して再度塗布を行った後、120℃で10分間加熱して DMFを揮散させ、該混合エラストマーと熱可塑性ポリ ウレタンを充分に密着させる。こうして、SBSと無水 マレイン酸変性PPの混合エラストマーの成形体表面に 密着した、厚さ約20μmの熱可塑性ポリウレタン皮膜 が形成される。 【0018】〔実施例4〕本実施例は、1,2−ポリブ タジエンと無水マレイン酸変性低密度PEを混合してな るエラストマーの成形体の表面に、熱可塑性ポリウレタ ンとポリフッ化ビニリデンの混合樹脂の皮膜を形成する 方法である。 【0019】まず、DMFを溶媒に、熱可塑性ポリウレ タン7重量%、ポリフッ化ビニリデン3重量%の混合溶 液を作製する。この混合溶液を、1,2−ポリブタジエ ンと無水マレイン酸変性低密度PEを75:15の割合 で混合してなるエラストマーの成形体の表面に均一に塗 布し、その後、80℃で10分間加熱しDMFを揮散さ せる。そして再度塗布を行った後、120℃で10分間 加熱してDMFを揮散させ、該混合エラストマーと該混 合樹脂を充分に密着させる。こうして、1,2−ポリブ タジエンと無水マレイン酸変性低密度PEの混合エラス トマーの成形体表面に密着した、厚さ約20μmの熱可 塑性ポリウレタンとポリフッ化ビニリデンの混合樹脂の 皮膜が形成される。 【0020】 【発明の効果】以上のように、本発明による非極性エラ ストマーの極性樹脂皮膜形成方法は、 (イ)ハロゲン化処理を必要としないため、製造工程の 簡素化、処理設備の削減を実現するもので、すなわち、 コストダウンにつながる。 (ロ)エラストマー成形体の分子構造中に無水マレイン 酸が存在するという条件を満たす限りにおいて、使用で きる熱可塑性エラストマーの種類は豊富である。などの 優れた効果が得られるものであり、具体的用途として、 優れた褶動性、耐摩耗性、柔軟性を要するグラスランチ ャンネルやブーツの製造など、その応用範囲は広い。
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