Page 1 明治大学教養論集 通巻509号 (2015・9) pp.67

明 治 大 学 教 養 論 集 通 巻5
0
9号
(
2
0
1
5・
9
)p
p6
7
9
0
“
都市型生活協同組合員のネットワークと
ソーシャル・キャピタル
一一生、活協同組合パルシステム千葉を事例に一一
中里裕美
1.はじめに
1
.
1 研究の背景
高度経済成長期の食品の安全性の問題,公害や環境問題などが社会問題化
9
6
0年代後半から生活協同組合が愈速に
するなかで, 日本国内においては 1
発展していった。しかし現在, I
生活クラブ生協の活動は「曲がり角」を迎
、
え,…「衰退」といっても過言ではな LJ(西城戸・角, 2
0
0
5
;p
.
7
4
) と述
べられるようになり,また生協セクター全体を包む傾向として女性のライフ
スタイルの多様化などの影響を受けて,多くの生活協同組合では従来の班単
位のしくみから個別配送(以下,個配)への移行が主流になっている。さら
に
, I
都市部の生協では佃配が中心業態となり,従来のような班活動による
組合員聞のコミュニケーションは希薄になっている」といわれると同時に,
「事業の大規模化や競争の激化,情報化社会の発展によって, I
連帯」のあり
方がゆらいでいる J(桜井他, 2
0
0
9
;p
p
.
6
0
61)と認識され始めているので
ある。
圏内におけるこれまでの生活協同組合に関する代表的な研究としては,佐
藤慶幸を代表とするグループによる東京・神奈川の生活クラブ生協やその活
動から派生したワーカーズ・コレクティブ等に着目した豊富な研究蓄積,な
6
8
明治大学教養論集通巻 5
0
9
号
(
2
0
1
5・
9
)
らびに商城戸誠と角一典による生活クラブ生協北海道を対象とした一連の調
査研究などがある。しかし,個配を中心とした都市型生協の組合員の特徴に
着目して定量的に分析するような研究はあまり見られな L、。また,これまで
の調査研究は,生活クラブ生協の活動がもっとも活発であった時期,あるい
は転換期を迎えてその活動が停滞・沈静化した時期に行われたものであり,
これらの調査研究の実施から一定の期聞を続た現在の生活協同組合について,
その現状の記述をふまえて再考される必要があるだろう。
本稿では,とくにそのシステムの変化に伴って,組合員同士や組合員と組
織との関わり方が変化しているといわれる個配を中心とした都市型生活協同
組合(パ jレシステム千葉)に着目する。そして,それを従来の運動論という
視点からではなく,その本質を理解するために人々の結びつきという観点か
ら捉え直し,都市型生協の組合員たちが保有する社会ネットワークの現状,
。
、
およびそれとソーシャル・キャピタルとの関係について考察した L
1
.2 生活協同組合に関する研究の概観と研究のねらい
ここで,あらためて日本における生活協同組合についての先行研究を振り
返っておこう。
1
l (角・西城戸,
まず,生活クラブ生協に関する「先駆的かっ総合的な業績J
2
0
0
8
) として,佐藤鹿さ与を代表とするグループによって 1
9
8
0年代 -90年代
に取り組まれた「新しい社会運動論」や「アソシエーション論」を理論的背
景にもつ調査研究がある。そこでは生活クラブ生協は,
r
現代麗業社会のも
たらしている生命・生活Oif
e
) にとっての危機的位相を,消費財の共同購
入活動をとおして共同主観化することによって,現代産業社会のあり方に異
議申し立てそするのみならず,自らの連動資源を創出することによって,新
しいオルタナティブ社会をめざして,人と人とのネットワークを拡大しつつ
0
0
2
;p
.1
9
0
) として捉えられている。
ある女性たちの生活者連動 J(佐藤, 2
と同時にそれは,資本主義の精神にもとづく目的合理的行為とは対照的に,
都市型生活協同組合員のネットワークとソーシャル・キャピタル
6
9
対話を介して結ばれる非政府かっ非営利の自立した市民の組織一一「生活者
連帯としてのアソシエーション」ーーとして位置づけられ(佐藤, 1988;
2
0
0
2;2
0
0
7
),重要な意義と役割が見いだされている九
彼らの研究においては生活クラブ生協は「新しい社会運動 J(や「アソシ
エーション J
:筆者注)として肯定的評価がなされるべきものとして研究さ
れていた(角・西城戸, 2
0
0
8
)。また,
r
これらの研究があまりにも包括的に
行われたため,後発の研究者による継続的な生活クラブ生協研究の障壁となっ
たという面は否定できない J(西城戸・角, 2005;p
.7
8
) という状況を作り
出したといわれている O
その後, 2000年代前半頃からは西城戸誠・角一典によって佐藤らのグルー
プが行った一連の調査研究が振り返られ,
r
一時期の勢いはなくなり, r
沈静
化」しているように見られ」た当時の生活クラブ生協(具体的には,生活ク
ラブ生協北海道)を対象とした継続的な調査研究が進められた。彼らはまず,
生活クラブ生協の活動の現状・課題を把握し,それが衰退した要因をミクロ・
0
0
6
)。
メゾ・マクロ要困に分類して仮説として提示した(凶城戸・角, 2005;2
次いで,生活クラブ生協を母体とした市民活動の停滞・沈静化の原因を社会
運動論の動員構造論と運動文化論から分析し,それをふまえて今後の組合員
聞の連帯や生活クラブ生協の展開可能性に関する考察が行われた(西城戸・
0
0
8
)。このほか,伺配システムの導入による影響を,⑤生協の経営上
角
, 2
および組織運営上の影響,②消費財の購入態度,③生活クラブ生協の社会運
動,組織的活動に関する態度や行動に対する個配組合員の影響から考察した
51),また生活協同組合が地域コミュニティの
り(西城戸・角, 2009;p.1
中で果たす役割についての考察なども進められた(西城戸・角, 2
0
1
1
)。
また,本稿にも関わるソーシャル・キャピタル論に依拠した先行研究とし
ては,財団法人協同組合経営研究所,財団法人生協総合研究所,社団法人
JA総合研究所の 3研究所と研究者らによって組織された「協同組合と地域
社会研究会」がまとめた報告書「協同組合と地域社会の連携一一ソーシャル・
7
0 明治大学教養論集通巻 5
0
9号 (
2
0日・ 9
)
キャピタルアプローチによる研究 J(
2
0
0
9年)や日本協同組合学会発行の
「協同組合研究J2
7巻 l号 (
2
0
0
8年)の特集「協同組合とソーシャル・キャ
ピタル」の中の桜井・山口論文,そして財団法人生協総合研究所が発行する
『生活協同組合研究 J3
7
3巻 (
2
0
0
7年)の特集「地域社会の変化と生協の役
割」に掲載されている山口・的場・宮本論文などがあるヘ
桜井ならびに桜井ら (
2
0
0
8;2
0
0
9
) は,ソーシャル・キャピタルをめぐる
