【南方資源利用技術研究会】 【The Society of Tropical Resources Technologists】 Title Author(s) Citation Issue Date URL Rights [報文]有機音容媒によるバガスのパルプ化 屋我, 嗣良; 河内, 進策 南方資源利用技術研究会誌 = Journal of the society tropical resources technologists, 3(1): 37-41 1987-03-30 http://okinawa-repo.lib.u-ryukyu.ac.jp/handle/okinawa/13964 南方資源利用技術研究会 有機溶媒によるバガスのパルプ化 Vol.3 No.1 1987 報 文 有機音容媒によるバガスのパルプ化 屋我嗣良事,河内進策** (琉球大学農学部,宮崎大学農学部) Pulping of Bagasse with Ethanol-Water Media Shiryo YAGA暮and Shinsaku KAWACHI * Faculty of Agriculture, University of the Ryukyus, Nishihara, Okinawa 903-01 ** Faculty of Agncultuγe, University of Miyazaki, Miyazaki 891 A pulping of bagasse was determined by adding sodium hydroxide and hydrochloride to the ethanoトwater media. The cooking of bagasse with sodium hydroxide was successful, but, the cooking of bagasse with either hydrochloride or chemicals free failed to produce the pulp. Addition of ethanol caused a decrease in delignification from bagasse. A pulp yield from bagasse in the water media was the highest of all, 42%. The maximum pulp yield with ethanol-water media composed of 80% ethanol and 20% water was about 38%. A cooking temperature and time with ethanoトwater media required 180-C and 90 minutes respectively. A brightness oHDagasse pulp was considerably higher than that of Sugi kraft pulp. A sheet strength of the pulp was similar to that of wood pulp with regadless of tear strength. およびガンピ(Wikstroemia sikokiana)に求 はじめに 紙の原料となるパルプは,植物の維管束の細 胞壁の繊維をバラバラにしてとり出したもので ある.したがって,維管束をもつ植物(高等植 物)からは,その良否は別として,パルプを製 造することが可能である. 古代エジプトでは,ナイル河口を三角洲地帯 に繁茂した単子葉類のカミカヤマツリソウ (Cyperuspapyrus)から,パピルス紙をつくっ た.中国に始まった製紙法では,アサ(Cannabis めることによって,独特の優雅な和紙へと発展 した. また,中国から,中央アジア,中近兼,北ア フリカをへて,千年以上もかかってヨーロッパ へ伝わった製紙法は,その後,原料を木材とす る方法として発展し,大量生産を可能にした. この方法は,明治以後,わが国でもとりいれら れ,現在,パルプ原料の99%は,木材である. わが国は,国土の3分の2が森林に覆われ, 原料を同じ靭皮繊維をコウゾ(Broussonetia 世界で有数の森林国であるが,その資源の大部 分は,戦後の拡大造林によって造成されたもの であり, 30年生未満のものである.