口腔外科 領域の感染症 に対す るSultamicillinの 使 用経験

VOL.33
CHEMOTHERAPY
S-2
817
口 腔 外 科 領 域 の 感 染 症 に 対 す るSultamicillinの
吉増
秀 實 ・橋 本
賢 二 ・百 瀬
文 雄 ・天 笠
使 用経 験
光 雄 ・塩 入
重 彰 ・塩 田
重利
東京 医科 歯 科 大学 歯 学 部 第1口 腔 外科 学 教 室
口腔 外科 領 域 の感 染 症11例 に,sultamicillinを
効4例 で1有 効 率 は100%で
あ っ た。副作 用 として は下 痢 が1例 認 め ら礼
剤投 与前 後 に臨 床検 査 を行 った6例 中1例 にGOTの
Sultamicillinは,1979年
ampicillin(ABPC)と
(SBT)を
米 国Pfizer社
臨床 検 査 異常 と して は,本
軽 度 の上 昇 が認 め られ た。
で開発 された
β-lactamase阻
Fig.1
害 剤sulbactam
Chemical
structure
of
sultamicillin
tosilate
エ ス テ ル 結 合 させ た 半 合 成 経 日 β-ラ ク タ ム 抗
生物 質 で,生
SBTの
投 与 し以下 の 結 果 を得 た。治療 成 績 は 著効7例,有
体 内 で 加 水 分 解 さ れ 遊 離 し たABPCと
相 互 協 力 作 用 を 期 待 し た"mutualprodrug"で
る1)。
本 剤 はFig.1の
あ
よ う な 構 造 式 を も っ て お り,従 来 の
合成ペ ニ シ リ ン 系 薬 剤 と比 べ,β-lactamase産
す る抗 菌 力 が 増 強 さ れ,ま
たSBTの
生菌に対
抗 菌 力 を加 え 一 層
広い抗 菌 スペ ク トル を有 し て い る 。 今 回,わ
腔領域 の 感 染 症 に 対 し 本 剤 を 投 与 し,そ
り行 った。 す なわ ち,そ の 時 点の 合 計点 数 を投 与開 始 日
れ わ れ はU
の効 果 につ い て
検 討 を加 え た の で 報 告 す る 。
1.対
1.対
以上0.7未 満 を有 効,0.7以
III.治
象 お よび投 与 方 法
和58年4月
よ り11月
ま で の8カ
東京 医科 歯 科 大 学 歯 学 部 附 属 病 院 第1目
た11腔 領 域 の 感 染 症 患 者11例
月間 に
腔 外 科 を受 診 し
でlTable1の
日本 口腔 外
科学 会 の 「歯 科 日 腔 外 科 領 域 に お け る 抗 生 物 質 の 効 果 判
は8例 中 著効6例,有
著効1例,有
満 を著効,0.3
上 を無効 と した3)。
療
成
績
対 象症例11例 の 治療 効 果 は,Table2の
象
対 象症 例 は,昭
の合 計点 数 で 除 した 値(評 点比)が0.3未
如 く歯 周 炎 で
効2例 で あ り,顎 骨 炎3例 では,
効2例 で1全 体 では11例 中 著効7例,有
細 菌 学 的 検 索 に よ る と,4例
の 膿 汁 よ りStreptococ-
定に 関 す る 委 員 会 案2)」に 従 い 評 点 し,投
与 開 始 日に歯 周
cusを 検 出 して お り,こ の うち2例 にNeissenaが
炎に つ い て は10点 以 上,顎
以 上 の もの で あ
に検 出 され た。
骨 炎 で は15点
る。症 例 の 内 訳 は,Table2の
性8例,女
性3例,年
原疾 患 は 歯 周 炎8例,顎
2.投
如 く で あ り,性
齢 は17歳
∼78歳
骨 炎3例
別 では 男
で あ り,
で あ る。
与 方法
1in375mg含
有)を2∼4回
∼11日,総
同時
副作 用 は,39歳 男性 歯 周 炎の1例 に 下痢 が み られ た。
本例 は1日4錠
を2分 服 し服 用2日 目に 水様 便 が み られ
たが,1日3錠
を3分 服に 減 量 し,2日
後 に軽 快 した。
本 剤使 用前 後の 一般 血 液 検 査な ら びに 臨床 生 化学 的検
投 与 方 法 と し て は,1日3∼4錠(1錠
数は3日
平 均44歳
効
4例 で全例 有効 以 上 で あ った 。
査を6例 につ い て行 った。 その結 果 はTable3の
中sultamicil-
に 分 け 経 口投 与 した 。投 与H
投 与 量 は9錠
∼33錠,平
均17.7錠
で
あ り,33歳 男性 歯 周 炎の1例 でGOTが
如 くで
術 前 の321.U.よ
り術 後5日 目に601.U.と 軽 度 の上 昇 が み られ た 。こ の1
例 を除 き,そ の他 の症 例 では特 に臨 床 検 査値 に 異常 は認
あ る(Table2)。
II.効
め られて い な い。
果 判 定 基 準
治 疲 効 果 の 判 定 は,Table1の
日 本 口腔 外 科 学 会 の
「
歯 科 口腔 外 科 領 域 に お け る 抗 生 物 質 の 効 果 判 定 に 関 す
る委 貝 会 案 」 に 従 い13項
目 の 臨 床 症 状 に つ い て 評 定 し,
投与 開始 日 と投 与3H目
な ら び に511目
との 評 点 日 に よ
IV.総
ABPCは,抗
括 お よ び考 察
菌 スペ ク トルが広 く,ま た強 力 な抗 菌 力
と高 い安 全 性 の ため従 来 よ り歯 科 口腔 外科 領域 の 感染 症
に主 として経 日剤 と して頻 用 され て きた4)。しか し,近 年
818
Table
1.