議論の現状(定義,分類・類型,意義・効果)、の整理と,その地域活性化の
議論への適用可能'性について考察している。また,パルシステム千葉の組合
r
員に対する調査票調査を分析した結果として. 個配中心の現在の都市部の
生協においても,地域内での信頼感の醸成に一定貢献をしており,さらには
様々な組合員の活動参加が,地域社会への活性化につながっていることを示
唆していた」と述べている。山口 (
2
0
0
7;2
0
0
8
) は,ソーシャル・キャピタ
ルの二類型(ボンディング型とブリッジング型)を用いて,生活協同組合が
現代的な社会的ニーズに対応しその社会的役割を具体化していくためには,
既存の生協枠内に収まる組合員活動を超えて様々な主体とのパートナーシッ
プや連携体制を整備し,そのネットワークを強化してゆく(これまでのボン
ディング型のソーシャル・キャピタルをブリッジング型へと変えてゆく)こ
J
とが必要だろうと述べている。また的場 (
2
0
0
7
) は,地域社会における生活
協同組合の役割を考えるための前揖として,地域社会,ならびに信頼・ネッ
トワーク等から構成されるソーシャル・キャピタルの概念を整理している。
さらに宮本 (
2
0
0
7
)は
, 日本の社会システムとの関連から地域社会の変容を
捉えて分析し,非営利・協同セクターを組み込んだ新しい統治システムであ
)が地域社会が
る「ソーシャル・ガパナンス J(あるいは「福祉ガパナンス J
直面する問題群の解決にどのような展望を切り開くのかを考察している。
r
このように,これまでの生活協同組合に関する調査研究は,第一に. 新
しい社会運動論」や「アソシエーション論」を理論的背景としたものであり,
またこれらはその活動がもっとも活発であった時期,あるいは転換期を迎え
都市型生活協同組合員のネットワークとソーシャル・キャピタル
7
1
てその活動が停滞・枕静化した時期会対象としたものであること。第二に,
生活クラブ生協やそこから派生したワーカーズ・コレクティブ等に着目した
研究は数多く存在するものの,イ固配を中心とした都市型生協の組合員の特徴
について定最的に分析した研究はあまり見られないこと。さらに,これまで
の研究では組合員が持つ社会ネットワーク成員の組み合わせのパターン(類
型化〉の把揚が十分に行われてこなかった点が指摘できるだろう。たとえば,
親しい友人」に
個人が相談できる相手として. I
人の特徴といっても,
o(=該当する〉をつけた
I
親しい友人」だけに Oをつけた人. I
親しい友人」と
「離れて暮らしている家族」に Oをつけた人,さらに「親しい友人」と
緒に住んでいる家族J
.I
パjレシステム千葉」の人に Oをつけた人では,ネッ
トワークそのものの性格も異なるため,社会ネットワークの組み合わせのパ
ターンを考慮、した分析は重要であると考えられる。そのため本稿では,組合
員が持つ社会ネットワークを類型化し,分析してゆく。
2
. 調査研究対象およびデータの概要
本研究で用いるデータは,生活協同組合パルシステム千葉の組合員を対象
に実施した調査票調査から得られたものである。ここではまず,その組織概
要と分析に使用するデータ・変数について説明する。
2
.
1 r
生活協同組合パルシステム千葉」の概要
生活協同組合パルシステム千葉(以下,パルシステム千葉)心は. 1
9
4
7年
に野田醤油(現キッコーマン)生活協同組合が職域生協として発足したこと
9
7
0年半ばに共同購入を桟として設立された「柏・市
にはじまり,その後 1
花見川生協 JI
下総生協」の 3生協が組織合同して 1
9
9
2年に誕生
民生協 JI
した組織(旧称:エルコープ)である。
パルシステム千葉がサービス供給を行う対象エリアは千葉県全域であり,
7
2 明治大学教養論集通巻 5
0
9
号 (
2
0
1
5・9
)
現在は野田市にある庖舗営業(1)苫舗)と県内に配送や受付を行う 1
1の事
業所によって運営されている O なお,パルシステムとは, I
英語の p
a
1(
友
達・仲間)と system (制度・体系〉を組み合わせた造語」であり,個人の
参加が大きな協同をっくり出すという意味が込められている(パルシステム
ガイド, 2
0
1
4
)。
2
0
1
4年度末現在の組合員数は, 2
1
9,
7
8
8人 (
2
0
1
1年度:2
0
3,
8
4
2人
, 2
0
1
2
年度:2
1
0,
8
8
4人
, 2
0
1
3年度:2
1
5,
3
5
2人)と組合員数は年々増加している。
また, 2
0
1
4年度末現在の職員数は 6
8
8人(うち正規職員は 1
7
0人),組合員
の出資金 7
5億 8
,
2
7
2万円,供給高は 2
7
9億円(その内訳は,無庖舗事業 2
6
9
億円,庖舗事業 6憶 3
,
41
3万円,夕食宅配事業 3億 6
,
2
7
9万円)と報告され
ている九パルシステム千葉では事業を取り巻く環境の変化に対応する形で,
1
9
9
4年から個配事業を,また 2
0
0
1年 6月からはインターネット注文システ
ム「オンラインパルサービス」の運用を開始し,近年ではこの無庖舗事業の
供給高は事業全体の圧倒的な比重を占めている。
0
0
1年には NPOを支援するための「特定非営利活動法人 NPO支
また, 2
援センターちば」を設立し,ここを事務局とした市民参加による地域づくり
を資金面で助成する「パルシステム千葉 NPO助成基金」制度の開設 (
2
0
0
1
年)をはじめ,多様化する地域課題の解決を目的としたコミュニティ・ビジ
ネスを推進するネットワーク組織「セカンドリーグ千葉Jも 2
0
1
0年に開設
されている(パルシステム千葉ホームページ)。さらに,パルシステム千葉
では 2
0
0
3年度方針において「コミュニティ生協宣言」が行われ,地域社会
c
'
協〕への改革がすすめ
の一員として地域に聞かれた生協(=コミュニティ l
られており, これまでに様々な地域・社会貢献事業的が展開されてきている。
以下にパルシステム千葉における個配利用の流れを説明する。
(
1
) 出資金を支払って組合員になると,毎週決まった曜日にカタログ7Jと
注文用紙 (OCR用紙)が届く。
(
2
)
注文用紙を決まった曜日に提出するか,インターネットやスマートフォ
都市型生活協同組合員のネットワークとソーシャル・キャピタル
7
3
ンを利用して商品の波文奇行う。
(
3
) 注文から 1週間後,注文した商品が指定の場所に配達される。また,
翌週注文する分のカタログや注文用紙が届けられる。
(
4
) 1ヶ月分の商品の代金を翌月まとめて口座振替またはクレジットカー
ドにて支払う。
このような一般的な個配サービスの提供に加えて,パルシステム千葉では
食の安全,産地交流,子育て支援など,組合員と農家,組合員と NPO,組
合員同士を結びつける様々なイベントが実施されている o
2
.
