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海洋科学技術 センター試験研究報告JAMSTECTR
4 (1980)
16. 高懸濁物濃度の海水の光学特性*1(第3報)
―懸濁物濃度と吸収係数,散乱係数の関係−
佐 々 木保徳 宗山
敬
横須 賀湾の海底堆 積物の 巻上り によって 汚濁した 海水の光学的性 質は, 粘土鉱物 の懸濁
液 がもつ 光学的 性 質に同じで あるとい うわれわれの知 見に基づい て,本研究で は粘土鉱物
の懸濁 液 を用いて, 光学的性 質の濃 度依存性 を調べ た。 今回は, 特に濃度 と吸収 係数およ
び散乱 係数の関係 を求め るこ とを主眼 においた。
散乱 係数は, あ る濃度 に達 すると, 増加 が鈍化し始め ること から, 多重散乱 が生じ始 め
ているものと 考えら れるo した がっ て,散 乱は,明 ら かに濃 度の 影響 が認 めら れる。 この
ことは, 多重散 乱の尺 度としてしばしば用いら れるOptical Density の測定 から も裏付 け
ら れた。
吸収 係数は,濃度 に対しほぼ直線的 な関 係が得ら れた。し かし,こ れからただ ちに,多重
散乱 による平均 光路長 の増大 が,吸収 に対し影響 を及ぼさ ないとい う結論 には なら ない。
また, こ れら の光学的 パ ラメー ターの性 質は, 反射 率にも反映 され, 反射率 が濃 度に対
し て必ず しも直線的関 係を示 さないとい う結果として現 われている。
Optical Properties of Seawater with
High Concentrations of Suspended Solids (Report 3),
Relationship of ScatteringCoefficientsand
Absorption Coefficientsto Suspended Solid
Concentrations
Yasunori Sasaki*2,Kei Muneyama*2
The optical properties of turbid seawater caused by the resuspension of
Yokosuka
Bay sediment
are almost same
as those
of
in the laboratory. In this work
the
suspension of
clay mineral
prepared
the concentration
dependencies
of the suspension's optical properties were studied using the
clay mineral.
Among
many
fundamental
optical parameters, scattering coefficients and
absorption coefficients were chosen, and an attempt was made to identify the
relationship between
the suspended
solid concentration and the two coeffici-
ents with the help of reflectivityand optical density.
*│ 本研究 は,受託研究「海洋遠 隔探査技術 の開発研究」の一環 として実施 した もので ある
O
*2 海洋保 全技術 部
Marine Environment Department
173
Scattering coefficients increase to some
Upon
reaching
this concentration,
scattering is expected
to come
often used as a measure
support
concentration
in a linear mode.
a less sharp increase occurs. Multiple-
about at this concentration.
Optical density,
for the multiplicity of scattering, also gave results in
of this hypothesis.
Absorption
coefficients are nearly in a linear relationship with the con-
centration. However,
we cannot come
immediately
to the conclusion that the
increase of the average light-pass length as a result of multiple-scattering has
no effect upon
The
apparent
the absorption coefficients.
properties of these optical parameters
are clearly reflected in the
optical properties of suspension, and the reflectivity of suspension
does not necessarily have a linear relation to the suspended
solid concentra-
tions.
1. まえがき
これまでに比較的散乱特性の強い海水(主とし
本 研 究 で は , 粘土 鉱 物 で 作 製 し た 懸 濁 系 の モ デ
て赤潮海水)および懸濁液について, Kubelka と
Munk のモデルを 用い て ,吸収係数と散乱係数を
行 った 。 今 回 は , 特 に 懸 濁 物 濃 度 と 吸 収 係 数 , 散
求め る方法およ び両係数の値 等につき検討してき
乱 係 数 の 関 係 を 求 め , オプ チ カ ル デ ン シ テ ィ
た.しかし,これらはいずれも濃度一定のもとに
測定したものであり .両係数の濃度に対する関係
についてはまだ定かではない.
( O ptical De nsity ) の 測 定 か ら多 重 散 乱 の お
一般に懸濁液は溶液と異なり ,散乱現象を もつ
ので ,濃度と吸収係数 .散乱係数の関係は複雑で
ル に よ っ て非 生 物 性 懸 濁 液 の 光 学 的 性 質 の 検 討 を
こ り 始 め に つ い て 検 討 し た 。1
本 研 究 の 実 施 に あ た って は , 干 葉 大 学 工 学 部 江
森 康 文 教 授 な ら び に 安 田嘉 純 助 教 授 に有 効 適 切 な
る ご 助言 を い た だ い た。 こ こ に厚 く お礼 申 し 上げ
ある.従来から多 くの理論および実験に基づいて , ま す 。
懸濁物濃度と吸収係数 ,散乱係 数の関係について
論じられてきたが ,結局.定まった見解は得 られ
ていない.
