接地抵抗の測定結果に及ぼす埋設導体の影響に関する研究

接地抵抗の測定結果に及ぼす埋設導体の影響に関する研究
日大生産工(院) ○ 近藤
弾
日大生産工
1.まえがき
各種の電気設備には、電気設備技術基準の解釈
に示されている保安用の接地を設ける必要があ
る。近年、この接地電極に鉄筋コンクリート造の
住宅基礎や鉄筋・鉄骨造ビルでは建築構造体の地
下部分を代用する構造体接地が採用されている。
このような構造体の接地抵抗を測定する方法に
は、電位降下法が広く用いられている。電位降下
法では被測定電極(以後、E極)から適当な距離
に電流補助極(以後、C極)を打設して大地に電
流を流し、E極の電位上昇を電位補助極(以後、
P極)を基準に測定する。大地中に被測定電極以
外の金属体が無い場合C極とP極の最適な打設
位置は容易に解析することが出来る1)。
しかし、特に都市部での実際の測定では、被測
定電極の近傍に他の接地電極、水道管やガス管等
の埋設金属体並びに鉄筋コンクリート造の埋設
構造体(以後、総称して埋設導体)が存在するの
が常である。この状況下において電位降下法の原
則に従って接地抵抗を測定しても、結果が正しい
と判断することが出来ない。従って、被測定電極
以外の埋設導体が電位降下法の測定結果に及ぼ
す影響を検討する必要がある。
本研究では、E極とC極の間に存在する被測定
電極以外の埋設導体の位置と規模がC極とP極
の最適な位置に与える影響、並びに測定結果を詳
細に検討している。本報告ではその前段階として、
第一に埋設導体を考慮した接地抵抗計算のアル
ゴリズム、第二に、接地抵抗の測定結果に影響を
与えるP極とC極の打設位置を検討したので、そ
の結果の一例を報告する。
2.電位降下法と補助電極の打設位置
電位降下法とは、E極の電位上昇と測定回路に
流れる電流から接地抵抗を算出する間接測定法
である。測定回路には、E極の他に測定電流の帰
路電極となるC極とE極の電位上昇を測定する
ための基準となるP極の二つの補助電極を必要
とする。ここでC極の打設位置は、E極に及ぼす
C極の電位上昇が影響しなくなる地点と言うこ
とになり、理論的な位置は無限遠点となる。また
P極の打設位置は、測定回路に電流を流す前と流
熊谷
悟
鈴木 秀也
蒔田 鐵夫 移川 欣男
した後で電位が変動しない、つまりE極とC極の
電位上昇の影響を受けない無限遠点となる。この
ように補助極には理論的な打設位置が存在する
が、現実の測定現場ではC極の位置はE極から有
限の距離に打設される。従って電位降下法の精度
は補助極の打設位置が適正であったかが重要と
なる。
3. 問題設定と接地抵抗計算のアルゴリズム
電位降下法の補助極の配置には、E-P-C配置
(図1)とP-E-C配置とがある。E-P-C配置
はE-C極間にP極を設ける配置で、P極の理想
打設位置である零電位点が得られるが、E-C極
間とE-P極間の配線が平行配置となるので誘導
障害を受ける。一方、P-E-C配置ではE-C極間
の外にP極を設ける電極配置で、配線の誘導障害
は除去できるが真の零電位点が無限遠点となる
欠点がある。
VE
P
G.L
C
E
VE+VC
図1
VC
電位降下法の概念図
本研究では、図1に示したE-P-C配置を例に、
C極は被測定電極の真の接地抵抗値の 90%の値
を得られる打設位置とし、第一にP極の位置、第
二にE極とC極の間に埋設導体が存在する場合
の埋設導体の電位とP極の打設位置、並びに測定
値に及ぼす影響を検討することとした。埋設導体
とC極の存在を考慮した数値解析には次に示す
アルゴリズムを用いた。
(1)埋設導体を考慮しない時のE-C極の分圧
比
(2)埋設導体の電位の決定(初期値)
(3)
(2)の電位を考慮した分圧比(初期値)
(4)P極の打設位置の決定
以下にその概略を示す。
A Study of Influence of the Conductor Already Laid without any Intention of the Effect on
Measuring the Grounding Resistance
Hazumu KONDO , Satoru KUMAGAI and Hideya SUZUKI and Tetuo MAKITA and Yoshio UTUSHIKAWA