2 分析に使用するデータと変数
本研究の分析に用いるデータは,筆者が参加した「地域活性化とソーシャ
ル・キャピタル研究会 j (代表:立命館大学政策科学部准教授桜井政成)が
2
0
0
8年 6月に実施した『組合員の社会とのつながりや生活に関する調査』
によって得られたものであるヘ本調査は,パルシステム千葉の組合員のう
ち,習志野,稲毛,千葉の配送センターが管轄する組合員から無作為に抽出
,
0
0
0名を対象に行い,個配配達員安通して組合員に調査票を配布し,
された 1
2
2件(有効回収率 3
2
.
2
%
) である。
郵送回収を行った。なお,有効回答は 3
調査票は大きく 4つの設聞から構成されているが9) 今回の分析に用いる
変数は,
r
普段の生活で気にしていることがらJlめを「話ができる J相手につ
いて尋ねた項目と,行動レベルや認知レベルでのソーシャル・キャピタル川
(Up
h
o
f
f,2
0
0
0
) に関する以下の項目である。
「普段の生活で気にしていることがら」を「話ができる」相手については,
r
r
「インターネット経由の見ず知らずの人 j, 一緒に住んでいる家族 j, 離れ
r
r
て暮らしている家旗j, 親しい友人j, 隣近所や町内会,地域活動の関係の
r
r
人 j, 職場や学校関係の人j, 趣味やボランティアなどのグループ・サーク
r
ル活動の関係の人 j, パルシステム千葉関係(他の組合員や職員〉の人 j,
r
「問題事に関する専門機関の人j, その他の人」の 1
0のカテゴリーについて,
7
4 明 治 大 学 教 差 論 集 通 巻5
0
9号 (
2
0
1
5・
9
)
それぞれ「ょくできる J1
たぶんできる J1
おそらくできな Lリ「絶対できな
いJ1
当てはまる人との付き合いはな L、」の中から選ぶ質問を設けた (
1その
他の人」は分析から除外)。また,①行動レベル(社会参加の度合い)や②
他者への信頼や安心という認知レベルでのソーシャル・キャピタルについて
あなたは過去 5年間に町内会・自治会の活動に参加し
は,①については. 1
ましたかJと「あなたは過去 5年間に市民活動や住民運動に参加しましたかJ
という質問を,②については. 1
あなたは,近隣の人々や地域自体に対して
.1
あなたは,近隣の人々や地域自体に対して安心
信頼感を持っていますかJ
ややそう思う J1
あまり
感を持っていますか」について「とてもそう思う J1
全くそう思わな L、」の中から選ぶ質問を設けた。
そう思わない J1
3
. 回答者の基本属性とパルシステム千葉の利用および参加の現状
3
.
1 回答者の碁本属性
回答者の基本属性(表1)を見ると,男女比では「女性」が 98.7%と多い。
年齢では 3
0代の層が最も多く
(
3
0
.
8
%
).次いで 4
0代 (
2
2.
1
%
)
. 5
0代
(
18.4%)となっている。職業では, 1
主婦・主夫」が約 73%を占め,正社員
9
.
2
は約 9%にとどまっている。学歴では市「高等専門学校・短期大学卒」が 3
%と最も多く,次に「高等学校J(
3
2
.
6
%
), 1
4年制大学 J(
2
3
.
5
%
) となっ
5年 -10年」が 21
.
1
%
,
ている。このほか,現在の住まいの居住年数は, 1
1
1年 -3年」が 1
7.1%と約 4割が居住歴 1
0年未満である。また,同居家族
配偶者J(
8
9
.
8
%
) が最も多く,次に「未婚の子J(
4
9
.
7
%
)で
については, 1
3人」が 33.9%と最も多く,次に 1
4人J(
3
0.1%)と
あり,同居人数では 1
なっている。
回答者のパルシステム千葉の組合員歴・利用頻度および lヶ月の平均購買
5年 -10年J(
2
3
.
0
%
) が最も多く,次い
額については,まず組合員歴は, 1
で 1
1年 -3年 J(
21
.
1
%
)
.1
1
0年 -15年J03.7%) となっている。利用状
都市型生活協同組合員のネットワークとソーシャル・キャピタル
表
各
性別
(N=314)
年齢
(N=321
)
職業
(N=318)
1 回答者の基本属性
項
目
N (割合)
男性
4人 (1
.
3%)
女性
3
1
0人 (
9
8
.
7
%
)
2
9歳以下
1
6人 (5
.
0
%
)
3
0
3
9歳
9
9人 (
3
0
.
8
%
)
4
0
4
9歳
7
1人 (
2
2.1%)
5
0
5
9歳
5
9人(18
.
4
%
)
6
0
6
4歳
3
2人(10
.
0
%
)
6
5
7
4歳
2
6人 (8
.
1
%
)
7
5歳以上
1
8人 (5
.
6
%
)
正社員
2
9人 (9
.
1
%
)
契約・派遣社員
3
6人(11.3%)
商工業・サービス業事業所自 j
芦
主婦・主夫
無職
9人 (2
.
8
%
)
2
3
1人 (
7
2
.
6
%
)
1
3人(10
.
1
%
)
小学校
l人 (0
.
3
%
)
中学校
1
0人 (3
.
1
%
)
高等学校
1
0
4人 (
3
2
.
6
%
)
高等専門学校・短期大学
1
2
5人 (
3
9
.
2
%
)
学歴
(N=319)
7
5
4年制大学
大学院
7
5人 (
2
3
.