海洋の懸濁物は .大別すると生物性懸濁物と非
生物性(鉱物性)懸濁物があり .両者の光学的性
2。 理論
Kubelka-Munk の 理論から, Turbid Medium の透過率T9 }は。次式で表わされる。
質は ,第4報9りこ示すように.大きく異なるo 高
濃度の非生物性懸濁物を含む実海水につき,光学
的性質の測定を実 施したときの知見によると,粘
土 鉱物によ って作製したモデルについて,室内実
験 で測定した光学的性質に, きわめて類似し た結
果 が得られている.
174
ただし.
K; Turbid Mediumの吸収係数
S ; Turbid Mediumの散乱係数
a ; (K 十S )/S で 定義される定数
b;φΓ=
T で定義される定数
JAMSTECTR
4 (1980)
x ; Turbid Medium
である。
中 の光路長(厚 さ)
のと きの透
T urbid Medium の厚さが, X1
,x2
過率を それぞれtl .t2と すると ,次式のよ うにな
る。
一方,(2)式を平方すると,
a2 功ih (bSxi)-f 2ab sinhOcSxi)・cosh(bSx1)
とな る.
(10) 式と(13)式を次式 .
ここでTurbid Medium
の厚 さa;1
.x2が. 2 X1
=x2な る場 合を考え ると .
(3)
式は ,
a・sh2 (bSx1 ) ― sinh2 (bSxi ) = 1
に代入すると ,
と な る。
こ れをb2 につい て 整 理 す る と ,
の関 係 を 用 い ると ,( 4 )式 は ,
‥‥‥‥‥‥‥
‥
(14
)
し た が っ て(14 )式 か ら 透 過 率 の 測 定 だ け で ,
Ku・
belka-Munk
パ ラメ ー タ ー a お よ び b の 決 定 が ,
原理 的 に は 可 能 であ る 。 こ れ ら の a お よ び b の 決
と な る 。 そ こ で ,( 7 )式 に( 2 )
式 を代 入 す ると ,
定 が で き れ ば ,( 9 )式 で 散 乱 係 数 が 求 ま り 。さ ら
に。
つ ぎ のよ う に なる。
K = ( a − 1 ) ・S
に よ っ て 吸 収 係 数 の 決 定 が 可能 で あ る。
3.
装 置 お よ び測 定 方 法
図 1は 本 実 験 に 用 い た 装 置 の 概 略 を 示 す 。
測 光 器 は 阿 部 設 計 製2702
した がって
型 分 光 放射 計 (輝 度
計 型 ) で あ り 。 検 出 器 には 光 電 子 増 倍 管 を 用 い て
い る 。 水 槽 は 内 径25 cm, 深 さ60cm の 円 筒 型 で , 外
壁 に ア ル ミ ニ ウ ム箔 を 張 付 け て 使 用 し た 。 反 射 率
測 定 用 光 源 に は 東 芝 製 フ ラ ッ ド ラ ンプ (500W
)
を 使用 し た 。
ただし
で あ る。
ま た 光 源 強 度 の 測 定 に は 硫 酸 バ リウ ム を 塗 布 し
た 白 色 板を 使 用 し 。 そ の 表 面 の 放 射 輝 度 を 求 め た 。
さらに.
な お 。 こ の 白 色 板 の す べ て の 方 向 に 対 す る放 射 輝
度 係 数 を 全 波 長 域 に 亘 っ て 1と 仮 定 し た 。 透 過 率
( 4)式にbを乗じ ,( 5 )式 と( 6)式 の 関 係 を 用
い ると .
2ab
(J C- 12V, 50
‘W ) を 4 個 使 用 し た 。 な お , 拡
散 光 透 過率を 測 定 す る ため, 水 槽底部 に 拡散 板 を
面 面(bSx1)
cos h (bSxi)
十b2 ・cosh 2(bSx l )十b2・、9・涌2(bS
JAMSTECTR
測定 用光 源 には近 藤電 気 製プ ロ ジ ェク タ ー ランプ
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置 い た。
ん)こ
175
本実験で は,無機 懸濁質 として粘土 鉱物の モ ン
モ リロ ナイトを 用い た。十分粉砕し, 乾燥し たモ
ンモ リロ ナイト約 5 9を1口の精製水中に懸 濁さ
せ, 口? の メス シリンダー中で 約30min 静置し た。
そ の上層部の 懸濁液約300 m Q.
