Title Author(s) Citation Issue Date 予防的アプローチの起源にみる「情報」と「文化」の関 係 長島, 美織 情報文化学会誌, 13(2): 55-64 2006 DOI Doc URL http://hdl.handle.net/2115/47076 Right Type article Additional Information File Information nagashima.pdf Instructions for use Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP 予防的アプローチの起源にみる「情報Jと f 文化Jの関係 5 5 予防的アブローチの起源にみる子晴報」と「文 f t Jの関鱗 AR e l a t i o nBetweenI n f o r m a t i o nandCu 1 t u r a lB e h a v i o r : Examiningt h eB i r t ho ft h eP r e c a u t i o n a r yApproach 長島美織 M i o r iNAGASHlMA 北海道大学大学院閤際広報メディア研究科 G r a d u a t eS c h o o lo fI n t e r n a t i o n a lMediaa n dC o m m u n i c a t i o n, H o k k a i d oU n i v e r s i t y 要 旨 こ大きく依存している社会においては市場で取引される生産情報が豊富であるというように,それぞれの 剖えば市場 i 文化はそれに対応する情報分布をもっている。本論文では,どのような情報が存夜し,どのような情報が欠落している かというような「情報の分布Jという点に注目し守情報と文化の関係を考察する。北海の汚染防止のための多国間協力 という具体的な事例を基に,どのようにして一つの文化的観念である予防的アブローチが従前の行動規範であった「捨 ての文化」に欝わって関係各国の共通の指標として受け入れ 5れるに至ったかを,情報の欠落という観点かう分析する。 「捨ての文化Jが根源的に依存している同化吸収容量という概念を情報と情報の扱いやすさという観点か 5詳細に検討 することにより,実はこの有効な同定が困難であることを示す。北海閣僚会議という空間が,従前の「捨ての文化」が 肯繋としていた情報が実は欠如しているということの認識の共有を推進し,その結果「捨ての文化j が予防的アブロ チというより人間の無知や情報の隈界を意識した新しい準拠によって置き換え 5れたことをみる。 Abstract Thec e n t r a lh y p o t h e s i si nt h i sp a p e rc o n c e r n sar e l a t i o nbetw巴e nac u l t u r eandi n f o r m a t i o n ;howwider e c o g n i t i o no fl a c ko f i n f o r m a t i o nc e n t r a lt oag i v e nc u l t u r el e a d st ot h er e p l a c e m e n to fac e r t a i nc u l t u r a l l yf r a m e db e h a v i o r a lp a t t e r nw i t hanewo n e, S i t u a t 巴di nm u l t i n a t i o n a lc o o p e r a t i o nf o rap r o t e c t i o no f t h eN o r t hS e a , 1e x p l o r ehowac u l t u r a l l yf r a m e dc o n c e p t , t h eP r 巴c a u t i o n a r y Approach,camet os u b s t i t u t ef o rt h ep r e v i o u sc u l t u r e,whichh e a v i l yr e l i e so na na s s i m i l a t i v ec a p a c i t yo ft h es e a,ac a p a c i t yt o a b s o r ba n dc l e a n s eh a r m f u lm a t e r i a l s,a n dt h u sa l l o w sdumpingo fw a s t e sa sd e f a u l ta c t i v i t i e s .C l o s ee x a m i n a t i o no ft h i sn o t i o n, however , showst h a tt h ea c t u a la n dp r e c i s eq u a n t i f i c a t i o no f t h ea s s i m i l a t i v ec a p a c i t yh a ss u f f e r e df r o mal a c ko fc r u c i a li n f o n n a t i o n . F o rc r e a t i n gas h a r e df r a m e w o r kf o rt h i sp r o b l e m, t h ep a p e rf u r t h e rp o i n t so u t, t h r e ef e a t u r e so f t h eI n t e r n a t i o n a lC o n f e r e n c e so nt h e P r o t e c t i o no f t h eN o r t hS e ah a v ep l a y e di m p o r t a n tr o l e s :s c i e n c e b a s e dc o n c l u s i o n s, n a t i o n a la c c o u n t a b i l i t y , r ・ e c o g n i t i o no f t h eN o r t h S e aa sacommonr e s o u r c e .I nt h el i g h to ft h e s ec o n f e r 巴n c e s,c o u n t r i e sh a v ea d o p t e dt h eP r e c a u t i o n a r yApproach,byw h i c he a c h c o u n t r ya c c e p t st h a tl a c ko fi n f o r m a t i o na b o u tt h ea s s i m i l a t i v ec 丘p a c i t yr e q u i r e sc u l t u r a l l ynewa t t i t u d e sa n dg o v e r n m e n t a lb e h a v i o r s b a s e dmoreo nar e a l i z a t i o nofhumani g n o r a n c e 1 . はじめに 生産情報はめったに収集されない傾向にある O 同様に,現をで は当然のものとなっている死亡原因の記録でさえも,江戸時代 現代は情報過多の時代であるといわれる。アメリカの資源、 にはほとんど残されていないといったこともある問。 探査衛星ランドサットの写真撮影システムは,地球上のあらゆ どのような情報が存在するかという「情報の分布」と,その る地域に関する膨大な撮影狭像を送ってくるし火星を周囲す 時々の社会の文化,道徳,価値観といったものはどのように関 る探査機から送られるデータをさまにしてわれわれは,火星の地 連しているのであろうか。情報の形態の変化が文化に与える影 形や大気組成に関してさえも 2 8 3大な情報を手にすることができ 響については,多くの研究がなされているが,ここでは, どの る。また,世界中のマクドナルド!苫舗数からサッカー・ワール ような情報が存在しまたどのような情報が欠落しているかと r 情報の分布」といった観点,そして f 情 ドカップの会場で消費される飲み物の種類と総量といったこと いう観点,つまり, に関しでも,信頼性の高い統計が存在しまさに情報が巷に溢 報の分布の偏りを明示的に認識する」ということが文化に与え れているという状態である。 