産廃源流 JW 2004・10 連載 産廃源流 神奈川県産業技術総合研究所 資源・生活技術部 専門研究員 若倉 正英 最近の廃棄物・リサイクル工程での 火災爆発事故と問題点 7 月 27 日に当センター会議室において、JW 懇話会を開催しました。第 4 回目となる今回は、若倉正英氏にご講演いただいた内容と質疑応答を紹介 いたします。 2.労働災害度数率の推移 1.はじめに 神奈川県の若倉でございます。私の専門は、 35 化学物質や反応プロセスのエネルギー危険性評 30 価という分野で、主に化学工場の事故原因の解 25 廃棄物処理業 度 析や、新規化学物質の使用、新規の反応で新し 数 20 いものをつくる時の危険性評価などを行ってお 率 15 ります。最近の廃棄物事故に関して、いくつか 10 の事故調査をしておりますので、これらをご紹 5 介して、ご意見などをいただければと考えてお ります。 全産業 0 1955 1959 1963 1967 1971 1975 1979 1983 1987 1991 1995 1999 図1 - 16 - 災害度数率の変遷 JW 2004・10 最初は、労働災害度数率の 産廃源流 250 推移(図1)です。 とくに最近は、いろいろな ところで取り上げられていま 200 件数 死傷者数 150 すが、事故の起きやすさにつ いては、実際に働いている人 がどれくらい怪我をしている 100 50 のかという、労働災害の局面 からみるのが一般的です。国 際的には災害度数率が用いら れており、これは延べ100万労 0 1 992 1993 図2 1994 1995 1996 1997 1998 1999 一般廃棄物施設の事故件数と死傷者数 働時間あたり、4日以上の休業 をした労働者の数ということになります。少し のは1965年頃になります。安全という面では、 あいまいな数値ですが、例えば、日本人が年間 廃棄物処理業は40年ほど遅れているといえます。 2,000時間働いているとすると、500人位の工場 一般廃棄物に関しては、廃棄物処理施設管理 で、1年に何人が怪我をしているかを知ること 者協議会が4年に1回、一般廃棄物処理施設に対 ができます。全産業の度数率を見ますと戦後間 して、事故に関わるアンケート調査を行ってい もない1955年頃の日本は、生産性は上がってい ます。回収率は50%以上と高く、 「事故なし」と たけれども事故の多い国でした。アメリカの倍 して未回答のところを含めると、かなり高い回 以上の事故発生率、度数率であって、労働省や 収率になります。過去8年間のデータ(図2)は、 産業界が一生懸命事故を減らしていました。そ 右肩上がりで、事故件数が増え、死傷者数も増 の努力もあって日本の災害発生度数率は減り、 える傾向にあります。 事故の内容をみると、滑った、転んだ、挟ま 現在では2以下です。これは全産業に対してで、 製造業の場合は1.2とか1.3で、非常に低い数値 れた、などという単純な労災事故がいまだに多 になっています。 いようです。今回お話ししたいのは、こういう 一方、廃棄物処理業では非常に高いというこ 統計にはなかなか現れない火災、爆発について とがすぐ分かると思います。他に災害度数率の で、かなり増えているのではないかと危惧され 高い産業としては建築業、鉱業、林業などがあ ます。廃棄物に関わる事故が、最近、マスコミ りましたが、そういう分野でも近年、労働安全 で紹介されています。どんな事故が多くてどこ 運動が盛んになって、全体的に低い値に近づい に問題があるか、簡単に掘り下げることはでき ています。それに対して、廃棄物処理業は非常 ませんが、こんなところに問題があるというこ に高い水準であり、ある時期まで、急速に減っ とを、事例を含めて紹介したいと思います。 たのですが、13~14から下がらなくなったとい 製造業では、新しい技術に着想して製品とす う問題が生じております。今の廃棄物処理業の るまでにかなり時間がかかるので、時間の猶予 度数率は、全産業の7、8倍程度に推移しており、 があって、しかも安全性を確認してから世の中 他の産業が現在の廃棄物処理業と同水準だった に出て行くのが一般的です。