英 紅炎 作 えほん 艶本 よ は な さ け あ だ の は つ こ い 世波艶情仇乃初恋 淫斎白繚 画 表明 この 物語 は、 パ ーソ ナル コン ピュ ー タ上 で日 本語 ワ ード プロ セッ サー を使 用 して 書か れ、 Adobe *1 *2 Acrobat を使用して電子的に PDF(Portable Document Format)ファイル形式 で編集され、インター ネット上で公開することを意図した創作物です。従って、PDF ファイルとして編集されたこの物語は、 広い意味で、一種のソフトウエアと考えられます。 この物語をインターネット上でお読みになるには、お手許のパーソナルコンピュータに Adobe Acrobat 3 Reader* が搭載されている必要があります。 この作品のインターネット上での公開に至るまでには、著述、推敲、校正、編集構成/校正など、多段階 に亙る長い時間と労力と、費用がかけられています。従って、作品の出来不出来の如何によらず、その ことを念頭に置いてこの物語をお読みください。 なお、この物語をお読みになるに当たっては、以下の事項がご承認頂けていることをご確認ください。 ○ 先ず初めに、この物語は、現実の事象とは如何なる関係もなく、単に作者の想像の中で生まれた純然 たる創作であり、その意味で全くの「絵空事」であるということ。従って、現実に実在した(あるい は実在する)人物または施設に類似する名称等があるとしても、それとは一切関係がなく、時代背景 や地名なども単に物語の背景として利用されているに過ぎないということ。 ○ 次ぎに、この物語の中では、現在の一般的に承知されている習俗や習慣と相容れない習俗や習慣が描 かれている場合がありますが、何れも十分研究されていないにしても、史実として我が国の社会の中 に現実として有った(または行われていた − 作者は、今なお残渣として行われていると疑っています が… − )ことであるということ。 ○ 冒頭で述べた理由で、この物語は有償で(ソフトウエアの利用料を支払って)「講読」していただくこ とをご承認ください。但し、インターネット上で読むことの出来るダイジェストはその限りではあり ません。「希望購読料」は、物語の巻末の「著者/発行者の情報」で表明されています(何れも些少で す)。その支払い方法は、別途ご案内いたします。 ○ この物語の「講読」に当たっては、次の事項をお守り頂くことをご承認ください。 a) 物語は、児童福祉法が適用されない年齢層が対象であるということ、つまり「二十禁」である ということ。対象外の人、および性の道徳主義者のアクセスをお断りします。 b) 筆者の事前の承諾なしに、何らかの手段で勝手にファイルをダウンロードしないこと。「講 読」希望の際には、このサイトの「講読申込書」をプリントしてお申込みください。 c) この物語の「講読」に際して、一つの物語につき利用できるのは、一台のコンピュータシステ ムに限られるということ、従って、許可なくファイルを複製して同時に複数のコンピュータシ ステムで利用したり、第三者に頒布したりしてはならないことをご承認頂くこと。 d) この物語の(PDF ファイルの様態を含め)如何なる内容も改竄してはならず、また個人の非営利 的な作品/執筆物の中での引用を除き(この場合も事前に引用箇所をご通知ください)、如何なる 方法でも、複写、複製、引用等に利用してはならないことをご承認頂くこと。 e) 著者は、この物語の「講読」に際してお手許のコンピュータシステムのハードウエアおよび/ま たはソフトウエア、あるいはインターネット上のシステムによって引き起こされる可能性のあ る一切の不具合または物理的な損害に対して責任を負うものではなく(無害免責条項)、筆者が 責任を負うのは、あくまでも物語の筋と内容、構成、乱/落丁などに限られるということをご承 認頂くこと。 f) 悪意のある、為にする批判、誹謗、中傷、非難キャンペーンなどに類いする一切の行為を行わ ないことをご承認頂くこと。但し、筆者は、善意の温かいご批判やご指摘は、今後の改訂のた めに傾聴することは吝かでなく、大いに歓迎します。 この物語の著作権に関わる全権利は、作者の英紅炎が保有します。 平成戊子 八朔 パーソナル オフィス テリントーク 英 紅炎 注)*1,*2,*3 のソフトウエアは、何れも Adobe Corporation が知的財産権を保有する製品、登録商標またはプログラムシステムの名称で す。 英紅炎(はなふさこうえん、Ei Kohen/Ei Cohen はとも呼ぶ)はこの物語の著作権保持者の名称で、それ自体が商標(無登録)です。 パーソナル オフィス テリントークは、英 紅炎の個人事務所の対外的に使う呼称です。何れもこの名称を流用することを禁じます。 前置き この物語は、ロシアの文豪チェーホフの短篇「初恋」に題材を取ったものである。だが、それ は単なるきっかけで、「初恋」の内容は全く異なって展開される。そしてチェーホフにおいて は、初恋は、少年期の淡い感情に限定され儚く消えていくが、この物語では、主人公が自分の 心の内に思い掛けなく芽生えたそのような初恋と思われた感情をきっかけとして、本当の初 恋の対象を覚り、そこから物語が展開され、発展して行く。そのうえ、この物語は一種の時代 小説風の空想物語になっている。 この物語では、チェーホフから取った「初恋」という素材とその中の主人公たちの人間関係を チェーホフの時代よりも古い、江戸中期に移して筋を展開させている。従って、現代ではなか なか想像のつき難い習俗や習慣や、「掟」や仕来りが語られている。その中でも特に分かりに くいものとして、「十干十二支に基づく年号 − 六十干支年号」、「時法」および「方位」の表現 について夫々、表形式で付録として補助資料を添付して、読者の理解の一助とした。年号につ いては、歴史上定まった元号があったわけだが、この物語の登場人物が特定の具体的な時代と 歴史上の人物との直接的な関係のないことを表明するために、故意に元号と結び付けない漠 然とした六十干支年号を採用した。そのため、現在では読み方さえも難しく、なかなか解り難 いので、そのような補助資料を老婆心で補足したのである。 この年号についてもう少し述べると、当時大多数の人達は、始終変わる元号(時には、数ヶ月 しかなかった年もある!!)を常に意識していたわけではなかった。更に云うと、今日に比べる と遥かに「自然に近い」生活をしていて、いちいち時代を年号で表わすほど意識していたわけ ではなかった。それ故に、例えば、 「∼のあった / 起こった頃」、 「∼公のご威政の頃」というよ うな云い方をしたように、漠然とした時代の認識の仕方をしていた。そのようなわけで、当時 の人達にとっては、六十年に一回必ず同じ年号が現れる六十干支の年号の方が元号よりも親 しみやすかったのではないかと思われる。公式記録でさえ「寛政十二年庚申」というように、 わざわざ六十干支年号を書き添えていたのもそのような事情による習慣からではないかと思 われる。 次に、この物語の場合も、作者英紅炎の他の物語同様に、物語の根底には、 「性愛」が重要な位 置を占めていて、その赤裸々な描写が随所に表れる。それが「艶本」と断り書きを入れる所以 である。難しい名称や表現が使われているため、容易には解り難いのではないかと思われる が、それでも「児童福祉法」で保護されるべき年齢層は読者として対象外であり、それ故「二 十禁」であることをお断りしておく。 なお、この物語には、江戸期の作品の慣例に倣い、 「序」が付されている。これは本来漢文で書 かれるべきものだが、筆者は漢文を能くしないため、連綿体、即ち漢語交じりの変体仮名で 綴ってある。但し、連綿体に適したフォントがないため、変体仮名も仮名の元字を当てて表記 されている。そのためかなり読み難くなっているが、お許し願いたい。 平成戊子 八朔 パーソナル オフィス テリントーク 英 紅炎 艶 えほ 本ん 世 波 情 艶 仇 乃 初 恋 淫 斎 白 繚 英 紅 炎 画 作 女 中 頭 と 決 ま っ て い た 。 離 し て 、 中 屋 敷 か 下 屋 敷 で 養 育 指 南 役 を 付 け て 教 育 さ せ た 。 身 の 回 り の 世 話 を す る の は 、 夫 々 の 子 の 専 任 の 乳 母 か 養 育 世 話 係 の 松 平 家 に は 、 麹 町 の 上 屋 敷 の 他 に 、 深 川 の 中 屋 敷 と 下 目 黒 の 下 屋 敷 が あ っ た 。 子 供 た ち は 、 七 歳 に な る と 、 夫 々 親 元 か ら と 共 に 、 書 や 敷 島 の 道 を 習 わ せ 、 更 に 長 刀 の 稽 古 も 義 務 づ け た 。 を 持 つ 尺 八 と 鼓 だ け は 、 武 士 の 嗜 み と し て 習 う こ と を 許 し た 。 ま た 、 女 児 に は 、 箏 や 鼓 な ど の 稽 古 事 の 他 に 、 女 大 学 な ど の 勉 学 と 共 に 四 書 五 経 の 勉 学 と 書 の 稽 古 を 義 務 づ け て い た 。 ﹁ 歌 舞 音 曲 は 、 軟 弱 ⋮ ﹂ と し て 遠 避 け さ せ た が 、 自 ら も 嗜 み 、 並 で な い 腕 前 鉄 壁 の 不 動 の 護 り 四 騎 の 要 な れ ば 、 そ の 男 児 は 全 て 質 実 剛 健 に し て 質 素 、 豪 胆 た る べ し ⋮ ﹂ と て 、 奢 侈 を 廃 し 、 常 に 武 術 の 稽 古 迎 え た こ と に よ り 、 葵 ご 紋 を 使 う こ と が 許 さ れ 、 ﹁ 三 つ 剣 菱 葵 紋 ﹂ が 家 紋 に な っ た 家 柄 を 誇 り と し 、 ﹁ 当 家 は 将 軍 家 の 藩 屏 に し て 藤 山 代 守 左 馬 資 季 衡 を 祖 と し 、 家 康 公 の 江 戸 ご 入 府 の み ぎ り に 松 平 姓 を 賜 り 、 五 代 目 三 河 守 行 衡 が 将 軍 家 の 三 女 由 紀 姫 を 正 室 に 定 衡 は 、 曾 て 神 君 家 康 公 の ご 出 陣 の み ぎ り 、 家 康 公 を 囲 む 親 衛 隊 、 ﹁ 備 え の 十 六 騎 ﹂ の 内 の ﹁ 不 動 の 護 り 四 騎 ﹂ の 筆 頭 、 加 他 は 長 女 の 幸 姫 、 次 男 の 次 郎 行 衡 、 三 女 の 百 合 姫 共 全 て 異 腹 の 子 だ っ た 。 定 衡 に は 、 秀 衡 を 含 め 六 人 の 子 が あ っ た 。 嫡 子 の 太 郎 元 衡 と 次 女 の 沙 季 姫 に 三 郎 秀 衡 は 、 正 室 知 佳 の 産 ん だ 子 だ っ た が 、 初恋ー抜粋 も 、 ま た 老 中 松 平 越 中 守 に も 覚 え が め で た か っ た 。 定 衡 は 、 太 平 の 続 く 世 に し て な お 文 武 両 道 に 通 じ る 質 実 剛 健 の 気 風 を 備 え 、 代 々 勤 め る 老 中 格 大 御 番 頭 と し て 、 将 軍 家 に 千 石 の 知 行 を 受 け 、 代 々 大 御 番 頭 を 勤 め る 直 参 旗 本 中 の 重 鎮 だ っ た 。 松 平 監 物 三 郎 秀 衡 の 父 、 松 平 三 河 守 左 衛 門 尉 定 衡 は 、 三 河 以 来 の 譜 代 の 旗 本 の 血 筋 を 引 く 名 家 を も っ て 自 他 共 に 認 じ 、 八 と り わ け 、 八 代 将 軍 は 、 旗 本 や 御 家 人 ら の 実 戦 訓 練 を 兼 ね て 、 し ば し ば 大 掛 か り な 狩 を 催 行 し た こ と で 知 ら れ る 。 そ の た め 、 将 軍 家 を 初 め 、 特 に 目 黒 一 帯 に 下 屋 敷 を も つ 譜 代 大 名 や 旗 本 ら は 、 し ば し ば 、 こ の 一 帯 の 原 野 で 狩 を 行 っ た 。 が っ て い て 、 御 府 内 の 外 に 西 に 延 び 、 世 田 谷 村 か ら 狛 江 村 を 経 て 吉 祥 寺 村 に 至 る ほ と ん ど 手 付 か ず の 原 野 が 広 が っ て い た 。 地 が 占 め て い て 、 多 く が 百 姓 地 で あ る か に 見 え る 。 し か し 、 こ の 辺 り は 、 ま だ 余 り 開 け て は お ら ず 、 広 大 な 自 然 林 や 荒 野 が 広 白 金 台 、 目 黒 、 下 目 黒 一 帯 は 、 名 だ た る 譜 代 大 名 、 直 参 旗 本 の 広 大 な 下 屋 敷 と 神 社 仏 閣 が 点 在 す る 他 は 、 切 絵 図 上 で は 田 地 、 畑 由 に 屋 敷 外 に 出 て 、 羽 を 伸 ば せ る よ う に な っ た 。 こ う し て 、 秀 衡 は 、 午 前 中 の 四 書 五 経 の 勉 学 と 書 の 稽 古 が 終 わ る と 、 午 後 は 剣 術 と 尺 八 の 稽 古 を 口 実 に お 供 付 き な が ら 自 知 し て い た の で 、 ﹁ 父 親 は 反 対 し な い ﹂ と 踏 ん で い た 。 自 身 尺 八 の 腕 も か な り の も の で 、 寛 い だ 折 に は し ば し ば 母 知 佳 や 側 室 た ち の 奏 で る 箏 に 合 わ せ て 演 奏 し て い る の を 福 千 代 は 承 ﹁ も と よ り 、 お 父 上 の お 気 持 ち に 背 く よ う な こ と は 致 し ま せ ぬ ⋮ ﹂ と 、 福 千 代 は 大 人 び た 口 調 で 答 え た 。 実 は 、 父 親 の 定 衡 め に 武 術 の 稽 古 や 漢 学 の 勉 学 を 疎 か に す る で は な い ぞ ⋮ ﹂ と 念 を 押 し て 、 福 千 代 が 尺 八 を 習 う こ と を 許 し た 。 漢 学 や 書 で も 成 長 が 著 し い ⋮ ﹂ と 指 南 役 か ら 聞 か さ れ て い た の で 、 ﹁ 良 か ろ う ⋮ ﹂ と 、 し ば ら く 間 を 置 い て 云 い 、 ﹁ だ が 、 そ の た 定 衡 は 、 暫 く じ っ と 福 千 代 の 目 を 見 詰 め て 、 福 千 代 の 気 持 ち の 真 剣 さ を 推 し 量 っ た 。 福 千 代 が ﹁ 武 術 で も 腕 を 上 げ て い て 、 て く だ さ り ま せ ⋮ ﹂ と 申 し 出 た 。 せ て 上 機 嫌 の 父 親 に 、 福 千 代 は 、 ﹁ 父 上 と 母 上 の よ う に 、 姉 上 の 箏 に 合 わ せ て 演 奏 し た く 思 い ま す る ゆ え に 尺 八 を 習 う こ と を 許 し そ ん な あ る 日 、 三 年 ぶ り に 京 勤 番 か ら 戻 っ て 来 て 、 正 室 の 知 佳 と 共 に 成 長 し た 末 の 二 人 の 子 供 た ち と 久 方 ぶ り に 顔 を 合 わ と 接 し た い と 思 っ て い た 。 