3.1 埋設導体を考慮しない時のE極、C極の
分圧比
図2に示した測定系の電位はオームの法則に
従い(1)式のようになる。また図中のEは被測定
電極、Cは電流補助極、Nは埋設導体である。
①単独
①単独
E
G.L
C
N
②埋設導体は考慮しない
図2 計算範囲の概要
⎛ v E ⎞ ⎛ R11
⎜ ⎟ ⎜
⎜ v E ⎟ ⎜ R21
⎜v ⎟ = ⎜ R
⎜ C ⎟ ⎜ 31
⎜ α ⎟ ⎜ R41
⎜α ⎟ ⎜R
⎝ ⎠ ⎝ 51
R12
R13
R14
R22
R23
R24
R32
R42
R33
R43
R34
R44
R52
R53
R54
v
R15 ⎞⎛ iE 1 ⎞
⎟⎜ ⎟
R25 ⎟⎜ i E 2 ⎟
R35 ⎟⎜ iC ⎟ L L (1)
⎟⎜ ⎟
R45 ⎟⎜ i N 1 ⎟
R55 ⎟⎠⎜⎝ i N 2 ⎟⎠
i
R
ここで、電位係数行列 R ij (抵抗を意味する)
は、電極寸法と地表面からの距離によって一義的
に定まる。電源電圧は、E極とC極の接地抵抗の
比に従って分圧されるが、これらの値は未知であ
る。従って、
① この分圧比の初期値( Ratio )は無限大地に
E極とC極が互いに単独に埋設されているもの
と仮定した時のE極の接地抵抗 RTET ((1)式中の
2行2列部)とC極の接地抵抗 RTCT (同3行目
部)の比となるので(2)式となる。
v
⎛i ⎞ ⎛k k ⎞⎛v ⎞
∴⎜⎜ E1 ⎟⎟ =⎜⎜ 11 12⎟⎟⎜⎜ E ⎟⎟ ∴RTET= E
iE1 +iE2
⎝iE2 ⎠ ⎝k21 k22⎠⎝vE ⎠
∴(iC) =(k33)(vC)
i = R
−1
v
∴RTCT= C
iC
Ratio =
RTCT
L L (2 )
RTET
v = kv
② (2) 式の分圧比を基に、各極に加わる電位は
電源電圧を分圧させてE極とC極の接地抵抗の
計算を行う。この時、電源は交流であるので、E
極は+、C極は−電位の瞬間を想定する。キルヒ
ホッフの電流則によって、E極から流出した電流
=C極への流入電流となるまで、分圧比を逐次調
整しながら電流について反復計算する。収束の後、
この分圧比を用いた抵抗をE-C極の値とする。
3.2 埋設導体の電位を決定(初期値)
埋設導体の電位はE極とC極双方の電流によ
る影響を受けて定まる。しかし、埋設導体自身は
電源を持たないので、この電位は流入する電流と
流出する電流の総和が零となるように定まるこ
とになる。この電位を α 1 , α 2 とし、平均値を α と
すれば、この値は(3)式中の4行目と5行目の部
分より(4)式のように求めることが出来る。ただ
し、初期値を得る場合は、埋設導体の電流の総和
が零となることから4列目と5列目の点線部は
考慮しないこととする。
⎛ vE ⎞ ⎛ R11
⎜ ⎟ ⎜
⎜ vE ⎟ ⎜ R21
⎜v ⎟ = ⎜R
⎜ C ⎟ ⎜ 31
⎜ α1 ⎟ ⎜ R41
⎜α ⎟ ⎜ R
⎝ 2 ⎠ ⎝ 51
R12
R22
R32
R42
R52
R13
R23
R33
R43
R53
R14
R24
R34
R44
R54
R15 ⎞⎛ iE1 ⎞
⎟⎜ ⎟
R25 ⎟⎜ iE 2 ⎟
R35 ⎟⎜ iC ⎟LL(3)
⎟⎜ ⎟
R45 ⎟⎜ iN1 ⎟
R55 ⎟⎠⎜⎝ iN 2 ⎟⎠
α1 = R41iE1 + R42iE 2 + R43iC
α +α
α = 1 2 LL(4)
2
α 2 = R51iE1 + R52iE 2 + R53iC
この初期値αを基に(6)式により埋設導体各要
素の電流について計算し、埋設導体全要素の電流
の合計が零となるまで初期値を逐次調整しなが
ら電流について反復計算する。
⎛ iE1 ⎞ ⎛ k11
⎜ ⎟ ⎜
⎜ iE 2 ⎟ ⎜ k21
⎜ i ⎟ = ⎜k
⎜ C ⎟ ⎜ 31
⎜ iN1 ⎟ ⎜ k41
⎜ ⎟ ⎜
⎝ iN 2 ⎠ ⎝ k51
k12
k22
k13
k23
k14
k24
k32
k33
k34
k42
k52
k 43
k53
k44
k54
k15 ⎞⎛ vE ⎞
⎟⎜ ⎟
k25 ⎟⎜ vE ⎟
k35 ⎟⎜ vC ⎟ LL(5)
⎟⎜ ⎟
k45 ⎟⎜ α ⎟
⎟
