Page 1 漁場利用と漁業規制 人文地理第39巻第6号 (1987) 一和歌山県

人 文 地 理 第39巻 第6号
(1987)
漁場 利用 と漁 業 規 制
みな べ
-和歌山県南部町における刺網漁業を事例 として-
田
I
和
正
孝
実 情 で あ る。
一 方, 漁 業 者 の 漁 場 環境 の使 い方 とい う視 点
は じめ に
に た つ 漁 場 利 用 の 問 題 に つ い て は, 多 くの 研 究
漁 場 の利 用 は, 水 域 の深 浅 に応 じて 立 体 的 で
あ る。 そ の上, 漁 撈 手段 の種 類 や そ の発 展 の 相
者 が 注 目 して い た に もか かわ らず,
これ まで ほ
違 に よっ て, 漁 場 は た えず そ の広 狭 深 浅 に種 々
とん ど解 明 され て い な い。 た とえ ば, 河 野 通 博
の 変化 を もつ。 そ こで は入 会 関 係 が 広 汎 に存 在
は, 漁 場 用 益 形 態 の研 究 中 に お い て,「 一 定 水
す る。 した が っ て漁 場 利 用 は, この入 会 や 漁場
面 内に す む 水 産 生 物 集 団 は 必ず し も同一 種 類 に
紛 争 と関連 す る1)。
藪 内芳 彦 に よ る中 部 日本海 沿
よ って 構 成 され て い るわ け で は な く, 各 種 の生
岸漁 村 の沖 合 入漁 ・出漁 景 観 の生 態 に 関 す る研
物 群 か ら成 って お り, ほ ぼ 永 久的 にそ の漁 場 内
究 〔
注1) (a)〕
や 河 野 通 博 に よ る 瀬 戸 内海 の 漁 場
に す む もの も あ るが, 季 節 的 に そ の水 面 に 来 遊
2)
用 益形 態 の研 究 な どは, 以 上 の よ うな 入 会 や漁
して は また 去 って ゆ く集 団 もあ る。 また, 浅 い
場 紛争 と漁 業 権, 漁 業 制 度 を と り扱 った もの で
所 に す む 集 団 もあれ ば, 海 底 にす む 集 団 もあ る。
あ る。
岩 礁 を 好 む も の も あれ ば, 砂 質 の海 底 を 好 む も
漁 場 利 用 あ るい は漁 場 利 用 形 態 の 研 究 は, 藪
の, 藻 場 を 好 む もの と, さ まざ ま のす み 分 け も
内や 河 野 以 降 も, 水 産 地 理 学 研 究 の 主要 な テ ー
行 な わ れ て い る。」 と, 漁 場 に おけ る 生 物 環 境
マ の ひ とつ とな って い る。 近 年 で は, 漁業 経 済
の多様性を述べ る 〔
注2) 1頁〕。そ して, 一 定 海
3)
学 で と りあげ られ る漁 場 利 用 が 意 味す る と ころ
面 に す む 水 産 生物 集 団 が 多様 で あ るが ゆ えに,
の, 漁 業 権 や 漁 業 制 度 を は じめ, 漁獲 量 を通 し
これ に 応 じて 多数 の 漁 業 者 が一 定 水 面 を 各 種 類
てみ た漁 場 の有 効 利 用, 地 域 漁 業 や 漁 村 の再 編,
の 漁 法 に よ って 共 同 して利 用 す る形 態 が 生 まれ
振 興, 資 源 管 理 な ど も, わ ず か な が ら地 理 学 に
る と論 じ, これ に 注 目 して 漁場 用 益 形 態 の研 究
〔
注2〕
4)
お い て扱 わ れ る よ うに な って きた。 ただ し, こ
を 進 め る。 漁 場 用 益 の 問 題 は海 面 と云 う空 間 を
れ らの テ ー マを 地 理 学 的 に ど の よ うに理 解す べ
漁 業 生 産 者 た ちが い か に 共 同 で利 用 して いた か
きか とい う分 析 の方 法 や, 分 析 の た め の 技術 的
とい う点 で, 陸 上 に おけ る水 利慣 行 や 牧 野 の農
問題 に つ い て は, 十 分 に論 議 され て い な い の が
民 的 利 用 の問 題 と と もに 地 理 学 研 究者 の立 場 か
1)
藪 内芳 彦(a)『漁 村 の生 態-人
2)
3)
藪 内芳 彦(b)「 日本 海 岸 の漁 村 を め ざ して」, 地 理3-3,
1958, 373-379頁。
河 野 通 博 『漁 場 用 益 形 態 の研 究 』, 未 来 社, 1961。
米 田一 二 三 「沿 岸 域 に おけ る漁 場 利 用 の構 造 」, 漁業 経済 研 究28-1・2,
1983,
文 地 理 学 的 立 場 』, 古 今 書 院, 1958, 23-24頁。
4)
宮 沢 晴 彦 「『漁 場 利 用 問題 』 を め ぐる漁 業 経済 研 究 の動 向 と課 題 」, 農 学 進 歩 年 報30,
た と え ば, 以 下 の よ うな論 文 を あ げ る こ とが で き る。
出 口晶 子 「湖 沼 漁 業 に お け る 資 源 の 管 理 と漁 活 動 の 季 節 的配 分-諏
-94頁。
15-35頁。
135-139頁。
訪 湖 の ワ カサ ギ 漁 」, 人 文 論 究34-2,
町 村 茂 子 「あ ま漁 業 に お け る資 源 管 理 の展 開 」, お茶 の水 女 子 大 学 人 文 科学 紀 要37,
- 51-
1983,
1984, 19-40頁。
1984,
69
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第6号
(1987)
ら も解 明 の義 務 が あ る問 題 と して と らえ られ る
漁 場 利 用 形 態 を と りあ げ て解 明す る こ とを試 み
わ け で あ る5)。
る もので あ る。
河 野 の指 摘 か らは, 他 方 に お い て, 漁 場 環 境
II
自体 の利 用 に 関 す る地 理 学 的 研 究 の可 能 性 を 提
起 す る こ とが で き る。 す な わ ち, 一 定 水 面 にす
調査対象地域の概要
南 部 町 は和 歌 山県 の中 部 に 位 置 し, 太 平 洋 に
む 水 産 生 物 集 団 の棲 息 状 況 や 移 動状 況 に は, た
面 す る (第1図)。 沿 岸 域 に は 水 深150∼200mに
とえ ば風 や うね り, 潮 流, 餌 の 状態 な どさ ま ざ
まで達 す る岩 礁 性 の海 底 が 発 達 し, 中底 層 魚 の
ま な条 件 が 関 与 す る。 した が って, 魚 の数 や 種
いわ ゆ る磯 魚資 源 の棲 息 場 所 お よび 産卵 場所 が
類 を は じめ と して, 天 候, 季 節, 月齢 な どが い
広 く形 成 され て い る。 さ らに, 東 シナ海 陸 棚 縁
ず れ も, 漁 業 者 が 水 産 生 物 を 利用 す る場 合 に 影
辺 部 を北 上 し, 九 州, 四 国 を 通 って東 方 に流 動
響 を お よぼ す。 こ の よ うな い わ ば 生態 的 条 件 に
す る黒 潮 が沖 合 を 通 過 す る。 そ して, この黒 潮
対 応 して 漁 業 が 実 際 に どの よ うに お こなわ れ て
か ら派 生 して沿 岸 域 に 流 入 す る 黒潮 分 派 が あ っ
い る のか, 担 い 手 た る漁 業 者 は漁 場 環 境 を ど の
て, 沿 岸 水 帯 との間 に 潮 境 や 渦 流域 が形 成 され
よ うに 利 用 し, さ らに どの よ うな技 術 的 適 応 が
る。 こ こに は イ ワシ類, ア ジ, サバ 類 等 の沿 岸
み られ る のか,
性 回遊 魚類 も多 く分 布 す る。
7)
とい った 問 題 の解 明 が考 え られ
6)
るわ け で あ る。
南 部 町 に は南 部 町 漁 業 協 同 組 合 が 組織 され て