そして,樹 種も,スギ,ヒノキおよびカラマツを主体とす る針葉樹である.これらの樹種は,従来,パル kejinoki) ,ミツマタ(Edgeworthia papyrifera) プ用の原木としてはあまり用いられていなかっ sativa)の靭皮繊維を主体とした原料を用いた. これが,現在の製紙技術の源流となったもので ある.中国から伝わった製紙法は,わが国では, - 37 - 南方資源利用技術研究会誌 屋我嗣良,河内進策 た. その間伐材 をパルプにする試み も一方では 酸 を試料の絶乾量 に対 し, 0-1 0 %添加 し た. なされている. しか し,当面するわが国のパルプ用材 は, そ 0% を輸入 に依存 している状態である. ま の約4 ③ 液比 :試料の絶乾重量の 6倍量の溶媒 を 加 えた. た,世界的 に自然保護 の立場か ら,森林の開発 ④ 蒸解最高温度 :1 2 0 -1 8 0 o C. には制限 を加 えるとい う趨勢 にあ り,パルプ原 ⑤ 最高温度保持時間 :6 0 -1 2 0 分. 料 を非木材資源 に求める動 きも盛 んである.サ トウキ ビ ( Sac c ha r u m of f i ci na r u m)か ら糖液 4.叩 解 を搾 りとったあ との粕であるバガスのパルプ原 料 としての利用 もその一環である. アル ミナ製 ボール ミルを用いて,経時的にカ ナディアン・フ リーネス ( C. S. F. )を測定 しなが 木材 を原料 としたパルプ化法 としては,現在, クラフ ト法がその主流である. この方法の長所 S. F. ら叩解 し,バルブシー ト強度の測定用 に,C. を2 0 0 meに調整 した. は,あ らゆる植物のパルプ化が可能であること, 得 られたパルプの強度が優れていること,薬品 5.シー ト強度試験 の回収工程が確立 されているため薬品 コス トが 叩解 したパルプ試料 について,手す きシー ト 安い こと,な どが挙げ られ る. しか し, その短 を調整 し,JIS法に したが って,強度試験 を 行 った3). 所 としては,一般的に,パルプの漂 白が困難で あ り,製造工程で悪臭が発生す る. また,バガ ス, タケ,草本類 を原料 とした場合 に,収率が 6.白色度試験 低下す ることが指摘 されているl ) . 4 0 未晒パルプの シー トについて,島津UV-2 ここでは,バガスの主産地である沖縄で, こ れをパルプ化する際 に,現地の水系があ まり豊 の型分光光度計の積分球 を用いて, 白色度 を測 定 した. 富でない ことを考慮 して,有機溶媒,殊 に,近 午, その回収が容易 となってきたエタノールを 用いた系でのパルプ化 を試みた結果について報 告する. 結果 と考察 1.バガスの化学組成 バガスの化学組成の分析結果 を,スギ材 と比 較 して,第 1表 に示 した. 実験方法 1.試 第 1表 料 サ トウキビの精液の搾 り相 ( バガス) 杏,風 乾状態の まま供試 した. 成 バガスの化学組成 分 ホ ロセ ル ロー ス リ グ ニ ン アル .ベ ン可溶分 2.化学成分の分析 バガス スギ 5 3. 6% 2 5. 3 3. 1 5 6. 5 % 3 4. 8 1. 4 バガスの化学組成の分析 は,JIS法 に準 じ た2). この表か ら,パルプ原料 としてのバガスは, スギ材 に比べて,ホロセル ロースがやや少な く, 3.パルプ化 抽出成分 ( アル コール ・ベ ンゼン可溶分)が多 バガスのパルプ化 は次の ような条件で検討 し た. され る. しか し, リグニ ン量がスギよりも,か ① 溶媒 :エタノール,水,または,エタノー ル と水の混合溶媒. ② いので,パルプ収率が若干低 くなることが予想 添加薬剤 :水酸化ナ トリウム または,塩 な り小 さ く,一般の広葉樹 なみの値であること か ら,パルプ化,つ まり,脱 リグニ ンは容易で あろうと期待 された. - 38 - Vol . 