高齢者の自立体力テスト 健康寿命を一日でも長く保持することは、誰にとっても共通の願いといえ 研究の背景と目的 中野 美恵子 教育学部 教授 る。しかし平均で男性約 7 年、女性は約 9 年の期間、誰かの介助を必要とす るのが日本の実態といえる。 2006 年介護保険改正により予防重視型システ ムへ介護保険制度は転換されたが、新たな「高齢者筋力トレーニング」の項 目に対し、具体的な対策は各施設などへ託され、未だ模索状況に近い。高齢 者のQOLに役立つ安全かつ有効な運動開発は急務であり、それを継続し定 着させることで自立体力の維持向上は可能となる。効果的な運動実施のため には現状把握が不可欠であり、運動効果確認と併せて、高齢者に適した「体 力テスト」開発が望まれていた。 ■ キーワード 2006 年 2 月、高齢者の自立を目標とする「自立体力トレーニング」を開発・ 発表し、以来多くの方々がトレーニングの有用性を体感された。 ・ 高齢者 その間、運動実施による自立体力向上を確認したい声が多々寄せられ 2009 ・ 自立体力 年 2 月「自立体力テスト」を全国発表し、現在では自治体等でも用いられてい ・ 超高齢社会 る。テストは毎日の生活実態を反映する 4 項目の測定からなり、日常の生活 ・ 日常生活機能 ・ 介護予防 ・ 自立支援 ・ 体力テスト 機能や自立状態を定量化できるものである。項目は、 研究の概要 ・ トレーニング ①歩行能力・・・人間の基本動作である歩行がスムーズに行えるか ②身体調整能力・・・衣類の着脱のような身体を調整する事ができるか ③手作業能力・・・指先、手首の動作などの手作業ができるか ④姿勢変換能力・・・立ち上がる、のような姿勢・体位変換ができるか ・ 生活習慣 以上の「日常生活全体」を構成する4つの基本動作それぞれについて、測定 して評価することで、高齢者の基本的な生活状態や日常生活で身体動作を 行う能力の評価が可能である。 ■ 技術相談に応じられる関連分野 判定基準値は、静岡市清水区を中心とする高齢者約 1000 名の測定に基 ・ 自立体力のトレーニング方法 づいて男女別・年齢別に5歳間隔で作成した。女性には 90 歳代のステージが (理念と実践) ある。 ・ 高齢者の運動実施 これまで日本で実施されている文部科学省の「新体力テスト」・高齢者用 ・ 自立体力テスト方法 は、65~79 歳を対象として同じ項目が実施され、判定表も年齢差があるにも (理念と実践) 拘わらず、一つの基準値で判断している。また実施項目も「握力」「上体起こ ・ 姿勢と動作 ・ 履物の有用性 し」のような、成人実施の一般的な体力テストに準じたものである。 セールスポイント (家具などの用具と) それに対し「自立体力テスト」は、日常生活実態が反映された数値を示すこ とに加え、判定基準の数値については5歳刻みの判定基準値がある。さらに 「日本人の平均寿命」を含みつつ、女性ではこれまで無かった「91 歳以上」の 判定を行うことも可能である。 このテストは日常で行われている動作に近い項目からなるため、「簡単で 楽しくできる」テストと受け止められ、「またやりたい」テストと評価されている。 実施対象者は、健常な高齢者は勿論であるが、従来のテストでは対象にされ なかった、介護度がついている方にも限定実施が可能である。測定者に特別 な技能は不要であり、安全に、簡便な測定が可能である。 「自立体力測定」の「姿勢変換能力測定」実施方法 イメージ図 例えば「現状把握」を目的とする、テスト単体としての実施も可能であるが、可能な限り「運動・トレーニング」実 今後の展望 施と関係させて普及を考えている。そのためには「正しい運動の指導者」養成は不可欠であり、出来るだけ多くの 方々へ働きかけ、そこから高齢者支援の輪、高齢者QOL向上の輪が広がることを期待している。現在静岡県を 中心に指導者養成にも取り組んでいるが、嬉しいことに「口コミ」によって受講される方が増加している。 「定期的に運動を継続する」のはとても難しい。指導者が介在する、そしてこのテストを行うことによって「数値 が目標になる、運動の動機づけになる」効果を期待している。 ■ その他の研究紹介 ① 静岡の地場産業である「下駄」の有用性検証(鼻緒がある下駄の身体に及ぼす効果) ② 「サンダル」の有効性(具体的な製品評価・・・複数) ③ 製品の評価:キッチンの高さの差違と動作の関連、浴用椅子の高さと動作のやりやすさ検証 傾斜机が児童の姿勢に及ぼす影響
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