平成 28 年度避難指示解除準備区域等の 林業再生に向けた実証事業

平成 28 年度避難指示解除準備区域等の
林業再生に向けた実証事業(楢葉町)仕様書
1 事業の目的
東京電力福島第一原子力発電所事故の影響により避難が指示されている地域では、帰還困
難区域を除き平成 28 年度中の避難指示解除に向けて、住民の帰還に向けた取組が行われて
いる。
これらの地域の大半は森林が占めており、林業は地域の基幹産業の一つであったが、事故
後は森林の整備や林業生産活動が停滞していることから、これを再開し地域の復興を加速す
る必要がある。このため、本年3月に福島の森林・林業再生のための関係省庁プロジェクト
チームが取りまとめた総合的な取組を踏まえつつ、避難指示解除準備区域等の林業の再生に
向け、沿岸部の市町村において間伐施業の実証事業を行うとともに、除染特別地域及び、汚
染状況重点調査地域等に指定されている福島県内の市町村において、林内作業における放射
性物質に関する安全・安心対策の周知を図る。
2 事業の実施方法
本事業は、福島県双葉郡楢葉町町に位置する人工林を対象に、森林施業実施時における放
射性物質の拡散防止と作業者の被ばく低減対策等放射施物質対策に必要な技術について実証
する。
また、福島県内の除染特別地域及び、汚染状況重点調査地域等に指定されている市町村に
おいて、林内作業における放射性物質に関する安全・安心対策について巡回指導を実施す
る。
事業実施にあたっては事前に林野庁担当者と協議の上、事業内容や実施方法を確定するも
のとする。
(1) 間伐実証
福島県双葉郡楢葉町に位置するスギ人工林を対象に、森林施業実施時における放射性セ
シウムの拡散防止と作業者の放射線からの影響を低減する手法等について、コスト面も含
めた効果を評価する。
なお、現場作業にあたっては、現地の状況に応じた安全管理及び法令に定められた各種
手続等を適切に行う。また、作業により発生した伐採木、枝条、廃棄物の処理(例えば伐
採木や枝条等を林内に集積することの可否など)については、楢葉町に事前に確認し適切
に対応する。
① 事前調査
ア
空間線量率
事業区域を 20m×20mのメッシュに分割し、各メッシュの空間線量率を測定するこ
とにより森林内の空間線量率分布の変化を調査する。空間線量率の測定結果は測定後
速やかに整理し、信頼できる公表データとの比較分析等により、測定値の信頼性の確
保に努める。
イ 事業地内の放射性セシウムの分布状況
事業区域内に標準地を設け、森林の状況等を調査する。
標準地調査の結果をもとに樹高等を考慮のうえ樹種ごとに試料木を3本以上を選定
し、葉、枝、樹皮、心材、辺材等の部位別に試料を採取する。採取した資料は部位ご
とに混合し、その放射性セシウム濃度を測定する。
また、各試料木採取地付近において 25 ㎝×25 ㎝の範囲内の堆積有機物を硬質土
壌に至るまで採取し、その放射性セシウム濃度を測定する。さらに、堆積有機物を除
いた後の硬質土壌を対象に、100 ㎤の採土円筒缶を用いて深さ5㎝毎に 20 ㎝の深さ
までの試料を採取し、深度別の放射性セシウム濃度を測定する。
放射性セシウムの分布状況については、「World Forest Biomass and Primary
Production Data (Compiled byM.G.R.Catlnell)等により立木部位別の推定現存量を求め、
立木の部位別濃度を乗じて現存量を算出する。
ウ
立木状態での樹皮の放射性セシウム濃度測定
イの試料木について、その伐採前に、別添「樹皮中放射性物質濃度簡易測定マニュ
アル(暫定版)」を参考に測定した樹皮の表面汚染密度及び、樹皮に含まれる放射性セ
シウムから放出される特性 X 線から、イで測定した放射性セシウム濃度の実測値と
の相関を調査する。
エ
小型無人航空機(ドローン等)による施業前後の状況把握
事業の効果や内容を自治体等に分かりやすく示す手段として、施業前後においてド
ローン等により事業地の空撮を行い、森林施業による林相の変化を俯瞰的に把握する。
② 森林施業(間伐)
事業対象区域の中から概ね 2ha を選定し、以下の項目について実施する。なお、生産
された木材のうち利用可能なものは製材品等への活用を検討する。
ア 路網作設
作業者の放射線からの影響を低減するための作業の機械化及び放射性物質の拡散防
止を目的とした路網を作設する。路網の線形や工法については、森林作業道作設指針
に基づくとともに、専門家の指導を得ながら現地に最も適したものを計画するものと
する。
イ 間伐
間伐は下層植生の繁茂を促し表土の流出を抑制することから、放射性物質の拡散防
止を図る上でも重要であり、間伐方法に違いによる、放射性物質の拡散抑制効果、作
業者の被ばく量の違い、作業に伴う土砂等移動量の違いを把握するため、それぞれ1
ha程度以上の定性間伐区、列状間伐区を設け、土砂等移動量、作業者の被ばく量を
測定し、比較する。なお、土砂等移動量については、隣接箇所に地況、林況の類似し
た対照区を設け、施業を行わない林分とも比較する。伐採率は、概ね 35%以下を目安
とし、事前調査の結果をもとに現地の状況に合わせ決定する。
③
施業中及び施業後の空間線量率等の測定
①アで設定した 20m×20mの各メッシュにおいて、路網作設後、間伐実施後、さらに