5
%
)
4人 (1
.3
%)
注)表中の数字は,無阿答を除いた度数と割合を示している。
況については,
i
週 l回」と回答した者が約 8割を占め,次いで多いのが
「毎日 J(
6
.
5
%
),i
週 4-5回Jと「月 2-3回」はともに 5
.
9
%である。また
1ヶ月の平均購買額については, 1
1万 -3万円まで Jが 4
3
.
5
%,1
3万 1円
5万円までJが 2
7
.
0
%となっている。
本調査の回答者像を 2
0
0
8年 1月に実施された『パルシステム組合員調査』
7
6 明治大学教養論集通巻5
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9号 (
2
0
1
5・
9
)
r
夫婦と子どもからなる 2世代Jが
61.1%を占め,次いで「夫婦のみの一世代 J(
16
.
2
%
), r
夫婦と子
の回答者の碁本属性一一家族構成では,
最も多く
8
.
6
%
) であり,単身世帯 (
4
.
0
%
) の構成比が少な
ども,祖父母の 3世代J(
い。また,年齢層では 3
0代 (
31
.4%) が最も多く,次いで 4
0代 (
2
5
.
0
%
),
5
0代(19
.
6
%
), 6
0代(19
.
2
%
) であり,平均年齢は, 4
4
.
6歳 12)ーーと比べ
てみると,本調査の回答者はパルシステム組合員の特徴(構成員の比率)を
ある程度反映していると考えられるだろう。
3
.
2 組合員のパルシステム千葉の利用およひ、諸活動への参加の現状
次に,パルシステム千葉が提供する商品・情報〈具体的には,①食品の購
入,②非食品の購入,③たすけあい共済への加入,④サポーターとしての活
動(産直,食の安全など),⑤在宅での活動参加(モニタ一,アンケートへ
の協力,エコカレンダー,
リユースなど),⑤組合員による自主活動・学習
会・講座・ボランティアへの参加,⑦ニューズレター・カタログ媒体(ぱる
のおと,パルカフェ,センターニュースなど))の日常生活への役立ち度 13)
(
rとても役立っている J-r全く役立っていない」までの五件法〉について
は,最も役立ち度が高いと回答されたのは「食品の購入J(
rとても役立つて
いる」と「ある程度役立っている」の和が 9
8.1%)と「非食品の購入J(
同
,
r
ニューズレター・カタログ媒体」と「在唱での活動
参加」は 5割程度(それぞれ, 5
3
.
7
%と 4
6
.
5
%
),r
たすけあい共済への加入」
8
9
.
2
%
) であったが,
については 3
0.4%が役に立っていると回答している。
また,パルシステム千葉の諸活動(具体的には,①総代会,②総代説明会・
商品説明会等,③産地見学,④パルシステム千葉を通じたクラブ活動・自主
活動・学習会・講座,ボランティア等,⑤ノ{)レシステム千葉を通じた募金・
寄付,⑤パルシステム千葉の商品・居舗・方針等に意見を述べたこと,⑦パ
ルシステム千葉の関係の人から頼み事をされて引き受けたこと〕に対する組
合員の参加状況は,最も多いものから順に,
r
募金・寄付J(
3
8
.
2
%
),r
頼み
都市型生活協同組合員のネットワークとソーシャル・キャピタル
7
7
事をされて引き受けたこと J(
1
3
.
7
%
), 1
クラブ活動・自主活動・学習会・
講座,ボランティア等 J(
1
1
.
2
%
) であり,それ以外の活動に参加経験があ
ると答えたのは, 2%-7%程度にとどまっている。
以上の単純集計結果をまとめると,まず,本調査の回答者の姿としては,
0年未満の, 3
0代 -50代の「主婦・主夫」層であ
現在の住居に移り住んで 1
ること。組合員鹿は 1
0年未満で,パルシステム千葉そ週 1聞の頻度で利用
し,日常用品の購入先として積極的に活用していること。また,パルシステ
ム千葉の利用のし方としては,
1
食品の購入」・「非食品の購入Jを中心とし
た利用在行っており,また活動では,
1
募金・寄付J活動, 1
頼み事をされて
引き受けたこと J
,1
クラブ活動・自主活動・学習会,講座,ボランティア等」
への参加は見られるものの,それ以外の諸活動にはあまり参加していない様
子がわかる。このように,組合員の諸活動への参加は全体として低調ではあ
0代
, 6
0
るものの,各種の活動に参加しているのは組合員歴が比較的長い 5
代の一定の層に偏るわけではなく,その砲の層も関心のある活動には少ない
ながらも参加している様子も見られた。このことは,都市型の個配生協にお
いても組合員が興味・関心を持てる活動やイベントの場が設けられるならば,
ふだんは交流のない組合員同士が交流する機会がうまれ,組合員聞のネット
ワークの形成が行われる可能性を示唆するものと考えられるだろう。
4
. 分析結果
4
.
1 生協組合員が持つ相談ネットワークの類型化
さて,一般には都市部の生協では個配が中心業態となり,従来のような班
活動を中心とした組合員聞のコミュニケーションは希薄になっているといわ
れる。パルシステム千葉ではそのような傾向は見られるのだろうか。本章で
は,まず組合員が持つ「普段の生活で気にしていることがら Jを相談できる
相手のネットワークの現状を明らかにした上で,そのネットワークの中のど
7
8 明治大学教養論集通巻 5
0
9
号 (
2
0日・ 9
)
表2 r
普段の生活で気にしていることがら J を「績ができる J 相手の因子分析結果
I
E
E
親しい友人
0
.
5
9
0
.
10
0
.
14
隣近所や町内会,地域活動の関係の人
0
.
5
5
0
.
3
5
0
.
10
一緒に住んでいる家族
0
.
0
5
0
.
45 -
0
.
2
8
趣味やボランティアなどのグループ・サークル活動の人
0
.
43
0
.
0
4
0
.
3
9 -
職場や学校関係の人
0
.
3
6
0
.
2
8
0
.
2
8
問題事に関する専門機関の人
0
.
0
1
0
.
7
1
0
.
3
1
パルシステム千葉関係(他の組合員や職員〉の人
0
.
2
3
0
.
6
0
0
.
16
離れて暮らしている家族
0
.
3
0
0
.
18
0
.
46
インターネット経由の見ず知らずの人
0
.
0
5
0
.
13
0
.
44
3
3
.
0
8
1
2
.