しかし、廃棄物処 - 17 - 産廃源流 JW 2004・10 理、リサイクルの分野では、廃棄物が大量に堆 潟市でも油化プラントが建設されたのですが、 積したり、ダイオキシン問題で、今までのやり 試運転終了の段階で、1996年12月と1997年の4 方では処理ができなくなるなどニーズが差し迫 月に続けて、火災を起こしました。当時のプラ っていて、早急に対応して何か新しい技術を作 スチックの油化設備としては、新潟市と立川市 らなければならない部分があると感じられます。 のプラントは大型で、前処理の部分が少し違い それ自体が悪いというのではありませんが、技 ますが、だいたい同じようなプロセスです(図 術開発で、 “安全”と“環境”が後まわしにされ 3)。まず、原料をある程度加熱して混合します。 ているようであり、廃棄物処理での事故をみる それを熱分解槽に送って380~400℃で溶解し、 と、そういう部分があらわれているようです。 溶融したものはガス状になります。立川市のプ 最近、化学プラント、石油精製などのプロセ ラントの場合は、塩素を除去した後で熱分解し ス事故が増えているといわれており、その原因 てそれを蒸留します。蒸留は熱分解油を沸点の として、施設を管理するベテランの減少とか、 差によって分けるもので、ある意味では化学プ 高度成長期以前に造られた設備機器の老朽化な ラントと同様ですが、そこでいくつかの問題が どがあげられていますが、技術開発の周期が短 生じました。新潟市のプラントでは、熱分解槽 くなっていることも原因の一つです。卵から物 に冷却水が循環しているわけですが、水量の設 にするのにかつて5年、10年だったものが、3年 定に問題があって、熱分解槽が過熱し溶融プラ ぐらいで物にしなければならないという状況に スチックが逆流して漏出したため、火災になっ なっています。同じようなことが、廃棄物処理、 てしまいました。 立川市の油化プロセスの場合は、熱分解炉の リサイクル分野でもいえると思います。 下部に廃プラスチックのスラッジポットという ものがあります。例えばペットボトルにはアル 3.立川市と新潟市の油化プラント ミ蓋が付いていますが、これらは、分別できず 容器包装リサイクル法に対応してプラスチッ に熱分解炉に入ってしまい、それがスラッジポ クの油化が進められ、1996~1997年頃に油化プ ットに溜まります。溜まったアルミなどのスラ ラントがいくつも建てられました。立川市と新 ッジをスラッジポットからバルブ操作で取り出 押出機 熱分解槽 原料混合槽 凝縮器 ポンプ 脱クロル槽 ポンプ 接触分解油受槽 蒸留塔 遠心分離機 加熱炉 中和装置 ポンプ カーボン残渣 接触分解槽 接触分解 ガスホルダ 図3 油化プロセス概略図 - 18 - JW 2004・10 産廃源流 す時に、バルブにアルミが挟まり、バルブから とで、バルブが開放してしまったらどうなるか 溶融プラスチックが落ち始め、最後にどっと落 とか、冷却水が止まってしまったらどうなるか ちて火災になりました。何が問題だったかとい などを考えることです。もう一つはプロセス安 いますと、溶融プラスチック自体は380~400℃ 全ということで、プロセスを区切り、ユニット と高温でどちらのケースでも同じですが、もし ごとに異常が起きた場合に、一体何が起きるか この溶融プラスチックが漏れたらどうなるか、 を考えます。HAZOP(Hazard and Operability Study) という想定がされていませんでした。プラスチ といってプロセスの安全性を評価する手法があ ックの発火温度は測定方法によって違ってきま りますが、このような考え方が十分に採られて す。いろいろな文献の中で、古い文献ですと420 いなかったことが問題です。 ~430℃というものもあり、たとえ漏れたとして またプラスチックが溶融された状態ではどう も大きな危険性はないと考えてしまったようで いう危険性があるのか、が十分把握されていな す。