JUN.1985
CHEMOTHERAPY
Body
1
Criteria
6
temperature:
0:
Below
1:
Over
3'7•Ž
2:
Over
37.5•Ž
3:
Over
38•Ž
for evaluation
Induration:
3TC
Below
37.5•Ž
Below
38•Ž
7.
2.
Systemic
3.
1:
No
2:
Yes
of symptoms
0:
No
1:
Induration
palpable
2:
Induration
accompanying
0:
No
1:
Spontaneous
2:
Severe
1:
No
0:
No
2:
Yes
1:
Yes
Erythema(Hot
a.
inside
No
2:
Gingivitis
of
4:
Gingivitis
of more
tion
b.
5.
1:
cavity:
0:
one
extended
outside
oral
to
or
two
than
the
8.
teeth
3 teeth
or
surrounding
inflammatissues
Erythema
outside
2:
Erythema
accompanying
of
oral
1: Opening
of the mouth
over 20 mm, below 30
of the mouth
over 10 mm, below 20
of the mouth
below
3:
cavity:
No
2:
Swelling
of
one
4:
Swelling
of
more
extended
outside
0:
No
1:
Swelling
: Extensive
oral
or
to
two
than
the
teeth
3
teeth
surrounding
cavity:
outside
swelling
of
oral
cavity
Opening
mm
feeling
9.
oral
0:
2
over 30 mm
cavity
hot
Swelling:
b.
of the mouth
mm
1:
tion
0 : Opening
2:
No
inside
Yes
Trismus:
cavity:
0:
a.
pressure:
0:No
feeling):
oral
pain
on swallowing:
c.on
4.
oral cavity
skin
spontaneous:
b.
Anorexia:
tense
Pain
a.
languor:
from outside
or
inflammatissues
Opening
Lymphnodes
10 mm
findings:
0:
No swelling
1:
Movable
2:
Non-movable
or swelling
without
pain
and pain on pressure
and pain on pressure
VOL.33
S-2
CHEMOTHERAPY
Table
Table
B: Before A : After
3
Laboratory
2
findings
Clinical
before
N. D. : Not determined
result
and
819
of sultamicillin
after
administration
of sultamicillin
820
CHEMO
THERAPY
JUN.
1985
本 剤に 対 す る耐 性菌 の増 加 に よ り,他 剤 へ の変 更 あ るい
本薬 剤 が 肝機能 に影 響 を及 ぼす もの で あ るか ど うかにっ
は他 剤 との併 用 を必 要 とす る場 合 も少 なか らず 認め られ
い ては も う少 し検 討 が 必要 で あ ろ う。 いず れに しろ,口
る。Sultamicillinは,こ れ ら耐1生菌 の対 策 と してPfizer
腔領 域感 染症 で用 い る短期 間投 与 で は,本 剤 に よる重篤
社 に よ り開 発 され たABPCと
害剤 の
な副作 用 は ほ とん どない と思 わ れ る。 以上 よ り,本 剤 は
エ ステ ル結 合 させ た半 合成経 口 β-ラクタム抗 生
口腔 領域 感染 症 の治 療 薬 として 有用 性 の高 い もの と考 え
SBTを
β-lactamase阻
物 質 で あ る。 本 剤 は 生 体 内 で 加 水分 解 さ れABPCと
SBTを
遊離 す る。SBTはABPCに
β-lactamase作
ABPCの
られ た。
対 す る 各種細 菌 の
V.