い る。1949年
以 上 の よ うに み るな らば, 地 理 学 的 な漁 場 利
(昭和24) の漁 業 法 改 正 以降,
西
用 形 態 の 研 究 は, (1)経済 学 的側 面 か らみ た 漁 場
隣 の岩 代 村 に岩 代 漁 協, 南 部 町 南部 に南 部 浦 漁
利 用 形 態 の 研 究, (2)いわ ば生 態 学 的 な面 か らみ
協, 同町 堺 に堺 浦 漁 協が 組 織 され て いた。1953
た 漁 場 利 用 形 態 の 研 究, の両 面 か ら成 り立 つ と
年 (昭和28) に は南 部 町 と岩 代 村 が 合併 したが,
考 え られ る。 この 両 者 は さ まざ まな レ ヴ ェル で
各 漁 協 は並 存 した。1965年 (昭和40) に な っ て3
密 接 に 関 係 す るで あ ろ う。そ の ひ とつ と して,
漁 協 が合 併 し, 新 た に 南 部 町 漁 協 が 成立 した。
生 態 学 的 な 漁 場 利用 形 態 に は漁 業 権 や 漁 業 制 度
現在, 堺地 区 に 本部, 南 部 地 区 に 支 所, 岩 代地
上 の諸 規 制 が 関与 し, また漁 業 者 間 の漁 場 利 用
区 に連 絡 所 が 設 置 され て い る8)。
た だ し, 地 先 の
に つ い て の慣 行 の 影響 も認 め られ る ので は な い
共 同漁 業 権 域 は, 合 併 以 後 も旧慣 に基 づ いて,
か,
各 地 区 ご とに管 理 され て い る。 各地 区 の漁 業 者
とい う問 題 を あ げ る こ とが で きる。
本 稿 は, この 問 題 提起 に対 して答 え るた め に,
生 態 学 的 な 面 か らみ た漁 場 利 用 形 態 と資 源 の管
が 他 地 区 の権 域 へ 入 漁 す る こ とは, 入会 区域 を
除 い て, 認 め られ て い な い。
理 を 目的 とす る漁 場 利用 制 度 とが いか に 関 連 し
現 在 の漁 協 組合 員 数 を 地 区 別 に み る と, 堺 地
て 実 際 の 漁 場 利 用 を 展 開 せ しめ て い る のか を,
区: 正 組 合 員193名,
和 歌 山 県 南 部 町 内 の3地 区 に お け る刺 網 漁 業 の
区: 正 組 合 員69名,
5)
6)
准 組 合員5名,
准 組 合 員20名,
南部地
岩 代 地 区:
河野通博 「専用 漁業 権漁場における共同用益 の諸形態-瀬 戸内海 水域を中心に」,史林45-4,
1962, 107頁。
田和 正孝 「
越智諸 島椋名 における延縄漁業 の漁場利用形態-水 産地理学 における 生態学的研究の試み」, 人文 地理33
-4, 1981, 25-45頁。
田和 正孝 「水産地理学 における生態学的研究 の一試論-越 智諸 島椋名 におけ る一本釣漁 の漁場利用の場合」, 地理学
評論56-11, 1983, 735-753頁。
田和正孝 「沿岸漁場利用形態 の生態学的研究-そ の意 義 と方法 をめ ぐって」,人文地理36-3,
1984, 25-45頁。
7) 花岡藤雄 「南西地区の まき網漁場における短期 の海 況変 動 と漁況について」, 南西海区水産研究所研究報 告5, 1972,
11頁。
8) 清水静志 「
南部町漁協」(和歌 山景 ・和歌山県下水産物流通状況調査団編 『
関西 国際空港開設に伴 う, 和歌 山県 にお
け る水産物流通への影響 とその課題に関す る調査研究』,和歌 山県, 1985), 55頁。
-52-
漁 場 利 用 と漁 業 規 制 (田 和)
第1表
539
漁種 別 経 営 体 数 (1986年)
(南部 町漁 協でのききと りに よる)
正 組 合 員37名,
准 組 合 員118名
とな って い る
(1986年)。
漁 港 は, 堺 漁 港 が 第2種 漁 港, 南 部, 岩 代 漁
9)
港 が 第1種 漁 港 で あ る。 堺 漁 港 の規 模 が 最 も大
き く, 船 溜, 荷 捌 施 設, 製 氷 ・貯 氷 施設, 駐 車
場 な ど, 諸機 能 の 整備 も 進 んで い る。1970年
(昭和45) か らは 南 部 漁協 地 方 卸 売 市 場 が 開設 さ
れ て お り, 南部, 岩 代 地 区 の漁 獲 物 の ほ とん ど
が, 各 地 区 の 集荷 場 へ水 揚 され 計量 され た の ち,
トラ ッ ク便 で堺 の本 部 へ 送 られ る。
漁 種 は, 中型 ま き網, 敷 網 (棒受網), 小 型 底
曳 網, 機 船 船 曳 網, 刺 網, 一 本釣, 延 縄 な どで
あ る。 第1表 に は漁 種 別 経 営 体数 を示 した。 刺
網経 営 体 が96と 最 も多 く, 全 体 の56%を
第2図
占め る。
は各 漁 種 の漁 期 お よび操 業 漁 船 数を 示
した もので あ る。 刺 網 の主 た る漁 期 は秋 か ら翌
年 の春 にか け て の三 枚 磯 建 網 漁期 で あ る。 この
時 期 に は沿 岸 域 に 回遊 性 魚 種 が 少 な くな る こ と
か ら, 刺 網 が 主 要 な漁 種 とな る。 漁 獲 対 象 は,
イ セ エ ビ, ヒラ メ, マ ダイ, そ の他 の磯 魚 で あ
る。 漁 期 中, 175隻 が 稼 動す る。 地 区別 うちわ
け は, 堺地 区140隻,
南 部地 区15隻, 岩 代 地 区
20隻 で あ る。4∼5月
頃 か らは ほ とん どの 刺 網
漁 業 者 が ま き網, 棒 受 網 に着 業 す る。 夏 季 中 も
ひ き続 き刺 網 を お こな う漁船 数 は20隻 前 後 で あ
る。 これ らは 一 枚 刺 網 に よる カ マ ス漁, 三 枚 磯
第1図
9)
調査対象地域 の位置
打 網 に よる タ チ イ カ (ア オ リイカ) 漁 な どを お こ
これ らのほかに, 南部地区 内にも う1港 大 目津漁港 (第1種) があ る。
-53-
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第39巻
第6号
(1987)
(き き と りに よ り作 成)
第2図
漁種 別 漁期 と操 業 漁 船 数 (1985年)
第2表
注) ()
漁種 別 漁獲 高 (1982∼1986年)
内は%
(南部 町漁協資料 に よる)
な う。以上 の よ うに, 夏季 に は ま き網, 棒 受 網,
す る多 獲 性 魚種 の うち, ア ジ 類を 除 くイ ワ シ,
秋 ・冬 ・春 季 に は刺 網 漁業 に従 事 す る とい うの
サバ 類 の 魚価 が安 値 で あ る こ と, これ に対 して
が, 南 部 の 漁 業者 の 最 も典 型 的 な就 業 暦 とい え
刺 網 の漁 獲 対 象 は 魚価 の高 い 魚種 を主 体 と して
る。
い る こ とを あ らわ して い る。 しか も, 秋 ・冬 ・
10)
第2表 は, 最 近5年
間 の漁 種 別 漁 獲 高 を 示 し
春 場 の刺 網 漁 が, 各 漁 家 の 漁 業経 営 に お いて も
た もの で あ る。 ま き網 が各 年 の水 揚 量 の75∼80
重 要 な漁 種 で あ る こ とが理 解 で きる。
%を 占め て い る。 漁 獲 対 象 が ま き網 と重 複 す る
III
敷網 (棒受網) に よる水 揚 量 を これ に 加 え る と,
刺 網 漁 業 の主 要 な漁 場 は, 1950年 代 まで は 地
夏 季 に操 業 さ れ る これ ら両 漁 種 が 年 間 総 漁獲 量
に 占め る割 合 は85∼90%に
お よぶ。 これ に 対 し