全ての作業完了後は概ね3ヶ月ごとに空間線量率を測定する。
また、作業道作設に伴う空間線量率の変化を踏まえ、作業者の被ばく低減効果につい
て調査する。森林作業道作設前後に、同ルート上において歩行サーベイによる連続的な
空間線量率の測定を行う。
④
森林施業に伴う放射性セシウムの移動量の測定把握
ア 渓流調査
事業区域内又は事業区域を集水域に含む渓流に三角堰を設置し、ノッチ高を測定する
ことにより流量を把握する。また、三角堰において渓流水を採取し、懸濁物質の量、渓
流水に含まれる放射性セシウム濃度を測定する。なお、懸濁物質に含まれる放射性セシ
ウム濃度は、試料が多く採取可能な測定時に 1 回以上実施する。
測定は、施業前は2週間ごと、施業中は毎日、施業完了後は 1 ヶ月ごとを基本に実
施する。また、大雨等があった場合は、降雨後できるだけ速やかに追加測定を行う。
イ 土砂移動量調査
定性間伐区、列状間伐区、対照区の斜面に土砂受け箱を各試験区5箇所以上設置
し、施業前後の土砂等移動量を測定する。
土砂受け箱はできるだけ早期に設置し、施業前の状況も把握する。土砂受け箱で
捕捉した土砂等は、原則1ヶ月毎に採取し、箱毎に湿重量を計測する。
さらに、ふるいを用いて落葉等有機物と径2mm 以上の石礫、径2mm 以下の砂・
泥に分別し、各々の乾燥重量を計測する。また、箱毎に原則3ヶ月分の試料をまと
めて、放射性セシウム濃度を測定する。なお、代表的な部分について、落葉等有機
物と径2mm 以上の石礫、径2mm 以下の砂・泥それぞれの放射性セシウム濃度を1
回測定し、その傾向を把握する。
また、等高線上に作業道を配置した場合、筋工と同様に斜面を分断し、表流水を分散
することにより、放射性物質が多く含まれる表土等の林外への流出を抑制する効果が
期待できる。そのため、作業道の横断及び縦断方向の両面、また、作業道作設前後で
これらの効果を把握する。調査方法については、作設後についても継続的に効果を把
握出来る方法によるものとする。
⑤ 作業者の被ばく低減対策の評価
林内作業者の作業種ごとの被ばく量を計測し、路網作設や高性能林業機械の活用等に
よる作業者の被ばく低減対策等について評価する。
作業者の被ばく線量測定にあたっては原則として個人線量計を用いて行うが、携帯電
話や衝撃により正確な測定が阻害される可能性を考慮した上で、適切な機器及び測定方
法を選択する。測定は、午前の作業終了後、午後の作業開始前と終了後の3回/日被ばく
線量を記録する。午後の作業終了後には、被ばく量の記録と併せて作業者ごとの当日の
作業工程及び作業内容、使用機械等を1時間単位で記録する。
評価に当たっては、作業場所の空間線量率の違いを考慮したものとする。
(2) 放射性物質に関する安全・安心対策に関する巡回指導
林内作業における放射性物質に関する安全・安心対策について、市町村担当者、事業
体の雇用者、労働者等が適切に理解し実践することが必要であることから、除染特別地
域及び、汚染状況重点調査地域等に指定されている福島県内の市町村を対象に、各市町
村の空間線量率等に応じた巡回指導を実施する。
巡回指導に当たっては、市町村担当及び事業体との調整、説明資料作成・印刷を含む
ものとし、その実施については林野庁担当者と協議の上決定するものとする。
3
報告書の作成
報告書は、上記2の項目ごとに、事業の実施内容及び調査結果(付随する関係資料を含
む。)について、必要に応じ学識者等の指導・助言を得て取りまとめること。
4
事業実施期間
委託契約締結日から平成 29 年3月 17 日までとする。
5
成果品
(1)納入物件
‧ 現地調査等データ(印刷物2部、電子媒体2部)
‧ 平成 28 年度避難指示解除準備区域等の林業再生に向けた実証事業(楢葉町)報告書
(100 部及び電子媒体2部)
‧ 納入する電磁記録媒体資料は、ウイルスチェックを行い、ウイルスチェックに関する情
報(ウイルス対策ソフト名、定義ファイルのバージョン、チェック年月日等)を記載し
たラベルを添付して提出する。
(2)納入場所
林野庁森林整備部研究指導課(別館7階ドア No.別 701)
6
その他
( 1 ) 受託者は事業の進行状況等を月1回程度定期的に報告するほか、林野庁担当者の求め
に応じて報告を行い、適切な事業の執行に努めるものとする。なお、各作業着手時及び
現地作業終了時においては、必ず状況を報告するものとする。
( 2 ) 事業の目的を達成するために、林野庁担当者は、業務状況・進行状況に応じて必要な
指示を行うものとし、受託者はこの指示に従うものとする。なお、受託者は、打合せを
行った際は、打合せの内容を記録した打合せ簿を速やかに作成し、林野庁担当者に提出
する。
( 3 ) 受託者は、本業務の実施に当たって、再委託を行う場合は、事前に支出負担行為担当
官林野庁長官の承認を得るものとする。
( 4 ) 受託者は、業務により知り得た個人情報及び調査データ等について、本事業以外の目
的で使用し、又は第三者に漏洩してはならず、善良なる管理者の注意をもって取り扱う
義務を負う。
( 5 ) 事業の目的を達成するために、本仕様書に明示されていない事項で必要な作業が生じ
たとき、又は、事業の内容を変更する必要が生じたときは、受託者と林野庁担当者が協
議の上、対応する。