第一の問題は、冷却や漏洩への対策が不充 かったことがあります。はじめに油化ありきと 分で、溶融したプラスチックが噴出したこと、 いうことでした。当時としてはやむを得ないこ 第二の問題として、溶出したプラスチックの発 とでしたが、リサイクルの技術開発時に事故を 火危険性が認識されていなかったことです。 生み出しているのではないか、ということを反 新潟市の施設のプラスチック発火温度を、事 省点として考えなければいけないと思います。 故調査を担当された東北大学の奥脇先生の依頼 最近、テレビなどで話題になっていますが、 で、何点か測定しました。新潟市の場合は、加 建設リサイクル法に絡んで廃材をチップ化して 熱して脱塩素化する加熱フィーダーがあって、 有価なものに利用しようとしたが、利用しきれ その後、脱塩素化されたものを溶融炉へ投入す ずに残り、あちこちに野積みされていて、これ る形になっていました。噴出したプラスチック が火災を起こしています。消防庁も重視してい 試料のうち燃えなかったものの発火温度を測り て、千葉県でも堆積した木材チップが出火しま ますと、179℃と非常に低いことがわかりました。 したが、なかなか火が消せず、90日とか100日と プラスチックの発火温度はポリエチレンで いう長い断続的な火災が起きていました。これ 220℃、ポリプロピレンで200℃くらいと、測定 を完全に除去するには、お金もかかるため、 (独) 結果が固まってきているのですが、これらより 消防研究所などで火災危険性に対するいろいろ も低い値でした。なぜかというと、脱塩素化し な検討を行っています。 て塩素が取れたあと二重結合が生成され、さら に発火温度が低くなってしまったということが 4.大和市での生ごみ処理機の事故 分かりました。ですから、300℃以上で溶出しま すと、簡単に発火してしまいます。立川市の場 神奈川県大和市にあるスーパーマーケットの 合でも当然、通常のプラスチックですから、発 生ごみ処理機が爆発、消防士9名、警察官など2 火温度は230~240℃で、実際の操作温度よりか 名が怪我をする事故がありました。生ごみ処理 なり低い発火温度だということがわかりました。 機が爆発するとは、処理機を造っているメーカ プラントの安全を考える時には2つのポイン ーでも夢にも思わなかったことですし、スーパ トがあります。1つは最悪のシナリオを考えるこ ーマーケット側も全く考えていませんでした。 - 19 - 産廃源流 JW 2004・10 きてしまいました。ヒーターでどれ 生ごみ (a) 発酵槽 ぐらい加熱していたかといいますと、 オーガ 最初の取り扱いマニュアルでは、 90℃ぐらいで運転してくださいとい うことでしたが、容量が大きすぎて 水分が飛ばないということで徐々に、 メーカー側の指示で温度を上げてお (b) ヒータ り、事故の起きる前には130~150℃ 熱風 の熱風を吹きこむようになっていま した。事故が起きた時はオーガと呼 熱風吹込管 ばれる攪拌機が止まっていました。 オーガが止まっていると、攪拌せず 図4 に熱風だけが送り続けられますから、 生ごみ処理工程 槽の中はどんどん乾燥していきます。 ところが実際には、激しい爆発になりまして、 乾燥した状態で高温の空気を送っていたのが事 外壁が激しく破壊されました。事故は、朝6時頃 故直前の状況です。 起きたもので、買い物客などが歩いている時間 事故のあとで、乾燥した生ごみの熱挙動を測 帯でしたらもっと大変な事故になりました。な 定しました。発熱測定には1グラムぐらいの試料 ぜ、生ごみ処理機が爆発したのかを我々は検討 を使って、毎分1℃とか2℃で温度を上げていき しました。生ごみ処理工程(図4)は、まず、 ます。そうすると、だいたい120℃ぐらいで発熱 処理機の中に生ごみを投入し、オーガという攪 が起きることが分かりました。さらに温度を上 拌機で、ごみを上下に移動させながら均等に攪 げていきますと発熱が加速されて170℃ぐらい 拌します。この生ごみ処理機の目的は、生ごみ で燃えました。