初恋ー抜粋 な 音 色 に 重 ね て 姉 を 思 い 描 く よ う に な り 、 笙 か 尺 八 を 合 わ せ て 演 奏 す る こ と に よ っ て 、 幼 い 頃 の よ う に も っ と 頻 繁 に 側 近 く に 姉 て い る た め で 、 百 合 姫 と は 滅 多 に 顔 を 合 わ せ る こ と は な か っ た が 、 偶 さ か に 近 く に 寄 っ た 時 に 聞 こ え て 来 る 百 合 姫 の 弾 く 箏 の 妙 で と 、 全 く 違 う 環 境 に 住 ま っ て い た 。 そ れ は 、 厳 格 な 父 定 衡 が 、 ﹁ 男 女 七 歳 に し て 席 を 同 じ ゅ う せ ず ⋮ ﹂ を 厳 格 に 養 育 係 に 守 ら せ の 百 合 姫 と 共 に こ の 下 屋 敷 で 育 て ら れ る よ う に な っ て か ら 、 広 い 屋 敷 内 で 別 々 に 、 百 合 姫 は 東 館 の 奥 向 き で 、 秀 衡 は 西 館 の 中 奥 し か し 福 千 代 は 、 剣 術 よ り も 歌 舞 音 曲 の 方 に 魅 か れ て い た 。 年 上 と い っ て も 、 異 腹 の た め 実 際 は 半 年 ほ ど し か 違 わ な い 姉 小 杉 源 之 丈 の 新 影 流 剣 術 指 南 道 場 に 通 っ て 稽 古 を 付 け て も ら っ て い た 。 が 、 父 定 衡 に 似 て 大 柄 で 、 す で に 大 人 並 の 体 躯 を し て お り 、 剣 術 に 秀 で て い た 。 剣 術 は 屋 敷 内 で は な く 、 中 目 黒 に あ る 、 剣 術 士 の 百 合 姫 と 共 に 下 目 黒 の 下 屋 敷 の 別 々 の 館 で 夫 々 の 養 育 指 南 役 の 下 で 育 て ら れ て い た 。 福 千 代 は 、 母 の 知 佳 に 似 て 色 白 だ っ た 秀 衡 は 、 定 衡 の 子 の 内 の 一 番 年 下 で 、 幼 名 を 福 千 代 と い い 、 そ の 時 十 三 歳 に な っ て い た 。 福 千 代 は 、 半 年 だ け 年 上 の 三 女 る 小 さ な 祠 が あ っ た 。 そ こ は 、 ま る で 野 鳥 た ち の 楽 園 の よ う に 、 名 も 知 れ ぬ 小 鳥 た ち の さ ん ざ め く 囀 り 声 に 溢 れ て い た 。 そ こ か り 大 き な 池 が あ っ た 。 そ の 池 に は 、 何 ヶ 所 も の 湧 水 か ら こ ん こ ん と 清 冽 な 水 が 湧 き 出 し て い た 。 池 の 一 角 に は 、 そ の 池 の 精 を 祭 一 日 、 稽 古 の 休 み を 利 用 し て 、 更 に 足 を 伸 ば し て 、 多 摩 和 泉 ま で 行 っ た 。 そ こ に は 、 鬱 蒼 と 茂 っ た 欅 の 木 に 囲 ま れ た か な か っ た 。 会 え な い と な る と 、 ま す ま す ﹁ 会 い た い ⋮ ﹂ と い う 思 い が 募 っ た 。 そ の 思 い は や が て ﹁ 恋 し さ ﹂ に 変 わ っ て 行 っ た 。 て 、 尺 八 や 剣 術 の 稽 古 を 利 用 し て 何 度 も そ の あ ば ら 屋 の 近 く を 訪 れ た 。 だ が 、 そ の 乙 女 を 見 掛 け る 機 会 は な か な か や っ て 来 な そ の 後 そ の 乙 女 の 円 ら な 瞳 と 白 い 内 股 が 福 千 代 の 脳 裏 か ら 離 れ な く な っ た 。 そ し て 、 ま た そ の 乙 女 に 会 え る こ と を 期 待 し ら れ た 。 代 の 脳 裏 に は 、 そ の 乙 女 の 嫋 か な 姿 躰 と 円 ら な 瞳 と 、 身 を 翻 し た 時 に 蹴 出 し か ら ち ら っ と 覗 け た 細 く て 白 い 内 股 だ け が 焼 き 付 け 暫 し の 後 、 乙 女 は 何 か に 弾 か れ た よ う に 踵 を 返 し て 、 樹 々 の 間 か ら 見 え 隠 れ す る あ ば ら 屋 の 奥 に 駆 け 込 ん で 行 っ た 。 福 千 生 を 謳 歌 す る 囀 り だ け だ っ た 。 だ け だ っ た 。 時 の 流 れ が 止 ま っ た よ う に 、 二 人 は 黙 り こ く っ て 立 ち 竦 み 、 互 い を 見 詰 め 合 っ た 。 聞 こ え る の は 、 た だ 野 鳥 た ち の 瞳 で 驚 い た よ う に 立 ち 竦 ん で 福 千 代 を 見 詰 め た 。 福 千 代 も 、 ま る で 雷 に 打 た れ た よ う に 、 身 動 き で き ず に そ の 乙 女 を 唯 見 詰 め る 初恋ー抜粋 女 を 見 た 瞬 間 息 を 呑 ん だ 。 乙 女 は 粗 末 な 実 な り を し て い た が 、 色 が 抜 け る よ う に 白 く 、 ふ く よ か な 顔 付 き を し て い て 、 つ ぶ ら な 乙 女 は 、 粗 末 な 花 柄 の 一 重 を 着 て 、 髷 を 結 わ ず に 長 く 垂 ら し た 髪 の 毛 を 後 ろ で 束 ね て い る だ け だ っ た 。 福 千 代 は 、 そ の 乙 に 出 会 わ し た 。 何 気 な く 福 千 代 が 近 付 い て 行 く と 、 歳 の 頃 十 二 、 三 の 小 柄 な 乙 女 が 目 の 前 に 現 れ た 。 弥 生 の あ る 日 、 福 千 代 は 、 狛 江 村 に 近 い 辺 り で 原 野 が 途 切 れ 、 こ ん も り と し た 林 に 向 か う 境 目 の 奥 に 佇 む 一 軒 の あ ば ら 屋 ま っ て 原 生 林 や 草 原 の 中 を 散 策 し て 、 豊 か な 自 然 の 営 み を 満 喫 し 、 英 気 を 養 っ た 。 ど の 小 動 物 や 野 鳥 た ち の 棲 処 の よ う な 、 広 大 な 原 生 林 や 潅 木 の 入 り 交 じ っ た 草 原 が 広 が っ て い た 。 福 千 代 は 、 稽 古 が 終 わ る と 決 尺 八 の 師 匠 の 稽 古 場 は 上 目 黒 村 の 多 摩 川 沿 い に あ っ た 。 辺 り 一 帯 は 、 世 田 谷 村 か ら 狛 江 村 に 向 か っ て 、 さ な が ら 狐 や 狸 な 音 感 が 良 か っ た 。 そ し て 一 年 ほ ど 経 っ て 、 尺 八 の 演 奏 で め き め き 上 達 し て 行 っ た 。 福 千 代 は 、 幼 い 頃 か ら 母 や 奥 女 中 達 や 、 乳 母 の 吉 野 ら の 奏 で る 箏 や 笙 、 鼓 な ど を 聞 い て 育 っ た た め か 、 生 れ 付 き の よ う に を 流 し 、 四 書 五 経 の 読 誦 と 尺 八 の お 復 習 い の 後 、 簡 単 に 夕 餉 を 済 ま す と 綿 の よ う に な っ て 眠 っ た 。 屋 敷 に 戻 る と 、 心 配 げ に 出 迎 え た 女 中 た ち に は 、 言 葉 少 な に 多 摩 和 泉 ま で 遠 足 を し た こ と を 話 し た だ け で 、 湯 を 浴 び て 汗 福 千 代 は 、 ﹁ あ の 乙 女 に 親 し く 会 い た い ⋮ ﹂ と い う 思 い を 胸 に 抱 い て 、 暮 れ な ず む 林 の 中 を 家 路 に 就 い た 。 福 千 代 は 、 誰 か 出 て 来 は し ま い か ⋮ と 期 待 し て 、 暫 く そ こ に 佇 ん で い た 。 が 、 誰 も 現 れ ず 、 人 の 気 配 も な い ま ま だ っ た 。 覗 け た 白 い 内 股 が 福 千 代 の 目 に 焼 き 付 け ら れ た 。 だ っ た 福 。 千 代 の 胸 は 、 早 鐘 を 打 つ よ う に 高 鳴 っ て い た 。 ま た 、 乙 女 の 驚 い た 瞳 と 、 白 い 首 筋 や 、 駆 け 去 っ て 行 く 時 に 蹴 出 し か ら 回 っ て 何 処 や ら に 姿 を 消 し た 。 そ の 後 は 、 ま た 、 こ と り と も 音 の し な い 静 寂 に 包 ま れ 、 聞 え る の は 、 た だ 小 鳥 た ち の 囀 り だ け 乙 女 は 、 び っ く り し て 声 も 出 ぬ 様 子 だ っ た 。 だ が 、 福 千 代 が 声 を 掛 け よ う と し た 刹 那 、 さ っ と 身 を 翻 え し て 、 家 の 裏 に か っ て 福 千 代 と 目 を 合 わ せ た 。 千 代 が 更 に 籬 の 側 ま で 近 付 く と 、 し ゃ が み 込 ん で 何 か を し て い た ら し く 、 突 然 あ の 乙 女 が 立 ち 上 が っ て 目 の 前 に 現 れ 、 面 と 向 て い て 、 こ ち ら 側 に 面 し て 古 び た 障 子 戸 の 嵌 っ た 格 子 窓 が あ っ た 。 家 の 周 り も 中 も 物 音 一 つ せ ず 、 人 気 が 感 じ ら れ な か っ た 。 福 近 付 い て み る と 、 林 の 中 に 立 っ て い る と 思 わ れ た そ の あ ば ら 家 は 、 辺 り の 薮 の 木 と 変 わ ら な い 丈 の 低 い 潅 木 の 籬 に 囲 わ れ 初恋ー抜粋 ら 屋 に 近 付 い て 行 っ た 。 日 が 西 に 傾 き か け た 頃 、 よ う や く 立 ち 上 が っ て 、 も と 来 た 道 を 辿 り 、 あ の あ ば ら 家 の 近 く に 来 る と 、 思 い 切 っ て そ の あ ば ち の 喧 騒 の 中 の 木 陰 の 清 涼 な 空 間 に 浸 っ た 。 を 頬 張 り 、 竹 筒 の 茶 を 呑 み 干 す と 、 清 水 の 水 を 一 杯 に 酌 ん で 呑 み 、 大 き な 平 た い 岩 の 上 に 寝 そ べ っ て 、 人 心 地 付 く ま で 、 小 鳥 た 福 千 代 は 、 流 石 に 暑 さ と 疲 労 と 、 空 腹 と 咽 の 渇 き を 覚 え 、 再 び 和 泉 の 湧 水 ま で 戻 っ て 木 陰 の 岩 に 座 り 、 持 っ て 来 た 握 り 飯 鳥 達 の 姦 し い ま で の 啼 き 声 に 溢 れ て い た 。 て 、 狛 江 村 か ら 多 摩 和 泉 に 接 し て い る の だ っ た 。 そ こ は 芦 や 葦 の 鬱 蒼 と 茂 る 広 い 沼 沢 地 に 囲 わ れ た 岸 辺 で 、 こ こ も 姿 の 見 え ぬ 水 ら 更 に 林 を 一 丁 ば か り 抜 け て 行 く と 、 再 び 多 摩 川 の 岸 に 出 た 。 多 摩 川 の 左 岸 が 、 中 目 黒 の 先 か ら 上 流 に 向 か っ て ぐ る り と 蛇 行 し せ て い た 。 任 せ だ っ た 。 し か し 、 今 度 の こ と は 、 少 し 今 ま で と は 様 子 が 違 う 気 が し て 、 跋 の 悪 い 思 い を し な が ら も 、 吉 野 の す る が ま ま に 任 福 千 代 は ま だ 元 服 前 で 、 下 帯 初 め の 儀 も 済 ま せ て は い な か っ た 。 部 屋 住 み の 三 男 と は い え 、 身 の 回 り の 世 話 は 、 全 て 女 中 め り た に 。 他 の 女 中 達 が 抱 え て き て 、 縁 側 に 据 え た 大 盥 の 側 に 福 千 代 を 誘 っ て 、 水 を 張 り 、 濡 れ 手 拭 で 丁 寧 に 福 千 代 の 下 半 身 を 拭 き 清 さ あ 、 こ ち ら に 来 て 、 寝 間 着 を お 脱 ぎ 遊 ば せ ⋮ 、 私 が 始 末 を し て 差 し 上 げ ま し ょ う ほ ど に ⋮ ﹂ と い っ て 、 吉 野 は 、 常 の 通 は ご ざ り ま せ ぬ ⋮ 、 ﹁ 何 が 病 気 な も の で す か ⋮ 、 若 君 ⋮ 、 こ れ は 若 君 が ご 壮 健 で 、 大 人 の 男 に な ら れ る 準 備 が 整 っ た と い う 証 拠 ⋮ 、 恥 じ る こ と 元 に 跪 い て 、 掛 け 具 を 捲 り に 掛 か っ た 。 だ が 、 福 千 代 が 幼 少 の み ぎ り に 乳 乳 母 だ っ た 女 中 頭 の 吉 野 は 、 一 向 に 動 じ ず 、 に こ に こ と 笑 顔 さ え 見 せ な が ら 福 千 代 の 枕 ﹁ 側 に 寄 る な っ ⋮ 、 儂 は 今 日 は 病 気 じ ゃ あ ⋮ 、 放 っ て 置 い て く れ っ ⋮ ﹂ と 、 福 千 代 は 狼 狽 え て 云 っ た 。 漂 う 強 烈 な 栗 の 花 の 匂 い に 気 付 き 、 ﹁ あ ら あ ら 、 若 君 ⋮ ﹂ と い っ て 、 福 千 代 を 起 こ し に 掛 か っ た 。 暫 く す る と 、 い つ も の よ う に 福 千 代 の 身 の 回 り の 世 話 を す る 女 中 頭 の 吉 野 が 、 襖 を 開 け て 入 っ て き た 。 直 ぐ に 部 屋 の 中 に 初恋ー抜粋 暫 く 床 の 中 で じ っ と し て い た 。 淫 靡 な 状 態 に あ る こ と を 朧 気 な が ら 覚 っ て 、 ﹁ 誰 に も 知 ら れ た く な い ⋮ ﹂ と い う 思 い と と も に 、 ど う 始 末 し て 良 い や ら 判 ら ず に 、 福 千 代 に は 、 何 が 起 こ っ た の か 、 は っ き り と 自 覚 で き て い な か っ た が 、 見 た 夢 を 反 芻 し て 、 自 分 が ﹁ と ん で も な い 不 埒 な ﹂ 間 着 の 股 の 周 り が 不 快 に べ と つ い て い る の を 感 じ た 。 身 体 が 緊 張 し た 瞬 間 に 目 が 覚 め た 。 辺 り に 強 烈 な 栗 の 花 の 匂 い が 漂 い 、 福 千 代 は 、 自 分 の 股 間 の も の が 膨 ら ん で 蠢 い て い て 、 寝 顔 に 入 れ 替 わ り 、 更 に 福 千 代 の 女 中 頭 、 ﹁ ね え や ﹂ の 顔 に 変 わ っ た 。 そ の 瞬 間 、 福 千 代 の 下 半 身 に 、 何 や ら 知 れ な い 快 感 が 走 り 、 れ 、 戯 れ 合 っ た 後 に 遂 に 福 千 代 が 乙 女 を 捉 え て 情 を 交 わ す 夢 だ っ た 。 情 を 交 わ し て い る う ち に 、 乙 女 の 顔 が 薄 れ 、 姉 の 百 合 姫 の 明 け 方 、 福 千 代 は 夢 を 見 た 。 そ れ は 、 福 千 代 が あ の 乙 女 の 後 を 追 い 掛 け 、 乙 女 が 喜 々 と し た 声 を 上 げ て 福 千 代 の 手 か ら 逃 ﹁ う ∼ む , な れ ば そ ろ そ ろ 元 服 さ せ ね ば な る ま い の う ⋮ ﹂ ﹁ 近 く 十 四 歳 に お 成 り で す ⋮ ﹂ ﹁ 左 様 か ⋮ 、 福 千 代 は 今 年 幾 つ に な る ⋮ ﹂ * * * * * * * が あ っ た と い う も の ⋮ 、 と て も 嬉 し ゅ う ご ざ り ま す る ⋮ ﹂ と 云 い な が ら 、 吉 野 は 頼 も し げ に 福 千 代 を 見 上 げ た 。 