を とり,精 製水で希
釈して全容を30 口とし た。この段階で得 られ る懸
濁液 の濃度を 初濃度 とし, 所定 の測定を行ったの
ち, 濃度を順 次1/ 2倍に希 釈を続け, 初 濃度の
1 /32 の濃度 の懸濁液 までを 測定に供し た。
K ubelka - Munkのパラメ ーターは,原理的 には
(14) 式で求 められるが・濃 度が低 くなれば・(t f
tj)
の項 の誤差 が大きく なり・ b2 が負となる
こ ともあり うるため,本実験では反射 率R。
。を 測
定し, a = (l/R 。
。十R≫)/2 およびb=(l/R
。
。一心)
/ 2によ って求め た。
また懸濁物 濃度の 決定は, 初 濃 度 の 懸 濁 液 を
0. 45・m の ミ リポアフ ィル ターで 濾過し て求めた
結果, 初濃度の懸濁 液は78 ppm で あ っ た 。
4. 結果お よび考 察
図 2は各濃 度におけ る反射 率 R。と波長の関係
を 示 す。
濃度の表 わし 方は,78 PPm を32 と すれば, 本
実験 に供し た懸濁液濃 度は, 以 下,16, 8,4,
2
1。 分光放射計(輝度計型)spectral radiometer
(radiance-meter type)
2。 反射率測定用光 源 light-source for reflectance
measurement
3。 水 槽 water vessel
4。 透過率測定用光源 light-source for transmittance
measurement
5。 拡 散 板 diffuser
6. 7 ン プ amplifier
7. 記 録 計 recorder
およ び1の計 6段階 になり,今 後,こ れを もって
濃度を表すこ とと す る。
図 2からわか るように,粘土鉱物では500 ∼600
nm
図 1 測 定 装 置 の 概 略
Schematic sketchof measurement system
の波長域で,反射 率がやや 高くなってい るか,
全体 として,特 に著し い波長特性 が見られない。
植物プ ランクト ンな どの生物性 懸濁物に 富む海水
の反射率 R。は580 nm 付近およ び700 nm 付近 に
極大を もち, 400
∼450 nm お よ び670 nm 付近に
極小を もつ10)のに比べ れば,こ れが鉱物性 懸濁物
の特徴で あ る。一 方,濃度 8と 4の間で は反射率
の値に著しい変化 が認められる。
そこで反射 率変化の 様子を見 るため, 波長500
nm で 濃 度と反射率の 関係を示し たもの が図3で
あ る。こ の図から反射 率と濃度の間に は,必 ずし
も直線的 な関係 はないことが明 らかであ る。特に
濃度8付 近まで は,反射率 は 濃度とともに,ほ ぼ
懸濁液濃度は上から順 に32 , 16,8, 4, 2, 1 に対応する
直線的に増加す る傾向 にあ るが, 8付近を こえ る
Curves
と,反射 率の増 大が急 激に鈍化し 始め る。
centrati。ns 32, 16, 8, 4, 2 and 1 respectively
from
top to bottom
corresp 。nd to
反射率 は,懸濁系の内部で生じ てい る光学的過
程 の一現象的結果であ り, これを 本質的 にとらえ
るために は,濃度と吸収係数 ,散 乱係数の関係に
176
図 2 濃 度 と 反 射 率 の 関 係
Relation between
concentrations and reflectivities
JAMSTECTR
4 (1980)
ついて調べる必要がある。
図4は波長500nm
係を示す。
における濃度と吸収係数の関
吸収係数は濃度に対して, 直線的に近い状態で
増 大してい るか,これらの測定値の直線からのバ
ラツキが実験誤差によるものか,または本質的な
関係を示すものか,これだけでは明確で はない。
散乱によって平均光路長が大きくなることが, 吸
収に対しても影響を及ぼすとされてい るか,ここ
ではそれが明瞭には認められない。
図3 500 nm における懸濁物濃度と反射率の関
係
Relation between suspended solidconcentration
and reflectivity
at 500 nm wave-length
500nm における濃度と散乱係数の関係を示し た
ものが図5である。
散乱係数は懸濁物濃度が8付近に達す るまでは,
濃度に対して直線的な増加傾向を示しているか,
8付近よりも濃度が高くなると,散乱係数の増大
が急激に鈍化する傾向が認められる。このことか
ら濃度8付近から散乱に多 重性 が生じ始めている
と考えられる。
そこで,通常,散乱を有する系の多 重散乱のバ
ロメーターとして,しばしば用いられてい るオプ
チカ ル デ ン シ ティ について検討した。
オプチカル デ ンシティは通常ODと略記され,
次式で定義される。
図4 500 nm
'関係
における懸濁物濃度と吸収係数の
( 1)式 の透過 率を 変形 すると, つぎの ように な
Relation between suspended solidconcentration
and absorption coefficient at 500 nm wavelength
したが って
0. 4343 bs
χ− log(1 −Rj
.e ̄2 bs ゛ …
… a5 )
本実験では,
Rj ・ e ̄2bS
・ <く 1
と見做すこと ができ,第1項も比較的小さいため,
0D に最も寄与し ているのは第2項とな る。 さら
図5 500 nm
関係
における懸濁物濃度と散乱係数の