て 刺 網 の漁 獲 量 は全 体 の3∼4%に
先 の岩 礁 地 帯 で あ った。 操 業 に は小 型 の無 動 力
す ぎな い。
漁 船 が 使 用 され た。
1950年 代 後 半 に な る と, そ れ まで の綿 糸 製 漁
しか し, 金 額 的 に は ま き網 が 年 間 総 額 の34∼40
%で あ る の に対 して, 刺 網 は24∼34%で
刺 網 漁 業 の 技 術革 新 と漁 場 利 用
あ り,
網 にか わ って, 化 学 繊 維 製 の漁 網 が三 重 県 方 面
近 年 で は ま き網 に匹 敵 す る漁 獲 金 額 を あ げ て い
か ら導 入 され, 急 激 に 普 及 しは じめ た。 従 来 の
る。 この よ うな状 況 は, ま き網, 棒 受 網 が 漁 獲
漁 網 に比 して 漁 獲 強 度 が 大 きい こ とか ら, 各 漁
10)
た と え ば, 1982年 の 年 間 平 均 魚 価 を 魚 種 別 に み る と, ま き網, 棒 受 網 に よ る ア ジ450円/kg,
88円/kg,
刺 網 に よ る イセ エ ビ5,827円/kg,
ヒラ メ4,285円/kgと
-54-
な って い る 〔注8),
62-65頁
サ バ87円/kg,
〕。
イ ワシ
漁 場利 用 と漁 業 規 制 (田和)
541
家 は生 産 量 の増 加 をみ た。 この化 繊 製 漁 網 の導
な って い る。 また, 魚 群 探 知器 は, 新 漁 場 の開
入 に よる好 況 が 原 因 とな っ て, 刺 網 に 新 規 に 着
拓 に お い て も効 果 的 で あ った といわ れ て い る。
業 す る漁家 が増 加 した。
揚網 時 に 使 用 す る 自動捲 揚機 (ネ ッ トホー ラ
ー) が導 入 され た の も, 1970年 代前 半 か らで あ
1970年 代 に 入 る と, 漁 業 技 術 に一 層 の革 新 が
み られ る よ うに な った。1960年 代 か ら徐 々に 導
る。 そ れ まで 揚 網 に は2∼3人
入 され て きた 魚群 探 知器 の使 用 も, 1970年 代 に
と した。 しか し, 自動 捲 揚 機 の 普 及 に よっ て,
の 労働 力を 必 要
入 って 本 格化 した。 これ は 魚群 を探 す とい うよ
船 上 で の 揚 網作 業 は軽 減 され る よ うに な り, 現
りもむ しろ, 刺 網 の操 業 に好 適 な水 深 お よび 海
在 み られ る よ うな1人 乗 りに よ る操 業 形 態 が 定
底 の起 伏 の 状 態 を 知 る 目的 で使 用 され る場 合 が
着 した。 この ほ か近 年 で は 方 向 探知 器 の搭 載 も
多 か った。 か つ て は 錘 の つ い た糸 を 海 底 に まで
本 格化 して い る。
入 れ る こ とに よ って 水 深 を 測定 し, 漁 場 の位 置
以上 の よ うな動 き に呼 応 して, 漁 船 も1970年
を ヤマ タ テ法 に よ って 知 覚 した漁 業 者 も, 現 在
頃 か ら無動 力船 が急 減 し, これ に かわ って動 力
で は魚 群 探 知 器 に 基 づ く知識 を 中心 と し, これ
船 が 主体 とな って きた (第3表)。 さ らに 動 力漁
に 旧来 の技 術 を 加 え る こ とに よ って漁 活 動 を 行
船 に つ い て い うと, 1ト ン未 満 層 ・1∼3ト
第3表
ン
漁船隻数の変化
(1963, '68, '73, '78は漁 業 セ ンサ ス, '83は 和 歌 山 県 漁 業 地 区 別統 計 表, '86は 南部 町 漁 協 資 料 に よる)
第4表
注)
地 区別 漁 船 隻 数
(1986年)
堺地区の5∼10ト ン層以上の漁船はま き網漁船, 南部地 区 の3∼5ト
船であ る。(南
-55-
ン層以上の漁船 のほ とん どは機船船曳網漁
部町漁協資料に よる)
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地
理
第39巻
ン層,
(1987)
・白浜 漁 協 (以上 白浜町),
層 が 数 で は 依 然 と して 多 い が, さ まざ ま な機 材
の装 備 に 有 利 な3∼5ト
第6号
日置 漁 協 (日置川町),
5∼10ト ン層 が
印 南 町漁 協 の8組 合 で あ る。 た だ し, 南 部 の漁
増 加 す る傾 向が み られ る。 この よ うな漁 船 の大
業 者 は許 可制 施 行 以前 よ り印 南, 御 坊 方面 の沖
型 化 は 沖 合 域 へ の 出 漁 を 可 能 と し, また 捲 揚 機
合 で も操 業 して い たた め,
に よる揚 力 の 増 大 は 水 深200mに
郡 日ノ岬 正西の線 と同郡切 目崎正西 の 線 とにはさま
近 い 水 域 まで
れた海域) へ の入 漁 も,
を 操 業 可 能 な 漁 場 範 囲 に 含 め る な ど, 新 しい 漁
第4ブ
ロ ッ ク (日高
同 ブ ロ ッ ク内 の関 係 漁
11)
場 利 用 形 態 が 展 開 しは じめ て い る。 ただ し, 刺
業協 同 組 合 内 の 申 し合 わ せ 事 項 と して, 認 め ら
網 漁 船 の大 型 化 傾 向が み られ るの は 堺地 区 に限
れ て い る。
12)
つ ぎに 第5ブ
定 され て お り, 南 部, 岩 代 両地 区 の漁 船 は依 然
と して1ト
ン未 満 層 が 主 力 で あ る こ とに は注 意
ロ ッ クの 協定 内 容 を参 考 に しな
が ら, 刺 網 の操 業 に関 す る規 制 に つ い て ま とめ
しなけ れ ば な らな い (第4表)。
て み よ う。
この協 定 で い う刺 網 漁 業 とは, 三枚 刺 網 漁 業
IV
操 業 に対 す る規 制
と よば れ る, 二 重 以上 の網 地 を重 ね 合わ せ た も
の を使 用 す る漁 業 で あ る。 南 部 町 で は磯 建 網 お
刺 網 漁 業 は, 前 述 した よ うに, 1950年 代 まで
は 県 下 全 域 の地 先 水 域 で 自由 に操 業 で きた。 そ
よび 磯 打 網 が これ に該 当す る。
まず 操 業 期 間 の制 限 に つ い て で あ るが, 操業
う した な か で 化 学 繊 維 製 の漁 網 が普 及 し, 生 産
力 が 高 まる と と もに, 新規 に着 業 す る漁 船 が増
期 間 は9月16日
加 した。 そ の た め1965年 (昭和40) に は, 県 は,
これ は南 部 の刺 網 漁 業 の 主要 な漁 獲 対 象 のひ と
か ら翌 年 の4月30日
まで で あ る。
磯漁 資 源 の 保護, 漁 業秩 序 の 確立 な どを 期 して,
つ で あ る イ セ エ ビが, 和 歌 山県 漁 業 調 整 規 則 第
刺 網 漁 業 を 自 由漁 業 か ら知 事 許 可 漁 業 へ と切 り
35条 の 「水 産 物 の採 捕 に 関す る禁 止 期 間 」 の 中
替 えた。 許 可 権数 は 当 時漁 具 を有 す る者 の数 に
で, 禁 漁 期 間 を5月1日
制 限 され た。 この数 は 現在 もほ とん ど変 化 して
め られ て い る こ とに 合 わ せ た もので あ る。 た だ
い ない。 南 部 町 漁 協 内 の 許 可 権数 は175件 (1984
し, 田辺 市 沖 島 か ら正 西 の線 以南 の海 域 に つ い
年) で あ る。
て は 操業 期 間 は10月20日 か ら翌 年 の4月30日
か ら9月15日
まで と定