今 後 と も 、 一 層 文 武 両 道 に お 励 み な さ り ま せ ⋮ 、 若 君 が ご 出 世 な さ れ ば 、 こ の 吉 野 は 、 乳 母 と し て お 育 て 申 し 上 げ た 甲 斐 屋 住 み な が ら も 何 か の お 役 を 賜 っ て 、 文 字 通 り 上 様 の ご 家 臣 と し て 、 お 仕 え 申 し 上 げ ら れ る よ う に お な り で す ⋮ ら 、 若 君 の 元 服 の 儀 が 行 わ れ ま す ⋮ 、 さ す れ ば 、 折 り を 見 て 殿 中 に 上 り 、 上 様 と の 初 お 目 見 が ご ざ り ま す る ⋮ 、 そ の 後 は 、 お 部 ﹁ 左 様 で ご ざ い ま す る よ ⋮ 、 お め で た い こ と で す か ら ね ⋮ 、 お 殿 様 も 奥 方 様 も お 喜 び に な り ま し ょ う ⋮ 、 そ れ が 済 み ま し た 初恋ー抜粋 ﹁ ち ⋮ 、 父 上 や 母 上 に 話 す の か ⋮ ﹂ と 、 ま た 福 千 代 は 狼 狽 え た 。 告 申 し 上 げ て 、 初 伽 の 後 、 下 帯 初 め の 儀 を 行 い 、 こ の 尻 割 れ の 入 っ た 猿 股 か ら 下 帯 に 替 え て さ し あ げ ま し ょ う ⋮ ﹂ ﹁ さ あ 、 若 君 ⋮ 、 さ っ ぱ り な さ っ た で し ょ う ⋮ 、 若 君 も も う 立 派 に 成 長 な さ っ て お ら れ ま す ⋮ 、 早 速 お 殿 様 と 奥 方 様 に ご 報 は 、 次 々 と 吉 野 に 渡 し て い た 。 や っ て い た 。 歳 の 若 い 他 の 女 中 達 も 、 い つ も の 入 浴 の 世 話 と 同 じ よ う に 、 福 千 代 の 股 間 の も の を 見 な が ら 、 濡 れ 手 拭 を 交 換 し て 吉 野 は 、 ま だ 萎 え 切 っ て い な い 福 千 代 の 股 間 の も の を 濡 れ 手 拭 い で 大 事 そ う に 押 し 包 ん で 、 顔 色 一 つ 変 え ず に 拭 き 清 め て て 、 事 実 上 の 育 て の 親 だ っ た 。 屋 敷 に 上 が り 、 生 ま れ た ば か り の 福 千 代 に 乳 を 含 ま せ て 育 て 、 そ の 後 も 福 千 代 付 の 養 育 乳 母 で 女 中 頭 と し て ず っ と 世 話 を し て き 吉 野 は 、 二 百 石 取 り の 小 身 旗 本 園 部 東 左 衛 門 の 娘 で そ の 年 三 十 歳 に な り 、 十 七 の 歳 か ら 福 千 代 の 乳 母 と し て 松 平 三 河 守 の そ の 後 に 吉 日 を 選 ん で 元 服 さ せ よ う ぞ ⋮ ﹂ の 女 中 達 は 、 そ の 後 か ら で も 良 い ⋮ 、 そ う せ い ⋮ 、 主 命 じ ゃ ⋮ 、 ﹁ さ れ ば じ ゃ ⋮ 、 初 め は 気 心 が 知 れ て い る そ ち の 方 が 良 か ろ う ⋮ 、 そ う い う こ と は ま ま あ る も の じ ゃ ⋮ 、 そ ち に せ い ⋮ 、 他 私 一 存 で よ ろ し け れ ば ⋮ 、 女 中 達 の 中 か ら 、 誰 ぞ 選 ば せ て い た だ き ま し ょ う が ⋮ ﹂ 親 ⋮ 、 そ の よ う な 役 は 務 め 兼 ね ま す る ⋮ 、 ﹁ 滅 相 も ご ざ り ま せ ぬ ⋮ 、 こ の 吉 野 は 、 仮 に も 乳 母 と し て 乳 飲 み 児 の 折 り よ り 若 君 を お 育 て 申 し 上 げ ま し た 、 云 わ ば 育 て の お う 、 そ う じ ゃ ⋮ 、 そ ち で は ど う じ ゃ ⋮ ﹂ と 、 定 衡 は 不 意 の 思 い 付 き を 云 っ た 。 ﹁ そ ち の 好 き に 計 ら っ て や れ ⋮ 、 誰 ぞ 適 当 な 者 が お ろ う が ⋮ 、 い よ う で す ⋮ ﹂ と 、 吉 野 は 殿 様 と 奥 方 様 に ご 注 進 に 及 ん だ 。 ﹁ 適 当 な お 内 証 を 選 ん で 初 伽 を し て 差 し 上 げ て 、 下 帯 初 め の 儀 を な さ り 、 元 服 の 心 構 え を も っ て い た だ い た 方 が お 良 ろ し そ ん な こ と が 十 日 ほ ど 続 く と 、 そ の 様 を 見 て 、 吉 野 は 、 福 千 代 の 性 欲 が 人 並 み 外 れ て い る よ う に 思 っ た 。 初恋ー抜粋 吉 野 か ら 聞 け れ ば よ い と 思 っ た 。 福 千 代 に と っ て は 、 ﹁ ね え や ﹂ は 今 な お 一 番 気 安 く 話 を 聞 い て も ら え る 良 い 相 談 相 手 だ っ た 。 夢 を 正 直 に 吉 野 に 話 し た 。 そ う す る こ と に よ っ て 、 気 を 軽 く し て 、 お ぞ ま し さ や 罪 悪 感 を 拭 い 去 る こ と が 出 来 、 何 か 良 い 思 案 を が 、 福 千 代 は 、 ﹁ 何 事 も 隠 し ご と は な ら ぬ ⋮ ﹂ と 、 日 ご ろ 父 親 や 吉 野 に 言 い 聞 か さ れ て い る た め 、 自 分 が こ う な る 時 に 見 る い 罪 悪 感 さ え 感 じ た 。 え や の 吉 野 だ っ た り 、 他 の 女 中 達 だ っ た り 、 姉 の 百 合 姫 だ っ た り し た 。 そ れ は 後 味 の 良 い も の で は な か っ た 。 何 や ら 、 お ぞ ま し そ の 日 を 境 に 、 福 千 代 は ほ と ん ど 毎 日 夢 精 を 見 た 。 夢 の 中 で 精 を 交 え る 相 手 は 、 あ の 乙 女 だ け と は 限 ら な か っ た 。 時 に ね ﹁ そ の 儀 は 、 そ ち に 任 せ よ う ぞ ⋮ ﹂ ﹁ 御 意 に ご ざ り ま す る ⋮ 、 そ の 前 に 下 帯 初 め の 儀 を 執 り 行 い ま せ ぬ と ⋮ ﹂ て 、 林 の 樹 々 を 縫 っ て 、 あ の あ ば ら 家 の 方 に 向 か っ て 進 ん だ 。 和 泉 の 湧 水 ま で 行 っ た 。 そ の 池 の 辺 の 岩 に 腰 掛 け て 、 暫 し 尺 八 の 復 習 い を し て 刻 を 遣 り 過 ご し 、 日 の 暮 れ な ず む 時 刻 を 見 計 ら っ そ の 日 、 福 千 代 は 供 回 り の 中 間 を 遠 ざ け て 待 た せ 、 狛 江 村 に 向 か う 林 を 抜 け て 、 一 旦 そ の あ ば ら 家 の 前 を 素 通 り し て 多 摩 ら ぬ あ の 乙 女 へ の 恋 し さ が ふ つ ふ つ と 募 る の だ っ た 。 剣 術 や 尺 八 を 稽 古 し て い る 時 は 、 集 中 し て い て 忘 れ て い ら れ る が 、 い ざ 稽 古 が 終 わ っ て 帰 る 段 に な る と 、 見 初 め て 名 も 知 た 一 帯 に 狩 に 出 か け て 行 き 、 狩 の 獲 物 が 多 い と 上 機 嫌 で 下 屋 敷 に 立 ち 寄 っ て 行 く の に 気 付 い て い た 。 福 千 代 は 、 父 親 の 定 衡 が 近 頃 頻 繁 に お 城 を 退 出 し た 後 に 、 数 名 の 供 回 り の 御 徒 を 率 い た だ け で 世 田 谷 村 か ら 狛 江 村 に 掛 け 野 や 他 の 女 中 達 に 見 送 ら れ な が ら 、 ﹁ で は 、 行 っ て 参 る ⋮ ﹂ と 、 供 回 り の 中 間 を 伴 っ て 元 気 よ く 屋 敷 を 出 て 行 っ た 。 竹 筒 を 右 の 腰 に ぶ ら 下 げ 、 吉 野 か ら 受 け 取 っ た 差 料 と 尺 八 を 左 腰 に 差 し て 、 ﹁ 若 君 、 存 分 に お 励 み な さ れ ⋮ ﹂ と 西 館 の 玄 関 口 で 吉 初恋ー抜粋 そ の 日 も 、 福 千 代 は 、 何 時 も 通 り 、 朝 の 学 問 と 書 道 の 稽 古 が 終 わ っ て か ら 朝 餉 を 済 ま せ 、 昼 の 弁 当 の 握 り 飯 と 茶 の 入 っ た ﹁ さ れ ば こ そ 尚 更 、 初 伽 の 儀 は 気 が 重 い ⋮ ﹂ と 、 吉 野 は 思 っ た 。 ﹁ 若 君 は 、 身 も 心 も ご 壮 健 で い ら っ し ゃ る ⋮ ﹂ と 、 吉 野 は 安 堵 し た 。 の 様 子 か ら は 、 寝 起 き の 時 の 福 千 代 の 悄 気 返 っ た 気 配 は 微 塵 も 窺 え な か っ た 。 中 奥 の 広 間 か ら は 、 い つ も の よ う に 御 学 問 指 南 役 林 太 平 の 前 で 四 書 五 経 を 朗 読 す る 福 千 代 の 大 き な 声 が 聞 こ え て い た 。 そ の 声 つ き で 長 い 廊 下 を く ね く ね と 伝 っ て 福 千 代 の い る 西 館 の 中 奥 の 間 に 沿 っ た 廊 下 を 擦 り 抜 け て 隣 接 す る 自 分 の 局 に 戻 っ た 。 西 の 吉 野 は 、 畏 ま っ て 主 の 元 か ら 下 が っ た 。 主 命 と あ ら ば 致 し 方 な い が 、 吉 野 は 心 を 決 め か ね な が ら 思 案 に 暮 れ た 浮 か な い 顔 心 が 弾 け 散 っ て 消 え た 。 で 見 た 、 何 処 か も ど か し さ の 残 る 交 合 と は 、 似 て も 似 つ か な い も の だ っ た 。 そ し て 、 こ の 瞬 間 、 福 千 代 の 乙 女 に 対 す る 密 か な 恋 そ の 光 景 は 、 福 千 代 が 生 ま れ て 初 め て 目 の 当 た り に す る 、 男 と 女 の 交 合 の 真 の 姿 だ っ た 。 そ れ は 、 福 千 代 が 何 度 も 夢 の 中 う じ て 格 子 に 掴 ま っ て い る だ け に な っ た 。 や が て 侍 の 腰 の 動 き が 一 層 激 し く な り 、 乙 女 は 絹 を 裂 く よ う な 声 を 上 げ て 、 ぐ っ た り と な り 、 侍 に 腰 を 支 え ら れ て 、 か ろ 光 っ た 。 何 か を 感 じ た の か 、 駿 純 が 一 声 嘶 く と 、 そ の 辺 野 古 を 大 き く 了 え 立 た せ て 、 何 度 も 腹 に 激 し く 叩 き 付 け た 。 が 腰 を 前 後 に 動 か す に 連 れ て 、 玉 茎 が 空 割 か ら 姿 を 現 わ し た り 消 え た り し て 、 西 日 に 当 た っ て 空 割 の 周 囲 と 玉 茎 が て ら て ら と が 腰 を 沈 め て 更 に 前 に 突 き 出 し 、 侍 が 乙 女 の 腰 を 手 前 に 引 き 付 け る と 、 侍 の 玉 茎 は 、 そ っ く り 乙 女 の 空 割 の 中 に 姿 を 消 し た 。 侍 侍 は 、 格 子 に 近 寄 っ て 狩 袴 の 紐 を 解 き 、 褌 の 穴 か ら い き り た っ た 玉 茎 を 抜 き 出 し て 、 そ の 乙 女 の 空 割 を 貫 き 通 し た 。 乙 女 格 子 の 隙 間 か ら 、 乙 女 の 鴇 色 の 空 割 が 覗 け た 。 侍 が ま た 何 か 乙 女 に 命 じ た よ う だ っ た 。 す る と 、 乙 女 は 、 脚 を 広 げ て 、 更 に 深 く 上 半 身 を 反 ら し て 、 腰 を 前 に 突 き 出 し た 。 西 日 に 映 え て 目 に も 鮮 や か に 映 る そ の 乙 女 の 下 半 身 は 、 す べ す べ で 、 生 え 際 に も 毛 は 生 え て い な か っ た 。 た 。 乙 女 が の け 反 っ た こ と に よ っ て 、 乙 女 の 薄 衣 の 裳 裾 が 大 き く 開 か れ 、 乙 女 の 下 半 身 が そ っ く り 格 子 の 間 か ら 覗 け て 見 え た 。 で 打 ち 据 え た 。 乙 女 は 、 微 か な 声 を 発 し て 、 上 体 を 後 ろ に の け 反 ら せ た 。 だ が 、 乙 女 の 表 情 は 、 苦 痛 で は な く 、 喜 び を 表 し て い 初恋ー抜粋 暫 く す る と 、 そ の 侍 が 何 か 云 っ た よ う だ っ た 。 す る と 、 そ の 乙 女 は 白 い 右 腕 を 格 子 か ら 差 し 出 し た 。 侍 が そ の 腕 を 乗 馬 鞭 く 想 像 で き た 。 離 れ た 場 所 に 待 機 し て い る よ う に 云 わ れ て い る の だ ろ う ⋮ ﹂ と 思 っ た 。 だ が 、 そ の 狩 装 束 の 侍 が 父 の 定 衡 で あ る こ と は 疑 い も な 見 覚 え の あ る 、 父 定 衡 の 自 慢 の 愛 馬 、 あ し 毛 の 青 、 駿 純 だ っ た 。 近 く に は 、 い つ も の 御 徒 の 姿 は 見 え な か っ た 。 ﹁ お そ ら く 何 処 か 近 く で 馬 が ﹁ ぶ る ぶ る ﹂ と 息 を 吐 き 出 す 音 が 聞 こ え た 。 馬 は 、 そ の あ ば ら 家 の 東 側 の 一 角 の 木 立 に 繋 が れ て い た 。 そ れ は 、 日 が 映 え て よ く 見 え な か っ た 。 格 子 窓 か ら 三 尺 ほ ど 離 れ た と こ ろ に 、 狩 装 束 の 一 人 の 侍 が 、 鳥 追 笠 を 目 深 に 被 っ て 立 っ て い た 。 狩 装 束 の 袖 の 紋 所 は 、 西 た 。 一 重 の 着 物 と 腰 帯 の 裾 が 乱 れ て 白 い 両 脚 が 曝 け 出 さ れ 、 両 腕 が 袖 か ら 剥 き 出 し に な っ て 、 西 日 に 映 え て い た 。 取 ら れ な い よ う に 、 そ の 木 の 又 か ら 窺 い 見 る と 、 西 日 を 受 け て 、 あ の 乙 女 が 格 子 を 掴 ん で 格 子 窓 の 内 側 に 立 っ て い る 姿 が 見 え あ の 西 側 の 格 子 窓 が 見 え る 辺 り ま で 近 付 い て 、 福 千 代 は ﹁ は っ ⋮ ﹂ と な っ て 足 を 止 め 、 大 き な 木 立 の 陰 に 身 を 隠 し た 。 気 女 中 達 が 箏 や 鼓 で 伴 奏 し て く れ る こ と が あ っ た 。 