る影響に注目する O 特に文化のある新しいー側面の誕生と考え しかし一方で,土壌に含まれる有機物がどのように変化し られるひとつの事例を詳細に分析することにより,ある穫の情 てきたか,地下水への雨水の浸透の減少はどのように進んでい 報の欠如に対する共有された認識は,それに根源的に依存して るか,また海洋には一体どのくらいの生物穫が生存しているの いた文化的規範の変容を促すことがあるということを示した かといった開いに答える情報は し ミ 。 驚くほど不足している[1]。 このような欠落している情報のなかには,根本的に知るすべ 具体的には,北海閣僚会議という汚染防止に関する多国間交 のないものも含まれるが, しかし単に現在までその情報の必婆 渉の場を題材として, どのように予防的アプローチと呼ばれる 性が認識されてこなかったというものも多い。現代のように市 思想が形作られ,参加各国が共有する文化的観念となったかに 場の来たす役割が大きい社会においては,市場で取引されない ついて,情報の分布の偏りと欠落,その認識の共有,情報の扱 56 いやすさの程度といった視点から検討する。在来の文化を担保 も の で あ る か に つ い て 考 察 し 第 3節では,北海閣僚会議に していたはずの情報が不完全であり確定できないものであると おける予防的アプローチの導入過程について検託する。さらに, いう認識が,例え部分的であるにせよこの文化に変容をもたら 第 4節で予妨的アプローチ導入以前の汚染防止政策とそれを し,新しい文化的準拠の共有を推し進めたことを論じる。 支える情報について詳しく検討し,第 5節でその中核的な情 「文化」と「情報」という言葉は, 日常生活はもとより学術 報が実は欠落しているということを認識する上で¥北海閣僚会 的な文派においても多用されるが,その定義となると合意は存 議という場が来たした役割について論じる。第 6節はこの認 在せず,双方ともその複雑な崩法と歴史を論ずれば優に数冊 識の共有のもとに従前の文化に変わって新しい文化的規範が受 の著書を必要とするほどの内容を含むものである(1)。従って, け入れられていったことについて論じ,全体のまとめとする。 ここでは本研究に関連する範閣に限って,これらの概念につい 2 文化的規範としての予防的アプローチ て基本的な立場を示すこととする。 まず, I 文化」であるが,この概念には, 合いがある るように, : 3 J。日本語の「文化人 2つの大きな意味 Jなどという尼諾に見られ r 教養約なもの,知的なもの j を意味するという流 れもあるが,ここでは,より包括的な文化概念の流れをとる。 文化とは従って, I 知識・信仰・芸術・道徳.1 去・習俗など, ある社会の一員として人が獲得する能力と習慣を含む複合体 j [ 4 J であり, I 人間の行動の潜在的な準拠枠となるもの J[5J であ 2 . 1 予防的アプローチとは侍か 予防的アプローチ ( 4 ) は , 1 990年代に急迷に位界に広まり, 現在では環境に関する条約でそれに言及しないものを探すのが 図難なほどである [ 1 1 J。各条約・宣言において,それを表現す 992年の「環境 る文言は様々であるが,最も有名なものは, 1 と開発に濁する由連会議Jで採択された「環境と開発に関する 5原則としてまとめられたものである。 リオ宣言」第 1 ると考える。 「情報」については,まずそれがなんらかの「知らせ J(2) 泊] であるということから始めたい。本論文でいう情報には,伝達 「環境を保護するため,予防的アプローチは,各国により, 可能性が含まれており,例えば,問中[7Jがいうところの「事 その能力に応じて広く適用されなければならない。深刻な, 象の状態を他に伝えることができる場合,事象の状態の内容を あるいは回復不可能な損害のおそれがある場合には,完全 情報という Jというような定義を想、定したい。本稿で考祭する な科学的確実性の欠如が,環境悪化を防止するための費用 対象は,北海という自然環境であるので,ここでいう情報とは 対効果の大きな対策を延期する理由として用いられではな 具体的には, I 北海における生態的な状態,および海水の物理・ らない。」 化学的状態,そして,北海という領域全体での機能的な状態, および,北海に流入する偲々の汚染物質の化学的・物理的性質 予防的アプローチが正確にどのようなものであるかに関して, およびその拡散パターンや生物に対する影響などに関するデー 世界中で広く合意された定義は存在しないが,通常,以下のよ タ及び自然科学的モデル J( 3 ) の総体を指すと考えられる。片 うな 5つの具体的な項目を意味すると考えられている [ 1 2 ][ 1 3 J。 方i:6 J がいうところの「社会現象や自然現象のなかから抽出さ れる Jものとしての情報である O それは,また異なった視点か (1)予防の優先ー因果関係の科学的な証拠がなくとも被害を らみれば,情報を,測定値そのものといった生のデータと体系 予防すること,特に対策が遅れることによって被害を拡 化された知識といったものの関に位賀するものと捉える [ 8 ] こ とも意味する。 さて,情報と文化の関係についても様々な見解が存在する。 吉田 [ 9 J は,文化を「社会的に貯蔵された認知性・評価性・指 大することのないよう対処する O ( 2 ) 生態系の能力の保護‘生態系はある程度の人間活動の影 饗は緩衝できることが知られているが,その浄化・吸収 能力の推定に余裕を持たせる。 J であ 令性の耐用情報(および耐用的な情報処理プログラム ) (ア)現在のリスク評価の不完全性の認知 J は「情報の情報たる所以は, るとしているが,一方,正村[Ju (イ)将来世代の自由の保障 それが物質と意味を媒介し経済・政治・文化のあらゆる領域 (ウ)自然そのものの価値の認知 に偏在している点にある j として,情報と文化を区別している。 ( 3 ) 費用対効果の考慮 適期になされた的確な予防措霞は費 本論文では,後者の立場をとり,文化と情報は密接に関連する 用対効果の点でもすぐれていることが多いが,また一方 ものであるが,分析的には独自のものとして考察を始めたい。 で予防という観点からくる経済的活動,開発活動の制限 情報という概念に関する多様な論考が存在するなかで,本 が不当に高価なものにならないよう調整する。 稿ではそのなかのある一つの理論体系にコミットすることはせ ( 4 ) 挙証責任の転換 ず,いわばより中立的な定義から出発しこの 2つの巨大で ( 5 ) 過去の環境破壊に対する償い 複雑さを極める概念の関係について,ある意味で記述的なひと ひどく環境を破壊した 国々(人々)の負債を勘案する。 つの考察を付け加え,それが翻って文化と情報それぞ、れの概念 およびその関係について何らかの見通しを得ることに貢献でき ることを目的としている O 以下,第 2節では,まず,予防的アプローチがどのような ( 2 ) の生態系の能力の保護に関して,予防的アプローチは 生態系の環境容量 ( 5 ) の推定に安全バッファを持たせるように 要求する。これは,現在の科学的知識は完全なものではなく, 予防的アプローチの起源にみる「情報j と「文化Jの関係 5 7 我々の行動に関して我々の知りえない部次的作用があるかもし 延の広さや暖昧性・不明確性といったことがむしろ当然の帰結 れない M ことを認識するということを意味し,また現在の我々 として理解されるようになる O の決定により将来世代の開発同や生存の自由 [ 1 6 J が脅かされ それでは,この予防的アプローチは,そもそも,どのように ないようにという配慮を含んでいる O そして,さらに,生態学 して誕生したのであろうか。第 3節では予防的アプローチを 的吸収能力のバッファをとるということは,自然そのものの価 脹胎していった多国間協力について論じる O 値を認めるということに繋がる。単に人聞に役立つというだけ でなく,自然そのものの保護に対する倫理的な価値を結果的に 3 . 予措的アプローチの起源一北海閣僚会議 強調・保護することになるからである。 また,上記のなかで特に強調されなければならないのは, ( 4 ) の挙証責任の転換である。従来は 環境破壊に対して異議を申 し立てる側が被害を立証しなければならなかったが,予防的ア 予防的アプローチの国際的な起源は北海隠僚会議にある[お]。 北海閣僚会議は,北海の汚染に対応するため関係各国が 1984 年より定期的に開いている会議である 。 ( 6 ) プローチにおいては,新しい技術を導入したり,環境を改変す 北海とは,イギリスとスカンデイナピア半島南部およびヨー るような開発を行う側が,安全を立証しなければならなくなっ ロッパ大陸北部に閉まれた海域を指し(7)石油・天然ガスを た。