ま
で とな って い る。 また ブ ロ ッ ク南 部 の通 称 ケ タ
刺 網 漁 業 は 各地 で 多様 な操 業 形 態 を 呈 す る こ
13)
とか ら, 県 は 県下 の海 域 を8ブ
ロ ッ クに分 割 し,
ゼ 区 域 の うち の ク ラ カ ケ∼ブ ル ー ス カ イ 見 通 し
14)
各 ブ ロ ック内 で の 操 業 に つ い て は, そ の海 域 に
線 以北 に お け る 磯建 網 の操 業 期間 は, 10月20日
関 係 す る漁 業 協 同 組 合 が締 結 した操 業 に関 す る
か ら翌 年 の3月 末 日まで で あ る。 な お, 上 記 の
協 定 に 基 づ くもの と した。 南 部 の漁 業 者 の操 業
規 制 に か かわ らず, タ チ イ カを 対 象 とす る磯 打
域 は 第5ブ
網 の操 業 期 間 は5月1日
ロ ッ ク (日高郡切 目崎正西の線 と西牟
婁郡市江崎正西 の線 とには さまれた 海域) で あ る。
か ら6月30日
まで と設
定 され て い る。
本 ブ ロ ックに 関 係 す る漁 業 協 同 組 合 は, 南 部 町
操 業 時 間 は, 磯建 網 が午 後4時 か ら翌 日の午
漁 協, 田辺 ・湊 ・新庄 漁 協 (以上田辺市), 堅 田
前8時
まで, 磯 打 網 は 日の 出か ら日没 まで と決
11) 第4ブ ロックに関係す る漁業 協同組合 は, 三尾漁協 (美浜町), 美浜 町漁協, 御坊市漁協, 印南町漁協の4組 合 である。
12) 和歌 山県経済部 水産 課の資料 「
三枚 刺網漁業 の操業 協定書」(複写) を参考 とした。
13) ケタゼ区域 とは, 安宅崎 と市江崎 (いずれ も日置川町) の見通 し線の延長線 よ り西側の うち, 瀬 戸崎沖合 か ら市江崎
沖合に至 る漁場を さす。
14) 西牟 婁郡中辺 路町 と大塔村 との境界 に位置す る分領山系 の通称 クラカケと, 白浜町の海岸部に建つホテルブルースカ
イ とを見通 した線の延 長線上を示す。
-56-
漁 場 利 用 と漁業 規 制 (田和)
543
(主要 な操業禁止 区域)
1. 田辺市灘島, 沖島お よび 白浜町江津良を結 んだ海域
2. 白浜町 中地 先の地漕網漁業許可 区域
3. 同上地漕網漁場南側 の三角形 の海域
4. ケタゼ漁場 の うちの クラカケ∼ブルース カイ見通 し線以南
(共同漁業権域: 各漁業者 は当該漁業協同組合が管理す る地先 の権域 のみ利用可能)
5. 和共第23号
6. 和共第24号
7. 和 共第27号
8. 和共第31号
9. 和共第33号
10. 和共第35号
第3図
刺 網 漁 場 図
資料:『第5ブ ロック三枚刺網漁業協定書』
め られ て い る。
に つ い て は, 共 同漁 業 権 漁 場 内 の み で操 業 可 能
操 業 域 は, 共 同 漁 業 権 漁場 を 除 く海 域 で あ る。
で あ る。
た だ し, 各 漁 協 が 管理 す る 共 同漁 業 権 漁 場 は,
漁 具 は, 仕 立 上 りの高 さ7m以
内,
あば 丈
当該 漁 協 の 組 合 員 の み が 利用 可 能 で あ る。 また,
(施網 する網 の長さ) は1人
磯 建 網 漁 場 の うち, 田 辺市 灘 島, 沖 島 お よび 白
1漁 船 に つ い て600間 以 内 に 規 制 され て い る。
に つ き300間
以 内,
浜 町 江 津 良 を 結 ん だ 線 以 東 の海 域, 白浜 町 中地
V
先 の地 漕 網 漁 業 許 可 区 域 ほ か数 ヵ所 に操 業 禁 止
区域 が 設 定 され て い る (第3図)。 な お, 磯 打網
各 地 区 の 漁場 利 用形 態
これ ま で南 部 の刺 網 漁 業 の漁 場利 用 に影 響 を
-57-
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地
理
第39巻
第6号
(1987)
第5表
漁 獲 対 象 魚 種 〔()
内 は標 準 和 名 〕
1. エ イ (ア カエ イ),
2. コ ノシ ロ (コ ノ シ ロ),
9. マ ス (マ ハ タ),
10. クエ (ク エ),
3. エ ソ(マ エ ソ),
11. タ ル ミ(タ ル ミ),
N氏 の 日別 ・
4. アナ ゴ(マ ア ナ ゴ),
12. イ サ ギ (イ サ キ),
17. グ レ(メ ジ ナ),
18. イ ズ ス ミ(イ ズ ス ミ),
19. ハ ス (イ シダ イ),
25. ガ シ ラ(カ サ ゴ),
26. ア コ(ア コ ウ),
27. オ コゼ (オ ニ オ コゼ),
33. ラ ケ ッ ト(ウ スバ ハ ギ), 34. シ ャ ボ (ウ マ ズ ラハ ギ), 35. フ グ (マ フ グ科),
20. タ カ(タ カ ノハ ダイ),
28. ヒ ラ メ(ヒ ラ メ),
36. ア ン コ ウ(ア ン コ ウ),
及 ぼ して きた と考 え られ る技 術 の 革 新 と漁 業 規
期 の あ る漁 業 者 の 日別 魚種 別 漁 獲 高 を水 揚仕 切
制 につ いて み て きた。 そ れ で は この よ うな影 響
書 (伝票) か ら算 出 した もので あ る。 こ こで は,
の も とに, 漁 業 者 は実 際 に は どの よ うに漁 場 を
ハ ゲ (カ ワハギ: 以下 ()
利 用 して い る のだ ろ うか。 以 下 で は, 南 部 町 漁
イ (マ ダイ), シ ャボ (ウマズラハギ), ガ シ ラ(カ
協 組合 地 区 を 構 成 す る3地 区 を と りあ げ, それ
サ ゴ) な どを 中心 に,
ぞれ の漁 場 利 用 形 態 を 明 らか に した い。
れ て い る。 浅 所 が多 魚種 の棲 息 域 を形 成 し, 漁
1) 堺 地 区
堺 で は 約140隻
の刺 網漁 船 が 稼
内は標準和名),
小ダ
多 種 類 の 小型 魚 が漁 獲 さ
は これ らの いわ ゆ る雑 魚 を ね らって展 開 して い
動 して い る。 漁 期 は, 前 述 した よ うに9月16日
る こ とが わ か る。 なお, 期 間 中 の1日 当 りの平
か ら開 始 され る。 しか し, 漁獲 量 が多 くな りは
均 漁 獲 魚 種 数 は8.1に の ぼ る。
じめ る のは10月 中 旬 を過 ぎて か らで あ る。 こ の
時 期 の 操 業 で は, 目合 が2寸3分
年 末 に は, 地 先 に設 け られ た イ セ エ ビ禁 漁 区
の三 枚 網 が 使
用 され る。操 業域 は沿 岸部 や 水 深 が50m程
が 開 放 され る。 これ に つ い て は あ らた め て ふ れ
る。
度ま
で の 比 較 的浅 所 で あ る。 漁 業 者 は, 魚 が 多 く棲
年 が あ け,「 北 西 の季 節 風 が 強 ま り, 雪 が 降
息 す る, シマ あ る い は ソ コジ マ と呼 ば れ る, 海
るほ どの 寒 さ」 に な る と, 産 卵 期 に あた る ヒ ラ
底 が岩 石 質 か らな る部 分 の 周 辺 (シ マブチ) や シ
メ が 漁 獲 され は じ,め る。kg単
マ の 中で 海 底 部 が 最 も高 ま って い る 場 所 (テ ッ
5,000円 と高 価 で あ る。140隻 中 約100隻
コウ) を ね らって 施 網 す る。 第5表 は, この時
メをね らい は じめ る。 ヒラ メは, 最初 は比 較 的
-58-
価 は4,000∼
が ヒラ
漁場 利 用 と漁 業 規 制 (田和)
魚種 別 漁獲 高
(1984年11月26日
∼12月21日)
数 値 は 漁 獲 金 額 〔円 〕, ()
5.