そ ん な こ と は 滅 多 に な い の だ が 、 五 節 句 な ど の 祝 い の 日 に は 、 在 府 し て い れ ば 夕 餉 が 済 む と 、 福 千 代 は ま た 漢 書 の 読 誦 に 書 の 手 習 い と 、 尺 八 の お さ ら い を し た 。 尺 八 の お さ ら い の 時 に は 、 興 が 乗 る と 福 千 代 は 何 時 も 内 心 の 重 圧 と 不 満 の 遣 り 場 に 困 っ て い た 。 ﹁ 武 士 に な る の は 辛 い も の よ ⋮ 、 気 の 休 ま る の は 寝 て い る 時 だ け ⋮ 、 い や 、 そ れ さ え も 迂 闊 で あ っ て は な ら ぬ の だ ⋮ ﹂ と 、 姿 勢 を 正 し て 、 神 経 を 集 中 し て お 召 し 上 が り な さ り ま せ ⋮ ﹂ と 、 す か さ ず 吉 野 の 小 言 が 飛 ん だ 。 ﹁ 若 君 、 お 食 事 時 は 、 気 を 散 ら し て は な り ま せ ぬ ⋮ 、 そ れ に 武 士 た る 者 、 い つ 何 時 敵 に 襲 わ れ る や も 知 れ ま せ ぬ ⋮ 、 何 時 も を 逸 ら し て 俯 き 加 減 に な っ た 。 野 の 身 体 に ど こ と な く 女 の 色 香 が そ こ は か と な く 漂 っ て い た 。 そ ん な 吉 野 の 雰 囲 気 に 些 か 気 恥 ず か し さ を 覚 え て 、 福 千 代 は 目 が ら 、 じ っ と 見 詰 め て い る 目 が 妙 に き ら き ら 輝 い て い た 。 そ れ に 、 い つ も の 養 育 係 と し て の 女 中 頭 の 厳 し い 雰 囲 気 で は な く 、 吉 だ が 、 そ の 日 の 吉 野 は 少 し 様 子 が 違 っ て い た 。 い つ も は 、 平 静 で 乾 い た 表 情 で 座 っ て い る の だ が 、 福 千 代 を 団 扇 で 煽 ぎ な だ り し な が ら 、 福 千 代 が 好 き 嫌 い を し て 食 べ 残 し を し な い よ う に 見 張 っ て い た 。 は 許 さ れ な か っ た 。 食 事 の 世 話 は 、 若 い 女 中 が し た が 、 吉 野 は 、 何 時 も 福 千 代 の 左 斜 め 前 に 座 っ て 、 夏 な ら 団 扇 で 福 千 代 を 煽 い た 。 百 合 姫 も 同 じ だ っ た 。 ﹁ 二 人 一 緒 だ っ た ら 、 少 し は 座 が 賑 わ っ て 、 食 も 美 味 し く 食 べ ら れ る だ ろ う に ⋮ ﹂ と 思 う の だ が 、 そ れ 初恋ー抜粋 れ て き た 。 食 事 は 、 大 抵 一 人 で す る こ と に な っ て い た 。 食 事 時 も 毛 氈 を 敷 か ず に 直 に 畳 の 上 に 正 座 し て い な け れ ば な ら な か っ 福 千 代 が 湯 か ら 上 が っ て 四 書 五 経 の 読 誦 と 尺 八 の 復 習 い を 了 え て 、 自 室 に 座 っ て 待 つ こ と 暫 し 、 簡 素 な 夕 餉 の 膳 部 が 運 ば ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ * * * * * * * お 気 持 ち に も 叶 う の か も 知 れ な い ⋮ ﹂ 吉 野 は 、 福 千 代 の 尺 八 の 音 を 聴 き な が ら 、 そ ん な こ と を 考 え て い た 。 半 月 が 西 に 傾 き か 歳 を 考 え れ ば 、 お 宿 下 が り を 願 い 出 て 、 永 の お 暇 を す る よ り は 、 こ の ま ま 福 千 代 君 の お 世 話 を 終 生 続 け る 方 が 福 千 代 君 の 親 も 同 然 ⋮ 、 そ う だ わ ⋮ 、 福 千 代 君 に と っ て 私 は 、 恐 れ 多 く も 家 光 公 に と っ て の 春 日 局 の よ う な 立 場 ⋮ 、 ﹁ 若 く し て 子 を 亡 く し 、 夫 を 亡 く し 、 福 千 代 君 の 乳 母 と し て お 屋 敷 に 上 が っ て か ら 十 四 年 近 く 、 福 千 代 君 に と っ て は 私 が 母 い て い る こ と は 、 良 く 分 っ て い た 。 代 君 付 の 老 女 と し て 福 千 代 君 を お 世 話 す る か ⋮ 、 ﹂ 吉 野 は 迷 っ て い た 。 福 千 代 が 奥 方 様 に は 抱 い て い な い 感 情 を 自 分 に 対 し て 抱 ﹁ 若 君 が 元 服 し て 、 上 屋 敷 に 戻 ら れ 、 部 屋 住 み と し て お 城 勤 め を 初 め ら れ た ら 、 永 の 暇 を 願 い 出 る か ⋮ 、 そ れ と も 終 生 福 千 ち を 匂 わ せ た 。 ﹁ も っ と も っ と 上 達 し て 、 吉 野 の 箏 と 合 奏 し た い ⋮ ﹂ と 、 福 千 代 は 、 言 外 に 吉 野 に ず っ と 側 に 居 て 欲 し い と 思 っ て い る 気 持 野 は 、 福 千 代 を 褒 め た 。 ﹁ 若 君 は 、 短 い 間 に 随 分 と 上 達 な さ り ま し た ⋮ 、 音 が 滑 ら か で 淀 み が あ り ま せ ぬ ⋮ 、 そ れ に 音 色 が 澄 ん で い ま す ⋮ ﹂ と 、 吉 座 っ て 福 千 代 の 横 顔 を 見 詰 め て 、 尺 八 の 音 を 聴 い て い た 。 卯 月 に 入 っ た ば か り の そ の 日 、 福 千 代 が 縁 側 近 く に 座 っ て 尺 八 の お さ ら い を 続 け て い る 間 、 吉 野 は そ の 直 ぐ 斜 め 後 ろ に 初恋ー抜粋 吉 野 の 胸 の 内 に 去 来 す る 思 い も 、 同 じ だ っ た の か も 知 れ な い 。 の の だ 別 っ れ た そ と 。 う は い 、 う 比 思 べ い 物 か に ら な 、 ら 福 な 千 い 代 ほ の ど 胸 重 の い 内 別 に れ ﹁ に 吉 な 野 る の 。 胸 に 抱 か れ て 眠 り た い ⋮ ﹂ と い う 、 そ ん な 気 持 ち が 急 に 沸 き 起 こ っ て き た 吉 野 は 、 永 の 暇 を と っ て 、 再 び 何 処 か に 嫁 に 行 っ て し ま う か も 知 れ な い 。 吉 野 と の 別 れ は 、 ほ ん の 一 時 恋 心 を 抱 い た あ の 乙 女 と し て 、 一 重 に 上 様 へ の ご 奉 公 の 生 活 が 始 ま る 。 生 ま れ て こ の 方 、 終 始 、 母 親 以 上 に 身 近 な 吉 野 と は 、 そ れ っ き り 会 え な く な る 。 そ れ で も 、 否 応 無 し に そ の 時 が 間 も な く や っ て 来 る 。 そ う な る と 、 下 屋 敷 を 離 れ て 、 上 屋 敷 に 戻 り 、 文 字 通 り 部 屋 住 み と か っ た 。 元 服 し て 、 登 城 し て 役 職 に つ く と 、 ど の よ う な 困 難 が 待 ち 受 け て い る の だ ろ う か ⋮ 、 福 千 代 の 不 安 は 尽 き な か っ た 。 父 親 と 母 親 が や っ て 来 て 、 百 合 姫 を 加 え て 、 合 奏 し て 楽 し む こ と も あ っ た 。 そ れ で も 、 福 千 代 に は 、 武 士 の 生 活 が 窮 屈 で な ら な ﹁ 何 事 も 、 手 続 き が あ る の や も 知 れ ぬ ⋮ ﹂ と 、 福 千 代 は 思 い 、 先 導 す る 女 中 の 清 川 の 後 に つ い て 寝 間 に 向 か っ た 。 ﹁ 私 は 、 今 暫 く 後 に 参 り ま す ⋮ ﹂ と 、 吉 野 が 答 え た 。 ﹁ ね え や は 、 来 ぬ の か ⋮ ﹂ と 、 福 千 代 は 訊 い た 。 し く 見 え る ⋮ 、 臆 す る ま い ぞ 、 福 千 代 ⋮ ﹂ と 、 福 千 代 は 自 ら に 言 い 聞 か せ た 。 ﹁ 今 宵 の ﹁ ね え や ﹂ は 、 あ の 頃 の ﹁ ね え や ﹂ で は な い ⋮ 、 お 内 証 と し て 儂 の 初 伽 の 添 い 寝 を す る 心 構 え を 整 え て 、 何 や ら 神 々 と 、 福 千 代 は 、 自 分 の 心 の 奥 底 の 本 念 を 推 し 量 ろ う と し た 。 ﹁ 儂 が 初 め て 恋 心 を 覚 え た の は 、 あ の あ ば ら 家 の 乙 女 に で は な く 、 も し か し た ら 、 こ の ﹁ ね え や ﹂ に で は な か っ た の か ⋮ ﹂ い で い た あ の ﹁ ね え や ﹂ の 膝 元 の 匂 い が 福 千 代 の 脳 裏 に 甦 っ て き た 。 て い た 。 吉 野 は 、 何 時 に な く 清 楚 な 様 子 で 白 檀 の 匂 い に 包 ま れ て い た 。 曾 て 、 も っ と 幼 い 頃 に 、 ﹁ ね え や ﹂ の 腰 に 纏 わ り 付 い て 嗅 福 千 代 が 踵 を 返 す と 、 目 の 前 に ﹁ ね え や ﹂ が 髷 を 下 ろ し て 首 筋 で お す べ ら か し の よ う に 長 髪 を 纏 め て 、 端 正 な 腰 巻 姿 で 座 っ か り 、 別 の 一 人 が 福 千 代 を 寝 間 に 案 内 し た 。 吉 野 の 福 千 代 を 促 す 言 葉 を 聞 い て 、 後 ろ に 控 え て い た 二 人 の 若 い 腰 元 が つ い と 立 ち 上 が っ て 縁 側 の 外 の 戸 を 建 て 付 け に 掛 初恋ー抜粋 と 止 ん で い た 。 曲 が 終 わ っ た と こ ろ で 、 吉 野 が 云 っ た 。 多 分 、 百 合 姫 も 女 中 に 促 さ れ た の で あ ろ う か 、 東 の 館 か ら 聞 こ え て い た 箏 の 音 も ぴ た り ﹁ 若 君 、 夜 気 が 冷 と う な っ て ま い り ま し た ⋮ 、 お 風 邪 を 召 し ま せ ぬ よ う 、 そ ろ そ ろ お 寝 間 に お 引 き 上 げ な さ り ま せ ⋮ ﹂ と 、 議 と 心 が 落 ち 着 い た 。 の 匂 い を 嗅 い で い た 。 こ の 香 り は 、 乳 母 の 吉 野 の 香 り と し て 、 ず っ と 嗅 い で き た 匂 い だ っ た 。 こ の 香 り を 嗅 ぐ と 、 福 千 代 は 不 思 て 、 尺 八 で 習 い 覚 え た ば か り の ﹁ 六 段 の 調 べ ﹂ に 追 奏 し な が ら 、 吹 き 入 る 風 の 吹 き 返 し に 乗 っ て 背 後 か ら 馥 郁 と 漂 っ て く る 白 檀 福 千 代 は 、 前 髪 の 残 る 髪 の 毛 を 後 ろ に 束 ね た 総 髪 に し て 、 東 館 か ら 微 か に 聞 こ え て く る 百 合 姫 の 奏 で る 箏 の 音 に 合 わ せ に 整 え て い た 。 白 羽 二 重 の 小 袖 と 下 帯 に は 、 福 千 代 の 好 む い つ も の 白 檀 の 香 が 薫 き 込 め ら れ て い た 。 け 、 吹 き 入 る 風 が 夏 の 近 い こ と を 感 じ さ せ て い た 。 吉 野 は 、 そ の 夜 の 初 伽 に 備 え て 、 腰 巻 き に 着 た 打 掛 の 下 は 、 白 ず く め の 装 い こ れ が 姫 に な る と 、 も っ と 窮 屈 だ っ た 。 先 ず 、 屋 敷 か ら 外 に 出 る こ と だ け で も 容 易 な こ と で は な か っ た 。 に よ っ て 父 親 の 許 し を 得 て よ う や く 一 人 で 外 出 で き る よ う に な っ た の は つ い 最 近 の こ と だ っ た 。 め き め き 剣 術 の 腕 を 上 げ 、 ﹁ 新 影 流 の 免 許 皆 伝 も そ う 遠 く な い ⋮ ﹂ と 判 断 し た 、 父 親 定 衡 お 抱 え の 剣 術 指 南 役 の 山 之 内 正 行 の 助 言 下 屋 敷 に 移 っ て か ら も 、 福 千 代 は 極 最 近 ま で 中 間 か 供 侍 の お 供 な し に 外 出 す る こ と は な か っ た 。 小 杉 道 場 に 通 い 始 め て 、 ま た 、 女 中 や お 供 の 中 間 が 付 き 添 わ な い 外 出 な ど 思 い も 寄 ら な か っ た 。 ま た ま 女 中 に 洗 わ れ て い る 内 に 玉 茎 が 了 え 立 っ た と し て も 、 成 人 し て い な い 限 り 、 本 人 も 女 中 も 意 に 介 さ な か っ た 。 た 。 湯 に 入 る の で さ え 、 自 分 一 人 で す る こ と は 何 も な か っ た 。 た だ 裸 で 女 中 達 が 世 話 し て く れ る に 任 せ て い れ ば 良 か っ た 。 た 福 千 代 も 、 生 ま れ て こ の 方 、 ず っ と そ う い う 窮 屈 ず く め の 生 活 に 慣 れ て い て 、 侍 と は そ う い う も の だ と 思 い 込 ま さ れ て い た 役 少 。 の の 女 み 中 ぎ が り 養 は 育 、 係 乳 の 母 女 役 中 の 頭 女 と 中 し が て 添 、 い そ 寝 の を 家 し 柄 、 に 乳 相 を 応 含 し ま い せ 武 、 家 下 の の 世 社 話 会 を や し 家 、 庭 病 内 気 で の の 看 仕 護 来 を り し や た 礼 。 儀 子 作 供 法 達 を が 教 成 え 長 込 す む る の に が 連 習 れ わ て し 、 だ 乳 っ 母 初恋ー抜粋 子 供 達 と て 同 じ だ っ た 。 子 供 の 寝 所 の 前 後 左 右 の 小 部 屋 に 、 お 付 き の 女 中 が 一 人 ず つ 殿 居 と し て 寝 ず の 番 を し 、 子 供 が 幼 は 奥 女 中 が 二 人 な い し 四 人 ず つ 殿 居 と し て 寝 ず の 番 を し た 。 や 側 室 と 同 衾 す る 時 は も と よ り 、 夫 々 別 々 に 独 り 寝 の 時 も 、 寝 所 の 前 後 左 右 の 殿 居 部 屋 に は 、 お 目 見 え 以 上 の 番 方 の 侍 二 人 ま た 下 屋 敷 で あ れ 、 殿 様 本 人 は も と よ り 、 奥 方 や 子 供 た ち も 、 誰 か ら も 見 守 ら れ ず に 独 り 寝 す る な ど は あ り 得 な か っ た 。 