8
2
1
1
.6
9
寄与率
注)主因子法,パリマックス回転
こにパルシステム千葉が位置づけられ,パルシステム千葉が組合員のソーシャ
ル・キャピタル醸成や活用においてどのような機能をはたしているのかを分
析したい。
普段の生活で気にしでいることがら」を「話ができる J相手につ
まず. i
)。
いて,因子分析を行い,その構造を把握する(表 2
因子分析(主因子法,パリマックス回転)の結果,三因子が抽出された。
. i隣近所や町内会,地域活動の関係の人J
.
まず,因子 Iは「親しい友人J
「一緒に住んでいる家族J
.i
趣味やボランティアなどのグループ・サークル
.i
職場や学校関係の人Jの因子負荷量が高いため,その人の「居
活動の人J
住地域内の,個人的な相談相手」因子と名づけた。次に,因子 Eは「問題事
に関する専門機関の人J
.i
パルシステム千葉関係(他の組合員や職員〉の人」
の悶子負荷景が高いため,その人の「システム・制度的な相談相手J悶子と
名づけた。最後に,因子 Eは「離れて暮らしている家族J
. iインターネット
経由の見ず知らずの人Jの因子負荷量が高いため,その人の「居住地域外の,
個人的な相談相手」因子と名づけた。
都市型生活協同組合員のネットワ ークとソ ーシャル ・キャピ タル
7
9
4
.
2 生協組合員が持つ相談ネットワークとしてのソーシャル・キャピタル
次に,これら 三因子に表される相談相手を持つ人が生協会員内でどのよう
に分布しているのかを調べるために, 三因子の因子得点に対してクラスタ 一
分析を行った(類型数 4
)。
居住地域内の,個人的な相談相手 j, I
システム ・
クラスタ ー分析の結果, I
制度的な相談相手j,I
居住地域外の,個人的な相談相手」を持つ人の傾向は,
以下のようにグループ化できることがわかった。
まず,第一ク ラスタ ーは
,
I
居住地域内の,個人的な相談相手 j, I
シス テ
居住地域外の,個人的な相談相手」のいずれも低
ム ・制度的な相談相手 j, I
く,そもそもあまり 「
普段の生活で気 にしていることがら 」 を他人に相談 し
ない人のグル ープ,あるいは相談相手のネットワ ークを持っていない人のグ
ループであるといえる 。次に,第二 クラスターは, I
システム ・制度的な相
談相手」への相談傾向が強いグループであるといえる 。第三 クラスタ ーは
,
「
居住地域内の,個人的な相談相手」への相談傾 向が強いグル ープである 。
最後 に,第四クラスタ ーは
,
I
居住地域内の,個人的な相談相手 j, I
システ
ム・制度的な相談相手 j, I
居住地域外の,個人的な相談相手」 のいずれも高
い,積極的に多様な人々に相談をする傾向にある,あるいは多様な相談相手
一ーー 第一クラスタ ー
ー血ー 第二クラスター
-):ー第三クラスタ ー
ー 第四クラスター
居住地域外の,
個人的な相談相手
システム ・制度的な
相談相手
図 I クラスター分析による類型
8
0 明 治 大 学 教 養 論 集 通 巻5
0
9号 (
2
0
1
5・
9
)
のネットワークを持っている人のグループであるといえる。
四つのグループを,ソーシャル・キャピタルの「ブリッジングーボンディ
ングJ
,I
表出的一道具的」という軸で分類すると,表 3のように考えられる
だろう。
第一クラスターは,そもそも他人に相談しない,あるいは相談相手のネッ
トワークを持っておらず,ソーシャル・キャピタルを持ち得ないと考えられ
る。第二クラスターは,居住地区内・外の,個人的な相談相手というよりも
システム・制度的な相談相手」といった,所属外(外向き)で異
むしろ, I
質な人や社会集団に向けられた相談ネットワーク(個人と「専門機関の人」
や「パルシステム千葉関係の人」との聞のネットワーク(消費者と供給者と
の関係))を有し,そこで自分が必要な資源を獲得していることが推測でき
るものであり,ブリッジング・道具的ソーシャル・キャピタルを持っている
と考えられる。第三クラスターは,主に居住地域内に相談ネットワークを持っ
ていることから,地域内の人々との同質的な結びつきによってその内部で信
頼や協力や結束をうみだす,ボンディング型のソーシャル・キャピタルを有
し,資源の維持や防御する「表出的 Jなソーシャル・キャピタルを持ってい
表 3 4群のクラスターとソーシャル・キャピタルの分類との関係
ソ シャル・キャピタルの分類
クラスタ一番号
グループの特徴
第一クラスター
ブリッジングー
ボンディング
表出的一道具的
相談相手のネットワークを持つ
ていない
なし
なし
第二クラスター
「システム・制度的な相談相
手」への相談傾向が強い
ブリッジング
道具的
第三クラスター
「居住地域内の,個人的な相
ボンディング
談相手」への相談傾向が強い
表出的
第四クラスター
多様な相談相手のネットワ
クを持っている
ブリッジング・
ボンディング
表出的・道具的
都市型生活協同組合員のネットワークとソーシャル・キャピタル
ると考えられる。第四クラスターは. i
居
8
1
表 4 クラスターの所属ケース数
住地域内・外の,個人的な相談相手J
. iシ
クラスター番号
ケース数
ステム・制度的な相談相手」といった多様
第一クラスター
2
2(
0
.
0
8
)
な相談ネットワークを持っており,ブリッ
第二クラスター
6
3(
0
.
2
2
)
ジング・ボンディング・表出的・道具的ソー
第三クラスター
8
8(
0
.
3
1
)
第四クラスター
I
I
I(
0
.