k55 ⎠⎜⎝ α ⎟⎠
iN1 = (k41 + k42 )vE + k43vC + (k44 + k45 )α
iN 2 = (k51 + k52 )vE + k53vC + (k54 + k55 )α LL (6 )
iN1 + iN 2 = 0
3.3 埋設導体の電位を考慮した分圧比(初期
値)
以上の手順では図3に示す通り埋設導体の電
位をそれぞれの場合について検討したが、実際に
は埋設導体の電位に伴いE極とC極の電位も同
時に変化する。従って、この電位を考慮に入れた
分圧比を再度計算する必要がある。即ち、
再度分圧比を決定する
E
N
G.L
C
図3 計算範囲の概要
① 埋設導体の電位を考慮したE極とC極の接
地抵抗の計算を行う。埋設導体を考慮するので、
(7)式中の1-2行目について5列目までの部分
⎛ i E 1 ⎞ ⎛ k11
⎜
⎟ ⎜
⎜ i E 2 ⎟ ⎜ k 21
⎜ i ⎟ = ⎜k
⎜ C ⎟ ⎜ 31
⎜ i N 1 ⎟ ⎜ k 41
⎜i ⎟ ⎜k
⎝ N 2 ⎠ ⎝ 51
k13
k 23
k14
k 24
k15 ⎞⎛ v E ⎞
⎟⎜ ⎟
k 25 ⎟⎜ v E ⎟
k 35 ⎟⎜ vC ⎟ L L (7 )
⎟⎜ ⎟
k 45 ⎟⎜ α ⎟
k 55 ⎟⎠⎜⎝ α ⎟⎠
2
k 32 k 33 k 34
k 42 k 43 k 44
k 52 k 53 k 54
vE
v
=
∴ R TCN = C
iE 1 + iE 2
iC
RTCN
Ratio =
L L (8 )
RTEN
② ①の結果を基に、再度、分圧比( Ratio )を
計算する。
③ ①-②の操作を(8)式の分圧比が収束するま
で反復する。収束した分圧比が真の分圧比とな
る。この真の分圧比を用いた計算結果を埋設導体
を考慮したE-C極の接地抵抗とする。
3.4 P極の打設位置の決定
以上の手順を基に、各電極の電流を用いてE極
とC極間の地表面上の電位分布を計算し、E極と
C極を結ぶ直線上で、その電位が零となる点をP
極の位置と確定する。
以上の4段階を数値解析のアルゴリズムとす
る。
4.測定結果に及ぼすC極の影響
4.1 被測定電極の形状と埋設状況
鉄筋コンクリートのべた基礎中の鉄筋をメッ
シュ電極とロの字状で構成した電極で模擬した。
その構成を図4に示す。全ての鉄筋の半径を
0.005m とし、一辺 l が 10m の正方四メッシュに
ロの字状電極をメッシュの下側に四組配置した。
埋設深さh=0.5mとし、その他の条件は図示し
た通りである。C極には電極長さ l =1.5m、14
φの標準接地棒を採用した。
E 極接地抵抗[Ω]
∴ R TEN
k12
k 22
4.2 埋設導体が存在しない場合
以上の条件でE-C間の距離 d を変化させた時
のE極の接地抵抗とその変化率を図5に例示す
る。
100
90
80
1.5
60
40
:E極単独接地抵抗値[Ω]
:E極接地抵抗の測定値[Ω]
:E極接地抵抗の変化率[%] 20
:P極の埋設位置[%]
1
0.5
0
2
図5
4
d /l
6
8
E極接地抵抗変化率[%]
P 極埋設位置[%]
Lep/Lec×100
を、E極からの流出電流とC極への流入電流が等
しくなるまで分圧比を調整し接地抵抗を反復計
算する。
0
10
E極の接地抵抗の変化
図5の横軸は l で正規化してある。図示の通り、
dの増加に伴いE極の接地抵抗は徐々に真値に
近づいていき、 d / l が約 3.5 を超えると真値の
90%以上となることが判る。
図5中のP極の位置は、E極からC極までの距
離を Lec、P極までの距離を Lep とし Lec で正
規化している。またP極の打設位置は、Lec が拡
大するほどE極とC極の中心 50%地点に収束す
る。E-C極間の離隔距離が小さい場合では、や
やC極よりとなっている。これは、E極に比べC
極接地抵抗が非常に大きいためである。また接地
抵抗値と同様 d / l が約 3.5 を超えると 50%地
点に収束している。
5.測定結果に及ぼす埋設導体の影響
前節の結果より、E-C間の距離をE極一辺の 4
倍(=40m)一定として、E-C間にE極と同形状
の埋設導体が存在している場合を想定した。E極
と埋設導体間の離隔距離dは図6の通りで、C極