これは,その根底にある価値観の変化を意味するものであ 産出し,タラ・ニシンがふんだんに獲れる登銭の海である O し り,その影響は細部にまで及ぶ。 このように本節では,予紡的アプローチが包括する事柄は, 費用対効果といった経済的な観点から,挙誌責任といった問題, かし早くから近隣諸国の排出する汚染も問題になっていた。 北海は中央部を通って北に向かうにつれて深くなり,最深で 200メートルほどにも達するが,大陸沿岸,特にワッデン海 ( 8 ) さらに生態系,および将来世代に関することまでをも含んでい と呼ばれるような海域は水深 50メートルほどの浅い大陸棚と ることをみた。このように非常に大きな外延をもち,その中に なっている 各種の雑多ともいえる概念を内包する予防的アプローチという のに平均して 3年もの時間がかかる ものは一体何なのであろうか。次節では,この点について論じ 蓄積し顕著な環境悪化をもたらしていた。 。このような浅い j 毎域では,海水が入れ替わる [ 2 4 ] [ 2 4 J ことから,有害物質が ヨーロッパでは, 20世紀に至るまでゴミや汚物を街や河 J I ! る 。 に捨てることは全くもって普通の行為であった。このため,最 2, 2 予防的アプローチの地位 終的には北海に流れ込む河川の多くにも,生活廃7J(,下水,ゴ 予防的アプローチについては,その位置付けについて様々な ミ,腐った食材,動物の死骸など,ありとあらゆるものが投げ 論争があるが,大きく分けて以下のような 3つの立場に分類 込まれていた。また,後年になると,航海中の船舶からの不用 できる。 物の廃棄,そして陸上で発生する産業廃棄物,吏に原子力発電 所などからの放射性物質の北海への i 直接投棄も行われるように (1)各環境条約上の原郊であるに留まらず,国際慣習法の規 範として確立しているという立場[17][18J [19J なった。 このような習慣 自然,特に河川や海洋に不要物を投棄す ( 2 ) 予防的アプローチのもつ不明瞭性から法規範としての性 る一ーは,前節で考察した「文化」の概念から鑑みると, 日常 格は認められず,政策上の指導指針ないしは指導理念で および産業の廃棄物処理における行動を奇る文化的指針をもと あるという立場制 に形成されていると考えることができる。ここに伏在するもの [ 2 1 J ( 3 ) 人々の価伎観・行動様式を規定する文化的観念であると いう立場 ~12J を,当時のヨーロッパの文化を構成する多くの文化的準拠のう ちの一要素として,ここでは, I 捨ての文化 j と呼ぶこととし よう。次節以降では,この「捨ての文化j がその肯繋を成すは 後節でみるように,予紡的アプローチはそもそも条約として ずの情報の欠落ゆえに根本的な見渡しを迫られることをみる。 ではなく,ある意味で爵家主権を超える側面をもっ地域ぐるみ 環境の著しい悪化に伴い, 1960年代後半からボン条約をは の環境保全会議という場で登場したこともあり,法の範関内で、 じめとする様々な間際条約が取り交わされたが,それにもかか . 1節でみたように 捉えきれないものを含んで、いる。さらに, 2 わらず各国の対応は遅々として進まなかった[お]。このような 予防的アプローチが内包するその多様性を視野にいれると,単 状況を問題視したドイツは に政策に対する指針や理念といったものではなくより広い裾野 査報告書凶[おJ[27] をまとめ, 1981年に欧州議会で北海汚染 を持つものであるように思われる。このようなことから,ここ に関する決議を起草している[刻。このようなドイツのイニシ では, O'Riordan,CameronandJordan[12J に倣って,予防 アテイブのもと,第 1図の北海閣僚会議が 1984年にドイツの 的アプローチは文化的なものであるという立場をとりたいと思 プレーメンで開催されることとなった。この会議には,ベル うO 第 1節で述べたように, !可じ文化に属する人がお互いに「理 ギー,デンマーク,フランス,筒ドイツ,オランダ,ノルウェー, 解し,信じ,評価し意志を伝達し,行動するための一組の規範J スウェーデン,イギリス,および EC(9) が参加している が文化を構成すると考えると,予紡的アプローチは,この この会議の特徴は,以下の 2点にまとめられるであろう O [ 2 2 ] 1980年に北海に関する科学的誘 。 [ 2 8 J ような文化的規範の一つであると考えられる O このような観点 からすると,従来予紡的アプローチに関して指認されてきた外 (1)新たな条約を策定するのではなく,既存の国際法・条約 5 8 が効果的に運用されるような政治的原動力の創造が目的 味で,北海閑僚会議という公共の場での議論を通して,北海関 である。 連諸国に共通の価値・道徳を担う新しい文化の基本的観念が ( 2 ) 閣僚レベルの会議である。 育ってきたと考えることができる。それでは,このような新し い文化的準拠の創造への機運はいかにして生まれてきたのであ 閣僚レベルの協議は,偲々の法的枠組みを超えてより広い視 ろうか。以下の節では,当時の北海関連諸国で採用されていた 点から北海汚染を論議することを可能にしまた会議での決定 二つの政策を情報の分布と扱いやすさという観点から比較する を迅速に各国内での政策に反挟することを容易にした。そして, ことにより,この点を議論したい。 会議は,北海汚染防止のための新たな国際条約をつくるのでは なく,個々の汚染に対して具体的な行動計画を主義り込んだ宣言 4 . 汚染規制のこつのアプローチ を採択して終了している。ドイツは,当初この会議で既に自白 の環境政策に導入されていた予防的アプローチを北海環境保全 予防的アプローチを巡る攻防の背後には,イギ、リスと,西 のための共通理念として導入することを望んでいた。しかし ドイツを代表とする大陸各国との間で政策の対立があったこと 参加各国の十分な理解を得るには至らず,この宣言には明確な が指摘されている加。当時汚染規制のためにどのような基準 形で盛り込まれることはなかった[却][30]。 を用いるかに関して, 2つの対立する考え方があった。ひとつ 当初一回のみの開催を予定されていた会議であったが,イギ は,イギリスが主に主張していた環境質 B襟 (Environmental ワスからの申し出が参加各自に了承され,第 2回会議がイギ Q u a l i t yO b j e c t i v e ) であり,もうひとつは,頭ドイツを始 リスの主催で潟催されることとなった。これは,第 1回会議 め と す る 大 陸 諸 国 が 主 張 し て い た 一 律 排 出 基 準 (Uniform での合意事項の達成過程が数年後に公の場で再度確認されると EmissionStandards) であった。これらの基準を中心にした いうことを意味し,各国の汚染妨止に向けての取り組みを一層 汚染防止のアプローチをそれぞれ環境質日擦アプローチ,一律 後押しすることとなった。 排出基準アプローチとよぼう。 第 2回北海閣僚会議は, 1987年にロンドンで開催された 。 l 1 [ 3 環境質目標アプローチ(10) は,海洋環境中の有害物質等によ そこでは,その後の北海閣僚会議に重大な影響を及ぼすことに る悪影響を規制するという考えで,有答物質がどの程度海洋に なる大きな 2つの決定がなされている O 一つは,科学に基づ 流入しているかという点より,むしろ実際に海洋環境中に悪影 く政策決定という方針の確認であり, もう一つは,予防的アプ 響がでているかどうか自体を問題にしている。このアプローチ ローチの承認である。 によるとそれぞれの海洋の自浄能力をこえた汚染物質の排出が イギリスは,会議での様々な決定は,入手可能な最新の科学 行われているという科学的根拠(汚染と有答物質の因果関係等, 的知見に基づくものであるべきだという重姿な主張を行い,各 科学的な証明)があるときに波って,汚染を規制する必要がで 国に了承されている。これを受けて北海環境を専門に調査する てくると考えられている。 科学的組織として,会議一年後の 1988年に NorthSeaTask 一方,一旦環境内に放出されてしまった有害物質を規制する F o r c e (NSTF) が設立されている o NSTFの主な任務は会議 のではなく,環境に流入する物質の濃度をその発生源において に向けての環境報告書の作成であるが,そのために以下の具 規制しようという考え方が排出基準によるアプローチである。 