生ゴミの主成分と思われるセル を発酵によって、たい肥に変えることです。こ ロースの発火温度は270℃ぐらいですから、乾燥 の大和市のスーパーマーケットは、他の支店と した生ごみは、それよりもかなり低い温度で発 比べて店舗の規模が大きく大量の生ごみが出ま 火するということと、重要なのは120℃から発熱 すが、それを一括して処理していました。生ご が始まることが分かったことです。事前にこう み処理施設としては国内最大級のものでした。 い う 測 定 を し て お け ば 、 設 定 熱 風 温 度 130~ 投入する生ゴミには40%ぐらいの水分が含まれ 150℃は非常に危ない温度であるということが ていて、発酵を進めるためには熱を加えます。 予想されていたのです。 床から10㎝ぐらいの所にパイプオルガンのよう 実際、爆発が起きましたが、ごみが燃えただ なパイプが入っています。このパイプを通して けでは火災で終わってしまいます。爆発した所 ヒーターで加熱した熱風を、下から吹き込み攪 でどんなガスが生成していたか、GC/MSという 拌をする仕組みです。乾燥と同時に発酵に必要 装置で測定しました。爆発に寄与する可燃性ガ な熱を与えるということです。ずっと事故もな ス類が大量に発生していました。また、くすぶ く稼働していましたが、ある日、突然爆発が起 り燃焼をしている間は一酸化炭素も発生してい - 20 - JW 2004・10 産廃源流 ました。一酸化炭素も爆発に寄与するガスです 認識されていましたが、生ごみを処理してでき から、可燃性の炭化水素ガスと一酸化炭素が、 る堆肥の性能が良くないことから、吹き込み空 生ごみが燃えた段階で大量に発生して、爆発し 気温度をだんだん上げて、乾燥型の機械に変わ たものと想定されました。 ってしまったのです。また、乾燥を促進させる 生ごみ処理機の事故からいくつかの問題点が ために、おが屑をかなり大量に入れていました。 あることが分かりました(図5)。まず、安全設 メーカー側は、より良い堆肥を作ることだけに 計上の問題で、乾燥した状態では120℃ぐらいか 注意が向いていて安全上の配慮に欠けていたよ ら発熱が始まるにも関わらず、それ以上の高温 うです。それまで事故が無かったのはなぜかと の空気を送り込んでいました。一方、ヒーター いいますと、40%以上の水分を含む生ごみが毎 の過熱検知・停止システムは、過熱時にヒータ 日投入されていましたから、火災が起こらない ーを止めるだけで送風機は停止しないというこ 湿潤な状態で運転されていました。ところが、 とです。ですから内部でどんどん温度が上がっ 攪拌装置が止まってしまって、その後も130~ て、くすぶりが始まった時でも空気が送り込ま 150℃の空気を送りましたので乾燥が進み、内部 れ、条件によっては火災をさらに拡大すること の温度が上がって発火してしまいました。温度 になってしまいます。また、槽の中の温度は測 の検知警報がありませんでしたので、どんどん 定せず、壁の温度しか測っていませんでした。 燃焼が進んで拡大し、可燃性ガスが大量に発生 ですから内部温度が上がったかどうかは、認識 して、部分的に燃焼限界を超えてしまい、何ら できませんでした。今回の事故の時も夜間運転 かの着火源があって爆発してしまったとのこと 時に温度が上がっていきましたが、モニターで です。 教訓としては、装置を造る時の安全上の観点 きていませんでした。危険な温度になった時に 検知警報するシステムが全く無かったからです。 が欠落していたこと、操作マニュアル、とくに 機械が製造された時は発酵型の処理機として 異常時の対応策をメーカーは必ず作っておく、 ユーザーもそれを要求するこ ・安全設計上の問題点 送気用ヒータの温度異常では、ヒータ停止のみで送気は停止せず 壁面温度のみ計測→内部温度非計測で内部火災を検知できない ・改造(乾燥機設置、モード変更)に伴う問題点 発酵型から乾燥重視へ(吹き込み温度高温化) →内部温度が日常的に高温化 ・おが粉の多量投入 蓄熱危険性増加、火災時の可燃性ガスの発生増加の可能性 とが必要です。