ウ ツボ (ウ ツ ボ),
13. コ ロ(コ シ ョウ ダ イ),
21. テ ス (コ ブ ダ イ),
29.
37.
545
6. ボ ラ(ボ ラ),
14.
22.
内は 漁 獲 量 〔kg〕(N氏
7. ブ リ(メ ジ ロ, ハ マチ),
タ イ (マ ダ イ),
イ ガ ミ(ブ ダ イ),
15. ク ロ(ク ロダ イ),
23. ア オ (ア オ ブ ダ イ),
メ イ タ (メ イ タ ガ レイ), 30. イ シ ガ レイ (イ シ ガ レイ), 31.
イ セ エ ビ(イ セ エ ビ),
38. モ ン ゴ イ カ (コ ウイ カ)
の仕 切 書 よ り作 成)
8. ア カ ッポ (ア カハ タ),
16. タマ ミ(タ マ ミ),
24. ア イ (ア イ ゴ),
ベ タ ・シ タ(ウ シ ノ シ タ類),
32. ハ ゲ (カ ワハ ギ),
浅 い所 で も漁 獲 で き るが, そ の 後 よ り沖 合域 へ
獲 魚 種 数 は2.3と
と移 動 す る。 漁 業 者 は, この動 きに あ わ せ て,
メ の棲 息 域 (産卵場所) と して特 化 した 性 質 を 有
漁 場 を深 所 へ と移 して ゆ く。2月 中 旬 か ら3月
す る こ と, 他 方, 漁 業者 に 明 らか に ヒラ メだ け
末 頃 に は, 漁 場 域 は 水 深100∼150mに
を ね ら った 漁 活 動 を 展 開 して い る こ とが 推 察 さ
達 す る。
産卵 期 の ヒ ラメ は魚 体 が 大 き く, 1∼3kgに
及
れ る。
ぶ こ とか ら, 漁 業 者 は 大 型 の ヒラ メの 羅 網 に適
当 な4寸
な って お り, 利 用 漁 場 が ヒラ
3月 末 頃 に な る と, ヒ ラ メに か わ って, 産卵
目合 の 漁 網 の使 用 に き りか え る。
性 の 大 型 の マ ダ イ (3∼5kg) が 漁 獲 され は じめ,
ヒ ラ メは 砂 地 の海 底 (ハマ) に 産卵 の た め に
ヒ ラ メね らい の 漁 業者 は マ ダ イ漁 に き りか え る。
集 まる こ とか ら, 漁 業 者 は ハ マ と シマ の 間 (サ
漁 網 は ヒ ラ メ漁 と同 じ4寸 目合 の もの で あ る。
イ メ) を ね らって 施 網 す る。 第6表 は, 第5表
漁 場 も ヒ ラ メの漁 場 とほ とん ど等 しい ハ マ で あ
と同 じ漁 業 者 が ヒラ メを ね らった 漁 期 の一 部 の
る。 ヒ ラ メ, マ ダ イ をね ら う約100隻
日別 魚種 別 漁 獲 高 を 示 した もの で あ る。期 間 中
うちの8割 は 水 深50∼100mの
の漁 獲 量 (仕切書に漁獲量が 記載 されていない もの
を除 く) は98.84kgで
あ るが,
うち79.6kg
の漁 船 の
漁 場 を, 残 り2
割 は さ らに 深所 の漁 場 を利 用 して い る。
ヒ ラ メ, マ ダイ の 漁場 は, 切 目沖, 岩 代 の沖,
(全体 の80.5%) を ヒラ メが 占め る。 金 額 的 に は,
南 部 の 沖, 白浜 三 段壁 の沖 な ど に分 布 す る。 こ
総 額430,242円
が
れ らの 水域 で は, 他 地 域 か らの刺 網 漁船 の 入漁
ヒ ラメ の漁 獲 高 で あ る。 また1日 当 りの 平均 漁
は 少 な く, 堺 地 区 の 刺 網漁 業 者 の独 占的 な利 用
の うち の347,470円
(80.8%)
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第39巻
第6号
(1987)
形 態 が 形 成 され て い る。 しか し, 南 部 町, 白浜
り毎 年, イ セ エ ビの種 苗 放 流, 1963年 (昭和38)
町 の イサ キ, タ イ一 本 釣 漁 船 や 印南 町 の底 延 縄
よ り人工 魚礁 の造 成 が実 施 され て い る。 さ らに
漁 船, 紀 北 地 域 の 底 曳 網 漁 船 な ど とは競 合 関 係
1978年
に あ る。
年 間 に は, 沿 岸 漁 場 整 備 開 発 事 業 と して, 大 規
(昭和53) か ら1980年 (昭和55) まで の3
ところ で, 年 が あ け た の ち, ヒ ラメ, タ イ漁
模 増 殖 開 発事 業 が お こなわ れ, 森 の鼻 沖 の泥 底
を お こな う100隻 を 除 い た残 り約40隻 は, 浅所
に成 エ ビ礁, 幼稚 仔 育 成 漁 場 の投 石 礁 が設 備 さ
で の操 業 を 継 続 す る。 この うち の1/3は 地先 沿
れ た。 堺 地 区 に は, この禁 漁 区 の 維持, 管 理 を
岸 部 で 雑 魚 を,
目的 と した地 先 権 組 合 (組合員数180名: 1985年)
2/3は 水 深50m程
度 まで の シマ
の 上 で イ セ エ ビ と雑 魚 をね ら う。
が 組織 され て い る。
刺 網 漁業 者 は, 漁 期 が終 了 す る と, 共 同 して
長 期 間全 面 禁 漁 を継 続 して も周辺 漁 場 へ の波
ま き網 を始 め る か, 刺 網漁 の時 と同 じ漁 船 を使
及効 果 が な い よ うで あ る, また禁 漁 区 内 に おい
用 して 棒 受 網 に着 業 す る。 主 と して これ ら2漁
て増 殖 させ た エ ビを まび く必要 が あ る, とい う
種 が秋 の刺 網漁 期 開始 まで お こ なわ れ る。
地 区 の考 え方 か ら, 禁 漁 区 は毎 年, 短 期 間, 臨
つ ぎ に, 地 先 禁 漁 区 の利 用 に つ い て述 べ る。
時 解 禁 され る。 解 禁 日数 は9∼15日
間 で あ る。
堺 地 先 の イ セ エ ビ禁 漁 区 は, 通 称 森 の 鼻 周辺 の
組 合 員 を 約60名 ず つ3班 に分 け, 各 班 が3日 に
水 域 で あ る (第4図)。1968年
1回 ず つ 共 同 して 操 業 す る形 態 が と られ て い る。
15)
(昭和43) よ り設 定
さ れた。 これ に 先 だ って 同 水 域 で は1960年 頃 よ
資 料 は や や 古 い が 第7表 は1980∼82年 の3年 間
-共同漁業 権域
-----旧漁業 地区界
□
イセ エ ビ禁 漁区
1. 堺 地先
2. 埴 田地 先
3. 山内 地先
4. 岩代 地先
第4図
南 部 の共 同漁 業 権 漁 場
(原図: 南部町漁 協和共第24号共同漁業漁場図)
15) 地先禁漁区解禁乗組要項 (1984年度) には, 以下の項 目が掲げ られてい る。
(1) 投網時刻午後3時 出港, 揚網時 刻午前6時30分 出港。
(2) 安全操業を行 ない, 団体行動の充実, 表 現に心がける こと。
(3) 各 自乗組員構成を生か し, 仕用船の取扱 いに気をつける こと。
(4) 網の修理については交替時 間一杯つ とめ ること。
