中耳炎

小児における特徴を知り,個別性のある看護につなげる
耳鼻咽喉科疾患を理解する!
中耳炎
自治医科大学
とちぎ子ども医療センター
まこと
伊藤真人
小児耳鼻咽喉科 教授 山形大学医学部医学科卒業。金沢大学大学院医薬保健学総合研究科准
教授(感覚運動病態学)
,金沢大学附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科病
院臨床教授を経て,2013年12月より現職。日本小児耳鼻咽喉科学会理
事,日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会理事,小児滲出性中耳炎診
療ガイドライン作成委員会委員長ほか。
現在,日本で唯一の小児耳鼻咽喉科教授です。海外では,耳鼻咽喉科の
一つのサブスペシャリティーとして確立した分野ですが,日本での認知度
はまだまだ低いのが現状です。私はもともと耳科学(中耳炎の聴力改善
手術や人工内耳,側頭骨・外側頭蓋底手術など)が専門ですので,すべて
の人(子ども)が聴こえるようになることが夢です。
それぞれの中耳炎の定義と
発生機序・病態
いずれの中耳炎も,ウイルスや細菌による中耳
腔の感染・炎症が契機となっており,急性の炎症
があるものを急性中耳炎と言い,そこから移行し
やすいものが急性炎症が消失した後も液体が残存
する滲出性中耳炎,さらに,それらの中耳炎の後
遺症でもある慢性中耳炎へと進展する。
●急性中耳炎
急性中耳炎とは「急性に発症した中耳の感染症
中耳炎には,大きく急性中耳炎,滲出性中耳炎,
で,耳痛,発熱,耳漏を伴うことがある」と定義
慢性中耳炎(慢性化膿性中耳炎,癒着性中耳炎,真
される 1)。急性中耳炎は,小学校入学前に75%
珠腫性中耳炎など)があるが,特に小児において頻
の幼少児が1回は罹患すると考えられている。ウ
度が高いのが,急性中耳炎と滲出性中耳炎である。
イルスや細菌感染により耳管機能が障害される
耳は,体の外側から内側に向かって,大きく外
と,鼓室内貯留液の排出が進まず滞留するが,こ
耳,中耳,内耳に分かれており,鼓膜の中の骨で
の中にウイルスや細菌が定着すると急性中耳炎を
囲まれた空間が中耳腔である(図)。中耳腔は,耳
発症しやすくなる。
管を通じて外界である鼻咽腔(鼻腔と咽頭の間)
日本における小児急性中耳炎症例からの検出菌
とつながっている。通常では中耳腔は空気の入っ
と抗菌活性は,欧米とは大きく異なっており,薬剤
た空間であり,鼓膜が振動しやすい構造となって
耐性菌の検出頻度が高いことが報告されている1)。
いる。耳管は開閉して中耳腔の換気を行い,中耳
腔内の気圧を外界と同じに保つと共に,中耳腔に溜
図●耳の構造
耳垢線
まった分泌物などを鼻咽腔へ排出する働きがある。
耳小骨
さんはん き かん
三半規管
生後5~6カ月ぐらいから2~3歳までは,一
アブミ骨 キヌタ骨
生のうちで最も急性中耳炎にかかりやすい時期で
ツチ骨
ある。小児が成人に比べて急性中耳炎になりやす
かぎゅう
蝸牛
いのは,次の理由からである。
①この時期は免疫がまだ発達しておらず,抵抗力
が弱いため感染しやすい。
②耳管が太く,短く,水平に近い構造であり,働
きも未発達なため,ウイルスや細菌が鼻咽腔か
ら耳管を通して中耳腔内に侵入しやすいことか
ら,感染を起こすと急性中耳炎を発症する。
耳管
がい じ どう
外耳道
こ まく
鼓膜
外耳
中耳腔
中耳
内耳
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写真1●急性中耳炎と滲出性中耳炎の鑑別
急性中耳炎
急性中耳炎後の無症候性中耳貯留液
(ASMEE)
急性中耳炎は,まずウイルスの感染で上気道炎
遷延化・難治化につながる因子となる。急性中耳
が起こり,ウイルスは耳管から中耳腔に侵入して
炎後の中耳貯留液は,発症3カ月以内に75 ~
耳管や中耳の粘膜障害を引き起こし,耳の痛みや
90%が自然治癒するため,発症後3カ月以上遷
発熱などの急性症状を伴うウイルス性の急性中耳
延するものが,慢性滲出性中耳炎として外科治療
炎が発症する。その後,自然治癒も見られるが,
の主な対象となる。
肺炎球菌やインフルエンザ菌などの中耳炎起因菌
●慢性中耳炎
が便乗して感染すると,症状が強く現れたり,難
慢性中耳炎では,一般に鼓膜に穿孔があること
治化したりすることがある。
から,外界から細菌が容易に侵入して感染が発症
●滲出性中耳炎
する。慢性中耳炎とは「耳漏(耳からの分泌物)
滲出性中耳炎は「鼓膜に穿孔がなく,中耳腔に
を繰り返し,難聴を伴う中耳の粘膜,骨の慢性炎
貯留液をもたらし難聴の原因となるが,急性炎症
症を生じた状態」と定義される。かつては,鼓膜
症状すなわち耳痛や発熱のない中耳炎」と定義さ
の永久穿孔を伴うものを慢性中耳炎と呼んだが,
2)
れる 。しかし,小児ではしばしば,鼓膜所見だ
実際には鼓膜穿孔のない慢性中耳炎もあることか
けでは急性中耳炎との区別が難しいこともあり,
ら,
「8週間以上治癒しない中耳炎」は,すべて
発熱,夜泣き,むずかるなど,急性症状の有無が
慢性中耳炎としての取り扱いが必要となる。
両者の鑑別のポイントとなる(写真1)。
小児においては,就学前に90%が一度は罹患す
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滲出性中耳炎
臨床症状
る中耳疾患である。乳幼児の滲出性中耳炎の約50%
●急性中耳炎
は急性中耳炎発症後に継続して生じるか,以前か
急性中耳炎では,鼓膜や中耳腔の粘膜が腫れ
らあったものが発見されることが知られており,
て,中耳腔には膿が貯留するので,耳痛や発熱と
現在では,小児滲出性中耳炎の病態は,急性中耳
共に一時的に聞こえが悪化する。良好な経過であ
炎と同様に感染であると考えられている。つまり,
れば,感染・炎症はしばらくすると改善し,3~
急性中耳炎の後,細菌の遺残物によって中耳腔で
4週間で完治するが,近年,急性中耳炎起因菌の
は常に炎症が起こる状態となっているのである。
耐性化の傾向が強まり,抗菌薬などの治療を行っ
一方,小児において耳管機能障害(耳管狭窄症,
てもなかなか改善しない遷延性(急性)中耳炎や,
開放症)は,滲出性中耳炎の原因というよりは,
いったん治っても頻回に急性感染を繰り返す反復
こどもケア vol.11_no.3
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