廃棄物処理施 設を一種の製造施設と考えれ ば、常に使う側も安全に対し て確認をとり、自分達も安全 を把握する必要があると思い ます。 潜 在的な 火 災 危険性増大 火災により可燃性 乾燥促進、内部 温度上昇→発火 ガス発生 5.RDF貯留槽の爆発事故 →爆発 2002 年 に 起 き た 三 重 県 の オーガの停止 130~150℃の高温空気送気 図5 生ごみ処理機 教訓:機器選定時の安全性確認 操作マニュアル、異常時 対応マニュアル等の整備 爆発発生のシナリオ - 21 - RDF貯留槽の爆発事故ですが、 様々な検討がされています。 (独)国立環境研究所や(独)消 産廃源流 JW 2004・10 写真1 RDF 貯槽の爆発 防研究所などでも、それぞれメカニズムについ 格を成すわけです。日本の法律はご存知のよう て実験をやっています。原因については、多分、 に縦割りで、消防法は骨格を成すけれども、液 今秋の学会ではっきりしてくるのではないかと 体と固体だけで、ガスになると消防法は関係し 思います。 ません。加圧ガスや液化石油ガスは、高圧ガス どのような事故だったかといいますと、RDF 保安法の対象となります。 貯槽の中で火災が起き、それを消火しきれない この記事(図6)は、18万本のスプレー缶を うちに爆発し、上にある蓋が数百メートル吹き 処理していた廃棄物処理工場で起きた爆発です。 飛んで、ひしゃげてしまったものです。不幸な ご存知のようにスプレー缶は、LPガスとかジメ ことに、放水作業をしていた消防士の方が吹き チルエーテルなどの可燃性の気体が蓄圧剤とし 飛ばされて亡くなりました。この写真(写真1) て使われていますが、この事故では缶をプレス は貯槽の下のベルトコンベアでRDFを出し入れ した時にかなりの量のプロパンが漏れました。 する部分です。ここで小爆発が起きて、RDFが 漏れたプロパンの蒸気が滞留してしまって、何 噴出したりしています。その時には噴出した高 らかの着火源があって爆発したのです。建屋の 温のRDFに人が埋まってしまって、火傷を負っ てしまったということです。貯槽にRDFを運ぶ コンベアも吹き飛びました。 6.スプレー缶による爆発と法律の未整備 法律の未整備ということも、廃棄物処理の分 野では大きな問題だと思います。例えばRDFに ついても消防法の危険物に該当するのか、該当 しないのかという論議もあります。日本の場合 は火災や爆発の危険性については、消防法が骨 - 22 - 図6 スプレー缶による爆発 JW 2004・10 産廃源流 さきほどのスプレー缶の事故もこのフィリッ 形がないほど、ほとんど吹き飛んでしまってい クスの蒸気雲爆発に近い爆発で、爆発限界濃度 ます。 事故直後に現場に行った人の話を聞くと、ス プレー缶を圧縮する機械の固定に厚さ10㎝ぐら 内にいた人は基本的には致死率が100に近いと いわれています。 いの鉄板を使っていたらしいのですが、その鉄 今回のスプレー缶の事故では蒸気がそんなに 板が吹き飛んでいて、相当な爆発威力が発生し 広がりませんでしたが、もしLPガスが広がって たということが分かっています。大量のプロパ いたら大きな被害を生じていた可能性もありま ンが漏洩したのですが、実はこれは法律の規制 した。 対象にはなりません。例えば、18万本分のスプ レー缶が全部入っているとすると重さは数トン 7.市民生活への影響 になり、その量のプロパンは規制の対象になり ますが、小分けしたものは対象外です。法律で 廃棄物処理の事故では、市民生活への影響が 規制されていないため、安全対策を指導してく よくいわれています。たとえば、広島県の廃棄 れる所もないということになります。プロパン 物処理会社のシュレッダーが何回も小火災を起 ガスのような可燃性のガスや蒸気が大量に漏れ こしましたが、消防法では規制できません。シ て、それに火がついて爆発する現象は、蒸気雲 ュレッダーダストの火災はなかなか消えないと 爆発といって非常に危険です。 いう問題の他に、プラスチックが入っていて不 イギリスのフィリックスボローにあったナイ 完全燃焼します。