は標準接地棒である。
E極
E極
d
l
埋設導体
C極
ロの字型メッシュ
C極
d
l
二段4組
G.L
h
h
h
0 .4 m
0.2 m
図4
埋設条件と数値計算条件
図6
埋設条件と数値計算条件
5.1 埋設導体の離隔距離と接地抵抗
以上の条件でE極と埋設導体の離隔距離dに
対するE極接地抵抗の関係を図7に示す。
100
90
1.8
80
1.7
70
E 極接地抵抗[Ω]
1.9
:E極単独接地抵抗値[Ω]
:埋設導体がない場合の測定値[Ω]
:埋設導体がある場合の測定値[Ω]
:E極接地抵抗の変化率[%]
1.6
1.5
5
10
15
20
60
E 極接地抵抗の変化率[%]
2
50
25
d [m]
図7
埋設導体によるE極接地抵抗の変化
図より、E-C間に埋設導体が存在すると、全
体的に接地抵抗が低くく測定される。これはEC間の電位が埋設導体により平均化されE極と
埋設導体間、埋設導体とC極間の電位傾度が増加
し、電流が流出・流入しやすくなったためだと考
えられる。特に埋設導体がE極近傍にある場合で
は、E極接地抵抗は真値の約 83%と大きく低下
している。これは、埋設導体の電位がE極に近づ
き、E極の規模が増大したようになるからと考え
られる。また、埋設導体がC極近傍となる場合で
もわずかではあるがE極の接地抵抗が低下する。
これはC極の規模が増加し、これによる電位の影
響がE極の電位上昇に影響したためと考えられ
る。
5.2 埋設導体の離隔距離とP極の位置
図8に埋設導体の離隔距離dと埋設導体の電
位並びにP極の位置(零電位点)の関係を示す。
100
:埋設導体の電位 [V]
:埋設導体がない場合のP極の位置[%]
:埋設導体がある場合のP極の位置[%]
2
80
60
0
40
-2
-4
20
5
10
15
20
25
P極の位置[%]
Lep/Lec×100
埋設導体の電位上昇[V]
4
0
d [m]
図8
電位上昇し、C極近傍に存在している場合は負側
に電位上昇している
P極の打設位置は埋設導体がE-C極間中心に
存在する場合が最も影響を大きく受け、埋設導体
の位置が少しでも変化すると約±10%も移動す
る。これは埋設導体の電位上昇が地表面の電位分
布に影響を与え、零電位点の位置が変化したため
である。
このように埋設導体が存在するとE極の接地
抵抗値はC極の存在による減少に加え、さらに減
少し、P極の位置も変動する。特に接地抵抗の測
定結果の補正方法について今後検討していく必
要がある。
埋設導体の電位とP極の打設位置
E-C間の印加電圧を 100VとするとE極とC
極の電位は 5Vと 95Vとなり、分圧比は 19 とな
る。同図より、E極の近傍にある場合は、正側に
6.あとがき
電位降下法を用いて接地抵抗を測定する場合
における埋設導体と電流補助極の存在を考慮し
た接地抵抗の計算のアルゴリズムを検討した。こ
のアルゴリズムを検証するため、若干の検討を行
った結果、
(1) E極の測定値に及ぼすC極の影響は離隔距
離をE極の一辺の約 4 倍とすれば 10%以下と
なる。
(2) E-C間の何れの位置に埋設導体が存在して
も、E極の接地抵抗は低く測定される。特に、
E極側に存在する場合が測定結果に及ぼす影
響が最も大きい。
(3) 埋設導体がE-C間 の中間に存在する場合
は、測定結果に及ぼす影響が最も小さいが、
P極の位置が大きく変化し、E極の電位上昇
の測定結果に大きく影響する。
以上のように、市街地において電位降下法を用
いた接地抵抗の測定結果を評価するには、C極ま
での距離が充分であったか、E-C間に被測定電
極以外の金属体の存在の有無と規模を把握する
必要がある。
今後、本報告で提案した接地抵抗計算のアルゴ
リズムの妥当性を、水槽模型実験で検証する予定
である。また、埋設導体の規模や位置と、埋設導
体が存在しても真値の 90%以上を得ることがで
きるC極の離隔距離、並びにP極の位置について、
その詳細を検討する。
参考文献
1) 蒔田 鐵夫 「電流補助極の存在を考慮した
接地抵抗測定」
電気学会論文誌 Vol.119-B , No.3 , pp369∼374 ( 1999 )
2)川瀬 太郎「現場の接地技術と接地システム」
pp 74∼77