殿 様 が 正 室 万 石 近 い 大 身 の 旗 本 と も な れ ば 、 そ の 居 住 の 生 活 様 式 は 、 ほ ぼ 殿 中 や 諸 大 名 の 生 活 様 式 を 踏 襲 し て い た 。 上 屋 敷 で あ れ 、 * * * * * * * * * * * * * * が 分 ら ぬ で は な い の で 、 一 夜 だ け 殿 居 の 女 中 達 が 寝 間 の 直 ぐ 隣 の 殿 居 部 屋 で は な く 、 そ の 先 の 座 敷 の 方 に 侍 る よ う に 伝 え た 。 い る ⋮ ﹂ と 、 福 千 代 は 、 あ く ま で 直 ぐ 隣 の 殿 居 部 屋 に 何 人 も の 女 中 達 の 侍 ら う 寝 間 で の 伽 を 嫌 が っ た 。 吉 野 は 、 福 千 代 の 気 持 ち ﹁ ね え や が 居 る で は な い か ⋮ 、 そ れ に 枕 元 に 刀 の 備 え も あ る ⋮ 、 儂 と て も 、 も う 立 派 に 賊 の 一 人 や 二 人 と 戦 え る 腕 を 持 っ て ﹁ そ れ で は 、 万 一 賊 が 押 し 入 っ て 来 た 時 に 、 若 君 を お 守 り で き ま せ ぬ ⋮ ﹂ と 、 吉 野 は 云 っ た 。 が 気 に 入 ら な か っ た 。 そ し て 、 添 い 寝 と 殿 居 の 女 中 達 を 人 払 い し て く れ る よ う に 、 吉 野 に 云 っ た 。 が 付 い そ た 下 し 。 目 て 黒 、 の そ 下 の 屋 日 敷 も で 状 は 況 、 子 は 供 同 用 じ の だ 寝 っ 所 た に 。 は 唯 、 、 番 一 方 つ の 違 侍 う の の 殿 は 居 、 ﹁ は 女 な 中 か が っ 添 た い 。 寝 そ を の す 代 る わ ⋮ り 、 ﹂ 、 周 と 囲 い の う 部 点 屋 だ に っ 二 た 人 。 づ 福 つ 千 の 代 殿 に 居 は の 、 女 そ 中 れ お 殿 様 の お 耳 に 入 れ ば 、 ど ん な お 咎 め を 受 け よ う や も 知 れ な い の で す よ ⋮ ﹂ と 、 諭 す し か な か っ た 。 初恋ー抜粋 ﹁ そ れ で も 、 お 殿 様 に 厳 し く 言 い 付 け ら れ て い る こ と で す か ら 、 守 ら な け れ ば い け な い の が 、 こ の 家 の 仕 来 り な の で す ⋮ 、 か に 福 千 代 の 云 う 通 り で 、 吉 野 は 、 福 千 代 の 優 し い 気 遣 い が い じ ら し か っ た 。 と 屋 敷 に 閉 じ こ め ら れ て い て 、 可 哀 相 じ ゃ ⋮ 、 姉 弟 の 儂 と 庭 で 遊 ん で 、 何 処 が 悪 い の じ ゃ ⋮ ﹂ と 、 不 満 顔 に 膨 れ て 抗 議 し た 。 確 に 行 く と 、 姉 姫 の 女 中 達 に 見 咎 め ら れ 、 後 で 吉 野 か ら 酷 く 叱 ら れ た 。 そ ん な 時 、 福 千 代 は 、 ﹁ 姉 上 は 滅 多 に 外 に も 出 ら れ ず 、 ず っ る わ け が な い ⋮ 、 儂 だ っ た ら 気 が 狂 う ⋮ ﹂ と 、 何 時 も 同 情 し て い た 。 時 偶 、 姉 姫 を 庭 に 誘 い 出 そ う と し て 、 庭 伝 い に 東 の 館 の 方 福 千 代 は 、 百 合 姫 が 気 の 毒 で な ら な か っ た 。 ﹁ 庭 に 出 て 儂 と 戯 れ 遊 ぶ こ と さ え 許 さ れ な い と は ⋮ 、 そ れ で は 身 体 が 丈 夫 に な の 奥 に 入 っ て 、 同 じ よ う な ﹁ 籠 の 鳥 ﹂ の 生 活 が 続 い た 。 回 だ け ﹁ 花 見 ﹂ に で も 出 掛 け る く ら い の も の だ っ た 。 病 弱 な れ ば 尚 更 で 、 終 生 自 分 の 屋 敷 か ら 出 る こ と も な く 、 嫁 げ ば 、 嫁 ぎ 先 家 紋 の 入 っ た 専 用 の 駕 籠 に 乗 り 、 周 囲 を お 付 き の 女 中 や 腰 元 、 中 間 に 取 り 囲 ま れ て の 行 列 騒 ぎ に な っ た 。 そ ん な 機 会 は 、 年 に 一 裏 で 反 芻 し て い た 。 福 千 代 は 、 吉 野 の 話 を 聞 く と も な く 聞 き な が ら 、 先 度 目 撃 し た 自 分 の 父 親 と あ の あ ば ら 家 の 娘 と の 激 し い 情 交 の 光 景 を 脳 気 持 ち を 和 ら げ よ う と 、 吉 野 は 昔 話 を し た 。 か っ た こ と ⋮ 、 こ の 吉 野 は 、 懐 か し く も 、 感 慨 深 い 思 い を し て い ま す わ ⋮ ﹂ と 、 福 千 代 の 脇 に 添 い 寝 を す る と す ぐ に 、 福 千 代 の あ の 幼 気 な 若 君 が も う 元 服 を 迎 え る 歳 に な ら れ て ⋮ 、 そ し て 今 宵 初 伽 の 添 い 寝 を さ せ て い た だ く な ど と ⋮ 、 思 い も 寄 ら な ほ ほ ほ っ ⋮ 、 尾 篭 な 話 で す け れ ど ⋮ 、 あ の 時 こ の 吉 野 は 、 若 君 の ご 不 興 が 治 ま る よ う に と 、 必 死 で し た わ ⋮ 、 山 の 虫 が 出 て ⋮ 、 そ し た ら 、 ほ ほ ほ っ ⋮ 、 お 腹 の 張 り が 引 い て 、 け ろ っ と 良 く な ら れ て 、 元 の 元 気 な 若 君 に 戻 ら れ ま し た わ ⋮ 、 お 煎 じ 薬 を 差 し 上 げ た 後 、 吉 野 が 添 い 寝 を し て 、 お 腹 を 一 晩 中 擦 っ て 差 し 上 げ ま し た わ ね ⋮ 、 翌 朝 、 御 用 所 で 便 と 一 緒 に 沢 わ ね ⋮ 、 若 君 が 癇 の 虫 を 起 こ し て ⋮ 、 ﹁ お 腹 が 痛 い ⋮ ﹂ と 、 む ず か っ て ⋮ 、 ﹁ 若 君 、 吉 野 が こ の 前 若 君 に 添 い 寝 を し た の は 何 時 の こ と で し た か し ら ⋮ 、 そ う ⋮ 、 あ れ は 、 も う 八 年 の 余 も 前 の こ と で す 野 の 白 羽 二 重 の 寝 間 着 か ら 、 慣 れ 親 し ん だ 白 檀 の 香 の 香 り が 福 千 代 の 鼻 腔 を 突 い た 。 て い た だ き ま す る ⋮ 、 こ れ が 若 君 と の 最 後 の 添 い 寝 に ご ざ り ま す る ⋮ ﹂ と 云 っ て 、 吉 野 は 、 福 千 代 の 左 脇 に 身 体 を 横 た え た 。 吉 初恋ー抜粋 打 ち 掛 け を 丁 寧 に 衣 紋 掛 け に 掛 け て か ら 、 吉 野 は 、 福 千 代 の 左 脇 に 跪 い て 、 ﹁ 今 宵 、 こ の 吉 野 が 若 君 の 初 伽 の 添 い 寝 を さ せ 野 が 先 ほ ど の 白 装 束 に 打 掛 の 腰 巻 姿 で 入 っ て き た 。 こ こ か ら 、 い つ も と 違 っ て い た 。 暫 く 待 つ ほ ど に 、 北 側 の 襖 が 静 か に 開 い て 、 跪 い て 深 々 と お 辞 儀 を し た 後 、 ﹁ 若 君 、 吉 野 が 入 り ま す ⋮ ﹂ と 声 を 掛 け て 、 吉 せ て 夜 着 を 着 せ 掛 け て か ら 清 川 は 出 て 行 っ た 。 そ こ ま で は 、 い つ も と 少 し も 違 わ な か っ た 。 帯 を 腰 に 捲 い て 、 前 で 結 ん で く れ た 。 そ し て 、 夜 着 を 撥 ね 上 げ て 、 ﹁ ど う ぞ 、 お 休 み な さ り ま せ ⋮ ﹂ と 云 っ て 、 福 千 代 を 横 た わ ら い つ も と 変 わ ら な か っ た 。 肌 襦 袢 を 脱 が せ 、 猿 股 を 脱 が せ て 、 白 い 下 帯 を 腰 に 巻 き 付 け て 、 白 い 寝 間 着 を 着 せ か け 、 白 い 細 幅 の が 、 衣 装 駕 籠 を 手 元 に お い て 、 ﹁ 寝 間 着 に お 召 し 替 え い た し ま し ょ う ⋮ ﹂ と い っ て 、 福 千 代 の 着 衣 を 脱 が せ に 掛 か っ た 。 そ れ も 、 女 中 の 清 川 に 案 内 さ れ て 、 福 千 代 は 閨 に 入 っ た 。 部 屋 の 隅 に 行 灯 が 灯 り 、 寝 間 は い つ も の 通 り だ っ た 。 閨 に 入 る と 、 清 川 ど れ ほ ど 時 間 が 経 っ た の か 、 吉 野 も 福 千 代 を 抱 え 込 ん だ ま ま 、 微 睡 み か け た 。 千 代 の 兆 す の を じ っ と 待 っ た 。 重 か っ た 。 吉 野 は そ の 福 千 代 の 重 み を 受 け 止 め な が ら 、 福 千 代 の 総 髪 の 頭 を 愛 お し そ う に 抱 え 込 ん で 、 福 千 代 に 頬 擦 り し て 、 福 福 千 代 は 、 ま だ 子 供 年 齢 だ と は 云 え 、 毎 日 剣 術 で 身 体 を 鍛 え て い る た め 、 決 し て 小 柄 な 方 で も な い 吉 野 よ り ず っ と 大 き く 、 た 千 飽 。 代 き を た 受 の け か 入 、 れ 吉 る 野 姿 の 勢 身 で 体 、 の 股 上 を に 広 伸 げ し て 掛 福 か 千 る 代 よ の う 腰 に を し 掻 て い 、 込 左 ん 肩 口 で に い 頬 た を が 埋 、 め ど て う 、 し 暫 た く わ し け て か す 、 や 福 す 千 や 代 寝 の 入 玉 っ 茎 て は し 了 ま え っ 立 た っ 。 て 吉 い 野 な は か 、 っ 福 福 千 代 は 、 子 供 の 時 と 同 じ 仕 草 で 、 右 手 で 左 の 乳 房 を 揉 み な が ら 、 右 の 乳 首 を 吸 っ て い た が 、 乳 が 出 る わ け で も な い の で し た 。 ﹁ さ あ 、 若 君 ⋮ 、 私 の 乳 が 吸 え る の も 今 宵 が 最 後 ⋮ 、 お 吸 い に な り た け れ ば 、 存 分 に お 吸 い な さ り ま せ ⋮ ﹂ と 、 福 千 代 を 促 胸 元 を 押 し 広 げ て 、 福 千 代 の 身 体 を 更 に 強 く 引 き 寄 せ た 。 も う 出 な い の に ⋮ 、 隠 れ て 乳 首 を 吸 わ せ て 差 し 上 げ ま し た わ ね ⋮ ﹂ と 云 い な が ら 、 吉 野 は 、 自 分 の と 福 千 代 の 帯 を 解 い て 緩 め 、 初恋ー抜粋 く て ⋮ 、 可 愛 く て ⋮ 、 お 殿 様 や 奥 方 様 に 知 れ た ら 、 大 目 玉 を 食 ら っ て お 宿 下 が り を 命 じ ら れ る と 分 っ て い な が ら ⋮ 、 そ れ に 乳 は ﹁ そ う で す わ ね ⋮ 、 若 君 は 甘 え ん 坊 で し た か ら 、 乳 離 れ し て か ら も 、 良 く 私 の 乳 を 吸 い に 来 ま し た わ ⋮ 、 私 に は そ れ が 可 愛 ﹁ 悪 戯 で 、 ね え や の 乳 を 吸 っ た こ と を 思 い 出 す ⋮ ﹂ と 、 福 千 代 が 呟 く よ う に 云 っ た 。 は 、 吉 野 に 覆 い 被 さ る よ う に 身 体 を 寄 せ て 、 顔 を 吉 野 の 胸 元 に 押 し 付 け て 行 っ た 。 て い た 頃 の 仕 草 と 同 じ だ っ た 。 吉 野 は 、 そ の 当 時 と 同 じ 愛 お し さ が 込 み 上 げ て き て 、 福 千 代 の 項 を 抱 き 締 め た 。 す る と 、 福 千 代 ぼ っ て 、 福 千 代 は 更 に 深 く 吉 野 の 肩 口 に 顔 を 埋 め た 。 そ の 福 千 代 の 仕 草 は 、 曾 て 吉 野 の 腰 に 纏 わ り 付 い て 膝 元 の 匂 い を 嗅 ぎ に 来 福 千 代 は 、 反 射 的 に 左 に 向 い て 、 吉 野 の 肩 口 に 顔 を 埋 め た 。 吉 野 の 懐 か し い 香 り が 、 ふ く よ か で 柔 ら か な 胸 元 か ら 立 ち 上 方 に 引 き 寄 せ よ う と し た 。 慣 れ 親 し ん だ 吉 野 の 香 り と 、 柔 ら か な 肌 触 り が 福 千 代 を 現 実 に 引 き 戻 し た 。 ﹁ 若 君 、 も そ っ と こ ち ら に お 寄 り な さ り ま せ ⋮ ﹂ と 云 っ て 、 吉 野 は 、 福 千 代 の 首 の 下 に 右 腕 を 挿 し 入 れ て 、 福 千 代 を 自 分 の ﹁ う う ∼ っ 、 ね え や っ ⋮ 、 も う 駄 目 だ っ ⋮ ﹂ と 、 福 千 代 が 呻 い た 。 声 を 立 て ぬ よ う に 、 吉 野 紙 の 懐 紙 を 口 に く わ え た 。 れ る ま で 討 ち 果 た さ れ ぬ よ う に 辛 抱 し て 、 お 戦 い 召 さ れ ま せ ⋮ ﹂ と 耳 元 で 云 っ て 、 吉 野 は 、 受 け 腰 で 福 千 代 の 動 き に 応 じ な が ら 、 ﹁ 若 君 、 さ あ 、 そ の 槍 で 思 う 存 分 お 戦 い な さ れ ま せ ⋮ 、 た や す く 討 ち 果 た さ れ て は な り ま せ ぬ ぞ ⋮ 、 こ の 吉 野 が 討 ち 果 た さ め 苛 ま れ て い る の を 感 じ て い た 。 福 千 代 は 、 ま だ 完 全 に 目 覚 め て い な か っ た 。 唯 、 夢 と も 現 と も 知 れ ず 、 自 分 の 玉 茎 が や た ら に 熱 い 湯 壷 の 中 で 蠢 く 襞 に 責 締 め て 、 更 に 奥 深 く 福 千 代 を 迎 え 入 れ た 。 ﹁ 若 君 、 お 見 事 っ ⋮ 、 ご 自 分 の 槍 で 本 懐 遂 げ ら れ ま し た よ ⋮ ﹂ と 耳 元 で 云 っ て 、 吉 野 は 両 腕 と 両 膝 で 福 千 代 を ひ し っ と 抱 き そ れ は 、 福 千 代 が 自 分 の 玉 茎 で 、 吉 野 の 玉 門 を 貫 い た 瞬 間 だ っ た 。 吉 野 の 顔 に 変 わ っ た 。 そ の 刹 那 、 福 千 代 は 、 ﹁ ね え や っ ⋮ ﹂ と 叫 ん で 、 し が み 付 い た 。 乙 女 の 顔 が 見 る 間 に 変 わ っ て 、 初 め は 姉 の 百 合 姫 の 顔 に な っ た 。 そ れ か ら 、 藤 川 の 顔 に な り 、 清 川 の 顔 に 変 わ り 、 最 後 に 初恋ー抜粋 え 立 っ た 玉 茎 を 刺 し 通 し た 。 同 時 に 、 乙 女 は 大 き な 声 を 発 し て 、 上 体 を 撥 ね 上 げ て 、 福 千 代 を 見 た 。 