当然、煙はかなり出ますし、 ロン製造工場で、ノルマルヘキサンという有機 それ以上に、放水によって、消火に使った水が 溶剤が漏れて、気化し敷地内に広がったあと、 河川に流れ込んでしまったり、地下水を汚染し 火が付いて爆発し、27人が亡くなっています。 たりします。堆積廃棄物の火災では、環境面の これが世界で初めての蒸気雲爆発による大規模 問題が、最近多くなってきています。一方、シ な産業災害です(写真2)。 ュレッダーダストの危険性を判定するのが難し くて、消防関係者も苦労しています。 化学物質の危険性判定に関する国際 的な取り決めに危険物輸送に関する国 連勧告というものがあります。この中 には、堆積物の危険性評価の方法が定 められています。それはワイヤーバス ケット法と呼ばれ、10㎝四方のステン レスネットの中に危険性を評価したい 試料を入れて、オーブンの中に吊り下 げて一定温度に保持します。その時、 保持した温度のままで温度が上がり始 めなければ、10℃上げて温度上昇が観 写真2 イギリス化学工場での蒸気雲爆発(1974) - 23 - 察される最低保持温度を決めます。も 産廃源流 JW 2004・10 し、可燃性ガスが発生したり異常な分解が起き いになると、一気に発熱することが分かりまし たりして爆発するとまずいですから、全体をコ た。同時に酸素の圧力を測定してみますと、50℃ ンクリート防爆室に入れて測定します。廃棄物 ぐらいから、酸素が吸収されて過酸化物という の危険性を評価する時に、ここまでやるとお金 分解されやすく、発火しやすい物質が生成し始 がかかります。一回測るのに約10~20万円、温 めているということが予測できました。高度の 度を変えて測定しますから100万円くらいすぐ 機器を使えば、シュレッダーダストの危険性を かかってしまいます。業者の方に危険性を測る ある程度予測できることが分かりました。これ ためにこれだけのことをしなさいといっても無 からの課題は、もっと安く現場で簡単に危険性 理な話です。これは本来、自己反応物質といっ を予測できるような装置を開発していくことだ て、自己分解するような物質の危険性を評価す と思います。 るための方法です。より簡易的な評価装置とし ダイオキシン問題の影響で、燃却できない廃 て私どもで使っているのは、熱分析装置という 棄物があちこちに野積みされています。所沢市 一般的に化学物質の熱危険性の評価、消防法の で堆積されていた廃棄物が、蓄熱発火して燃え 自己反応性物質の判定などにも応用されている てしまったことがあります。火災現場の近くに ものです。わずか数ミリグラム、耳かき一杯分 あった工場が全焼してしまって訴訟になってい ぐらいの試料を加熱して何が起きるのかをみる ます。組成が多様な堆積廃棄物の蓄熱危険性も 装置です。空気で加圧して測定すれば、蓄熱の なかなか評価できません。いろいろ調べてみる 起きやすさなどをある程度予測することが出来 と内部の温度が80℃ぐらいになっていて、何ら ます。シュレッダーダストは金属粉が含まれて かの条件で発火し、火災になったのだろうと推 いますので、雨の降った翌日は、発熱すること 測されています。一旦、堆積廃棄物が燃えます が多いといわれます。シュレッダーダストにア と黒煙が発生します。 ルミ粉末を入れて、さらに水を加えますと60℃ あたりからかなり大きな発熱が生じます。微小 8.危険性の事前評価 量の熱分析装置でもある程度の予測ができるこ とが分かりました。ただし、ごみというのは不 廃棄物は危険物が入っていたり混合による危 均一ですから、数ミリグラムではなかなか分か 険性もあって、蓄熱以外の危険性も事前に評価 りにくいこともあり、グラム単位の測定も行っ することが大事だろうと思います。 ています。それは、自己反応性物質や化学反応 2001年に廃棄する過酸化水素を運んでいたタ の危険性の予測に汎用されている断熱反応装置 ンクローリーが、首都高速を走っている時に爆 というものです。ピンポン玉ぐらいの大きさの 発しました。