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10G-EPON を用いた多チャンネル 8K 放送信号のフィールド伝送実験
Field Transmission Experiment of Multi-Channel 8K-Broadcast Signals
over 10-Gigabit Ethernet Passive Optical Network
大石 将之†
Masayuki Oishi
齊藤 亜木†
Agi Saitoh
堀内 幸夫†
Yukio Horiuchi
河村 侑輝‡
Yuki Kawamura
袴田 佳孝‡
Yoshitaka Hakamada
1. はじめに
8K スーパーハイビジョン放送は,2018 年に衛星を利用
した実用化が計画されているが[1],多チャンネル化や
Video on Demand (VoD) など多様なサービスを提供するに
は,大容量の配信システムが求められる.Ethernet Passive
Optical Network (EPON) [2]は,1 Gbit/s の帯域を複数の加入
者で共用することで Fiber-to-the-Home (FTTH) サービスを
経済的に提供するシステムであり,IP 多チャンネル放送サ
ー ビ ス に も 用 い ら れ て い る . EPON の 後 継 技 術 で , 10
Gbit/s の帯域を有する 10G-EPON[3]は,8K 放送の配信シス
テムとして有望と考えられるが,10G-EPON による 8K 放
送信号の多チャンネル同時伝送はこれまで実証されていな
い.
本稿では,KDDI が開発した 10 Gbit/s 対称型 10G-EPON
[4]を用いた多チャンネル 8K 放送信号のフィールド伝送実
験に成功したので報告する.
N 2
Optical Splitter
N 2
N 2
1
OLT : Optical Line Terminal
ONU : Optical Network Unit
10G-EPON システムは,放送信号配信に特化した以下の
機能を有している.
(1) Multicast 転送機能
OLT は,複数の視聴者 (ONU) に対して IP 放送パケット
†KDDI 株式会社,KDDI Corporation
‡NHK 放送技術研究所, NHK Science and Technology
Research Laboratories
ONU#1
1
N 2
2
ONU#2
1
N
(LLID #N)
ONU#N
(a) 下り方向
1
1
ONU#1
(LLID #1)
1
2
2
2
N
OLT
ONU#2
(LLID #2)
N
(LLID #N)
N
ONU#N
(b) 上り方向
図 1 10G-EPON システム
2.1 システム概要
2.2 放送信号配信に関する機能
1
(LLID #2)
2. 10G-EPON システム
図 1 に 10G-EPON システム概要を示す.局側光終端装置
(OLT: Optical Line Terminal) は,1 つの 10G-EPON ポートで
64 台以上の加入者側端末 (ONU: Optical Network Unit) を収
容可能である.OLT は,Logical-Link Identifier (LLID) と呼
ばれる論理リンクを ONU 毎に個別に割り当て,各 ONU と
LLID 単位で通信する.
下り方向は Time Division Multiplexing (TDM) 方式に基づ
き,OLT が送信した連続光信号が全 ONU へ転送され,
ONU は自身宛てのフレームのみを取り出す(図 1(a)).一
方,上り方向は,各 ONU からの上りバースト光信号の衝
突を回避するため,OLT が各 ONU の送信タイミングを
MPCP (Multi-Point Control Protocol) と呼ばれるプロトコル
で制御し,Time Division Multiple Access (TDMA) 通信を行
う(図 1(b)).そのため,下り方向に比べて上り方向のフ
レーム転送遅延は大きく,最大で数 ms になる.また 10GEPON では,OLT-ONU 間の光ロスバジェットを確保する
ため,Forward Error Correction (FEC) が必須である.当該
FEC のオーバヘッドによって,利用可能な通信帯域は理論
上 8.7 Gbit/s 程度となる.
1
(LLID #1)
OLT
青木 秀一‡
Shuichi Aoki
Optical Splitter
OLT
MLD Listener Report
ONU#1
(VLAN-based QoS)
ONU#2
Traffic
Generator
Downstream
図 2 優先制御実験構成
表 1 下りトラヒック条件
Traffic
VLAN-ID
CoS
Unicast
200
0
4.5 Gbps for ONU#1
4.5 Gbps for ONU#2
Rate
Multicast
100
5
100 Mbps ×10channel
for Client #1 and #2
を一斉転送する Multicast 転送機能を有している.OLT-
ONU 間の Multicast フレーム転送には,他の Unicast 通信と
は別の“Broadcast LLID”が使用される.これにより,多チ
ャンネルの放送信号を転送する際にも多量の LLID を使う
必要がなく,放送信号を効率的に配信できる.
(2) Multicast Listener Discovery (MLD) snooping 機能
OLT は,IPv6 Multicast Server-Client 間の MLD メッセー
ジ(MLD Listener Report/Done 等)を監視して,Multicast
転送動作を制御する MLD snooping 機能を有している.当
該機能を利用することで,不要な Multicast フレーム転送を
OLT で抑止し,10G-EPON 通信帯域を効率的に利用できる.
(3) 優先制御機能
OLT は,様々なフレーム条件(VLAN-ID, CoS, IPv4 ToS,
IPv6 Traffic Class 等)を識別子として,Multicast 放送信号
を優先制御可能である.
