リーフレット [Leaflet]

電力中央研究所報告
電 力 輸 送
レーザー誘起ブレイクダウン分光によるがいし
付着物質計測技術の開発
-広い汚損区分を対象とした磁器がいしの塩分付着密度の遠隔計測-
キーワード:磁器がいし,遠隔計測,レーザー誘起ブレイクダウン分光,
塩分付着密度,不溶性物質付着密度
背
報告書番号:H15016
景
がいしやブッシングの汚損は絶縁性能や長期信頼性に影響を及ぼす恐れがあるた
め、それらへの付着物質の同定や定量は汚損状況の正確な評価のために重要である。
現在、がいしの汚損状況の評価は、パイロットがいしの汚損採取により行われてい
るため、主にオフサイトかつオフライン計測である。また、時間やコスト面での制
約から、通常の汚損計測において汚損物質の同定まで行なうことは難しい。これを、
レーザー誘起ブレイクダウン分光(LIBS)注 1 ) を用いた手法に置き換えることができ
れば、がいし付着物質の多成分、オンサイト、迅速、かつ遠隔計測が可能になり、
パイロットがいしや将来的には運用中のがいしに対する、汚損状況の正確な評価や、
がいし洗浄のタイミングを迅速に判断すること等が期待される。LIBS によるがいし
の付着塩分計測では、これまで主に Na の D 線が用いられてきたが 注 2 ) 、これに加え
て他の発光線を用いることにより、広い濃度範囲での塩分付着密度(SDD)の計測
が期待される。
目
的
がいし表面の汚損状況を評価するために、広い濃度範囲での SDD の遠隔計測に向
けた LIBS 計測手法を提案する。
主な成果
広く使用されている磁器がいしを模擬したサンプルに塩分を付着させ、LIBS によ
り付着物質の成分を計測した 注 3 ) 。
1. 広い濃度範囲の SDD 計測手法の考案
塩分由来の Na、Cl や大気由来の O の発光線を適切に選択することにより、広
い濃度範囲での SDD の計測手法を考案した。距離 25 cm での計測において、Cl
(837.59 nm)の発光強度が 0.008~0.515 mg/cm2 の SDD に対して単調増加すること
を示した(図 1)。また、Cl と O (844.64 nm)の発光強度比を用いることにより、
レーザーエネルギーが 10 mJ から 25 mJ まで変化しても SDD に対する依存性が
ほぼ一定であることを確認した(図 2)。これにより、計測距離等に起因するレ
ーザー照射条件の変化に対して、安定した検量線が得られる可能性を示した。
2. 遠隔計測への適用
上 記 の 考 案 手 法 に お い て 選 択 し た 、 高 濃 度 で も 発 光 強 度 が 飽 和 し に く い Na
(819.48 nm)の発光線を用いて、計測距離 10 m において SDD を計測し、0.008~
0.248 mg/cm2 において発光強度が単調増加することを示した(図 3、4)。
以上の結果より、考案した手法を用いることにより、一般汚損地域から超重汚損
地域以上までの幅広い塩害汚損区分 注 4 ) に対して、SDD の遠隔計測の可能性が示
された。
注1)レーザー光 を 測定対象物 に 集光するこ と によりプラズマを発生させ、そのプラズマからの発光を分光す
ることによ り 、測定対象 物 に含有され て いる元素の種類および濃度を測定する手法である。
注2)Na の D 線(589.00 nm、589.59 nm)を用いた計測例:藤吉 他、レーザー研究、第 20 巻、第 12 号、pp. 29-36
(1992)
注3)一般的な磁 器 がいしと同 様 の円盤状磁 器 製サンプル(直径 68 mm)に、汚損物として並塩(NaCl の純度
が 95 %以上 )ととの粉 を 付着させ、 Nd: YAG レーザーの第 2 高調波(波長:532nm)を照射した。
注4)例えば、変電所の中で使用するがいしの汚損地域は、一般汚損地域(0.01 mg/cm2 以下)、超重汚損地域(0.12
~0.35 mg/cm 2 )等に分類されている。(電気協同研究、第 69 巻、第 3 号、2013)
7
×104
1.2
レーザーエネルギー
レーザーエネルギー
6
10mJ
発光強度比(相対値)
発光強度(相対値)
5
10mJ
1
15mJ
25mJ
4
3
2
15mJ
25mJ
0.8
0.6
0.4
0.2
1
0
0
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0
0.1
0.2
SDD (mg/cm2)
0.3
0.4
0.5
0.6
SDD (mg/cm2)
図 1. Cl (837.59 nm)の発光強度の SDD
依存性
図 2. O (844.64 nm)に対する Cl (837.59
nm)の発光強度比の SDD 依存性
プロットは、3 つのサンプルの計測結果の平均であり、エラーバーは標準偏差である。サ
ンプルの SDD の変動係数(標準偏差/算術平均)は、0.23~0.37 である。また、1 つのサ
ンプルの計測時間は 5 秒間である。
タイミング
コントローラ
×103
35
光ファイバ
望遠鏡
拡大集光
光学系
30
ICCDカメラ
分光器
レーザー光
発光
パソコン
10 m
回転
発光強度(相対値)
レーザー
25
20
15
10
5
レーザー照射点
回転
磁器がいしサンプル
図 3. 10 m の遠隔計測実験系
(レーザーエネルギー:100 mJ)
0
0
0.05
0.1
0.15
0.2
藤井 隆(電力技術研究所 高エネルギー領域)
問い合わせ先
電力中央研究所 電力技術研究所 研究管理担当スタッフ
Tel. 046-856-2121(代) E-mail : [email protected]
報告書の本冊(PDF 版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/ よりダウンロード可能です。
© 2016
CRIEPI
0.3
図 4. 10 m の遠隔計測における SDD に対す
る Na (819.48 nm)の発光強度
研究担当者
[非売品・無断転載を禁じる]
0.25
SDD (mg/cm2)
平成28年7月発行