プロファイル/アクティブゾーン不一致現象と プロファイル/レファラント

プロファイル/アクティブゾーン不一致現象と
プロファイル/レファラント不一致現象
ー Tough構文の分析に向けて ー
第161回現代日本語学研究会 2016/7/30
山 本 幸 一
1、本発表の目的
Langacker (1995)は、Tough 構文を含む繰り上げ構文について、認知能力である「メ
トニミーの特別なケース」として「アクティブゾーン・プロファイルの不一致現象」と
して分析をしているが、一般的なメトニミーとの違いが分かり難くなっている。本発表
の目的は、メトニミーの下位区分を明確に行い、Tough 構文をメトニミーに明確に位
置づけることである。
2、メトニミーの2タイプ
本発表では、メトニミーと AZ-PF 不一致の関係から、メトニミーを2タイプに分類し、
Langacker の分析「メトニミーの一種である Tough 構文」をメトニミーの下位区分とメ
カニズムの中に明確に位置づける。
従って、メトニミーを2タイプに分類することが、Tough 構文分析の重要な前提となる。
結論を先取りすれば、本発表では、従来のプロファイル/アクティブゾーン不一致現象に
加え、プロファイル/レファラント不一致現象を提案する。それは次のような観察に基づ
いている。両者は、代名詞の照応に違いがある。
(1)「赤頭巾」がやってきた。
(2)「風車」が回っている。
*それは、お母さんが作ってくれた赤頭巾だ。
それは、大きな瞳をした女の子だ。
それは大きな風車だ。
*それは大きな羽根だ。
Profile とは語の意味、Referent とは指示対象、Active-Zone とは述語と直接関わる
部分である。
(1) のタイプ、Profile (Referent1) / Referent2 不一致メトニミー(RE の変化)
「特徴づけメトニミー」と呼ぶことにする。
赤頭巾
PF (RE1)
→
女の子
RE2
(2)のタイプ、Profile (Referent) / Active-Zone 不一致メトニミー(RE は変化しなく、
動詞との直接関与対象 AZ が生起)
「意味の2層構造メトニミー」と呼ぶことにする。
風車
PF (RE)
→
羽根
AZ
+ 回っている
この2タイプに分けることを支持する言語現象を3点、以下に ABC として取り上げよう。
A「特徴づけメトニミー」は、PF / AZ不一致現象ではない。つまり、(3)の意味の2層
構造メトニミーと違って、(4)の特徴づけメトニミーは述語とは関係のない現象である。
(3)(a) the girl
(b) The girl blinked.
(c) The girl came.
(4)(a) Little Red Riding Hood
(b) Little Red Riding Hood blinked.
(c) Little Red Riding Hood came.
(少女 → まぶた)discrepancy 非生起
(少女 → まぶた)discrepancy 生起
(少女 → まぶた)discrepancy 非生起
(着用物 → 少女)discrepancy 生起
(着用物 → 少女)discrepancy 生起
(着用物 → 少女)discrepancy 生起
B「特徴づけメトニミー」は、PF / RE不一致現象である。
(5)(6)の容認の違いから、RE(指示対象)の変化が認められる。
(5) Nixon was horrified to watch himself sing a foolish aria to Chou En-lai.
(6) *After singing his aria to Chou En-lai, Nixon was horrified to see himself
get up and leave the opera house.
(5)
Nixon
ニクソン
PF (RE1)
himself
自分(=ニクソン)
RE1
役者
RE2
→
照応可能
指示対象変化
(6)
Nixon
ニクソン
PF (RE1)
→
himself
自分(=ニクソン)
RE1
役者
RE2
指示対象変化
照応不可能
C「意味の2層構造メトニミー」では、PF が RE である。
B で見たように「特徴づけメトニミー」が指示対象の変化が認められるのに対して、
「意
味の2層構造メトニミー」では指示対象の変化は認められない。(7)(9)の容認の違いか
ら分かる。
(7) Mr. Miller and Mr. Jackson collided in their cars at the intersection and
both men died on the spot. Their cars were carried to the vacant lot. Mr.
Miller is parked here and Mr. Jackson is parked over there.
(8) Today the parking lot A is full. So, Mr. Ward is parked over there in the
parking lot B.
(9) Today the parking lot A is full. * So Mr. Ward is parked over there in the
parking lot B after Mr. Ward died yesterday.
Mr. Miller is parked here and Mr. Jackson is parked over there. ....... (7)
運転手
自動車
PF (RE1)
→
RE2
Mr. Ward is parked over there in the parking lot B. …… (8)
運転手
PF (RE)
自動車
→
AZ
以上見た (2)(3B)(8)(9)のような「意味の2層構造メトニミー」に、Tough 構文は置づ
けられる。そのため、(1)のような一般的なメトニミーである「特徴づけメトニミー」
とは違っている。