-60-
漁 場 利 用 と漁業 規 制 (田和)
第6表
N氏
の 日別 ・魚 種 別 漁 獲 高
547
(1985年2月13日
∼3月19日)
(N氏 の仕切 書 より作成)
数値 は漁獲金額 〔
円〕()
第7表
内は漁獲量 〔kg〕, ○内
数字は漁獲尾数
堺 地 先 の イセ エ ビ刺 網 に よる 共 同操 業 結 果
額 は漁 協 で プ ー ル され た の ち, 地先 権 組 合員 に
平 等 に 分配 され る。
2) 南 部 地 区
南 部 地 区 は,
旧南 部浦 漁 協 組
地 区 に 相 当 す る。 現在, 南 部 川 河 口部 に あ る千
はね た
鹿 浦地 区 に11隻,
東 部 の埴 田地 区 に7隻 の刺 網
漁 船 が あ る。
(大 畑
實, 注16)
南 部 地 区 の 場 合,
に よ る)
け て は,
の イセ エ ビ刺 網 共 同 操業 の実 績 を示 した もの で
9月 中 旬か ら10月 中 旬 に か
秋 の カマ ス刺 網 (一枚網) 漁 を お こな
う。三 枚 磯 建 網 漁 の 漁 期 は10月 か ら4月 末 まで
16)
あ る。 罹 網 率 は, 80年 を基 準 とす る と, 81年 に
で あ る。 この うち10月 中 旬 か ら2月 末 にか け て
は1.08倍,
82年 に は1.44倍 と順 調 に増 加 して い
が 最 盛 期 とな る。 磯 建 網 漁 が4月 末 で終 了 す る
る。 各 年 の禁 漁 区 に お け る漁獲 量 は, 短 期 間 の
と, 千 鹿 浦 の2隻 は棒 受 網 漁 に き りか え る。 残
操 業 に もか か わ らず, 堺 地 区 の 年 間 イ セ エ ビ漁
り9隻 と埴 田 の7隻 は, 春 の カ マス 刺 網 漁, イ
獲量 の約1/3に
カ磯 打 網 漁 な どを お こな う。カ マ ス漁 は6月 中
16) 大畑
のぼ る とい わ れ て い る。 漁獲 金
實 「
南部町堺地先 イセエビ大規模増殖場の効果調査-III」,和歌 山県 水産増殖 試験場報告15, 1984, 73頁。
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旬 まで 続 け られ る。 イ カ漁 は, 第5ブ
操 業 協 定 に よって,
5月1日
地
理
第39巻
第6号
ロ ッ クの
か ら6月30日 まで
(1987)
禁 漁 区 域 周 辺 で の 漁期 は, 地 区 内 漁 内 者 間 の
内 規 に よ り, 11月20日 か ら3月31日
まで と定 め
と制 限 され て い る。 夏 季 に は, 漁 閑期 を うめ る
られ て い る。11月 上 旬 まで が 農 繁 期 に あ た って
た め に, タ コカ ゴ漁 や カ ニ カ ゴ漁 に 従事 す る こ
い るた め, 操 業 を 開始 す る時 期 が, 県 の 定 め に
とが あ る。
よ る9月16日
主 要 な漁 場 は, 南 部 漁 協 の共 同 漁業 権 漁 場 の
よ り2ヵ 月以 上 遅 れ て い る。 他 方,
終 了 時 期 も1ヵ 月早 い。 これ は, 4月 の イ セ エ
うち の 旧南 部 浦 漁 協組 地 区 地先 (埴田崎 か ら高磯
ビ繁 殖 期 を操 業期 間 か らはず す こ とに よ って,
の鼻 まで) の 岩 礁 域 で あ る。 千 鹿浦 の漁 業 者 は
禁 漁 区 の 資源 の よ り有 効 的 な利 用 を は か る た め
南 部 浦 お よび 目津 崎 周 辺, 埴 田 の漁 業 者 は埴 田
の 措置 で あ る。 また, 毎 月の 操 業 期 間 が 旧暦 の
崎 周 辺 の磯 場 で 操 業 す る。 な お, 埴 田崎 西 沖 に
20日 か ら翌 月 の6日 まで の15∼16日 間 に 制 限 さ
位 置 す る鹿 島 周 辺 に も好 漁場 が形 成 され て い る。
れ て い る。 さ らに, 満 月 の前 後数 日間 (月夜回
た だ しこ こは 堺, 南 部 両 地 区 の入 会 漁 場 とな っ
り) は海 中が 明 る くな る ので イセ エ ビが 海 中 で
て い る (前掲第4図)。
あ ま り動 か な い と考 え られ て い る た め 操業 して
も漁 獲 が 少 な い こ とか ら, この期 間 に は操 業 さ
漁場 とな る場 所 は, 沿 岸 の突 端 部 や 湾 入 部,
れ な い。
島 の 周辺 に あ る岩 礁 地 帯 で あ る。 した が って操
業 に は, この よ うな地 形 の変 化 に 対 処 しやす い
年 内 は共 同操 業 形 態 が と られ る。2∼3名
ず
つ が1グ ル ー プ とな って施 網す る。 漁 網 は 禁 漁
1ト ン未 満 の小 型 漁 船 が 用 い られ て い る。
南 部 川 河 口部 東 側 の山 内 地 先 お よび埴 田地 先
区 を と り囲 む よ うに しな が ら, 放 射 状 に 施 網 さ
に は, イ セ エ ビ禁 漁 区 が 設 定 され て い る。 山 内
れ る。 各 グル ー プが使 用 す る漁 場 は, 毎 日の 抽
地 先 は千 鹿 浦 の 刺 網 漁 業 者, 埴 田地 先 は埴 田 の
選 に よ って 決 定 され る。1月 以 降 は, イセ エ ビ
刺 網 漁 業 者 が 共 同 で使 用 で きる。 毎 年 稚 エ ビの
の 漁獲 量 が 減 少 す る こ とか ら, 個 人 操 業 に き り
放 流 事 業 が 実 施 され て い る。 ただ し, 埴 田地 先
か え られ る。 この 時期 に も毎 日, 出 漁 時 刻 の約
は, 1985年 以 降 に放 流 が 開始 され た ばか りで,
1時 間 前 に, 操 業 を 希望 す る漁 業 者 数 に 基 づ い
これ まで に1度
て, 利 用 す る 漁 場 の抽 選 が 実 施 され る。 た だ し,
も 口開 け され て い な い。 山 内地
先 は, イセ エ ビの 魚価 が年 間 で 最 も良 い年 末 頃
1月 以 降 で も海 上 が 時化 た 日に は, イ セ エ ビが
を 中 心 に, 数 日間 解 禁 され る。
活 発 に 活 動す る た め罹 網 しや す い こ とか ら, 共
3) 岩 代地 区
岩 代 地 区 に は20名 の刺 網 漁 業
同操 業 に き りらえ られ る。
な お,
者 が い る。 この うち の1名 が商 業 を併 営 して い
禁 漁 区 の資 源 の波 及 効 果 と 関 係 しな
るほ か は, いず れ も農 業 (ウ メ, マ メな どの栽培)
い沖 合 の漁 場 で は, 4月 以 降 漁 期 が終 了 す る ま
を 兼 業 す る。
で の1カ 月 間, 個 人 に よる操 業 が認 め られ て い
地 区 の地 先 海 面 に は, 砂 浜 海 岸 を と り囲 む よ
うに して,
る。