体的な方策を採っている O まず 1 ) 北海環境のモニタリング さらに,同じタイプの排出源に対して,技術的に削減可能なレ のため恭本計図 ( M o n i t o r i n gMasterP l a n ) を作成すること, ベルを考慮しながらすべての締約留に排出基準を一律に課そう ) そのための理論的モデルを作成すること, 3 )さ そして, 2 というものが,一律排出基準と呼ばれ,排出基準によるアプロー らに北海に潟する諸々のデータを集めたデータベースを構築す チは基本的にこの形をとる。ここで ることなどである [ 3 2 J。 規制の対象になっている のは,濃度である。従って,ある決められた時間内に実際に環 また,予防的アプローチもロンドン会議で正式に了承され, 境に流れ込む汚染物質の濃度を下げることは義務づけられてい 採択されたロンドン宣言中 4箇所において明確に言及されてい るが,必ずしもこれが排出される総量を減らすとは限らないと る そのうち,象徴的なものをここに引用しておこう。 いうことには注意する必要がある O 。 ( 1 1 ) 環境質目標と一律排出基準は通常互いに対立するもののよう 「 第 2図北海関僚会議参加各国は,・・・極めて危険な物 に見られているが,実は共通点も多い 質によって起こりうる有害な影響から北海を保護するため うにまとめられる [ 3 3 ]。それは,以下のよ O に,完全に明白な科学的証拠により因果関係が確定される 以前であっても,そのような物質の流入を管理する行動を ( 1 ) 双方とも,限界値をあらわす数値である O 要求することのできる予防的アプローチが必要であること ( 2 ) 双方とも,長期間にわたって排出された廃棄物の総量を を認める J(ロンドン宣言,序言パラグラフ VI I ) 測定するわけではない。 ( 3 ) 双方とも,これらの数値と環境への影響に関して,定式 この予防的アプローチは,ロンドン宣言のなかで「予防的行 動の原賠 Jとも呼ばれており,今後あらゆる側面において,北 海保護への行動のなされ方に影響を及ぼすものである。この意 化された相関関係が科学的に証明されているわけで、はな し ミ 。 予妨的アプローチの起源にみる「情報j と「文化j の関係 5 9 このような共通点を踏まえた上で,以下両者の遠いを確認し 環境賞目標アプローチにおいては 3 ) に注目したい。 ていくこととするが,まずは,共通点の ( このように海洋はある容 双方環境改善との因果関係が定式化されていないという点では 量までは汚染物質を同化・吸収し無筈化することができる能力 共通しているが,その内容に踏み込むと両者の中心的な違いが を持っていることに注目しこれを汚染防止に応用することに 明確化されてくる。次の節では,この点から議論を始めること より,科学的で合理的かつ費用対効果の高い汚染対策が可能に としたい。 なると考えられた。汚染が河化吸収容量内に納まっているかぎ りにおいては,自由な経済活動を規制する必要はなく,この点 4 . 1 環境質自標アプローチ で経済活動と自然保護の最適なバランスを実現できるというわ 環境質臼標アプローチの基となる考えは,海洋環境はもとも けである。 それでは肝心の同化吸収容量は実際問定できるのであろう と自然の浄化能力をもっており,これを超えない限りにおいて 不要なものを投棄・廃棄(12) [J9] することは全く問題がないと か。海洋は,容認できない生態学的影響を受けることなしに, いうことである。ここでは,投棄・廃楽は.1当然の行為」となっ 一体どのくらいの量の汚染物質を同化・吸収することができる ており,この意味で本論文で言うところの「捨ての文化j を背 のであろうか?有答物質がどのように環境に作用するかを知 後にもっているといえる。 りたいときには,ある物質が海洋のなかでどのように環境と相 海洋環境の有する自然浄化能力は,同化吸収容量(日) ) 有害物 互作用するかに関する情報が必要である O つまり. 1 ( a s s i m i l a t i v ec a p a c i t y ) とよばれ. C a i r n sによって海洋研究 ) それに対する生物の感受性. 3 ) ある 質の拡散パターンと 2 9 7 5年に米国環境保護局の主催で開催さ に導入されている。 1 生物が影響を受けて増殖または減少したときに,生態系金体に airnsは,水のエコシステムは, れたシンポジウムにおいて. C 及ぼす影響の 3点が少なくともわからなければならない畑)。 季節約な変化など様々な変化に呂常的にさらされているにもか 例えば重金属などについて f u n c t i o n a li n t e g r i t y ) は損な かわらず,その機能的な統合性 ( ような情報の収集と研究は当時でもなされていたが,それはか われないということに注目して,その能力を同化吸収容量とよ なり限定されたものに留まっていた捌。また,膨大な数の汚 び,以下のように定義している凶。 染物質と未だ発見しつくされてもいない生物穫の対応そしてそ これらの聞いのいくつかに答える れらが相互に生み出す生態系に対する影響を十分に理解するこ AssimilativeC a p a c i t y :thea b i l i t yo far e c e i v i n gsystem とは,少なくともその当時(そして現在でも)鼠難なことであっ o recosystemt ocopewithc e r t a i nc o n c e n t r a t i o n so rl e v e l s た o fwastedischargeswithoutsufferinganys i g n i f i c a n t 科学的方法および十分なデータ・情報は存在せず,この状態で d e l e t e r i o u se f f e c t 環境容量目襟アプローチに関執することは結果的に汚染防止対 (同化吸収容量・いかなる重大な被害も受けることなしにあ る一定量の廃棄物に対応することを可能にするエコシステムの 。このため,厳密な意味で環境質 g襟を決定するための [ 4 0 ] 策を遅らせることにつながるのである。 さらに,たとえ環境質日擦が決定されたとしても,それが実 際遵守されているのか否かを判断することは容易ではない。そ 能力) れというのも,ある生態系における自然の変化と汚染による変 海洋エコシステムは閉じた系ではなく,絶えず生物穫の増加 化を厳密に区別することは著しく困難だからである。これらの と減少,周辺の植生からの影響をうけており,そうした影響の 点に関して何かしらの展望を持つためには,長期間にわたる信 いくつかは良いものでもある。従って,ここで注目されている 頼できる比較可能なデータが必要で、ある。また,水の生態系と のは,物質の流入によって変化が起こらないということではな して共通の性質もあるが,北海なら北海という特定のエコシス く,機能的な統合性が損なわれないという意味で、あることに注 テムに固有な点も多く,ある生態系についてどのような変化が 意する必要がある O つまり 来ることも必要になってくる。 特{致的かを t 水の環境が変化するから同化吸収 容量がないのではなくて,水のエコシステムが損答を受けるこ 本節では,環境質自標アプローチについて,それが必要とす となしに変化しうるから同化吸収容量が実在の観念とされるの る情報という観点から考察した。環境質目標アプローチが有効 に機能するためには,向化吸収容量が予測できなければならな である。 間化吸収容量という考えは多くの議論を引き起こしている い。そして同化吸収容量同定のためには,過去の統一的なデー 幻滅が. 1 9 7 9年に再度関係する学者たちが多数参加 タからなる膨大な情報が必要である O しかしこのようなデー [お] [ 3 6 ][ 3 するシンポジウムで詳しく議論され そこでは以下のような定 義が同意されている刷。 タは存在せず, また一朝一夕に収集できるものでもないので, 同化吸収容量を前提とする環境質目標アプローチは,最も肝要 な情報が不足しているという困難に夜留することとなる。問化 A s s i m i l a t i v eC a p a c i t y :t h eamounto fm a t e r i a lt h a tc o u l dbe 吸収容量は,科学的研究のための動機づけとしてはすぐれたも c o n t a i n e dwithinabodyo fseawaterwithoutproducingan のであるが,汚染を直接コントロールするための概念装置とし u n a c c e p t a b l eb i o l o g i c a limpact ては,少なくとも現在,使用可能なものではない。