運転手は大怪我しましたし、近く 試料容器に試料を入れまして、その中で発熱が を走行中の車両の運転手や、高速道路の下を歩 起きると周りの温度と試料の温度とが常に同温 いている人も何人か怪我をしました。激しい爆 度となって、発生した熱が蓄熱していく条件で 発で首都高の外壁が破壊されました。試薬の過 測定できる装置です。それでアルミと水を加え 酸化水素は約35%ですが、室温で放置しても1 たシュレッダーダストの熱測定をしますと、 年間で1%ぐらいしか分解しません。過酸化水素 50℃ぐらいから小さな発熱が起きて100℃ぐら を排出したこの会社は、安全性を高めるために - 24 - JW 2004・10 産廃源流 水で28%まで希釈していました。ところが、タ 飛んで、事務室の床が落ちてしまいました。就 ンクローリーで過酸化水素を運ぶ前に、塩化銅 業時間の午前9時以降に爆発が起きていたら、多 水溶液を運んでいたのです。それを排出して、 くの怪我人が出ただろうと想像できます。建屋 次に過酸化水素を積載したのです。その時タン 全体で15億円の損害にあたるほど大きな爆発で クの中に微量の塩化銅が残っておりまして、こ した。 化学会社では混合危険はよく知られているの れが触媒となって、過酸化水素を徐々に分解し ていったのです。走行中に分解していましたが、 ですが、廃棄物処理施設では、いろいろな化学 28%に希釈していたので急激には分解しません。 薬品を使いますが、混合危険性についてはあま しかし、分解によってタンクの中が加圧、加温 り知られていません。 の状態になっていきました。ある圧力まで上昇 茅ヶ崎のタンクで何が起きたかを実験によっ しますと当然、安全弁が吹きますから、途端に て確かめました。図7はさきほどの熱測定装置で 過酸化水素水が突沸を起こして、その沸騰した 測った結果ですが、横軸が時間を示し、30℃を 水の力でタンクが破壊されてしまったのです。 保持しています。この状態でアルカリ性のキレ 少量の塩化銅が過酸化水素に入ったらどうな ート剤と塩酸を混ぜました。混ぜた瞬間に圧力 るかということを、さきほどの熱測定装置で測 が突然200psiまで上がり多量のガスが発生して、 ってやれば、危険だということが簡単に分かっ 温度も100℃近くまで上がったことが分かりま たのです。排出側もタンクローリーが事前に何 した。そしてこの反応ガスを分析してみますと、 を運んでいたかを確認しなかったという問題も 二硫化炭素CS2 というガスと水素が大量に発生 あるのですが、事前評価を少しでもやっていれ したことが分かりました。まず、大量に水素が ばこんな事故は起きなかったという例でありま 発生して、水素は軽いですからエレベーターな す。 どを伝わって全館に広がってしまいました。ま た、二硫化炭素はガスの中でも発火温度が低く 9.誤混合 90℃で発火します。重たいガスですから滞留し、 100℃ぐらいまで上がったタンクの温度で発火 今お話ししましたように、廃棄物処 理には誤混合による事故がよく起きま 120 崎の一般廃棄物処理施設の地下に塩酸 と、キレート剤といって、重金属を不 活性化する薬剤を入れるタンクがあり 250 100 200 80 150 60 100 40 50 20 0 0 ました。タンクローリーの運転手が朝 0 10 20 30 40 Perssure〔Psig〕 ておけば良かったという例です。茅ヶ Temperature 〔℃〕 す。これも危険性評価をきちんとやっ 76 48 64 44 32 28 Retention Time a)GC-MS H2 Time 〔min〕 早くアルカリ性物質のキレート剤を運 んできて、間違って塩酸のタンクの中 キレート剤と塩酸の混合熱、 ガス発生に関する測定結果 にこれを入れてしまったのです。それ で激しい爆発が起きて3階の壁が吹き Retention Time b)TCD-GC 図7 - 25 - 熱測定結果(誤混合での爆発・茅ヶ崎) 産廃源流 JW 2004・10 して、水素の爆発を引き起こしたと推定されま があると考えております。安全工学協会では安 した。