イ セ エ ビ 禁 漁 区 が 設 定 され て い る
VI
(前掲第4図)。 これ は, 旧岩 代 漁 協 組 地 区 (高磯
の鼻か ら南 部町 と印南町 との境界 まで) の約1/3を
ま とめ と考 察
1) 漁 期 の 利 用
三枚 磯 建 網 の漁 期 は,
イセ
占め る。 刺 網 漁 場 は, 禁 漁 区 域 の 資 源 の波 及効
エ ビの資 源 保 護 を 目的 とす る和 歌 山県 漁 業 調 整
果 を期 待 で き る禁 漁 区 域 周 辺 お よび そ の沖 合 の
規 則 に基 づ いて 設 定 され て い る。 しか し, そ の
共 同漁 業 権 域 内 で あ る。 これ よ り沖 合 へ 出漁 す
漁 期 中 全 体 に わ た って, 操 業 が な され て は い な
る こ とは ほ とん どな い。
い。 す なわ ち, 禁 漁 期 は 順守 され て はい るが,
-62-
漁 場 利 用 と漁業 規 制 (田 和)
549
操 業 期 は規 則 に制 限 され て い る とは い いが た い
漁 場 域 の大 き さ と, 地 区 ご との漁 業 者 数 の 相 違
側 面 を有 して い る。 この主 要 因 とな る の が, 南
に よ って 生 じる と考 え た い。
部 沿 岸 の魚 種 層 の季 節 性 (seasonarity)で あ る。
刺 網 漁 業 は, 本 来, 地 先 の岩 礁 地 帯 を 利用 し
堺 地 区 の 刺 網 漁 業 者 のほ とん どは, 夏 季 には
て操 業 す る漁種 で あ る。 南 部, 岩 代 両地 区 の刺
ま き網 あ るい は 棒 受 網 に 着 業 す る。 これ らの漁
網 漁業 は この本 来 的 と もい え る操 業形 態 と して
期 は4月 か ら10月 近 くまで続 く。特 に, サ バ 類
と らえ る こ とがで き る。 この 形 態 を 維持 で き る
の盛 漁 期 は9,
10月 頃 で あ る。 したが って, ま
の は, 沿 岸 域 に岩 礁 地 帯 が 形 成 され, そ こに刺
き網, 棒 受 網 の 漁期 と刺 網 の漁 期 は一 時 期 重 複
網 漁 に適 す る魚 種 相 が 存在 す る漁 場 が点 在 す る
す る。 この 時 に は漁 獲量 の多 い ま き網, 棒 受 網
こ と, さ らに これ らの 漁 場 が, 年 間 あ るい は漁
が選 択 され る傾 向 が強 い。 刺 網 に つ い て は, 漁
期 中 の 漁 獲 強 度 に 耐 え られ る こ とな どで あ ろ う。
期 が始 まる9月 中旬 か ら10月 にか け て は 漁獲 対
後 者 に つ い て は, 漁 業 者 の漁 獲 努 力 量 が ほ ぼ 一
象 の主 体 が 雑 魚で あ り, 漁 獲 金 額 も少 な い。 そ
定 して い る と考 え るな らば, 利 用 す る漁 業 者 の
の た め漁 業 者 が 刺 網 漁 に き りか え る時期 を遅 ら
数 が 漁 場 の 生 産 力 の 大 きさ と対 応 して い る とい
せ る傾 向 も加 わ って い る と考 え られ る。
い か え る こ と も可 能 で あ る。 堺 地 区 で は140隻
南 部 地 区 で は 周 年 に わ た って 刺 網 漁 が操業 さ
れ るが,
の 刺 網 漁 船 が稼 動 して い る が,
この 漁 船 数 (漁
9月 か ら10月 中 旬 に か け て は カ マ スが
業 者数) に 対 して, 沿 岸 域 の刺 網 漁 場 の大 き さ,
接 岸 す る こ とか ら, これ を ね ら う一 枚 刺 網 漁 が
生 産 力 は対 応 で きな い ので は ない か。 そ の た め,
お こな わ れ る。 した が って, 三 枚 磯 建 網 へ の き
漁 業 者 は漁 獲 対 象 の異 な る漁 種 へ 転換 す るか,
りか え は10月 中 旬 頃 とな る。
あ る い は 同 じ漁 種 を 引 き続 きお こな う場 合 に は
岩 代地 区 の場 合 に は, 農 業 が 漁 業 以 上 に優 先
操 業 域 を変 更 して 新 た な資 源 を 開発 す る, とい
され て い る た め, 漁 期 の開 始 時 期 は 農 業 暦 に影
った 方 法 を と らざ るを え な い。 南 部 地 方 の沿 岸
響 され る側 面 を もつ とい え る。
部 で は, 冬 季 に は 浮 魚 資 源 が少 な く, 磯 魚 資 源
漁 期 の終 了 時 期 に つ い て は, 深 所 で の マ ダ イ
が 沿 岸 魚 種 相 の 主 体 を なす。 した が って, 堺 地
漁, 浅 所 で の 雑 魚, イセ エ ビ漁 の い ず れ もが実
区 の 場 合 に は, 沿 岸域 で漁 種 を 変 更 す る こ とが
際に は5月 以 降 も可 能 で あ る こ とか ら, 規 則 で
困難 で あ るた め, 同 じ漁 法 を 継 続 しな が ら よ り
定 め られ た 漁 期 が機 能 して い る と考 え られ る。
沖 合 へ と操 業 域 を拡 大 す る方 法 が と られ た と考
ところ で, 岩 代地 区 の 場 合 に は, 終 了 時 期 が,
え られ る。 た だ し, 新 た な操 業域 へ 出漁 す る場
堺, 南 部 両地 区 に比 して1ヵ 月早 い。 これ は,
合 に も, 制 度 的 に は ブ ロ ック とい う操 業 区 域,
前述 した よ うに イ セ エ ビの繁 殖 期 に あた る時期
あ るい は他 の漁 種 との調 整 の 目的 で 設 定 され た
の操 業 を控 え るた め の措 置 で あ り, 長 年 に わ た
刺 網 の禁 漁 区 域 な どに よ って, 漁 業 者 は 規 制 を
る資 源 の有 効 利 用 を はか るた め の 方 策 とみ る こ
うけ る こ とに な る。
とが で き る。
2) 漁場 空 間 の利 用
堺 地 区 で は, 沿 岸域 で 周年 操 業 す る刺 網 漁 業
堺 地 区 の 刺 網漁 場 は,
形 態 もみ られ る が, これ は南 部, 岩 代 地 区 と同
地 先 の共 同漁 業 権 域 か ら県 が設 定 した操 業 区域
の うち の主 と して 第5ブ
様 の漁 場利 用 形 態 と して と らえ る こ とが で き よ
ロ ッ クの水 深200mに
う。
近 い 沖 合 まで で あ る。 これ に対 して南 部, 岩 代
雑 魚, イ セ エ ビを漁 獲 対 象 とす る年 末 まで の
地 区 の 操 業 域 は, 地 先 の 共 同漁 業 権 域 とそ の周
操 業 で は浅 海 が 中心 とな り漁 場 域 が 制 限 され る
辺 に ほ ぼ 限 定 され る。 両 者 の相 違 は, 地 先 沿 岸
こ とか ら, この 時期 の各 漁 場 で の 施 網数 は か な
-63-