基準値同定 (用化吸収容量:容認できないような生物学的な影響を引き 起こすことなしに海水に含まれうる物質の総量 ( 1 4 ) ) に必要な情報が圧倒的に不足しており,管理の段階においても 複雑な情報管理を要求するからである。 6 0 しかしどちらのアプローチにおいても,生態系に関する重 4.2 一律排出基準アプローチ 要な情報が不足しているということは決定的な意味をもった。 一方それでは,一律排出基準はどのような情報に依拠してい 環境質目標アプローチでは 基準値そのものを決定する段階で るのであろうか。一律排出基準は汚染物質の排出を制限すれば, すでに,生態系の情報の不足が障筈となり,また一律排出基準 環境が改善するという前提のもとに進められている O この前提 アプローチでは,社会的に決定された基準値が実際に環境改善 は , をもたらしているのかということを調査する段階でやはり,根 しかし,いかに妥当なものであっても,どの程度の削減が どのように北海という自然全体のシステムを改善するかという 本的な情報の欠如に直面することになる。 ような点に関しては,科学的に十分証明されているものではな それでは,この点に関する合意は,関係各国間でどのように い。例えば,汚染物質の排出制限に併せて,受け入れ側の自然 成立していったのであろうか。次節では,この点について北海 の自浄能力がどのように変化するかというような観点からの知 閣僚会議という場のもつ特徴から考祭する O 見は当時全く十分で、なかったのであるC41J。 しかし,一律排出基準の場合には,科学的に健全な裏づけを J 寺っていないということは 5 . 北海閣僚会議における欠落情報の認識と共有 さして問題とならない。というの は,一律排出主主準アプローチにおいては,基準値はもともと科 北海隠僚会議は,環境政策全般に責任をもっ各国閣僚が一堂 学によって決定されるべきものではなく,むしろ,技術によっ )。このような場を通して,第 4節でみ に会する空間である(17 て決定されてきたからである。これが最善技術 (BAT) とい たような 2つの政策の限界が認識されていったわけであるが, う考え方である O つまり,当該時点で最善の技術によって達成 それにはこの会議がもっ以下の 3つの特徴が影響しているよ 可能な排出レベルという観点から基準値が決定されてきたので うに恩われる。 ある(16)。従って,排出暴準を決定するのに必要な情報は自然 界にあるのではなく,社会に存在する O この点で,環境質目標 ( 1 ) 科学に基づく政策決定 アプローチとは対照的に,研究案や工場などで得られる比較的 ( 2 ) 説明力(アカウンタピリティ)の要求 少量の扱いやすい情報を勘案することで排出基準を決定するこ ( 3 ) 公共的視野の拡大 とが可能である。 さらに,環境質目標とは異なり,一旦一律排出基準が決定さ 3 ) の各点について I } 買に考察をすすめたい。 以下,(1)一 ( O 第 3節で指摘したように,科学に基づく政策決定という方 それは,海洋エコシステムを相手にしたものではなく,工場や 針は,第 2図北海閣僚会議において正式に篠認されている。 汚染処理施設におけるものとなるからである。 北海閣僚会議開催以前から,既に科学者聞の交流は始まってい れてしまえば,それの測定や管理も比較的単純なものとなる しかし究極的にみれば,一律排出碁準アプローチにおいて も,海洋の現状をモニタリングすることが当然必婆となってく た [ 4 2 ] が,第 1回会議で人間が北海の環境に与えている影響に ついての総合的な評価の必要性が政治レベルで合意されてい る。先に指摘したように,一律排出基準と環境改善の間の科学 986年の 1月から科学技術ワーキング る(18)。それを受けて, 1 環境のモニタ グループ ( S c i e n t i f i cT e c h n i c a lWorkingGroup) が作業を開 リングをして,基準値の変化とそれに対応する環境の変化につ 始し北海環境報告書 ( Q u a l i t yS t a t u sR e p o r t ) (聞を第 2問 いてより詳しい情報を集めることが求められる。汚染規制のそ 会議に提出している 的な関係が明確に解明されていないからである O [ 2 8 J。これは,基本的には各国のもつ環境 もそもの目的が生態系の維持にあるのであれば,当該時の生態 情報や意見をもとにして編集されており,従って,(i)データ 系の状態が安全閣内にあるのか否かといったことを知ることが i i ) 相互比較 のタイプと量に大きなばらつきがあり,さらに ( 必要となるからである。そしてその為には,一律排出基準アプ も不可能なデータの集まりであった ローチにおいても,同化吸収容量を知ることと極めて近いこと 科学的情報の不足と不整合性に関して,ロンドン宣言パラグラ が実は必要となるのである。 フX I I Iでは以下のように述べている O 4.3 南アプローチの詑較 まとめとして Boehmer -Christiansen[33J は環境質目標アプローチと一律 排出基準アプローチの違いを,それぞれ科学先導のアプロー s c i e n c e d r か env s .t e c h n o l o g y チと技術先導のアプローチ ( d r i v e n ) と称している。環境質目標アプローチは原理的には科 。このような基本的な [ 4 3 J Notingt h a ts i g n i f i c a n timprovementsi nthes c i e n t i f i cbase andmonitoringdataa r eneededf o rathoroughassessment ofthec o n d i t i o no ft h eNorthSea, 毎に関する統括的な評価を行うためには,科学的基礎や ( 北j モニタリングのデータについて大きな改善が必要である) 学的であり最適な汚染対策をとることを可能にするという意味 必要な情報という観点から重 このように,手中にある情報は全く十分でないということ 大な欠落があることが指摘された。これに対して,一律排出基 に関して,各国が認識を共有したということは,その改善がロ で非常に魅力的なものであるが 準アプローチは科学的な裏づけはないが,技術的に抵、カ的なも ンドン宣言中に明記されていることからかなりの確実性をもっ のであり,基準値の決定自体に関連する情報が比較的限られて て結論できるであろう O そしてさらに,参加各笛の合意による おりなおかつ扱いやすいものであることが指摘された。 NSTF設玄の決定(第 3節参照)は,当該自寺の情報の不完全さ 予防的アプローチの起源にみる「情報」と「文化」の関係 6 1 に対する共通の認識を如実に示していると考えられる。加えて, 1 ) で論じたような 注目したい。「政府の科学者 J[33J たちが, ( NSTFが掲げた研究計画を吟味することにより,どのような情 科学的な理解の不足に気づいたとき 報の欠落があったのかを具体的に知ることができる。 R e i d[叫] の政策を擁護していた閣僚たちは は , NSTFが定期的に発行する「北海環境レポート Jの第 1 彼らの助言をもとに自国 その理論的後ろ盾を失った ことになる O 同化吸収容量:同定に必要な情報が不足していると 号をもとに,北海に関する科学的理解の不足点を以下のように いう認識共有は,無制限な投棄・廃棄が一体どのような帰結を まとめている。 もたらすのかという点について全く保証がないということに対 する党躍を意味する O そして,北海閣僚会議のような場で, も ( a ) データの質の改善 はやイギリスは,参加各国に対して自国の政策とその結末につ ( b ) 栄養物の拡散システムと赤潮の発生との関係に関する いて説得約な説明ができなくなったと考えられる。イギリスが 従前実践してきた環境貿目標に基づく汚染規制に対する科学的 より良い科学的理解 ( c ) 海洋生物の発病に関連する要素に関する理解と疫学的な であるイギリスも認めざるを得なく な説明力の不足を,当該医i なったのである。 