次も、よく知られている事故です。1997 全工学の研究者や廃棄物事業者の方々の参加の 年に廃油や廃溶剤の処理を引き受けて焼却して もとに、また(財)日本産業廃棄物処理振興セン いる川崎市の廃油処理工場で、廃油タンクから ターにもお世話になりながら廃棄物安全研究会 溶剤が噴出しまして、即座に着火して大きな火 という情報交換や問題点の解析の場を作ってお 災になりました。後で調べてみますと、アクリ ります。この研究会でも是非、廃棄物処理の専 ロニトリルやトルエン、有機過酸化物を含む廃 門家の方々のお知恵をお借りしたいと考えてお 液を一緒に引き受けて、貯蔵していたことが分 ります。 本日はご静聴ありがとうございました。 かりました。アクリルニトリルというのは、ア クリル樹脂を作る原料ですから、簡単に重合し ます。有機過酸化物は重合を促進する重合開始 剤でタンクの中で重合反応が起きてしまいまし 質疑応答 た。重合反応は大きな発熱反応で、加速度的に 温度が上昇してトルエンやアクリルニトリルが Q 堆積廃棄物の火災の件ですが、法律でカバ 気化して、急激に噴出して火がついてしまった ーできないということですが、設備的にはど という事故です。廃棄物の火災は蓄熱火災と並 う対処すればよろしいですか。 んで誤混合による事故が多いのです。廃油を取 り扱う所では、事前に簡単な測定さえしていれ A 屋内貯蔵の場合、設備的には温度とガスの ば、混ぜたら危ないということが分かるケース 管理で充分かなと思いますが、今は各消防に も多いのです。同時に簡単な事前評価手法の開 よって対応が違います。RDF貯槽では窒素で 発についても、もっと考えなければならないと シールを指導している所もあります。そこま 思います。 でやる必要があるかは、さらに検討が必要だ と思います。きちんとした温度管理と、生成 10.排出者のモラル するガス濃度の管理をしておけば蓄熱火災に 対しては充分に対応可能だと思います。無論、 最後に排出者のモラルの問題です。極端な例 異常時にどう対応するかがないとだめで、た では、一般不燃ごみとして砲弾が排出されたり だ検知しただけでは意味がありません。その します。4年前に横須賀市で爆弾を廃棄物として 辺は密封系であれば空気を遮断することで対 排出したため、爆発が起きて事業者が怪我をし 応できますし、開放系であれば空冷や石炭の たということがありました。スプレー缶による ように散水で対応している例もあります。 爆発の防止などに関しても、排出者のモラルを 上げていく必要があるのではないかと考えてお Q ります。 ジャスコの生ごみ処理機の火災爆発事故 ですが、事故時にオーガが止まっていたとお 雑駁な話になりましたが、最近の廃棄物処理、 っしゃっていましたが、意図的に止めたもの リサイクルでは様々な事故が起きており、事故 ですか。また、動いていたら違っていました が起きやすいということにはいくつかの問題点 か。 - 26 - JW 2004・10 A 産廃源流 意図的な停止ではありません。どうして止 て消防法が適用され、環境省の方で維持管理 まったかはまだ明らかにはなっていませんが、 基準が出たのですが、いろいろな事故事例の 止まっていたことは事実です。1年近くほぼ同 中で、国が基準をつくることはありますか。 じ条件で異常なく運転していましたので、動 いていれば水分が均一に分散されますので、 A 消防職員が化学工場や廃棄物処理施設に 石炭を貯蔵している時散水するのと同じよう 入って指導する時のチェックリストの作成作 に、水濡れによって蓄熱が抑制されていました。 業が、消防庁の指示によって始められていま す。廃棄物火災で、消防職員が怪我や殉職す Q オーガが止まっていたのが事故の要因で ることがありますから、設備の火災安全上の 問題点を抽出する作業をはじめているようで すね。 す。廃棄物については消防法の現在の規定以 A 外に、規則を作るということはとくにないと そうです。 思います。 Q RDF貯槽の爆発の件ですが、すぐ国が動い - 27 -
© Copyright 2025 ExpyDoc