3
9
)
計
2
8
4
シャル・キャピタルを持っていると考えら
れる。
注〕括狐内は比率
なお,各クラスターの所属人数は表 4の
とおりである。
つまり,組合員の持つ相談ネットワークとしてのソーシャル・キャピタル
のうち,最も多いのはブリッジング・ボンディング,表出的・道具的機能を
兼ね備えた豊富なソーシャル・キャピタルを持つ人々(第四クラスター)で
あり,彼らは全体の約 39%を占める。二番目に多いのは家族や友人,地域
内で結びつきのある人々との聞にボンディング劃で表出的なソーシャル・キャ
1
ピタルを醸成している人々(第三クラスター)であり,彼らは全体の約 3
%を占める。三番目に多いのはパルシステム千葉関係の人や専門機関の職員
との聞にブリッジング・道具的なソーシャノレ・キャピタルを醸成している人々
(第二クラスター〉であり,彼らは全体の約 22%を占める。最後に,いずれ
の型のソーシャル・キャピタルも持たない人々(第一クラスター)は全体の
約
8%しか存在せず,少数派である。
以上から,パルシステム千葉は,相対的に家族や友人,地域内の人々と結
びつかずに生活する組合員にとってブリッジング・道具的なソーシャル・キャ
ピタルを醸成し,活用するものとして機能している(第二クラスター)一方
で,より多くの組合員にとって,家腕や友人,地域内の人々との強く,ボン
ディング型で,表出的な結びつきと違和感なく両立するものとして,あるい
はそれらの結びつきを強化するものとして,ブリッジング・道具的なソーシャ
ル・キャピタルの醸成・活用手段になっていると考えられる。
8
2 明 治 大 学 教 養 論 集 通 巻5
0
9
号 (
2
0
1
5・
9
)
4
.
3 生協組合員が持つネットワークと行動・認知レベルでのソーシャル・
キャピタルとの関係
次に,クロス表分析により,相談ネットワークに関する 4群のクラスター
と,行動レベルや認知レベルでのその他のソーシャル・キャピタルとの関係
を分析する。まず,社会参加の度合いに関して,
r
あなたは,過去 5年聞に
町内会・自治会の活動に参加しましたか J
,と「あなたは,過去 5年間に市
民活動や住民運動に参加しましたか」という設問を取り上げる。
相談ネットワークを持たない第一クラスター所属者は,他のクラスター所
属者に比べて社会参加の頻度が少ないことがわかる(図 2
,3
)。次に注目す
べきは,
r
システム・制度的な相談相手Jへの相談傾向が強い第二クラスター
所属者が,他のクラスター所属者に比べて社会参加の頻度が高いことである。
ブリッジング・道具的なソーシャル・キャピタルの保持者である第二クラス
ター所属者は,社会参加という行動の商でもソーシャル・キャピタルが高い
ことがわかる。「居住地域内の,個人的な相談相手」への相談傾向が強い第
三クラスター所属者が,町内会・自治会への参加には積極的なものの,市民
活動や住民運動への参加には消極的な点も特徴的である。
次に,他者への信頼や安心という認知的なソーシャル・キャピタルに関し
て
,
r
あなたは,近隣の人々や地域自体に対して信頼感を持っていますかJ
,
「あなたは,近隣の人々や地域自体に対して安心感を持っていますか」とい
う設聞を取り上げる。
相談ネットワークを持たない第一クラスター所属者は,他のクラスター所
属者に比べて近隣の人々や地域自体への信頼感・安心感が低いことがわかる。
その他のクラスター所属者はいずれも,信頼感・安心感の双方について「と
てもそう思う」と「ややそう思う」の和が 70%を超えており,高い認知的
ソーシャル・キャピタルを醸成していることが伺える(図 4
,5
)。
最後に,パルシステム千葉の利用頻度とクラスターの関係を分析する。
都市型生活協同組合員のネットワ ークとソ ーシャル ・キャピ タル
8
3
第四クラスタ ー
-とてもそう思う
第三 クラスタ ー
口 ややそう思う
第二 クラスタ ー
・ あまりそう思わない
隠ま ったくそう恩わない
第一 クラスタ ー
。%
50%
1
0
0%
図 2 町内会 ・自治会への参加の度合いとクラスターのクロス表分析
第四クラスタ ー
-とてもそう思う
第三 クラスタ ー
ロ ややそう思う
・ あまりそう思わない
第二 クラスタ ー
掴まったくそう思わない
第一 クラスタ ー
0%
W%
1
0
0%
図 3 市民活動や住民運動への参加の度合いとクラスターのクロス表分析
相談ネ ッ トワー クを持たない第一ク ラスター所属者は,全員が週一度以下し
。逆に最も利用頻度が高いのは第三 ク
かパルシステム千葉を利用していな L、
ラスタ ー所属者, 二 番目に利用頻度が高いのは第四クラスタ ー所属者となっ
ており,これは利用頻度を高めるほど居住地域内の人々やイベントとの関わ
りの程度が深 まり,ボ ンディ ング ・表 出的な ソー シャル ・キャピタルが醸成
されるものと理解できるだろう (図的。
8
4
明 治 大 学 教 養 論 集 通 巻5
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9号 (
20
1
5・
9
)
-とてもそう,思う
第四クラスタ ー
ロ ややそう思う
・ あまりそう,思わない
第三 クラスター
国 まったくそう恩L
わない
第二クラスタ ー
第一クラスタ ー
0%
20%
40%
60%
80% 1
00%
図 4 近隣の人々や地域自体への信頼感とクラスターのクロス表分析
第四クラスタ ー
第三 クラスタ ー
-とてもそう忠、う
ロ や や そう思う
第二 クラスター
・ あまりそう忠わない
国 ま っ た くそう思わない
第一 クラスタ ー
0%
20%
40%
60%
80% 1
00%
図 5 近隣の人々や地域自体への安心感とクラスターのクロス表分析
第四クラスタ ー
-毎日
第三 クラスタ ー
ロ 週4
5
・遇2
3
第二 クラスタ ー
・ 週 l回
時月 2
3回
第一クラスタ ー
・ 月 l回
0%
20%
40%
60%
80%
1
00%
図 6 パルシステム千葉の利用頻度とクラスターのクロス表分析
都市型生活協同組合員のネットワークとソーシャル・キャピタル
8
5
5
. おわりに
以上の分析結果から,都市型生協の組合員が持つ社会ネットワーク(=相
談ネットワーク)の現状,ならびにそれと行動・認知レベルでのソーシャノレ・
キャピタルやパルシステム千葉の利用頻度との関係について以下のことが指
摘できるだろう。
①組合員の持つ相談ネットワークとしてのソーシャル・キャピタルのうち,
最も多いのはブリッジング・ボンディング,表出的・道具的機能を兼ね備
えた豊富なソーシャル・キャピタルをもっ人々(第四クラスター)であり,
二番目に多いのは家族や友人,地域内で結びつきのある人々との聞にボン
ディング型で表出的なソーシャル・キャピタルを醸成している人々(第三
クラスター),三番目に多いのはパルシステム千葉関係の人や専門機関の
職員との聞にブリッジング・道具的なソーシャル・キャピタルを醸成して
いる人々(第二クラスター〉であり,いずれの型のソーシャル・キャピタ