Relation between suspended solid concentration
and scatteringcoefficientat 500 nm wave-length
JAMSTECTR
4 (1980)
に第2項はつぎのようにな る。
図6は500nm における30 cmの厚さの懸濁液の透
過率と濃度の関係を示 す。この図では透過率は濃
度に対して完全な双曲線をなしている。これを1
mあ たりの透過率に換 算してオプチカル デンシ
ティを求めた。
177
suspended solid concentration
suspended solid concentration
図6 500 nm
係
における懸濁物濃度と透過率の関
Relation between suspended solidconcentration
and transmittanceper 30 cm at 500 nm wavelength
図7 500 nm における懸濁物濃度とオプチカル
デンシティの関係
Relation between suspended solid concentration
and optical density at 500 nm wave-length
図7は波長500 nm における懸濁物濃度とオプ チ
ついて測定を行った。さらに低濃度では懸濁液の
カル デンシティの関係を示す。
図 6の懸濁物濃度と透過率の関係 からは得 られ
光学特性 が異なること が十分考えられ,これにつ
ない知見が,図7では得られる。すなわち,濃度
8以下では,0D と濃度が直線的関係を示してい
るのに対し,8よりも高い濃度ではODの増大が
鈍化し,徐 々にこの直線からのずれが大きくなっ
てい る。一方,
(16)式で は定数であり,反射 率
R。は図3に示 す形状をしてい ること から,結局,
0 Dの増加の鈍化に:対 して,散乱係数 Sの増大の
割合の鈍化が最も寄与してい ること が明らかであ
り,多重散乱 が濃度とともに大きくな っていると
考えてよいであろう。
いては光学モデ ルの検討柴含めて,今後,さらに
研 究したい。
3: M
(1) Atkins,
J.T., 1965,
"The
scattering of light in turbid
of Delaware,
absorption
media",
University
Ph. D., 1965, chemistry
University Microfilms
(2) Billmeyer,
Inc., Ann
Jr., F.W.
Physical,
Arbor, Michigan.
Abrams,
R. L., 1973,
"Predicting reflectance and color of paint films
by Kubelka-Munk
analysis, I. Turbid
medium
theory", J. Paint Tech. 45 (579) 23
5. あとがき
この研究によって,懸濁液を透過する光の散乱
が濃度の影響を 強く受けることが認められた。光
の吸収は,特に顕著な濃度依存性は認められなか
った。一般には,懸濁系の光学的取扱いで散乱に
よ って平均光路長が増加し,吸収もその影響を受
(3) Billmeyer,
Jr., F.W.
Phillips, D.
"Predicting reflectance and color of paint films
by Kubelka-Munk
analysis, IV.
Kubelka-Munk
scattering coefficient", J. Paint Tech. 48 (616) 30
(4) Butler,
W.L., 1962, "Absorption
of light by
turbid materials", J. O. S. A. 52 (3) 292
けることは今や通則である。吸収の変化と直接結
(5) Caldwell,
びつけることができるパラメーターを 用いて,詳
cients from transmittance",
B.P., 1968, "Kubelka-Munk
6) Duntley
った 。さらに生物性懸濁物,特に植物プ ランクト
ンに富む海水の懸濁液について測定し,この測定
7) Kubelka
結果と比較することは意義がある 。
また本研究では比較的高濃度の範囲の懸濁液に
Zeitschr. fur techn. Physik (12) 593
S.Q., 1942,
"The
optical proper-
ties of diffusing materials", J.O.S.A.
Beitrag zur
P. Munk
Optik
coeffi-
J. O. S. A. 58 (6) 755
細に調べる必要があ る。
本研究では,粘土鉱物懸濁液につい て測定を行
178
G., 1976,
F.,
der
1931,
32 (2) 61
"Ein
Farbanstriche",
JAMSTECTR
4 (1980)
(8) Kubelka
P., 1948,
"New
contributions
to
the optics of intensely light-scattering materils,
Part r\J.O.S.A. 38 (5)
(9) 佐 々木保徳,宗山敬, 1979 バ 高懸濁物質濃
度の海水の光学特性( 第4報),生物性懸濁物と
JAMSTECTR 4 (1980)
非生物性懸濁物の光学特性の比較”JAMSTE
CTR 4, 181
佐 々木保徳,宗山敬,江村 男, 1979 ご 反
射率測定 による海水,海底の光学定数測定第2
報”JAMSTECTR 3,
110
179