FRONTIERSCIENCES 森林消失の社会的な要因の解明

FRONTIERSCIENCES
環境学研究系
VOL.24
4
坂本 麻衣子准教授
Division of Environmental Studies
国際協力学専攻
http://www.dois.xii.jp/sakamoto
森林消失の社会的な要因の解明
バ
ングラデシュのテクナフ半島は、
バン
性や環境に対す
な木や萱をそれまでは森からタダで手に
グラデシュの中でも、
森林消失の深刻
る意識、
キンマ栽
入れていたところ、
市場から購入することを
な地域として知られています。森林消失
培の有無などに
余儀なくされるようになったため、
キンマ栽
の要因としては、
住民の薪の採取、
森林へ
ついてアンケート
培が収入向上に結びついていないためで
の居住地の侵入、
換金作物であるキンマ
調
調査
(2010年9月)
はないかと考えました。
を
を実施しました。
図1:研究対象地域
図2:キンマ栽培の開始時期
この仮説を検証するために、
衛星画像を
対
対象地域の村の
用いて、
対象地域周辺の森林の植生の変
全
全世帯
(207世帯)
のうち、
キンマ栽培を行
化をNDVIという指標を用いて分析しまし
う
う世帯は104世帯、
行わない世帯は103世
た。この結果、
帯
帯であり、
概ね30年前、
すなわち、1980年
全体的な傾向
前
前後に、
キンマを栽培する世帯数が急激
としては、
近隣
に
に増えていることがわかります。
の森林健全
次に、
キンマ栽培の普及過程にある程度
度が低下傾向
の栽培、
ミャンマーからの難民による伐採、 の傾向が確認できることから、
栽培を開始
であり、
仮説を
気候変動などがあるといわれていますが、 した時期によって、
世帯を5つのグループ
裏付ける結果
図3:森林植生の変化
決定的な要因はまだ明らかではありませ (第1期(10年前以降:2000年∼2010年)
、 が得られているものと考えられます。すな
ん。森林消失に対する実効性のある対策
キンマ栽培は森林消失に影響を及
第2期(11∼20年前:1990年∼1999年)
、 わち、
案を検討するためには、
その要因を明らか
第3期
(21∼30年前:1980年∼1989年)
、
第
にする必要があります。そこで、
森林消失
4期
(31年以上前:1979年前後以前)
、
栽培
さらに、
キンマ栽培を開始した時期によっ
の要因として指摘されているもののうち、 していない)
に分類しました。そして、
各時
て分けたグループごとに、
木材などの資材
現地住民によるキンマ栽培に着目し、
森林
期においてキンマ栽培を開始した世帯と
をどこから入手するかについての回答の
消失への影響を研究しています。
それ以外の2つのグループに分け、
キンマ
割合を調べてみると、
やはり圧倒的にここ
属性に差が
キンマとはコショウ科のつる植 物で、 栽培を開始した時期によって、
近年でキンマ栽培を開始したグループ
(第
チューインガムのよ
あるかを分析しました。この結果、
第1期に
1期)
がマーケットから購入しており、
それ
うに噛む嗜好品とし
開始した世帯では、
それ以外のグループと
以外のグループは他から資材を入手する
て多くの需要があり
比べて年収が有意に異なることがわかりま
チャンネルを持っていることもわかりまし
ます。
バングラデシュ
した。この時期にキンマ栽培を開始した
た。貧困の悪循環の構図がここにもある
の首都ダッカにも出
世帯の方が、
年収が低いのです。これは
のでしょうか。道のりはまだまだ遠いです
荷され、
貴重な換金
おそらく、10年前ごろから森林資源の枯
が、
問題解決に向けて調査・研究を続けて
作物です。良質のキンマ栽培には玉露栽
渇が顕著になり、
パンボロズの建設に必要
行きます。
写真:キンマ栽培の様子
ぼす一要因であると考えられます。
培に使われるような遮光栽培施設が必要
で、
パンボロズと呼ばれるこの施設は、
木
材、
萱などの森林資源で建設され、
毎年更
新されるため周辺の森林にその材料の供
給を依存しています。
まず、
研究対象地域で、
住民の個人属
10
Frontier Scie nce s
図4:マーケットから購入する世帯
の割合
図5:森から入手する世帯の割合
図6:その他の手段(労働との交
換)
で入手する割合