ルも持たない人々(第一クラスター)は少数派である。このことから,パ
ルシステム千葉は,相対的に家族や友人,地域内の人々と結びつかずに生
活する組合員にとってブリッジング・道具的なソーシャル・キャピタルを
醸成し,活用するものとして機能している(第二クラスター)一方で,よ
り多くの組合員にとって,家族や友人,地域内の人々との強く,ボンディ
ング型で,表出的な結びつきと違和感なく両立するものとして,あるいは
それらの結びつきを強化するものとして,ーブリッジング・道具的なソーシャ
ル・キャピタルの醸成・活用手段になっていると考えられる。
②
一般にパルシステム千葉の組合員の他者への信頼や安心という認知的な
ソーシャル・キャピタルは尚い。とくに,ブリッジング・道具的なソーシャ
ル・キャピタルの保持者である第二クラスター所属者は,他のクラスター
所属者に比べて社会参加の頻度が高く,社会参加という行動の面でもソー
8
6 明治大学教養論集通巻 5
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号 (
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0
1
5・
9
)
シャノレ・キャピタルが高いことが示されている。また第三クラスター所属
者は,町内会・自治会への参加には積極的なものの,市民活動や住民運動
への参加には消極的な点も特徴的である。
③
一方で,相談ネットワークを持たない第一クラスター所属者は,他のク
ラスター所属者に比べて社会参加という行動レベルでのソーシャル・キャ
ピタル,ならびに他者への信頼や安心という認知的なソーシャル・キャピ
タjレも低い。
④
パルシステム千葉の利用頻度については,第一クラスター所属者は,全
員が週一度以下しかパルシステム千葉を利用していない。逆に最も利用頻
度が高いのは第三クラスター,二番目に利用頻度が高いのは第四クラスター
所属者となっており,これは利用頻度を高めるほど,居住地域内の人々や
イベントとの関わりの程度が深まり,ボンディング・表出的なソーシャル・
キャピタ Jレが醸成されるものと理解できる。
少なくとも個配を中心とした都市製生協の組合員は,連帯意識や組織活動,
環境問題等の社会運動に対する志向性が強く,多様な相談相手を持つ人々で
はなく,むしろ多様なつながりを持った人々が存在するということである。
大きなシステムの転換期を迎えているといわれる都市型生協の本質を理解し,
今後の普及の戦略とその連帯のあり方を考えるために,今回のような組合員
のネットワークを分析するという視点が役立ちうることが示されている。
ただしこの研究の進展には,様々な課題も残されている。その主たるもの
は,調査・分析手法の洗練である。たとえば今回の分析において,パルシス
テム千葉の組合員の相談相手のネットワークを調べているが,これらのネッ
トワークがパルシステム千葉に参加することによって形成されたかのどうか
(もともと相談相手ぞ最寄に持つ,多様に持つ人々がノ守ルシステム千葉に参
加しているということを表すのかもしれな L、)というものである。さらに,
本稿ではパルシステム千葉の利用頻度を高めることにより関わりが深まりソー
シャル・キャピタルが醸成されると解釈したが,ソーシャル・キャピタルを
都市型生活協同組合員のネットワークとソーシャル・キャピタル
8
7
形成している人々がパルシステム千葉の利用頻度を高める一一つまり,ソー
シャル・キャピタルを多様に持つ人はパルシステム千葉の様々な情報を得る
機会も多く,結果的に利用頻度を高める一ーという可能性もありうる。これ
らの諸点については,さらなる調査を行うとともに両者の因果関係のメカニ
ズムをより詳細に分析することにした L
。
、
《法》
1
) 角・西城戸 (
2
0
0
8
) によれば,佐藤慶幸を中心とした研究グループ(早稲田グ
ループ〉の調査は,量質ともに群を抜いた存在であり, 1
3年間におよぶ早稲岡
グループの調査では, 8 冊の報告書と 3 冊(~女性たちの生活ネットワーク~ ~女
性たちの生活者運動~ ~女性と協同組合の社会学~)の著作が出版されているとい
う
。
2
) たとえば,
1
生活クラブ生協は,…さまざまな社会運動や社会活動を展開する
ことによって,相互信頼と互酬性のネットワークとしての〈社会関係資本〉を蓄
積してきたのである J(佐藤, 2
0
0
7:
p
.7
9
) と述べられている。
3
) このほかの研究として,たとえば羅 (
2
0
1
0
) は,班別予約共同購入システムの
特徴をソーシャル・キャピタルの観点から捉えなおし,横浜北と川崎地域の生活
クラブ生協の組合員を対象にした調査票調査を行っている。その結果,町内会・
自治会等の地縁団体に参加している人や隣近所に住んでいる住民に対する信頼感
が高い人は生協の 3つの利用の仕方(個配,デポー,斑)のうち班利用者になる
傾向があり,地域の日常的な社会ネットワークとそこに埋め込まれている信頼の
ようなソーシャル・キャピタルは班利用の急減と個E利用の急増に影響を及ぼす
要因であること。また,
1
協同組合地域社会の形成に向けて,組合員の自発性と
主体性が発揮できる組織環境の形成が重要であり,そのような組織環境を形成す
るためには組合員活動が内向きにならないようにする橋渡し型(ブリッジング型:
筆者注〕のソーシャル・キャピタルを醸成する仕組みの工夫が必要である Jと述
べている。
1
パルシステム生活協同組合連合会」一一首都圏を中心に
1都 9県 1
0の地域生協(パルシステム千葉のほか,パルシステム東京,パルシ
4
) パルシステム千葉は,
ステム神奈川ゆめコープ,パルシステム埼玉,埼玉県勤労者生活協同組合,パル
システム茨城,パルシステム山梨,パルシステム群馬,パルシステム福島,パル
システム静岡〕に加盟する一組織であり,食を中心とした商品の供給事業や共済・
保険事業,福祉事業などを展開している協同組合である(パルシステムガイド,
2
0
1
4
)。
8
8 明 治 大 学 教 養 論 集 通 巻5
0
9号 (
2
0
1
5・9
)
5
)
パルシステム千葉の「組織概要J および ~2014 年度事業活動報告審・決算関
係書類等承認の件(第 2
6回通常総代会議案書分冊)
J より。
6
) ~パルシステム千葉組織案内」ではパルシステム千葉による地域・社会貢献事
r
r
r
業として. 復興支援 J
. 環境・エネルギー政策 J
. 子育て支援J等が挙げられ
ている。そのうち「復興支援」では,組合員とたもに東日本大震災の発生時に被
災地や被災した生産者への募金活動の実施,職員による復興支援活動やボランティ
ア活動への参加,また 2
0
1
1年 8月からはパルシステム福島の組合員親子を千葉
に招待する保養プロジェクトも毎年開催されている。
7
) パルシステムではライフステージに合わせて 2 つのメインカタログ(~コトコ
トJ
:子育て中の家庭向けと「きなり J
:夫婦二人など大人の家庭向け)と 4つの
オプションカタログ (~yumyum
ForBaby& K
i
d
s
J
. ~ぷれーんぺいじ J.