情報 ( d ) 様々な汚染物質の海洋における振る舞いとそれがどの き起こす結末に関する無知の このような円会てること」がヲ l ように分解または蓄積されるのかという点に関するより 自覚は,ロンドン宣言内にも記されている O パラグラフ XVC9 良い情報 においては「現在の知識が不十分なときには". Jという表現 ( e ) 栄養物と難分解性でかつ生体蓄積性をもっ物質の限界最 が用いられ,パラグラフ 5においては,有害物質に関して, r そ れが北海に破壊的な影響を与えている可能性があるにも関わら (どの程度までなら,許容できるか) ( f ) 北海以外の海洋の汚染物質に関する比較可能なデータ ずどのような結果を引き起こすのかが十分に解明されていな ( g ) プランクトン,鳥,魚、南乳類がエコシステムの変化 い」ものであるといった言及がなされている O によってどのような影響を受けるかに関する情報 さらに, ( 3 ) で指摘したように,北海というユニークな生 ( h ) 北海の環境評価における数学的モデルの質の向上 態系を中心とした会議の場は,北海のもつ公共性を認識させ, (i)他の特定の問題(海岸からの汚染物質の流入量の推定等) 漠然と海洋の自浄能力を当てにして無制限な投棄・廃棄を続け ることがもたらす結末についての考察をより具体化したといえ これらは,基本的に第 4節で考察した同化吸収容量の確定 に必要な情報である O このような情報のギャップが埋められな い限り,向化吸収容量は確定できず,従って第 4節の議論で る。北海という自然環境の愛重さに対する理解がないところで は,汚染を続けることはさして開題とはならないからである O ロンドン宣言の冒頭では, I プレーメン宣言で確言されたよ 明らかになったように,環境質目標アプローチと一律排出基準 うに,参加各国すべてにとって北海環境を保護することの必要 アプローチの雨方ともがそれのみでは立ち行かなくなる。第 2 主体的な内容に 性の重大さを忍い起こす」と述べられている oJ 閉会議の参加者である各国関僚が (a)-(i)に指摘したような ついて,プレーメン宣言を振り返ってみると 具体的かっ詳細なレベルの事柄を把握していたとは主張しない 部分で次のように述べられている O f 会議の結論」の が,環境報告書における基本的ともいえる情報の不足をもとに, 当該時の情報レベルが同化吸収容量向定には,程遠い水準にあ 「参加各国は,北海,特にその自然資源は重要でかけがえ るという認識の共有に至ったと考えられる。 のない環境であるということを承知している。 J(プレーメ また,特徴の ( 2 ) で指摘したように,北海閣僚会議のよう l) ン宣言,パラグラフ A な公共の場が設定されたことで,従来自国内の問題として潤い 「それゆえ,生命に満ちたエコシステムとしての北海の保 込まれていた環境致策を公の場で擁護することが必要となって 全に特別の配慮、がなされるべきであるということを確信す くる。このために,それぞれの環境政策がより批判的な吟味を る 。 J(プレーメン宣言,パラグラフA4) 受け,今まで認識されてこなかった情報の偏りと限界に関する このような基本的なスタンスが第 1回に引き続き第 2回会 認識が共有されることとなった。 この点においては,環境質目標アプローチを主張するイギリ 議においても確認されるに至り,北海環境の比類のない重要を│生 1l。第 4節でみ がより強く意識されるに至ったと思われる。この背後には,グ たように,環境質目標アプローチは基本的に「捨てる j という 初)をはじめとした環境 NGOの活動や, リーンピースや WWF( スの動向が会議開始以前から注目されていた [ 3 ことを前提としているからである。実際,イギリスと一律排出 一般市民の関心の高まりがあることも指摘されるべきであろ 基準アプローチを主張する大陸側との間で烈しい議論が展開さ う [45J。第 2回北海閣僚会議の開催に焦点をあてて,様々な環 れたことが報告されている[刻。しかしイギリスは,第 2図 境 NGOが単独または共同で多様なキャンペーンを繰り広げた 会議を通して,開催蔀の大方の予想、を覆す形で,汚染物質投棄・ ことが報告されている 廃棄制限に関して多くの妥協をした [3九 実 際 ど の よ う な 議 論 代表は,各国内の環境政策に直接携わっている閣僚たちであり, を通してそれが起ったかに関しては入手可能な資料がなく,間 このような一般社会における関心の高まりを等閑視したとは考 接的な議論とならざるを得ないが,ここでは,当時のイギリス えがたい。何かが掛替えのないものであると意識されて初めて, では,政府と科学が非常に近い位置にあった ~33J という事実に それを失うことに対する恐れが生ずるわけであり,その意味で 1l。北海閣僚会議に参加している政府 [ 3 62 北海環境の価値の認識は, リスク判定のもととなるデータの蓄 問題性を証明する賞任があった。環境質目標アプローチにおい 積が不確実で不十分であるという判断を推し進めることにカを ては,環境に実際の悪影響があるという科学的証拠が挙がるま 貸したと考えられる。 では,有害物質の排出は認められるべきであると考えられてお このように北海閣僚会議における議論を通して,環境質目標 り,まさに背後にこの「捨ての文化Jがあったといえる。 と一律排出基準アプローチ双方にとって,生態系の状況を把握 しかし北海閣僚会議という公共の場を基点に北海沿岸各国 するための情報が臣倒的に不足しているという認識の受諾がも の科学者が中心となって北海に関するデータの収集と統合が試 たらされた。この認識の共有のもとに,環境貿日擦と一律排出 みられるにつれ,北海という生態系の機構と機能に関しての情 基準アプローチを相互補完するものとして併用・統合すること 報が不足していることが明らかとなる O 従前の「捨ての文化」 の必要性が了解される。ロンドン i i ) パラグラフ XV ( の下で今まで意識されてこなかった情報の偏り・不足に対する 認識が北海閣僚会議という公共の場における議論を通して,関 では以下のように述べられている。 係各国に共有されることとなった。 Thep a r t i c i p a n t s・ .a c c e p tt h a tbycombining,s i m u l t a n e o u s l y airnsの主 海洋に同化吸収容一量が存在するということは, C andcomplementarily ,approachesbasedonemission 張する通り確かである。しかしあるものが存在するというこ standardsandenvironmentalq u a l i t yo b j巴c t i v e s,amore ととそれを同定するということは別物である O 同化吸収容量の precautionaryapproacht odangeroussubstancesw i l lbe 同定が近い将来においても極めて関難であるということの認識 e s t a b l i s h e d ; 共有は, r 捨ての文化Jの土台を穫すことを意味する。このよ (同時にそして相互補完的なものとして,一律排出基準アプ うな過程を経て,当然のものとされていた「捨ての文化」の限 ローチと環境質百標アプローチを結びつけることにより,危険 界が明らかになったとき,より無知を意識した文化が導入され 物質に対してより予防的なアプローチが確立されるものである ることとなる O 人は後何メートル歩いたら,奈落の底に落ちる ことを参加国は受け入れる。) か分からない暗閣のなかでは,奈落の淵ぎりぎりまで歩もうと するより,それより手前の「安全j な地域で留まろうとするか 最善技術 (BAT) に基づく一律排出基準で汚染をとりあえ らである。こうして,生態系の能力に関してより大きい安全バッ ず規制し,同化吸収容量まに碁づく環境質目襟の観点からデータ ファをとることを要求する「予防の文化」が北海閣僚会議参加 の収集と科学的知見の蓄積に勤めるという方向性が会議で合意 各国によって承認されることとなったのである O されたのである。ここにおいて,環境質目標アプローチは,汚 本論文は,北海汚染防止のための多間間交渉の;場である北海 染規制から環境モニタリングに関する理論に衣替えしたと考え 閣僚会議を例にとり,情報と文化の変容との関係について考察 られる。二つの対立する規制アプローチは,この中核的な情報 した。予妨的アフ。ローチの導入過程を綿密に検討することによ の欠落に関する認識の共有をもとに,こうして予防的アプロー り,従前の文化が暗黙のうちに仮定していた概念に関する中核 チという新しい文化的指針のもとに統合されたわけで、ある。 的な情報の欠如の認識が,新しい文化的規準の誕生・共有をも 第 2閉会議においては,第 1回会議と比較して格段に廃棄・ たらしたことを主張した。北海沿岸という限られた地域に誕生 投棄に関する制限が具体化された。プレーメン宣言においては, した「予防の文化jではあったが 具体的な制限割合と日付を伴う有害物質の自立滅臼標は採択され も,急速に世界中に広がっていくこととなる。 