福 千 代 の 目 の 前 の 乙 女 の 空 割 が 次 第 に 大 き く な り 、 福 千 代 に 向 か っ て 口 を 開 い た 。 福 千 代 は 、 そ の 朱 色 の 口 に 向 か っ て 了 ﹁ 若 君 、 さ あ 、 そ の 見 事 な 槍 に て 、 私 を 突 き 通 し な さ れ ⋮ ﹂ と 福 千 代 の 耳 元 で 囁 く よ う に 云 っ て 、 吉 野 は 腰 を 少 し 引 い た 。 た 福 千 代 の 玉 茎 が 蠢 い て い る の を 知 っ た 。 福 千 代 の 腰 の 動 き に 気 付 い て 、 吉 野 は 微 睡 み か ら 覚 め た 。 そ し て 自 分 の 空 割 の 上 で 、 い つ も の 朝 の よ う に 見 事 に 了 え 立 っ 乙 女 の 空 割 を 突 き 通 そ う と し た 。 福 千 代 の 目 の 前 で 反 り 返 っ て 、 鴇 色 の 空 割 の 襞 を 露 に 突 き 出 し て い た 。 福 千 代 の 玉 茎 が 了 え 立 ち 、 父 親 が し た の と 同 じ よ う に 、 そ の 時 、 福 千 代 は 、 夢 を 見 始 め て い た 。 夢 の 中 で 、 あ の 時 あ の あ ば ら 家 の 乙 女 が 父 の 定 衡 に 対 し て い た の と 同 じ よ う に 、 度 白 小 袖 の ま ま 、 広 間 に お 連 れ し て く だ さ い な ⋮ ﹂ と 言 い 置 い て 、 吉 野 は 自 分 の 局 に 戻 っ た 。 な く お 起 こ し し て 、 湯 殿 で 身 体 を 清 め て 差 し 上 げ て く だ さ い 。 そ の 間 に 寝 間 を 綺 麗 に 片 付 け て 、 湯 か ら お 出 に な っ た ら 、 も う 一 ら 、 打 掛 を 腰 巻 き に 着 て 、 裏 の 殿 居 の 間 を 抜 け て 、 次 の 間 に 侍 る 女 中 達 に 挨 拶 し た 後 、 ﹁ 若 君 は ま だ 眠 っ て お ら れ ま す る が 、 間 も 帯 を 取 り 去 っ て 脇 に 片 付 け 、 福 千 代 の 白 小 袖 を 整 え て 帯 を し っ か り と 締 め た 。 更 に 、 立 ち 上 が っ て 自 分 の 白 小 袖 を 着 直 し て か た 、 盥 の 水 で 手 拭 い を 絞 り 、 丁 寧 に 福 千 代 の 股 間 を 拭 い 清 め た 。 次 い で 自 ら の 股 間 を 拭 き 清 め て か ら 、 福 千 代 の 下 帯 と 自 ら の 下 ﹁ う う ∼ っ ﹂ と 云 っ た な り 、 福 千 代 は 眠 り 続 け て い た 。 吉 野 は 、 吉 野 紙 で 二 人 の 股 間 を 拭 っ た あ と 、 傍 ら に 用 意 し て あ っ 仰 向 け に し た 。 先 に 目 覚 め た の は 、 や は り 吉 野 だ っ た 。 吉 野 は 、 ま だ 完 全 に 萎 え 切 っ て い な い 福 千 代 の 玉 茎 を 抜 き 取 り 、 そ っ と 福 千 代 を 千 代 を 腹 上 に 抱 え た ま ま 、 朝 ま で 微 睡 ん だ 。 福 千 代 は 、 そ れ か ら 一 度 も 吉 野 か ら 離 れ る こ と な く 、 都 合 で 五 合 、 吉 野 と 情 を 交 わ し て 、 疲 れ 果 て て 寝 入 っ た 。 吉 野 も 、 福 や が 今 自 分 の 腹 の 下 に 居 て 、 確 実 に 繋 が っ て い る ⋮ 、 そ の 実 感 が 福 千 代 の 中 の 吉 野 に 対 す る 愛 お し さ を 募 ら せ た 。 愛 そ の も の の 感 覚 だ っ た 。 福 千 代 が は っ き り 意 識 し て い な い 心 の 奥 底 で 願 っ て い た ね え や と の 情 交 が 今 現 実 に 叶 い 、 そ の ね え 慕 っ て い た の が 他 な ら ぬ ﹁ ね え や だ っ た ﹂ こ と を 覚 っ た 。 あ の 夢 の 中 で の 情 交 と は 似 て 非 な る こ の 感 覚 は 、 紛 れ も な い 現 実 の 性 初恋ー抜粋 夢 の 中 で あ の あ ば ら 家 の 娘 を 通 し て 、 次 々 と 相 手 が 代 わ り 、 最 後 に ね え や の 顔 で 落 ち 着 い た こ と か ら 、 自 分 が ず っ と 恋 い 福 千 代 は 、 空 ろ な 感 覚 の 中 で 、 ﹁ こ れ が 情 を 交 わ す と 云 う こ と な の だ ⋮ ﹂ と 、 初 め て 性 愛 の 本 然 を 知 っ た 思 い が し て い た 。 り ま す る ⋮ ﹂ と 、 云 い な が ら 、 吉 野 は 、 福 千 代 の 背 中 を 撫 で 擦 っ た 。 ﹁ 若 君 、 お 見 事 に ご ざ り ま す る ⋮ 、 よ く ぞ 堪 え ら れ ま し た ⋮ 、 こ れ ぞ 、 武 士 に 相 応 し い 初 伽 の 儀 ⋮ 、 吉 野 は 、 嬉 し ゅ う ご ざ ﹁ う わ あ ∼ っ 、 推 参 っ ⋮ 、 参 る ぞ ∼ っ ⋮ ﹂ と 叫 ん で 、 福 千 代 は 、 吉 野 に し が み 付 い て 精 を 発 し て 果 て た 。 口 に く わ え た 懐 紙 の 隙 間 か ら く ぐ も っ た 声 で 云 い ⋮ 、 あ り っ た け の 力 で 福 千 代 を 締 め つ け た 後 、 ぐ っ た り と な っ た 。 そ の 瞬 間 、 ﹁ あ あ ∼ っ 、 も う 、 も う 、 吉 野 は 参 り ま す っ ⋮ 、 も う 果 て ま す っ ⋮ 、 福 千 代 さ ま っ ⋮ 、 吉 野 に 続 い て お 果 て な さ れ っ ⋮ ﹂ と 、 何 度 も 押 さ え つ け た 。 福 千 代 は 、 必 死 に 堪 え 続 け て 、 腰 を 動 か し た 。 発 す る の を 堪 え な が ら 、 吉 野 は 、 く わ え た 懐 紙 の 隙 間 か ら く ぐ も っ た 声 で 叱 咤 激 励 し な が ら 、 福 千 代 の 腰 骨 の 窪 み を 両 方 の 踵 で ﹁ な か な か ⋮ 、 若 君 ⋮ 、 私 は ま だ 討 ち 果 た さ れ て お り ま せ ぬ ぞ ⋮ 、 し っ か り 堪 え ま せ え ∼ っ ⋮ ﹂ と 、 昂 ま り 来 る 快 感 に 声 を げ て 、 拳 を 握 り 、 身 じ ろ ぎ 一 つ せ ず に 座 敷 の 間 の 両 親 を 見 据 え て い た 。 吉 野 が お 次 か ら 受 け 取 っ た 盆 を 恭 し く 捧 げ 持 っ て 、 晒 木 綿 の 六 尺 褌 を 腰 回 り に 締 め た 。 そ の 間 、 福 千 代 は 、 両 腕 両 脚 を 心 持 ち 広 定 衡 の 一 言 が 終 わ る と 、 直 ぐ に 腰 元 達 が 立 ち 上 が っ て 、 福 千 代 を 立 た せ 、 白 小 袖 と 下 帯 を 取 り 払 っ て 素 っ 裸 に し 、 直 ち に 、 苦 し ゅ う な い ⋮ 、 下 帯 初 め の 儀 、 許 す ⋮ ﹂ ﹁ う む ⋮ 、 そ れ は 目 出 た い ⋮ 、 こ れ で 福 千 代 も 元 服 の 準 備 が 整 っ た か ⋮ 、 目 出 た い ⋮ 、 目 出 た い ⋮ 、 し 上 げ ま す る ⋮ ﹂ と 、 吉 野 は 、 福 千 代 に 並 ん で 部 屋 の 隅 に 座 っ て 、 仰 々 し く 言 っ た 。 こ れ よ り 、 お 殿 様 の お 許 し を 得 て 、 下 帯 初 め の 儀 執 り 行 わ せ て い た だ き ま す る ⋮ 、 私 、 女 中 頭 の 吉 野 よ り お 殿 様 に 言 上 申 無 事 初 伽 の 儀 を お 済 ま せ に な ら れ ま し た ⋮ 、 ﹁ 昨 夜 半 か ら 本 日 早 暁 に か け て 、 若 君 福 千 代 様 、 快 刀 乱 麻 の ご 活 躍 の 上 、 武 士 に 相 応 し く 見 事 に 自 力 で の 本 懐 を 遂 げ ら れ 、 待 っ て 居 た 。 * * * * * * * 初恋ー抜粋 に 、 早 朝 に 到 着 し て い た 狩 装 束 姿 の 殿 様 が 床 几 に ど っ か と 座 り 、 そ の 脇 に 奥 方 が 毛 氈 の 上 に 打 掛 腰 巻 姿 で 並 ん で 、 吉 野 の 登 場 を の 女 中 達 が 取 り 囲 み 、 襖 を 外 し た 四 方 の 殿 居 部 屋 に 学 問 指 南 役 、 剣 術 指 南 役 を 初 め 近 侍 の 侍 達 が 集 い 、 座 敷 の 間 に は 床 の 間 を 背 広 間 で は 、 福 千 代 が 前 髪 を 残 し た ま ま 髷 を 結 い 直 し て も ら い 、 真 新 し い 白 小 袖 を 着 て 座 っ て い た 。 そ の 周 囲 に は 、 お 付 き 用 意 し て お い た 真 新 し い 褌 を 盆 に 乗 せ て お 次 に 持 た せ て 、 福 千 代 の 居 る 広 間 に 戻 っ た 。 吉 野 は 、 自 分 の 局 に 戻 る と 直 ぐ に 、 女 中 専 用 の 湯 殿 で 、 身 体 を 清 め て か ら 、 自 室 に 戻 り 、 髷 を 高 島 田 に 結 い 直 し て 正 装 し 、 * * * * * * * ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ * * * * * * * く 応 え て く れ た こ と で 、 来 し 方 の 様 々 な 出 来 事 の 想 い 出 と 共 に 、 感 動 に も 似 た 喜 び を 噛 み し め て い た 。 吉 野 は 、 福 千 代 が 生 ま れ て こ の 方 我 が 子 の ご と く 慈 し み 育 ん で き て 、 福 千 代 を 一 人 前 の 男 に し 、 福 千 代 も 吉 野 の 期 待 に 良 こ う し て 、 福 千 代 の 元 服 に 向 け た 第 一 段 階 の 儀 式 が 済 ん だ 。 初恋ー抜粋 吉 野 は 、 殿 様 と 奥 方 の 前 に 進 み 出 て 、 褒 美 の 目 録 を 載 せ た 盆 を 恭 し く 押 し 戴 い て 引 き 下 が っ た 。 ﹁ 吉 野 も 、 よ う 大 役 を 果 た し て く れ た ⋮ 、 ご 苦 労 で あ っ た ⋮ 、 褒 美 を 取 ら す ぞ ⋮ ﹂ と 、 定 衡 が 吉 野 を 労 っ た 。 ﹁ 若 君 、 ご 立 派 ⋮ 、 お め で と う ご ざ り ま す る ⋮ ﹂ と 、 並 み 居 る 者 全 員 が 唱 和 し て 云 っ た 。 ﹁ う む ⋮ 、 福 千 代 、 武 士 ら し い 物 怖 じ せ ぬ 態 度 、 父 も 母 も 満 足 じ ゃ ⋮ 、 褒 め て 取 ら す ⋮ ﹂ と 定 衡 は 音 声 高 く 云 っ た 。 ﹁ こ れ に て 、 下 帯 初 め の 儀 終 わ り ま し て ご ざ り ま す る ⋮ ﹂ と 、 再 び 吉 野 が 跪 い て 言 上 す る と 、 な 気 持 ち に な っ て 、 安 堵 し た 。 * * * * * * * 出 仕 が 叶 う よ う に な れ ば 、 後 は 若 君 次 第 ⋮ ﹂ と 、 そ れ を 聞 い て 吉 野 は 、 感 無 量 の 思 い を 噛 み し め な が ら も 、 内 心 解 放 さ れ た よ う ﹁ こ れ で よ う や く 、 自 分 の 養 育 係 と し て の 大 任 が 終 わ っ た ⋮ 、 そ し て 上 様 と の 初 お 目 見 が 終 わ り 、 正 式 に お 役 を 賜 わ っ て 、 が 一 膝 前 に 乗 り 出 し て 、 大 音 声 で 宣 言 し た 。 ﹁ 御 殿 の 命 を 受 け 、 某 、 山 之 内 正 行 が 烏 帽 子 親 と し て 福 千 代 君 の 諱 を 三 郎 秀 衡 と 改 め る こ と を 奏 上 申 す ⋮ ﹂ と 、 山 之 内 正 行 こ れ よ り 山 之 内 正 行 を 烏 帽 子 親 と し て 、 諱 を 改 め さ せ る ⋮ ﹂ と 、 定 衡 が 威 儀 を 正 し て 言 っ た 。 結 い 上 げ る と 、 立 派 な 若 侍 が 現 れ た 。 そ の 姿 を 見 て 、 吉 野 は 思 わ ず 涙 ぐ ん だ 。 初恋ー抜粋 の 山 之 内 正 行 が 剃 刀 を 手 に 福 千 代 の 前 髪 を 執 り 、 青 々 と 月 代 を 剃 り 上 げ て 、 そ れ ま で の 茶 筅 髷 か ら 、 武 家 の 伝 統 的 な 小 銀 杏 髷 に 世 話 を 両 し 福 親 た 千 と 。 代 共 の に 前 姉 髪 弟 執 や り 従 と 者 元 の 服 家 の 人 儀 、 に 文 は 武 、 吉 と 野 生 も 活 同 の 席 養 し 育 た 係 。 の 吉 居 野 並 は ぶ 前 中 日 奥 か 広 ら 座 福 敷 千 の 代 間 と で 共 、 父 に 定 上 衡 屋 の 敷 名 に 代 赴 と き し 、 福 て 千 、 定 代 衡 の の 支 剣 度 術 を 指 整 南 え 役 る で 顔 を 合 わ せ 、 話 を す る こ と の 出 来 る 機 会 は 極 々 少 な く な る 。 合 姫 が 輿 入 れ す る 坂 崎 伊 代 守 の 上 屋 敷 は 、 小 石 川 林 町 に あ り 、 麹 町 か ら は 直 ぐ 近 く だ と は い え 、 以 後 、 福 千 代 が 百 合 姫 と 側 近 く 百 合 姫 が 輿 入 れ の 準 備 の た め に 上 屋 敷 に 戻 る の と 時 を 同 じ く し て 、 福 千 代 の 前 髪 摂 り と 元 服 の 儀 が 上 屋 敷 で 行 わ れ た 。 百 ご ざ り ま せ ぬ ⋮ 、 た 。 ﹁ 若 君 様 の 元 服 の 儀 も 済 み ま し て 、 私 の 大 任 も ほ ぼ 了 え ま し た た め 、 安 堵 い た し ま し た ゆ え か 、 こ の と こ ろ 体 調 が 思 わ し く ﹁ ど う し た わ け じ ゃ 、 吉 野 ⋮ ﹂ と 、 定 衡 は 、 何 時 に な い 吉 野 の 様 子 に 、 訝 し げ に 訊 い た 。 ﹁ お 殿 様 、 折 り 入 っ て こ の 吉 野 に お 宿 下 が り を お 許 し く だ さ る よ う お 願 い い た し ま す る ⋮ ﹂ と 、 定 衡 の 膝 下 に 跪 い て 云 っ 定 衡 が 例 に よ っ て 狩 の 帰 り に 鴨 の 獲 物 を 提 げ て 立 ち 寄 っ て 来 た 折 に 特 に 面 談 を 願 い 出 た 。 吉 野 は 、 青 天 の 霹 靂 に 打 た れ た よ う な 驚 き を 覚 え る と 同 時 に 、 こ と が 容 易 で な い こ と を 覚 っ た 。 ﹁ あ の た っ た 一 度 の 初 伽 の お 相 手 を し た だ け で か ⋮ ﹂ ま っ て い る こ と を 覚 っ た 。 だ 。 そ し て 、 七 夕 が 過 ぎ た 頃 だ っ た 。 あ の 日 か ら 三 月 経 っ て も 、 な お 月 水 を 見 な か っ た 。 そ し て 、 軽 い 悪 阻 の よ う な 状 態 が 始 ﹁ ま さ か ⋮ ﹂ 吉 野 は 訝 っ た 。 初恋ー抜粋 だ が 、 そ れ か ら 旬 日 が 過 ぎ た 頃 、 吉 野 は 自 分 の 体 調 に 異 常 が 現 れ て い る こ と に 気 付 い た 。 月 水 が こ こ 二 月 ば か り な い の 続 け る こ と に な っ た 。 秀 衡 を 引 き 続 き 下 屋 敷 に 住 ま わ せ る こ と に し た 。 出 仕 が 決 ま る ま で は 、 引 き 続 き 吉 野 が 女 中 頭 と し て 、 秀 衡 の 生 活 面 で の 世 話 を ﹁ な お 、 沙 汰 あ る ま で 待 て ⋮ ﹂ と 云 う 返 事 が 返 っ て き た 。 元 服 し た と は い え 、 部 屋 住 み の 身 分 は 変 わ ら な い た め 、 定 衡 は 、 い を 立 て 定 た 衡 。 は 、 福 千 代 の 前 髪 を 執 り と 元 服 の 儀 を 了 え 、 諱 を 三 郎 秀 衡 と 改 め た こ と を 届 け 出 て 、 上 様 と の 初 お 目 見 の 次 第 の お 伺 そ ち が 独 り 結 果 を 背 負 っ て 、 秀 衡 の 子 を 父 無 し 子 と し て 生 ま ん が 腹 で あ ろ う が ⋮ 、 云 わ ず と も 、 儂 の 目 は 節 穴 で は な い ⋮ 、 そ ち の 顔 を 見 て 直 ぐ に 分 っ た わ ⋮ 、 そ ち は 、 あ の 初 伽 の 折 に 秀 衡 の 子 を 妊 っ た の で あ ろ う ⋮ 、 有 り 体 に 申 せ ⋮ 、 吉 野 ⋮ 、 ﹁ 大 厄 ま で は ま だ 三 年 も あ る ⋮ 、 大 厄 が 近 い ⋮ と は 、 た だ の 口 実 に 過 ぎ ま い ⋮ 、 ﹁ 三 十 に ご ざ り ま す る ⋮ ﹂ ﹁ 吉 野 、 そ ち は 幾 つ に 相 成 っ た ⋮ ﹂ 即 断 し て 云 っ た 。 ﹁ 自 分 の 想 像 が 当 た っ て い れ ば 、 ど ち ら に せ よ 、 好 ま し く は な い ⋮ ﹂ こ と は 明 ら か だ っ た 。 そ し て 、 定 衡 は い つ も の よ う に ﹁ ど う す る の が 一 番 良 い の か ⋮ ﹂ 定 衡 は 、 考 え て い た 。 ﹁ ⋮ ⋮ ⋮ 、 ﹂ 暫 く 、 沈 黙 が 続 い た 。 う に 見 え た 。 そ し て 、 定 衡 は 本 当 の 事 情 を 悟 っ た 。 定 衡 は 、 そ の 吉 野 の 顔 を じ っ と 見 詰 め て 聞 い て い た 。 い つ も は 引 き 締 ま っ て い る 吉 野 の 顔 に 、 少 し む く み が 現 れ て い る よ 初恋ー抜粋 吉 野 は 定 衡 の 目 を 見 据 え て 云 っ た 。 折 り も 折 り 、 私 の 体 調 が 思 わ し く な い の を 感 じ て お り ま す ゆ え に 、 お 宿 下 が り を 申 し 出 ま し た 次 第 に ご ざ り ま す る ⋮ ﹂ と 、 な り ま し ょ う ⋮ 、 ら は 女 子 の 私 の 出 る 幕 は 少 の う な り ま し ょ う ⋮ 、 ま た 何 時 ま で も 私 が お 側 近 く に 付 い て お り ま し て は 、 若 君 の 自 立 心 の 妨 げ に も じ げ 取 ず ﹁ ﹁ っ 定 に ⋮ 吉 た 衡 、 ⋮ 野 。 は 当 た 、 、 、 り 後 面 平 障 は を 伏 り 、 上 し の 若 げ た な 君 て ま い の 、 ま 理 上 い 話 由 様 つ を を と も 続 述 の の け べ 初 よ て た お う い 。 目 に る 見 儂 吉 と の 野 、 目 を こ を じ の 見 っ 松 て と 平 申 見 三 せ 詰 河 ⋮ め 守 ﹂ な 家 と が に 、 ら 相 定 聞 応 衡 い し が て い 云 い お っ た 役 た 。 を 。 そ 賜 し る て の 、 を 吉 お 野 待 の ち 何 申 時 し に 上 な げ い る 態 だ 度 け に ⋮ 異 、 こ 常 れ を か 感 三 十 三 の 大 厄 も 近 い こ と で も あ り 、 そ ろ そ ろ 潮 時 か と も 存 じ ま す る ゆ え の お 願 い に ご ざ り ま す る ⋮ ﹂ と 、 吉 野 は 真 実 を 告 出 来 な く な る 。 ﹁ 春 日 局 ﹂ の よ う に な る こ と は 、 所 詮 夢 だ っ た ⋮ と 、 吉 野 は 覚 っ た 。 様 の 子 と し て 産 む 方 が 良 い に は 違 い な か っ た 。 そ の 代 償 と し て 、 吉 野 に と っ て 生 き 甲 斐 だ っ た 秀 衡 君 の 身 の 回 り の 世 話 は 、 も う 吉 野 は 、 複 雑 な 気 持 ち に 陥 っ て い た 。 胸 算 用 を す れ ば 、 実 家 に 宿 下 が り し て 父 無 し 子 と し て 若 君 の 子 を 産 む よ り は 、 若 君 秀 衡 に は 、 近 侍 の 者 を 付 け て 、 世 話 を さ せ る ⋮ ﹂ と 、 定 衡 は 吉 野 に 諭 す よ う に 云 っ た 。 そ ち は 、 百 合 絵 の 使 い 居 っ た 東 の 館 に 移 っ て 、 秀 衡 の 側 女 と し て 心 置 き の う 子 を 産 ん で 育 て よ ⋮ 、 良 い な ⋮ 、 吉 野 ⋮ 、 め る わ け に は い か ぬ ⋮ 、 良 い な 、 吉 野 ⋮ 、 不 服 あ ろ う と も 、 と く と 了 見 せ よ ⋮ 、 秀 衡 に は 、 そ ち を 前 に し て 儂 か ら 話 そ う ⋮ 、 ば 、 そ れ が 生 ま れ 来 る 子 に 伝 わ ら ん と も 限 ら ぬ ⋮ 、 じ ゃ に よ っ て 疎 か に は 扱 え ぬ ⋮ 、 お 宿 下 が り な ど は 滅 相 も な い こ と ゆ え 、 認 ﹁ 良 い か 、 吉 野 ⋮ 、 そ ち が 妊 っ た の は 、 庶 流 と は 云 え 、 我 が 松 平 三 河 守 家 一 族 の 子 ぞ ⋮ 、 秀 衡 が 持 っ て 生 ま れ た 才 が 花 開 か も 皮 肉 な 運 命 の 悪 戯 に 、 複 雑 な 思 い を 噛 み し め な が ら 、 定 衡 の 言 葉 に 反 応 し た 。 自 ら の 乳 を 含 ま せ て 育 て 、 そ の 後 も 養 育 乳 母 と し て 仕 え て き た 福 千 代 の 元 服 か ら 時 を 経 ず に そ の 側 女 に な る と 云 う 、 何 と ﹁ あ れ 、 ま あ ⋮ 、 私 が 秀 衡 様 の 側 女 ⋮ で す か ⋮ 、 そ れ を お 聞 き に な っ て 、 秀 衡 様 が 何 と 思 し 召 さ れ る か ⋮ ﹂ い う 手 も あ る ⋮ 、 そ れ に て 吉 野 に 異 存 は あ る ま い と 思 う が 、 ど う じ ゃ ⋮ 、 ﹂ と 云 っ て 、 定 衡 は 吉 野 の 反 応 を 待 っ た 。 ま た 、 女 児 な れ ば 、 元 服 ま で 当 家 に て 育 て 、 そ の 後 大 奥 に ご 奉 公 に 差 し 出 す か 、 ⋮ 儂 か 元 衡 が 養 女 と し て 嫁 に 出 す ⋮ 、 と 初恋ー抜粋 男 児 誕 生 な れ ば 、 改 め て 手 を 尽 し て そ ち を 同 格 の 旗 本 家 の 養 女 と 為 し 、 秀 衡 が 元 に 輿 入 れ さ せ て 正 室 に 直 そ う ⋮ 、 暫 し そ ち を 秀 衡 の 側 女 と し て 秀 衡 が 児 を 産 め る よ う に す る こ と じ ゃ ⋮ 、 吉 野 ⋮ 、 る の じ さ ゃ 年 然 れ ⋮ の り ば 、 差 と や て じ 家 、 ゃ 柄 秀 ⋮ の 衡 、 差 が そ を お ち 云 役 に う を と て 賜 っ 居 り て る 、 も の 出 我 で 仕 が は が 松 な 叶 平 い わ 三 ⋮ ぬ 河 、 今 守 秀 、 家 衡 直 に が ち と お に っ 召 秀 て し 衡 も 出 と 一 し そ 番 は ち 良 お を い ろ 妻 方 か 合 法 上 わ は 様 せ 、 と る 秀 の わ 衡 初 け が お に お 目 も 役 見 参 を も ら 賜 叶 ぬ り わ ⋮ 一 ぬ 、 家 今 を の 立 時 て 期 ら を れ 云 る う ま て で 居 、 い か ぬ ﹁ ﹁ ⋮ だ ⋮ ど 、 が ⋮ う の ⋮ じ う ⋮ ゃ 、 ﹂ 、 図 吉 星 野 で ⋮ あ 、 ろ 儂 う は が そ ⋮ の ﹂ よ う な そ ち の 腹 積 も り を 見 過 ご し て 、 秀 衡 の 子 を 人 知 れ ず 父 無 し 子 と し て 生 ま せ る わ け に は た 。 た き は 、 そ れ に は 答 え ず 、 ﹁ お 殿 様 が 奥 の お 広 座 敷 の 間 で お 待 ち で ご ざ り ま す る ⋮ 、 直 ぐ に も お い で な さ り ま せ ⋮ ﹂ と 云 っ 料 を た き が 差 し 出 す 袖 に 渡 し な が ら 、 ﹁ ね え や は ど う し た ⋮ ﹂ と 訊 い た 。 秀 衡 が 帰 宅 す る と 、 玄 関 の 前 の 間 に 出 迎 え た の は 、 そ の た き と 慎 三 郎 だ っ た 。 秀 衡 は 、 一 瞬 戸 惑 っ た が 、 取 敢 え ず 腰 の 差 に 当 た る よ う に 命 じ た 。 の 者 の 名 は 、 酒 巻 慎 三 郎 と 云 い 秀 衡 の 二 つ 年 上 の 十 六 歳 だ っ た 。 そ の 慎 三 郎 に 年 嵩 の 女 中 た き と 共 に 、 秀 衡 付 の 日 常 生 活 の 世 話 更 に 、 定 衡 は 、 番 士 の 倅 の 中 か ら 、 行 い 優 れ て い る 無 役 の 者 を 推 挙 さ せ て 取 り 立 て 、 秀 衡 の 小 姓 待 遇 と し て 用 命 し た 。 そ 皆 、 何 事 が 起 こ っ た か ⋮ と 、 驚 き 、 訝 っ た が ⋮ 、 唯 一 つ 判 っ た こ と は 、 ﹁ 吉 野 様 ご 懐 妊 の 気 配 ﹂ ⋮ だ け だ っ た 。 付 の 侍 女 と し て 当 て 、 お 次 と お 末 合 わ せ て 五 名 ほ ど を 吉 乃 付 き の 腰 元 と し 、 東 の 館 に 回 わ す よ う に 用 人 の 延 岡 弁 志 郎 に 命 じ た 。 ら を 集 め て 、 東 の 館 を 整 理 さ せ 、 吉 野 の 局 に あ る 吉 野 ﹂ の 身 の 回 り の 品 を 吉 野 と 共 に 東 の 館 に 移 さ せ て 、 年 嵩 の 女 中 三 名 を 吉 乃 吉 野 の そ ん な 複 雑 な 思 い を 他 所 に 、 定 衡 は 、 素 早 く こ と を 処 理 し た 。 女 中 や そ の お 次 ぎ 、 お 末 ら と 、 お 目 見 え 以 上 の 番 士 初恋ー抜粋 ら な け れ ば 良 い が ⋮ ﹂ 吉 野 の 心 配 は そ れ に 尽 き た 。 果 に な り 、 千 々 に 乱 れ よ う と は ⋮ 、 思 い も 掛 け な い こ と だ っ た 。 ﹁ 願 わ く は 、 若 君 が こ の こ と を お 知 り に な っ て 、 悪 く お 思 い に な を 見 守 っ て き て 、 吉 野 の 心 は 満 ち 足 り て 平 穏 だ っ た 。 そ れ が 、 殿 様 の ご 意 向 で 若 君 の 初 伽 の お 相 手 を し た こ と が 、 こ の よ う な 結 思 え ば 十 七 の 歳 に 、 生 ま れ た ば か り の 福 千 代 君 の 乳 母 と し て こ の 家 に 上 が っ て 以 来 、 唯 一 途 に 福 千 代 君 を 育 て 、 そ の 成 長 応 も な い ⋮ 、 お 殿 様 に 万 事 お 任 せ す る に し く は な い ⋮ ﹂ と 、 吉 野 は 自 分 を 納 得 さ せ ざ る を 得 な か っ た 。 ﹁ 然 れ ど 、 こ の 吉 野 と 、 産 ま れ て く る お 児 と 、 若 君 と 松 平 の 家 の 全 て に 良 い よ う に ⋮ と 、 お 殿 様 が な さ れ る こ と ゆ え 、 否 も 吉 野 は 判 断 に 迷 っ た 。 吉 野 は 戸 惑 っ て お る よ う じ ゃ っ た が ⋮ 、 ﹁ そ れ が 正 当 に こ と が 丸 く 治 ま る 唯 一 つ の 道 だ ⋮ ﹂ と 云 う て 、 納 得 さ せ た ⋮ 、 元 、 お 次 ぎ 、 お 末 を 付 け て や っ た と こ ろ じ ゃ ⋮ 、 と す る こ と と し 、 東 館 で 心 置 き の う そ ち の 児 を 産 む よ う 吉 野 に 命 じ た ⋮ 、 そ の う え で 直 ち に 手 筈 を 整 え さ せ 、 必 要 な 女 中 や 腰 然 れ ば じ ゃ 、 そ ち が 元 服 成 っ た ば か り で い ま だ 上 様 と の 初 お 目 見 も 叶 っ て い な い こ と を 考 慮 し て 、 暫 し 吉 野 を そ ち の 側 女 然 り と て 、 直 ち に 今 、 吉 野 を そ ち の 正 室 に 据 え る わ け に も 参 ら ぬ ⋮ 、 か に 扱 う こ と は 、 我 ら が 家 と し て 望 ま し く な い ⋮ 、 に 、 そ ち の 中 の 季 衡 候 の 武 士 と し て の 血 は 、 男 児 で あ れ 女 児 で あ れ 、 生 れ 来 る そ ち の 子 に 受 け 継 が れ て く る ⋮ 、 よ っ て こ れ を 疎 わ が 家 は 初 代 季 衡 候 以 来 の 伝 統 あ る 由 緒 高 き 家 柄 で あ り 、 そ の 一 統 の 者 は 、 何 れ も 季 衡 候 の 資 質 を 受 け 継 い で お る ⋮ 、 そ れ 故 吉 野 は 、 一 人 責 め を 負 う て 、 宿 下 が り し て 父 無 し 子 と し て 産 む つ も り じ ゃ っ た よ う じ ゃ ⋮ 、 だ が 、 以 前 に も 話 し た よ う に 、 と は 思 わ な ん だ ⋮ 、 そ ち と の 初 伽 で 、 そ ち の 児 を 妊 っ た の じ ゃ ⋮ 、 吉 野 に 初 伽 の 相 手 を 命 じ た 折 に 、 吉 野 の 歳 か ら し て ま さ か こ の よ う な こ と が あ る え に 、 常 の よ う に 面 を 上 げ て 申 す よ う に 云 う た ⋮ 、 吉 野 が 面 を 上 げ て 話 す の を 見 て い て 、 儂 は 直 ぐ に 気 付 い た ⋮ 、 吉 野 は 、 あ の 初恋ー抜粋 吉 野 が 宿 下 が り を 願 い 出 て 来 お っ て の う ⋮ 、 理 由 を 質 す と 、 ﹁ 体 調 と み に 優 れ ぬ ゆ え ⋮ ﹂ だ と 云 う ⋮ 、 面 を 上 げ ず に 申 す ゆ ﹁ 秀 衡 、 落 ち 着 い て 儂 の 話 を 聞 け ⋮ 、 有 体 に 話 す ⋮ 、 ﹁ も そ っ と 側 近 こ う 寄 れ ⋮ ﹂ と 、 定 衡 は や や あ っ て 云 い 、 秀 衡 を 側 近 く に 寄 せ た 。 ﹁ そ ち 達 は 、 下 が っ て お れ ⋮ ﹂ と 、 二 人 の お 付 き に 云 っ て 、 人 払 い を さ せ た 。 二 人 は 、 襖 を 閉 め て 立 ち 去 っ て 行 っ た 。 座 っ て い た 。 秀 衡 は 、 そ の ﹁ ね え や ﹂ の 姿 を 一 瞥 し て 、 訝 し く 思 っ た 。 ﹁ う む ⋮ 、 三 郎 、 入 れ ⋮ ﹂ と 、 秀 衡 に 言 っ た 。 そ こ に は 、 秀 衡 と 並 ん で 吉 野 が 御 垂 髪 を 結 っ て 、 打 ち 掛 け 姿 で 俯 き 加 減 に 戻 り に 成 ら れ ま し て ご ざ り ま す る ⋮ ﹂ と 言 上 し た 。 た き に 訊 い た 。 た き と 慎 三 郎 は そ れ に も 答 え ず 、 奥 の 広 座 敷 の 間 の 前 に 来 る と 、 畳 廊 下 に 座 っ て 襖 を 開 け て 平 伏 し 、 ﹁ 若 君 様 、 お ﹁ ど う し た ⋮ 、 何 か あ っ た の か ⋮ ﹂ と 、 常 と は 違 う 雰 囲 気 を 感 じ て 、 先 導 す る た き と 慎 三 郎 に 従 っ て 奥 の 間 に 向 か い な が ら も な い こ と ぐ ら い は 、 い く ら 世 慣 れ ぬ 若 年 者 だ と て も 容 易 に 理 解 で き る ⋮ ﹂ と 、 秀 衡 の 想 念 は 宙 を 舞 っ た 。 。 か ろ う だ ⋮ 自 そ が 、 分 れ 、 が に 格 町 、 式 人 別 が や の 第 農 問 一 民 題 の の も 万 子 あ 石 な る 近 ら ⋮ い 、 、 歳 大 が 身 離 の れ 旗 て 本 い の よ 家 う 柄 と と も も 、 な 慕 れ っ ば て 、 い 例 る え ね 部 え 屋 や 住 を み 直 の ぐ 身 に だ 妻 と に て す 、 そ る ん こ な と こ だ と っ は て 即 出 座 来 に な 許 い さ 相 れ 談 る で べ は く な と 云 う こ と は 、 想 像 だ に 出 来 ぬ 異 例 中 の 異 例 の こ と だ ⋮ 、 ﹁ ね え や が 初 伽 の 相 手 を 務 め て く れ た こ と す ら 異 例 の 出 来 事 だ っ た ⋮ 、 ま し て や 、 そ の 結 果 ね え や が 自 分 の 子 を 妊 る な ど 定 め と い う も の か ⋮ 、 ﹂ と 、 秀 衡 は 、 女 子 と 情 を 交 わ す と 女 子 が 妊 る 可 能 性 が あ る こ と を 初 め て 悟 ら さ れ た 思 い が し た 。 ﹁ 儂 が 手 を 付 け た 他 の 年 の 若 い 女 中 達 は 、 誰 も 妊 っ て は い な い ⋮ 、 そ れ な の に ⋮ 、 よ り に よ っ て ね え や が ⋮ 、 こ れ が 宿 世 の こ る な ど 、 露 程 も 念 頭 に な か っ た 。 秀 衡 は 、 終 始 父 親 の 目 を 見 詰 め な が ら 話 を 聞 い て い て 、 複 雑 な 気 持 ち に な っ て い た 。 第 一 、 ね え や に そ の よ う な こ と が 起 初恋ー抜粋 に 云 っ た 。 は な い ぞ ⋮ 、 良 い な ⋮ 三 郎 ⋮ ﹂ と 、 定 衡 は 、 秀 衡 の 気 持 ち を 慮 か っ て 、 委 細 漏 ら さ ず 噛 ん で 砕 く よ う に 説 明 し て 、 了 見 す る よ う 前 に 申 し た よ う に 、 そ ち に と っ て は 今 が 一 番 大 事 の 時 ⋮ 、 委 細 了 見 し て 、 儂 が 独 断 を 悪 し 様 に 思 い 、 不 服 を 申 し 立 て る で そ ち の 世 話 役 は 、 吉 野 に 代 わ っ て 女 中 の た き と 、 小 姓 と し て 近 侍 の 酒 巻 の 倅 、 慎 三 郎 を 当 て た ⋮ 、 降 り さ せ た ⋮ 、 じ ゃ に よ っ て 、 今 日 か ら 吉 野 は そ ち の 女 中 頭 の 吉 野 で は な く 、 そ ち の 側 女 吉 乃 と し て こ の 屋 敷 に 留 ま り 、 そ ち の 世 話 役 は ち ら か に な る ⋮ 室 に 直 そ う が 儂 の 腹 じ ゃ ⋮ 、 女 児 誕 生 の 場 合 は 、 儂 か 元 衡 が 養 女 と し て 嫁 に 出 す か 、 奥 女 中 と し て 大 奥 に ご 奉 公 に 上 げ る か の ど 男 児 誕 生 の み ぎ り は 、 何 れ 機 会 を 見 て 、 吉 乃 を 当 家 と 同 格 の 旗 本 の 仮 の 養 女 と し て 、 そ ち が 元 に 輿 入 れ さ せ て 、 そ ち が 正 い は じ め て い る こ と を 実 感 し て 、 濡 れ て 輝 く 目 で 秀 衡 の 目 を 見 詰 め て い た 。 父 無 し 子 を 産 む 仕 儀 に 至 ら ず 、 ﹁ 秀 衡 様 の 児 ﹂ と し て 、 大 っ ぴ ら に 産 め る こ と を 内 心 喜 び 、 自 分 が ﹁ 女 ﹂ と し て 秀 衡 を 愛 お し く 思 吉 乃 は 、 秀 衡 を じ っ と 見 詰 め て 秀 衡 の 気 持 ち を 推 量 り な が ら 、 親 子 の や り 取 り を 聞 い て い た 。 そ し て 、 自 ら 身 を 引 い て 、 の 身 体 を 気 遣 う て 、 房 事 の こ と は 差 し 控 え る の じ ゃ ぞ ⋮ 、 そ れ に こ の こ と は そ ち の 胸 の 内 に 仕 舞 う て お け ⋮ 、 よ い な 、 三 郎 ⋮ ﹂ ﹁ う む ⋮ 、 良 う 了 見 し た ⋮ 、 三 郎 も 大 人 に な っ た の う ⋮ 、 何 れ に せ よ そ ち の 好 き に 吉 乃 が 元 を 訪 う の は 良 い が 、 子 供 と 吉 乃 も な く な り ま し ょ う ⋮ 、 ﹂ だ き と う ご ざ り ま す る ⋮ 、 さ す れ ば 、 私 に も 吉 乃 様 に も 願 っ て も な い こ と ⋮ 、 生 ま れ て く る 児 と 吉 乃 様 を 慈 し む の も 誰 憚 る 必 要 私 が 上 様 よ り ど の よ う な 役 向 き を 仰 せ つ か る か は 存 じ ま せ ぬ が 、 お 役 に 就 け ば 、 い ず れ は 吉 乃 様 を 必 ず 正 室 に 直 し て い た く に 居 て ⋮ 、 私 の 子 を 産 み 、 育 て よ う と し て く れ る ⋮ 、 今 は そ れ だ け で 十 分 で ご ざ り ま す る ⋮ 、 ﹁ 私 は 、 部 屋 住 み の 身 、 不 服 を 云 え る 立 場 に は ご ざ り ま せ ぬ ⋮ 、 そ れ ど こ ろ か ⋮ 、 表 向 き は ど う あ れ 、 ﹁ ね え や ﹂ が 直 ぐ 近 し て 、 儂 が 取 っ た 処 置 , 三 郎 に は 不 服 は な い の じ ゃ な ⋮ ﹂ ﹁ そ れ は 、 そ ち と 吉 乃 の 望 み 次 第 じ ゃ ⋮ 、 東 館 の 女 中 頭 や 用 人 に 吉 乃 が 元 に 渡 る こ と を 伝 え れ ば 良 い こ と じ ゃ ⋮ 、 父 上 、 側 女 だ と て 、 私 が 児 を 産 む の で あ れ ば 我 が 妻 女 、 吉 乃 様 を 常 時 訪 う て も よ ろ し う ご ざ り ま す る か ⋮ ﹂ と し て で も 私 が 児 と し て 産 ん で く れ る 方 が あ り が と う ご ざ り ま す る ⋮ 、 初恋ー抜粋 ど の 様 な 形 で 生 ま れ よ う と も 、 そ の 子 は 松 平 三 河 守 家 の 血 筋 に は 違 い あ り ま せ ぬ ⋮ 、 そ う 思 え ば 、 今 は 、 正 室 で な く 側 女 る の が 筋 だ と 存 じ ま す る ⋮ 、 く せ き 私 を 思 う て の こ と で し ょ う ⋮ 、 も し 実 際 に そ う な っ て 、 そ れ が 後 で 知 れ た ら 、 私 は 武 士 を 捨 て て も 、 ね え や と そ の 子 を 守 ﹁ ⋮ ⋮ 、 は い 、 父 上 ⋮ 、 お 話 は 良 く 分 り ま し た ⋮ 、 ね え や が 、 例 え 父 無 し 子 に し て で も 産 も う と し て く れ て い た こ と は 、 よ 衡 を 見 て 、 定 衡 が 云 っ た 。 ﹁ お い 、 三 郎 ⋮ 、 聞 い て い る の か ⋮ ﹂ と 、 自 分 の 目 を 見 て は い る も の の 、 想 念 が 何 処 か に 飛 ん で い る よ う な 空 ろ な 様 子 の 秀 き な が ら 、 そ ん な こ と を 考 え て い た 。 う と し て い る の だ ろ う か ⋮ 、 そ れ に 、 子 供 を 妊 る と 気 分 が 優 れ な く な る ⋮ 、 と 云 う の も 理 解 で き な い ⋮ 、 ﹂ 秀 衡 は 、 父 親 の 話 を 聞 ﹁ そ れ に し て も 、 ね え や は ど ん な 気 持 ち で 儂 の 子 を 産 も う と し て い る の だ ろ う か ⋮ 、 儂 の 身 代 わ り を ま た 一 か ら 育 て 直 そ 落 着 し た よ う だ っ た 。 * * * * * * * 初恋ー抜粋 渡 っ た 。 三 人 居 る 定 衡 の 側 室 も 、 そ れ ぞ れ 吉 乃 へ の 祝 い の 引 き 出 物 を 女 中 達 に 届 け さ せ た 。 こ う し て 定 衡 の 狙 い 通 り に 一 件 が そ れ に よ っ て 、 吉 乃 が お 内 証 と し て の 初 伽 で 福 千 代 の 児 を 妊 っ た ら し い と 云 う こ と は 、 直 ぐ に 家 中 の ほ と ん ど の 者 に 知 れ い の 引 き 出 物 を 吉 乃 に 届 け さ せ た 。 い か に も 粋 な お 計 ら い を な さ れ ま し た ⋮ ﹂ と 、 知 佳 は 、 動 じ る 風 も な く 、 鷹 揚 に 受 け 止 め た 。 そ し て 、 翌 日 老 女 に 申 し 付 け て 、 祝 人 の 親 に な っ て い た な ど と は ⋮ 、 そ れ も 縁 に ご ざ り ま し ょ う ⋮ 、 よ ほ ど 吉 野 と は 性 が 合 う て い た の や も し れ ま せ ぬ な あ ⋮ 、 殿 も ﹁ 仮 初 め に も せ よ 、 男 と 女 子 が 契 れ ば 、 左 様 な こ と も ご ざ り ま し ょ う ⋮ 、 ほ ほ ほ っ ⋮ 、 あ の 福 千 代 が 、 元 服 す る よ り 先 に 、 上 屋 敷 に 戻 る と 、 定 衡 は 、 一 部 始 終 を 奥 の 知 佳 に 話 し た 。 ﹁ 然 れ ば 、 儂 は こ れ に て 上 屋 敷 に 戻 る ⋮ 、 吉 乃 、 身 体 を 労 れ よ ⋮ 、 ﹂ と 言 っ て 、 定 衡 は 、 下 屋 敷 を 後 に し た 。 掛 物 語 第 奥 一 底 主 潜 題 作 者 他 物 物 語 語 様 同 々 様 場 面 性 愛 艶 冶 物 消 誇 語 大 江 戸 構 強 時 成 調 代 中 期 気 短 細 編 赴 初 面 恋 実 白 体 部 分 筋 良 可 少 年 笑 展 知 期 主 開 題 誰 れ 艶 行 れ 出 架 空 本 創 来 作 事 物 語 わ 現 実 細 絵 歴 笑 点 空 史 事 上 飛 旗 本 一 特 度 感 味 動 わ 姿 単 世 界 原 呼 書 思 模 わ 主 人 平 れ 公 凡 恋 少 作 心 作 年 品 者 領 得 主 意 伜 玉 艶 れ 本 仕 立 単 儚 切 敷 利 模 弾 延 用 展 開 れ 物 語 模 艶 初 性 恋 愛 作 但 者 頭 物 語 思 れ 浮 わ 登 れ 場 人 歴 物 史 考 採 全 証 用 人 物 事 実 出 来 判 初 事 然 断 時 代 背 景 作 者 後 書 艶 本 仕 立 模 全 物 語 世 波 情 艶 仇 乃 初 恋 国 文 豪 何 関 わ 短 編 初 恋 題 材 実 際 異 戸 中 期 大 部 分 取 江 れ 含 武 等 実 家 物 情 社 語 会 艶 本 趣 旨 生 活 殊 思 一 切 探 求 れ 主 人 公 実 徳 態 川 将 軍 家 直 様 属 々 武 研 家 究 好 旗 本 想 像 御 家 人 著 作 作 者 考 男 方 女 皆 濃 密 れ れ 初 成 窮 文 屈 化 世 即 頂 点 男 至 女 武 れ 家 社 会 詳 細 実 体 生 活 成 文 武 化 家 諸 れ 法 度 世 界 れ 平 成 戊 子 明 霜 月 れ 殆 判 性 愛 悦 仲 楽 生 活 実 態 細 殆 英 紅 炎 記 存 知 制 武 約 家 諸 受 法 度 為 ) れ 当 時 含 武 笑 家 社 飛 会 著 筆 主 れ 者 題 趣 意 対 極 言 ( 行 勝 わ 手 様 々 物 語 掟 二 番 仕 目 来 主 題 最 二 解 番 目 放 仲 慈 極 意 合 考 時 初 共 次 心 刊 行 電発著 子行者 版者 発 行 所 編 集 作 成 艶 本 世 波 情 艶 仇 乃 初 恋 − オ フ ィ ス テ リ ン 英ト 紅ー 炎ク 平 成 二 十 年 五 月 人 事 務 所 の パ ー ソ ナ ル オ フ ィ ス テ 利 は 、 作 者 の 英 紅 炎 、 並 び に そ の 個 英 紅 炎 の 作 品 の 著 作 権 に 関 わ る 全 権 著 作 権 の 表 明 丘 北 四 神 田 五 拓 四 〒 二 〇 〇 〇 〇 二 神英 田 紅 拓炎 電 子 版 購 読 予 価 四 百 円 消 費 税 込 ) パ ー ソ ナ ル ま のそリ せ 全のン ん 部正ト 。 ま規ー たにク は表に 一明帰 部さ属 をれし 流たま 用許す し諾。 てな何 右 はく人 表 な作も 明 り品、 す 東 京 都 西 東 京 市 ( 紙 版 本 発 行 希 望 応 需 平 成 二 十 一 年 二 月 二 日
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