3 P hl 1 9 8 7 有機溶媒 によるバガスのパ ルプ化 2.溶媒組成 とパルプ収率 ルが加われば,パルプ収率 は低下 し,残留 リグ まず,水酸化 ナ トリウムや塩酸 を加 えずに, ニ ン量 も徐々 に増加 す る傾 向 を示す. 0:2 0 付 しか し,収率 は, エタノール :水 -8 水,エタノール, または, その混合溶媒 のみで 2 0 o C, 蒸解 を試みた. その際,蒸解最高温度 を1 近 で,やや上昇す る ことが認 め られ る.本研究 1 5 0 o Cお よび1 8 0 o Cの 3段階で行 ったが, いずれ の 目的の一つは, 出来 るだ け水 を使用 しない系 の場合 も, ほ とん ど脱 リグニ ンはみ られず,パ でのパルプ化であるか ら,今後 は,溶媒 系の標 ルプ化 はで きなかった. 準条件 として,エタノール :水 -8 0:2 0とした. 続 いて,各溶媒系 に塩酸 を 1-1 0% ( 対バガ 溶媒 を水のみ とした場合, アル カ リ法 となる ス絶乾量)加 えて,蒸解 をお こな ったが, この が, その収率 は4 2%で,木材 の クラフ ト法 よ り も1 0%程度低 い値 となる.御 田4 ) が試 みたバガス 場合 に も,パル プ化 は不十分であった. そ して.添加薬剤 として,各溶媒 系 に水酸化 の過酸化水素 -アルカ リパ ル プ化 では, その収 ナ トリウムを加 えた場合のみ,明 らかな脱 リグ 0%∼5 0%であ り,本実験結果 はその低 率 は約4 ニ ンが認 め られた.添加量対バガスの絶乾量 に 位 にあた る. 1-1 0 %では, 5%でほぼ脱 リグニ ンが最高値 バガスの中にはサ トウキ ビの髄 (ビス) を含 となるので,以後 の実験 は,水酸化 ナ トリウム んでお り, これが,収率低下 の一因ではないか の添加量 を 5% とした. と考 え られ る. エタノールー水系のエタノール と水 の比率 を 変化 させた ときのパル プ収率お よび リグニ ン量 3.蒸解温度 とパルプ収率 エタノール :水 -8 0:2 0とした場合 に,蒸解 の変化 を第 1図に示 した. 8 0 o C,保持時間9 0 この図は,蒸解最高温度 が1 分の場合 であるが,水 のみの系でパル プ収率が 温度 とパ ルプ収率 との関係 を示 したのが,第 2 図である. 1 2 0 o Cでは未蒸解部分である粕率が大 最 も高 く,残留 リグニ ンが最低 である( つ まり, 脱 リグニ ンが,最 も良好である).これにエタノー l l l f n 収 事 l l l l l l l 泊 E H:H 2 0暮 8 0 N 5X t O a O ? H: ‥ZO Ti me:90r l l n 畢 パ + Ji i収率 A U ヽ J プ 収 率 0 4 ( %) ル l へ 3: ) リ グ . 一 ン 士 暮 ( I) o :レ 。 1 2 0 エ r ノ ー A,の 比 4 L( %) 150 兼 好 第 1図 エタノールの比率 と精選収率お よび脱 リグニ ン - 3 91 第 2図 温 180 ま ( l c) 蒸解温度 とパ / レプ収率 南方資源利用技術研究会誌 屋我嗣良,河 内進策 部分 を占め,パルプ化 は不十分であ り, 1 5 0 o Cで, 木材パルプと同 じように 1時間毎のC. S. F. を測定 パルプの精選収率は3 0%を越 える.そして, 1 8 0 o C した ところ,2時間後 に急激 な上昇 を観測 した. では,粕率 は 5%未満で,精選収率 は約 3 8% と よ く注意 してみる と,繊維分が,節 いの目か ら ほぼ最高値 に達 した.したが って,エタノール : 抜 け出てい ることが分かった. これは,バガス 水系の蒸解温度 は1 8 0 o Cを標準 とした. の繊維が極 めて脆 く,短時間の叩解で微細化す つ ぎに,エ タノール :水 -8 0:2 0の系で,慕 る ことを示 している.