生命融合科学教育部セミナー 2016年9月13日(火)13:30∼14:30 富山大学 五福キャンパス 理学部A239講義室(理学部2F) 遺伝子の無意味な配列の意味を探って30年余 「たかがスプライシング、されどスプライシング」 前田 明 先生 藤田保健衛生大学・教授 (総合医科学研究所 遺伝子発現機構学研究部門) 真核生物では、遺伝子から転写されたmRNA前駆体は、ほとんどの場合イントロンと呼ば れる非暗号(Non-coding)配列によってずたずたに分断されている。多くのイントロンに分断 されたエクソンを正しく認識しエクソン同士を正確に結合させるスプライシングは、mRNAが 蛋白質合成の暗号(Coding)配列を含むが故に、遺伝子発現での必須過程である。一方、 高等生物になるほどイントロンの長さと数は増大し、ヒトのイントロンは最長、最大の頂点に ある。それが選択的スプライシングの組み合わせを飛躍的に増加させ、2万個そこそこのヒ トの遺伝子から12万種以上の蛋白質を生み出す原理になっている。最たる無駄の効用で あろう。さらに言うなら、ヒトの脳では他組織と比べ、長大なイントロンを持つ遺伝子が圧倒 的に発現している。ヒトの高度な生命現象を演出している秘密が、大量の巨大イントロンに あるかもしれない・・・、などと大風呂敷を広げたくなる。 このような多種多様なスプライシングが正確に遂行される仕組みについては、まだ分から ないことばかりである。確かにスプライシングされている40塩基に満たないヒトの微小イント ロンで、必須なスプライス部位は完全に死んでいる。100万塩基を超える巨大イントロンは 多段階のスプライシングで徐々に短くなっている、癌では、スプライスされた成熟mRNAに 更に余計なスプライシングが起こる、など興味津々な実験的根拠がある。さらに、スプライシ ングの役割は蛋白質合成にとどまらない。スプライシングによって切り捨てられたイントロン が、核小体RNA(snoRNA)やマイクロRNA(miRNA)に変身するという事実があるが、環状 になって(circRNA)遺伝子発現調節に働いているという破天荒な話もある。一見無駄な RNA断片が、姿、形を変えて立派に役割を果たしている、まさに「捨てるイントロンあれば拾 うイントロンあり」。 私たちの実験結果を紹介しつつ、最新の知見をも含めながら、このスプライシングの不可 思議で面白い世界に招待したい。「たかがスプライシング、されどスプライシング」を実感し ていただければ嬉しい。 本講演会は、富山RNA倶楽部(第三回交流会)プログラムの一部、および理学部 化学教室セミナーを兼ねます。 共催:学長裁量経費PJ 「理工医薬RNAリサーチアライアンス」 問い合わせ:富山大学大学院理工学研究部 井川 善也: [email protected]
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