表 2 優先制御実験結果
Traffic
Unicast
Multicast
Rx Port
Tx L1 Rate (Mbps)
Rx L1 Rate (Mbps)
Frame Loss Ratio (%)
ONU #1
4,500
3,750
16.7
ONU #2
4,500
3,750
16.7
Client #1
1,000
1,000
0
Client #2
1,000
1,000
0
図 2 に Multicast 優先制御実験構成を示す.OLT 配下に 2
台の ONU#1, #2 を接続し,Traffic Generator から表 1 に示す
条件にて下り Unicast および Multicast トラヒックを同時に
印加した.OLT は,Multicast VLAN(VLAN-ID: 100 およ
び CoS: 5)を優先的に転送する設定とした.表 2 の優先制
御実験結果に示すとおり,Unicast フレームには,ONU #1
および#2 においてそれぞれ均等にロス (16.7%) が発生した
一方で,Multicast フレームにはロスが発生せず,優先制御
機能が良好に動作していることが確認できる.
3. 10G-EPON による 8K 放送信号フィールド伝送
3.1 実験構成
フィールド敷設された光ファイバを介して,10 Gbit/s 対
称型 10G-EPON を用いた多チャンネル 8K 放送信号の伝送
実験を行った.図 3 に実験構成を示す.KDDI 局舎(新宿
区)に OLT,NHK 技研(世田谷区)に 2 台の ONU #1, #2
をそれぞれ設置し,その間を 25 km 長の単一モードファイ
バ (SMF) で接続した.また,ONU #1, #2 の配下に,8K 放
送サーバおよび 8K デコーダ (DEC) をそれぞれ設置し,8K
放送信号を OLT で L2 折返し配信する構成とした.VLAN
動作は,ONU にて Multicast VLAN-ID (100) を付与・削除
し,10G-EPON 伝送区間が Tagged,ONU 配下が Untagged
となるように設定した.OLT は,当該 VLAN-ID: 100 をも
とに 8K 放送信号を折返し転送するので,他の VLAN-ID を
設定した OLT 上位のネットワーク側ポートや 10G-EPON
ポートのトラヒック転送には一切影響を与えない構成とな
っている.
8K 放送サーバでは,11 チャンネル分の MPEG Media
Transport (MMT) [5]方式による 8K 放送信号を生成した.
MMT 方式による 8K 信号の通信帯域が1チャンネルあたり
約 100 Mbit/s であることから,合計約 1.1 Gbit/s の通信帯域
となる.図 3 に示すとおり,OLT で折り返し転送された
8K 放送信号を DEC によりデコード後,8K ディスプレイに
て視聴した.
3.2 実験結果
表 3 に,8K 放送信号伝送時の OLT における IPv6 MLD
snooping group テーブルを示す.8K 放送信号を 24 時間連
続受信後も,11 チャンネル (FF1E::1~B) 分のエントリが
VLAN-ID: 100 で正しくテーブル表示されていることを確
認した.表 4 の実験結果に示すとおり,11 チャンネル分の
8K 放送信号を 24 時間連続受信中,10G-EPON 区間のフレ
ームロスはないことを確認した.
図 4 は,NHK 技研で撮影した 8K 放送信号伝送デモ写真
である.以上の結果から, 10 Gbit/s 対称型 10G-EPON によ
って多チャンネル 8K 放送信号を伝送可能であることを確
認した.
図 3 10G-EPON 多チャンネル 8K 放送信号伝送構成
表 3 IPv6 MLD snooping group テーブル
VLAN
Group Address
Port
MAC Address
Uptime (hh:mm:ss)
100
FF1E::1
10G-EPON #1
33:33:00:00:00:01
24:17:54
100
FF1E::2
10G-EPON #1
33:33:00:00:00:02
24:17:54
100
FF1E::3
10G-EPON #1
33:33:00:00:00:03
24:17:54
100
FF1E::4
10G-EPON #1
33:33:00:00:00:04
24:17:54
100
FF1E::5
10G-EPON #1
33:33:00:00:00:05
24:17:54
100
FF1E::6
10G-EPON #1
33:33:00:00:00:06
24:17:54
100
FF1E::7
10G-EPON #1
33:33:00:00:00:07
24:17:54
100
FF1E::8
10G-EPON #1
33:33:00:00:00:08
24:17:54
100
FF1E::9
10G-EPON #1
33:33:00:00:00:09
24:17:54
100
FF1E::A
10G-EPON #1
33:33:00:00:00:0A
24:17:54
100
FF1E::B
10G-EPON #1
33:33:00:00:00:0B
24:17:54
表 4 8K 多チャンネル放送伝送実験結果
Tx Port
Rx Port
Tx Multicast Frame
Rx Multicast Frame
Multicast Frame Loss
ONU #1
ONU#2
6,516,023,158
6,516,023,158
0
図 4 8K 放送信号伝送デモ写真
4. おわりに
本稿では,フィールド敷設された 25 km 光ファイバを使
用した 10 Gbit/s 対称型 10G-EPON による多チャンネル 8K
放 送 信 号伝 送実 験 を行 い,8K 放 送 配 信に お け る 10GEPON システムの可能性を示した.8K 放送の展開に向け,
大容量データを高品質に転送可能な 10G-EPON システムを
ベースとする FTTH の普及が期待される.
参考文献
[1] 青木秀一,“MMT による 8K スーパーハイビジョン衛星放送
システムの開発,”信学ソ大,AI-3-1 (2015).
[2] IEEE Std. 802.3-2004 (2004).
[3] IEEE Std. 802.3-2012 (2012).
[4] KDDI 株式会社ニュースリリース [Online]. Available:
http://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2015/10/16/1407.ht
ml (2015).
[5] ISO/IEC 23008-1:2014: Information Technology – High efficiency
coding and media delivery in heterogeneous environments – Part 1:
MPEG media transport (2014).