強度試験 に供 す るのに必 8 0 o Cの場合の,蒸解時間 と脱 リグニ ンの 解温度 1 要な フ リーネスの約 2 0 0 meを得 るのには,約 20分 関係 を示 したのが第 3図である. の叩解時間で十分であった. この図か ら,蒸解時間 3 0分で は,脱 リグニ ン 蒸解最高温度 1 8 0 o C,保持時間6 0 分,エタノー はほ とん ど認 め られず, その後温度の上昇 と共 ル :水 -8 0:2 0 ,水酸化 ナ トリウム添加量 5% に, ほぼ直線的 に, リグニ ン量 は減少 す ること の条件 で得 たバ ガスパル プを,C. S. F. 2 0 0 mは で が分か る. 叩解 し, これか ら,手漉 きシー トを調整 した. 残留 リグニ ン量が少 ないほ どこの後 の漂 白は 容易 とな るが,漂 白の程度 は,製造 す る紙 の用 途 に依存 す る.通常の用途 の紙 を目的 とす る場 令,バ ガスでは蒸解時間9 0分以上 を必要 とす る. シー ト強度等の測定値 をスギの クラフ トパルプ と比較 して示 したのが,第 2表 である. この表 か ら,未晒パル プの白色度 はスギに比 べて著 し く高 く, この ままで も新聞紙 に使用出 来 る. また, シー ト強度 では,引張強 さ ( 裂断 4.和解 とパルプの シー ト強度 長)お よび比破裂強 さはスギ よ り劣 る程度であ 未叩解,末晒バガスパ ル プの ろ水度 ( カナデ ィ る.ただ,比 引裂強 さがスギの 5分の 1とかな ア ン・フ リーネス,C. S. F. )は,約 7 0 0 mQで,木 り弱い. これは,前述 の ように,バ ガス繊維が 材パル プのそれ と大差 はみ られない. かな り脆 い ことに起因す ると考 えられた.御田 このパルプをボール ミルで叩解 した.その際, は4)バガスの過酸化水素 -アルカ リによるパルプ 化 を試みその シー ト強度 について同様 の結果 を 得 ている. 第 2表 グ 0 ク ー リ 項 バガスパルプの シー ト強度 目 バガスパルプ ニ 坪 量 (g/ m2 ) 白 色 度 ( G. E. ) 裂 断 長 ( bn ) 比 破 裂 強 さ ン 舎 5 8. 9 0 5 7. 1 0 6. 5 5 4. 5 3 スギ KP 6 0. 3 0 1 7. 5 0 8. 8 3 6. 8 5 壬 要 旨 バ ガスのエタノール ー水系 によるパルプ化 を 0 3 0 60 義 解 時 90 間 試 みた. 1 20 ( 分) 1.溶媒 のみ,お よび塩素 を添加 した溶媒 では, 温度 を上 げて もパルプ化 はで きなか った.水 酸化 ナ トリウムを添加す る ことによって,パ 第 3図 蒸解時間 と脱 リグニ ン ルプ化が可能 である. - 4 0- Vo13 Nol 1 9 87 有機溶媒 に よるバ ガスのパ ル プ化 2.水を溶媒 とした場合が最 もパルプ収率が高 く,約4 2%であった.エタノール を加 える と 工程 について再検討する必要があろう. 引用文献 脱 リグニンは低下するが, 収率はエタノール : 水 -8 0:20でやや高い値 を示 し,約 3 8%であっ た. 1)御田昭雄 :" 非木材パルプの工業化〝,現代 化学 ,pp. 5 057( 1 9 80) 3.エタノール :水系での蒸解では,温度は1 80 o C, 最高温度保持時間は9 0分以上が必要である. 4. こうして得 られたパルプの白色度 はかな り 2)戸田久昭 : 「 木材化学」 ( 下) ,共立出版, pp. 1 3 2( 1 9 6 8) 高 く,引裂強度 を除いて木材パルプ と比べて 3)長谷川信夫,矢野悌二 : 「紙パルプの種類 とその試験法」,紙パルプ技術協会 ,pp. 1 64 遜色 はなかった. 2 5 0( 1 9 6 6) 5.有機溶媒 によるバガスのパルプ化 に当って は,今後 さらに,助剤の検討 をふ くめて,収 4)御田昭雄 : "熱帯 ・亜熱帯の未利用植物資 率の向上 を図る必要がある. また,パルプ ・ 紙製造化工程 における水の使用 は蒸解工程の みならず,洗浄,漂 白お よび抄紙のあ らゆる - 41- 源の多 目的高度利用 システムに関する研究〟 報告書,pp. 1 4 61 51( 1 9 82) .
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