用 を不 可逆 的 に 阻 害 す る た め,本 剤 は
β-lactamase産
す る とと もにSBTの
語
口腔領 域 の 感染 症 の患 者11例 にsultamicillinを
生 菌 に 対 す る抗 菌 力 を 増 大
持 つ抗 菌 力 に よ り一 層広 い抗 菌 ス
臨床 成 績 で は,11例
(36.4%)で
今回わ
中著 効7例(63.6%),有
副 作 用 として下 痢 が1例 み られ 本 剤 との 関係 が 疑わ れ
た。また臨 床検 査 成績 に お い て,GOTの
性 につ い て検 討 を加 え た。
例 み られ た が
本剤 を投 与 した 口腔 領域 感染 症 は歯 周 炎,顎 骨 炎 の計
か有効 以上 であ1),ABPC投
軽 度の 上昇 が1
そ の他 重 篤 な副 作 用 は1例 も認 め られ な
か った。
効4例 と全例
文
与例 に関 す る従 来 の報 告4)
1)
に比 し きわめ て良 好 な成績 を示 した。
BALTZER,
B.;
E.
GODTFREDSEN,
また,細 菌学 的検 索 では,グ ラム 陽1生菌 が4例 に,グ
ラム 陰 性菌 が2例 に検 出 され た が
効4例
全例 有効 以上 であ った。
れ われ は 本剤 を口腔 領域 感染 症に投 与 し,有 効 性,赴
11例 であ り,治 療 成績 として著 効7例,有
投与
し,臨 床 効 果 を検 討 し次 の結 果 を得 た。
ペ ク トル を示 す。 した が って,本 剤 は 口腔 領域 感染 症 に
対 して も効 果 を期 待 で きる もの であ る。 そ こで
結
SEN
いず れ も著 効 あ るい
&
S.
lactam
は有効 であ っ た。
献
BINDERUP,
W.
von
HANSEN,
B.
NIELSEN
K.
VANGEDAL:
antibiotics
Mutual
and ƒÀ-lactamase
DAEHNE,
pro-drugs
, H.
W. O.
SOREN
of
fi-
inhibitors
.
J. Antibiotics33:1183-1192,1980
2)
副作 用 と しては下 痢 が1例 み られ た。 本例 は 本剤 を減
日本 口腔 外科 学 会抗 生物 質 効 果 判定 基 準検 討 委 貝
ら
会 報 告 書 。1973
量 す る こ とに よ り2日 後に 改善 したが,消 炎酵素 剤 を併
3)
用 してい るため,本 剤 との 因果 関係 は 「疑わ しい」 と し
た。 ま た本 剤 使 用 前 後 の 臨 床 生 化 学 的 検 査 で,1例
GOTの
1日3錠
4)
軽 度上 昇 がみ られ た。本例 は本 剤単 独 使 用例 で
IN
HIDEMI
TERUO
YOSHIMASU,
AMAGASA,
The First Department
WITH
OF
KENJI
SHIGEAKI
1982
高 田 和 彰, 伊 藤 実, 吉 村 安 郎, 延 藤 直 弥 , 石 川 武 憲:
い て 。 歯 界 展 望31:
EXPERIENCE
INFECTIONS
判 定 基 準 の 作 製 に つ い て。 歯 薬 療 法
125∼144,
口 腔 外 科 領 域 に お け るViccillinの
を3分 服 し5日 間投 与 した もの であ る。 本例 は
その 他 の検 査 につ い ては 投 与後 に 異常 を認 め てお らず,
CLINICAL
久 野 吉 雄:
1:
に
SULTAMICILLIN
ORAL
HASHIMOTO,
SHIOIRI
of Oral Surgery,
使用成績につ
19∼22 , 1968
and
REGION
FUMIO
MOMOSE ,
SHIODA
SHIGETOSHI
Faculty of Dentistry
Tokyo Medical and Dental University
Sultamicillin was administered to 8 cases of periodontitis and 3 cases of osteitis of jaw .
Clinical results of sultamicillin were excellent in 7 cases and good in 4 cases. Clinical effectiveness of sultamicillin was 100% in the infectious diseases of oral surgery in our study .
Slight diarrhea was noted in one patient after administration of sultamicillin as its side effect .
Loboratory examinations were done in 6 cases of this series, and a slight elevation of S-GOT was observed
in only one case.