その後好余曲折を経ながら なかったが,ロンドン宣言はあらゆる汚染源に対して,既存の 国際リジームとは独自の,数値による削減目標と日付を伴う記 j 主 述で埋め尽くされている O 無制燥な投棄・廃棄に対するこのよ (1)例えば, r 文化 Jについては, W i l l i a m s却を,そして, については,児島知]および正村 [48J を,参照されたい。 うな決別は,間じ第 2閉会議で予防的アプローチが正式に採用 r されたことと,表裏一体の関係にある o 捨ての文化Jは,よ り情報の不完全さを意識した「予防の文化Jによって置き換え られたのである O ( 2 ) この記述から明らかなように, れるような工学的な情報の概念 ( 3 ) これは,吉田 [ 9 J r 選択の数の対数」として定義さ [ 4 9 ] はすでに除外しである。 のいう広義の情報概念に,そして橋元[叩]の体 系では, レベル 3に相当する。 r ( 4 ) 予妨的アプローチ」という用語に加えて, 6 . おわりに r 情報J 用語も一般に使われる O r 予紡!京別 Jという ふたつの用語の微妙な使いわけについて, いくつかの違いは指摘されているが一貫した厳密な基準はない。 小説『レミゼラブル.1似において,主人公ジャン・ヴァル ジャンが,パリの地下にある下水道のなかを逃げ回る場面があ るが,ここには,本論文で呼ぶところの「捨ての文化jが言幹部 ( 5 ) 環境容量とは,論文の後半ででてくる同化吸収容量と基本的に 問ーであるが,同化吸収容量がより厳密で科学的な文脈で使われ るのに対して,環境容量はよりゆるやかな意味合いをもっている ように思われる O に描かれている。当時のヨーロッパ文化を構成していた行動指 ( 6 )最近の会議としては, 2002i j 三に第 5回北海閣僚会議がノルウェー 標の一つである「捨ての文化j においては,河川や海洋にもの で開催されている。これに関する情報は,歴代会議についての詳 を捨てるということは,デフォルト的な行動であり,ある種の 行動の基準として初期設定されているものである。これを阻止 捨てること Jの するためには,それに異議を申し立てる側が f t t p : / / w w w . しい資料とともに,ノルウェーの環境省ホームページ h d e p . n o / m d l n s c l h i s t o r y l b u . h t m lで入手できる。 ( 7 ) 第 1回北海閣僚会議で採択されたプレーメン宣言で次のように 予妨的アプローチの起源、にみる「情報j と「文化j の関係 6 3 ( 1 9 ) 1987年の第 2回会議に提出されたこの環境報告書は,公刊さ 北海の範協が設定されている。 a )t h eNorthSeasouthwardso fl a t i t u d e62・N; れておらず入手可能でない。従って以下の記述は,この環境報告 fwhichi s b ) the Skagerrak,the southernlimito 書について述べた文献から得られたものである 8 ' N ; d e t e r m i n e de a s to f t h eSkawbyl a t i t u d e57・44, c )t h eE n g l i s hChannelandi t sapproacheseastwardso f O ( 2 0 )世界自然保護基金 ( W o r l dWideFundf o rN a t u r e )0 1 9 6 1年に, 絶滅の危機にある野生生物の保護を目的としてスイスで設立され 。 た世界最大の自然保護 NGO l o n g i t u d e5.W. ( 8 )英語では, WaddenSea。日本語訳では,ワデン湾という表現も 使われるが,本論文ではワッデン海という名称で統一することと 参考文献 する。オランダ沖,北海 l 省東部の湿地管で,アザラシの生息地と [ 1 ] 世界資源、研究所,国際環境計画,国連関発計画,世界銀行:世界 して知られている 0 0 0 2 0 0 1,日経 BP社 ( 2 0 0 1 ), の資源、と環境 2 O ( 9 )EECの時代もあったが,本論文においては ECで統一記述とす る 。 [ 2 ] 鬼頭宏:環境先進思・江戸, PHP研究所 ( 2 0 0 2 ), [ 3 ]W i l l i a m s,R . :C u l t u r e( 1 9 8 1 )=小池氏男訳,文化とは,品文社 ( 1 0 )1 司化吸収能力・同化吸収容量アプローチ ( a s s i m i l a t i v e e n v i r o n m e n t a l c a p a c i t ya p p r o a c h ) または環境容量アブローチ ( c a p a c i t ya p p r o a c h )と呼ばれることもある。注(14 )も参照のこと。 ( 1 9 8 5 ) [ 4 JT y l o r ,E .B . :P r i m i t i v eC u l t u r e :R e s e a r c h e si n t ot h eDevelopment ,P h i l o s o p h y ,R e l i g i o n,Arta n dCustom,JohnMurray o fMythology ( 1 1 )従って,一律排出基準はま: 5 最規制を伴って使われることが多い。 ( 1 8 7 3 )=比屋根安定訳,原始文化 神話・哲学・宗教・言語・芸能- ( 1 2 )廃棄 ( d i s c h a r g e ) と投棄 (dumping) は国際法では厳密に区 風習に関する研究 ,誠信書房 ( 1 9 6 2 ). 別されている。前者は害のある物質や廃液などの船からの流出を [ 5 ]K l uckhohn,C .a n dK e l l y ,H . : τ 1 1 eC o n c e p to fC u l t u r e,1 n :L in t o n, 指し後者は「捨てる」ということを唯一の包的として汚染物質 R . ,e d百 1 eS c i e n c eo fMani nt h eWorldC r i s i s,C o l u m b i aU n i v e r s i t y を故意的に海洋に投げ入れることを意味する。従って,船舶の事 故による石油の流出や航行持に生ずるもれは「廃棄」に当たるが, 陸上で生じた産業廃棄物などを船舶で輸送し海に投げ入れること 1 投棄j にさ当たる。また,航海時に発生するごみや下水物質に 隠しては,それを i 毎に投楽することのみを目的に船舶に積んでき 廃棄j に当たることになる。海底の鉱物探 たわけではないので, 1 索や採掘などの際に発生する汚染物質に関しては,従って, 1 廃棄」 は , にも「投棄j にも当てはまらない。 ( 1 3 )A s s i m i l a t i v ec a p a c i t yの訳には, P r e s s,p p . 78 -1 0 6,( 1 9 4 5 ), [ 6 ] 片方善治監修,情報文化学会編:情報文化学ハンドブック,森北 2 0 0 1 ). 出版 ( [7]凶中一,長国博泰・〔新版]情報処理概論,北海道大学図書刊行 会 ( 1 9 8 9 ) . [ 8 ] McDonough,A . :1 n f o r m a t i o nEconomicsandManagement i l I( 1 9 6 3 )=長坂精三郎訳,情報の経済学と経 S y s t e m s,McGraw-H 1 9 6 6 ). 営システム,好学社 ( 1 弓化吸収容量j および「同 1 9 9 0 ), [ 9 ] 吉田民人:情報と自己組織性の理論,東京大学出版会 ( 化吸収能力 j という両方が使われている。本論文ではより一般的 [ 1 0 ] 正村俊之.情報と文化変容,ミネルヴァ書房 ( 2 0 0 3 ). 1 4 ) であると,思われる閃化吸収容量の用語で統一する。併せて注 ( [ 1 1 ] 岩間徹:国際環境法上の予防原則について,ジュリスト も参照のこと。 N o . 1 2 6 4, p p . 5 4 -6 3,( 2 0 0 4 ) . ( 1 4 ) 同化吸収容量の定義のなかで, c a p a c i t yの 意 味 が , 先 の [ 1 2 ]O 'R io r d a nヱ , Cameron, ] .a ndJ o r d a n,A . :TheE v o l u t i o no ft h e C a i r n sの定義では,エコシステムの「能力」とされていたのに対 n :O 'R io r d a n, T . , Cameron ,J .a n dJ o r d a n, P r e c a u t i o n a r yP r i n c i p l e,1 して,後年の定義では,そこに含まれうる物質の「総長」と変化 A . ,e d s .R e i n t e r p r e t i n g投1 eP r e c a u t i o n a r yP r i n c i p l e,CameronMay , していることに注目されたい。