RingLove
J ~ケア・さぽーと J)
~Link
が用意されている。松下 (2009) によれば,
「この“カタログ"が我々の事業の肝であり,商品やサービス,届け方などを含
むその販売方法の全体は,個々人の組合員のライフスタイルによって選択される
ビジネスモデルである Jと い う 。 )
8
) 本調査は,財団法人生協総合研究所の第 5回研究奨励助成事業の助成を受けて
実施された。
r
r
m
.r
パルシステム千葉に対する満足度や参加状況 J
.I
V
.r
日常生
9
) 4つの設問とは具体的には. 1
. 回答者の属性 J
.I
I
. 普段の関心事や社会と
.
のつながり J
活やパルシステム千葉,地域社会への意向」についてである。
1
0
) 普段の生活で気にしていることがらとして,調査票では「子育て・教育Jr
食
r
r
r
r
r
の安全・安心J 防犯・防災 J 家族の健康・介護 J 家計 J 環境問題 J 政治J
の 7項目について尋ねている。
1
1
) 認知的ソーシャル・キャピタルとは,規範,価値,態度,信念とそれらをもと
に作り出される信頼,互酬性,連帯意識,寛容さのことを指す。
1
2
) 松下 (2009) 。なお,本調査の回答者の年齢層を ~2009 年度全国生協組合員意
識調査」の組合員像と比べてみると,少子・高齢化の影響を受ける他の生協より
も平均年齢が低いことがわかる。ちなみに. ~全国生協組合員意識調査」とは,
「生協組合員の構成,
くらし・購買に対する意識・行動,生協の事業・活動に対
する評価を明らかにし,生協の政策検討・決定に参考となる情報を提供すること
を目的」に,
日本生協連が生協総合研究所に委託して 1
9
9
4年から 3年おきに組
0位までの生協を対象に実施されているものである。この 2
0
0
9年度
合員数上位 3
調査における組合員の平均年齢は. 5
3.1歳 (
2
0
0
6年度は 5
1
.4歳〉であった(武
田. 2
0
0
7
;高橋. 2
0
0
9
)
白
。
1
3
) ここでの組合員が感じる役立ち度は,パルシステム千葉が提供する商品・サー
ピスの利用状況を表すものとして捉えることができるだろう。
都市型生活協同組合員のネットワークとソーシャル・キャピタル
8
9
参考文献
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0
0
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2
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0
5
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ぐる仮説群の整理Jr京都教育大学紀要~ 1
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7,p
p
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西城戸誠・角一典 (
2
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0
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活クラブ生協北海道を事例として Jr現代社会学研究~ 1
9, p
p
.
2
1
4
0
.
r
西城戸誠 (
2
0
0
8
) 生活クラブ生協北海道における社会運動の成果と連帯のゆくえ
9
2, pp.18
一 動 員 構 造 と 運 動 文 化 の 観 点 か ら Jr大原社会問題研究所雑誌~ 5
41
.
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角一典・西城戸誠 (
2
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8
) 生活クラブはどのように研究されたか J 社会運動Jl3
3
7,
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.
2
4
3
7
.
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西城戸誠・角一典 (
2
0
0
9
) 生活クラブ生協の「共同性」の現状と課題一一戸別配送
システム導入および組織改革後の生活クラブ生協北海道の事例を中心として」
『年報社会学論集Jl 2
2,p
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5
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61
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西城戸誠・角一典 (
2
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11
)
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まちと暮ら
し研究Jl 1
2, p
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.
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.
羅ー慶 (
2
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1
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) 1"生活クラブ生協における組合員運動とソーシャル・キャピタル J
『総合政策論叢~ ,
1
pp.174
3
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佐藤慶幸(19
8
8
) ~女4陸たちの生活ネットワーク一一生活クラブに集う人身』文民堂.
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佐藤慶幸・天野正子・那須詩編著(19
9
5
) 女性たちの生活者運動一一生活クラブを
支える人びと』マルジュ社.
佐藤慶幸(19
9
6
) ~女性と協同組合の社会学一一生活クラブからのメッセージ」文民
堂.
佐藤慶幸 (
2
0
0
2
) ~NPO と市民社会』有斐閣.
r
佐藤慶幸 (
2
0
0
7
) アソシエーティブ・デモクラシ一一一自立と連帯の統合へ』有斐
閣.
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桜井政成 (
2
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8
) 地域の活性化とソーシャルキャピタル Jr協同組合研究~ 2
7(
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)
,
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1
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桜弁政成・山国一隆 (
2
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9
) 生活協同組合員の社会関係と生活一一生活協同組合パ
9
0 明 治 大 学 教 養 論 集 通 巻5
0
9
号 (
2
0日・ 9
)
ルシステム千葉における調査結果を過して J協同組合と地域社会研究会編「協
同組合と地域社会の連携一一ソーシャル・キャピタルアプローチによる研究」
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1
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.
桜井政成・山田一隆・角谷嘉則・粛線進也 (
2
0
0
9
) ,非営利・協同組織によるソーシャ
r
ルキャピタルの醸成・活用一一地域活性化への示唆 J 第 5回 生 協 総 研 賞 研 究
p.59-7
1
.
奨励助成事業研究論文集.1 p
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高橋怜ー (
2
0
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9
) ,2
0
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9年度全国生協組合員意識調査の概要 J 生活協同組合研究」
4
0
7,p
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1
7
2
7
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武田賢治 (
2
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)1
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6年度全国生協組合員意識調査の概要J 生活協同組合研究」
3
7
4,p
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山口浩平 (
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7
) 生協と地域社会の醐ーコープこいとコープやまぐちの事例
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7
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2
1
3
2
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にみる「組合員活動」の進化と深化 J 生活協同組合研究.1 3
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山口浩平 (
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8
) 生協活動とソーシャル・キャピタル醸成一一生協による地域連携
の取り組みから J~協同組合研究.1 2
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鈎9日
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(なかざみ・ひろみ
情報コミ品ニケーション学部専任講師〉