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第39巻
り多 くな る こ とが 予 想 され る。
第6号
(1987)
堺, 南 部 地 区 の禁 漁 区 は, 三枚 磯 建 網 の漁 期
正 月 を過 ぎて, ヒ ラ メ, マ ダ イね らい に き り
中, 数 日間, 地 区 内漁 業 者 の 共 同操 業 に よっ て
か え て ゆ く漁 業 者 は, 魚種 の産 卵 場 所 に 応 じて
利 用 され る のみ で あ る。 これ は, 漁 業 者 自 らが
漁 場域 を深 所 へ と移 動 させ る利 用 形 態 で あ る。
禁 漁 区域 内 の資 源 量 を 把 握 す る こ とに よっ て,
1月 以 降 の漁 期 に は, (a)地先 で の雑 魚, イセ エ
年 間漁 獲 量 を 決定 して い る方 策 とみ る こ とが で
ビね らい, (b)水深50∼150mで
き る。 岩 代 地 区 の場 合 に は, 禁 漁 区域 内 は原 則
イ 漁, (c)水深150m以
の ヒラ メ, マ ダ
深 で の ヒラ メ, マ ダ イ 漁
と して利 用 され て い ない が, 漁 期 中 の 操業 は,
とい うよ うに, 利 用 す る漁 場 域 が 分 化 す る。 深
主 と して禁 漁 区 に接 した 水 域 で お こなわ れ る。
所 で の 操業 は, 漁 船 の大 型 化, 漁 業 技 術 の 革 新
これ は, 禁 漁 区で の エ ビ増 殖 に よっ て生 じた 禁
な どに よって もた らされ た もの と考 え られ る。
漁 区 外 へ の波 及 効 果 分 を 利用 し よ うとす る形 態
南 部, 岩 代 地 区 お よび 堺地 区 の地 先 で操 業す る
で あ る。 禁 漁 区 周 辺 は, 漁期 中, 恒 常 的 に 利 用
刺 網漁 船 が0.5∼1ト
され る こ とに な る。 た だ し, 毎 月 の操 業 期 間 を
ン層 で あ るの に対 して,
深 所 で 操 業 す る堺 地 区 の 漁 船 が機 器 類 を多 く搭
15∼16日 に 制 限 し, さ らに4月 の イ セエ ビ繁 殖
載 した3∼5ト
ン層 へ と変 化 して きて い る こ と
期 の 操 業 を 禁 じて い る。 こ うした 諸 規 制 も禁 漁
は, この状 況 を 示 す もの と して と らえ る こ とが
区 の 資 源 を 維 持, 管 理 す る シス テ ム と して機 能
で きる。
して い る と考 え られ るわ け で あ る。
堺 地 区 の漁 船 は, 第5ブ
ロ ック内 の 沖 合漁 場
を 刺 網 漁 業 と して はか な り独 占的 に 利用 して い
VII
結
語
る。 この形 態 は, 第8表 に 示 す よ うに, ブ ロ ッ
漁 業 者 の 漁 獲 行 動 は, 漁 獲 効 率 (経済的な効
ク内 の各 漁 業 地 区 の中 で 南 部 町 が 最 も多 くの許
果) に 基 づ くもの で あ る。 この よ うな観 点 に 立
可 件 数 (漁船数) を 有 して い る こ とか らも明 らか
つ な らば, 漁 場 利 用 の 生態 学 的 な研 究 は, 漁 業
で あ る。
者 の 漁 撈 活 動 す な わ ち漁獲 行 動 に焦 点 が 合 わ さ
つ ぎ に, 堺, 南 部, 岩 代 の各 地 区 に設 定 され
れ るわ け で あ り, これ まで の経 済 地 理 学 的 な 漁
て い る イ セ エ ビ禁 漁 区 の利 用 形 態 に つ い て み よ
場 利 用 の 研 究 で 不 明確 で あ っ た部 分 を 明 らか に
う。
す る研 究 で あ る とい え る。 両者 は相 互 補 完 的 な
各禁 漁 区で は毎 年, 稚 エ ビの放 流 事 業 が お こ
なわ れ, エ ビ魚礁 の整 備 も く り返 し実 施 され て
関 係 に あ る。
漁 獲 行 動, 漁 撈 活 動 の 意 思 決 定 (decision
い る。 この背 景 に は, イ セ エ ビが 定 着 性 魚 種 で
making)
あ り, 禁 漁 区 域 内 とそ の周 辺 の 限 られ た 部 分 で
る。 漁 場 の 利 用 に つ い て い うな らば, 漁 獲 に 適
成 長 す る, とい う側 面 が あ る。 す な わ ち, 禁 漁
した シオ の 状 態, 魚 相, 海 底 の状 況, 水 温 な ど
区 は, 南 部 の刺 網 漁 場 の中 で 唯 一 資 源 を管 理 で
は 全 て 漁 業 者 が 漁 獲 を 達 成 す る た め の環 境 条 件
きる空 間で あ る。 蓄 養 施 設 的 な機 能 を もつ と考
で あ る。 しか しな が ら, 漁獲 量 につ いて は 常 に
え る こ と も可 能 で あ る。
不 確 実 さ (uncertainty)が 伴 う。それ は, 上 記 の
第8表
第5ブ
は, 漁 業 生 産 の多 さに 向か って な され
環 境 条 件 の さ ま ざ まな フ ァ クタ ーが 常 に 同一 で
ロ ッ ク内 の 漁協 組 別
は な く, しか も最 良 に 設 定 され る こ とが ない た
磯 建 網 漁業 許 可件 数 (1984年6月)
め で あ る。 した が って, 意 思 決定 は, 漁 業 者 が
経 験 的 に得 て きた 漁 獲 のた め に 良好 な条 件 の と
(和歌 山県経済部 水産 課資料 に よる)
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ころ にで き るだ け接 近 す る こ と と理 解 され る。
漁 場 利 用 と漁 業 規 制 (田 和)
551
この よ うな状 況 の 中で, 漁 業 者 は, 行 政 側 や
で ある。本稿作成に際 して御指導 いただいた柿本
漁 業者 相 互 間 の漁 業 規 制 や 資 源 管 理 の 方 策 に 出
典昭先生 (関西大学), 草稿 の段階で 数々の御 助
言を いただ いた八木康幸先生 (関西学院大学) に
会 う。そ して, これ ら諸 規 制 に適 応 しな が ら,
さ らに新 た な漁 場 利 用 形 態 が 生 み 出 され る こ と
厚 くお礼 申 し上げ ます。 また, 現地調査 でお世話
になった南部町 の漁業者 の皆様に もお礼申 し上げ
に な るわ け で あ る。
ます。
<付記>本
稿 は, 第14回経済 ・都市地理研 究部
会 (1986年5月31日, 共通 テーマ: 水産業をめ ぐ
る諸 問題) に おいて発表 した内容に加筆 した もの
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末筆 なが ら, 拙稿を来春, 関西学院大 学をめで
た く御退任 され ます思師大島裏 二先 生に献呈 させ
ていただけれ ば幸甚です。(関 西学院大学 ・院)