これは,同化吸収容量を笑│祭の汚 染規制に役立つ概念として彫琢していく過程において生じた変化 であると忠われる。 2( 1 ), p p . 3 3 4 2,( 2 0 0 0 ) . 学会誌 1 ( 1 5 ) これらに加えて,多数の有害物質が流入していることを鑑みれ ば , 4 ) 他の有害物質との複合作用がどのような影響を生物に及ぼ すか, という点、についても知見が必要となる。 ( 1 6 )実際,ロンドン宣言において最欝技術 (BAT) には,以下のよ うな注がつけられており,経済的に達成可能であるという条例二が さらに加わることを意味する p p . 9 3 3,( 2 0 0 1 ). [ 1 3 J 池田三郎:リスク管理戦略の形成と予防原烈, 8本リスク研究 O Throughoutt h i sD e c l a r a t i o n,t h eterm“ b e s ta v a i l a b l e t e c h n o l o g y "i sunderstoodt ot a k ei n t oa c c o u n teconomic a v a i l a b i l i t y . (この宣言を通して, BATという用語は経済的実効性を考慮、 にいれるものと理解される。) ( 1 7 ) 北海閣僚会議では,どのような議論が実際に行われたかについ て,議事録はもちろん議題なども公表されておらず,従ってこの 節での議論は,会議で採択された宣言(参加各国の最終的な合意 を示すとみることができる)および他の資料によるものとなる。 ( 1 8 )第 1商会議で採択されたプレーメン宣言のパラグラフ A8におい て,“ー ' manyg a p si nl m o w l e d g ea r ey e tt obef i l l e dbyi n t e n s i f i e d m o n i t o r i n gands c i e n t i f i cr e s e a r c h "として,北海環境に関する知 [ 1 4 ] Bec k .U . :R is i k o g e s e l l s c h a , 立S uhrkamp( 1 9 8 6 )=東液・伊藤美 1 9 9 8 ) . 登里訳,危険社会,法政大学出版局 ( :Our [ 1 5 ] WorldCommissiononEnvironmentandDevelopment x f o r dU n i v e r s i t yP r e s s( 1 9 8 7 )=大来{左武郎監修, CommonF u t u r e,O 地球の未来を守るために,福武書庖 ( 1 9 8 7 ). 己記長島美織:公共的意思決定における価値ーロールズと環境問題, , 4 .p p . 7 5 9 0,( 2 0 0 6 ) 国際広報メディアジャーナル No P . :P r i n c i p l e so f1 n t e r n a t i o n a lE n v i r o n m e n t a lLa w2 n dE d ., [ 1 7 ]S a n d s, CambridgeU n i v e r s i t yP r e s s( 2 0 0 3 ) . [ 1 8 J Freestone,D .andHey,E . :1mplementingP r e c a u t i o n a r y n :F r e e s t o n e,D .a n dHey , P r i n c i p l e :C h a l l e n g e sa n dO p p o r t u n i t i e s,1 dsτ11eP r e c a u t i o n a r yP r i n c i p l ea n d1 n t e r n a t i o n a lLa w,K luwer E . ,e La w1 n t e r n a t i o n a l, p p . 2 4 9 2 6 8,( 1 9 9 6 ) [ 1 9 J Hohmann,H . :P r e c a u t i o n a r yLeg a lD u t i e sandP r i n c i p l e so f ,Graham& Trotman Modern1 n t e r n a t i o n a lE n v i r o n m e n t a lLaw ( 1 9 9 4 ) . [ 2 0 JJ u r g i e l e w i c z,L .M . :GlobalEnvironmentalChangeand w, U n i v e r s i t yP r e s so fAme r i c a( 1 9 9 6 ) . 1 n t e r n a t i o n a lLa 識の不完全さが確認されており,それをうけて向宣言中のパラグ ,c . :StateResponsibilityandthePrecautionaryPrinciple, [ 2 1 JT i n k e r ex ( 1 5 ) で,モニタリングシステムの拡充と ラフ J,およびAnn 1 n :F r e e s t o n ε D .a n dH巴y ,E . ,e d s . τ 1 1 eP r e c a u t i o n a r yP r i n c i p l ea n d 科学的知識の必要性が具体的な方策とともに述べられている。 a w,K l uwerL a w1 n t e r n a t i o n a l,p p . 5 3 7 1,( 1 9 9 6 ) . 1 n t e r n a t i o n a lL 64 . H . :D e s c r i p t i o nandComparisoni nC u l t u r a l [ 2 2 J Goodenough,W An t h r o p o l o g y , A ld i n eP u b l i s h i n gCompany( 1 9 7 0 )=寺岡褒;古橋 政次訳,文化人類学の記述と比較, a n dG u a r r a i a,L ., . Je d s .百l eI n t e g r i 句To fWater ,U . S .E n v i r o n m e n t a l P r o t e c t i o nAgency ,O f f i c eo fWaterandHazardousM a t e r i a l s, p p . l 7 11 8 7,( 19 7 7 ) . 1 9 7 7 ). 弘文主主 ( 司 [ 2 3 J 堀口健夫:密際漂境法における予紡原則の起源:北海りと東大 西洋)汚染の国際規制の検討,国際関係昔話研究第 1 5号, p p . 2 9 5 8, ( 2 0 0 0 ). . :A q u a t i cEcosystemA s s i m i l a t i v eC a p a c i t y ,F i s h e r i e s, [ 3 5 JC a i r n s,J Vo . 1 2 , N o . 2,ppふ 7 , 2 4,( 1 9 7 7 ) . [ 3 6 JC a i r n s, J . :D i s c u s s i o nO f :A C r i t i q u eo fA s s i m i l a t i v eC a p a c i t y , [ 2 4 J Jones,N .V . :TheNorthSeaEnvironment:Featuresand Problems,I n :F r e e s t o n e,D .andI ] ls t r a,T . , e d s .TheNorthS e a : P e r s p e c t i v e sonR e g i o n a lE n v i r o n m e n t a lC o o p e r a t i o n,Graham& Journal-WaterP o l l u t i o nC o n t r o lFederation,Vo1 .5 3,No.ll, p p . 1 6 5 3 ・1 6 5 5,( 1 9 8 1 ) . 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