a boy a girl ID:94495

a boy a girl
pocket
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︻あらすじ︼
本物が欲しい、彼の願いはそれだけだった。
この小説は、かなり胸糞な小説となっております。
暴力描写などが含まれておりますので、苦手な方はブラウザバック
をおすすめいたします。
first episode │││││││││││││││
目 次 second episode │││││││││││││
1
third episode ││││││││││││││
7
15
first episode
││震える。
信じたものを失って。
││震える。
悲しみが、悔しさが込み上げて。
││震える。
これが本当の孤独なのだと気づいて。
ならば││
諦めよう。本物を望むことを、人生の全てを。
そして、誰もいなくなった。
雪が溶け、暖かさが増してくる。通りにはまだ満開ではないが、桜
の花が八分程度には咲いていた。春の風物詩とも言える光景だろう。
この道の先には総武高等学校という高校がある。千葉県にあるそ
こそこに名の通った私立高校だ。今日も今日とて、たくさんの生徒た
ちが和気藹々と通っていく。
その中で一人、周りとは明らかに違う雰囲気を持った男子生徒がい
た。
少し曲がった背に、平均よりも少し高めの身長。そしてなにより
も、
﹃腐っている﹄、とでも言うべき目。顔立ち自体は悪くないという
のに目が全てを台無しにしていた。
その生徒の周りには、誰もいない。オーラとでも言うべきか、近寄
るなという雰囲気がその生徒から出ているからだろう。最もその雰
囲気がなくても、目のせいで近づく生徒はいなかっただろうが。
1
彼の名前は比企谷八幡、総武高校の一年生だ。先程書いた雰囲気の
せいで登校時だけでなく、教室の中でも一人でいることを余儀なくさ
れている。ただ、本人は嫌がるどころかむしろ望んでいる節さえみら
れる。
そんな彼も、周りの生徒たちと同じように学校に登校していた。校
門をくぐり、下駄箱を抜けて、階段を上がっていく。そして、教室に
入ろうとして動きが止まる。しかし、何事もなかったかのように入っ
ていった。
彼が教室に入ったあとの変化は、誰が見ても一目瞭然だった。それ
まで談笑をしていた男子生徒も、笑いあっていた女子生徒も、全員彼
のことを嗤っていた。
彼はそんな空気をものともせずに自分の席へと向かい、そして座る
なりイヤホンを耳につけてそのまま突っ伏した。
周りの彼を嘲笑う態度は止まることがない。
彼の姿をよく見ると、かすかに震えているのが分かる。ものともせ
ずというのは、態度だけであって本心では怯えているのだ。
そしてチャイムが鳴る。今日もまた、彼の地獄のような学校生活が
始まった。
昼休憩。普通の生徒にとって喜ばしい時間であり、また、彼にとっ
ても嬉しい時間だった。
この時間の間だけは一人になることができる。クラスメイトたち
の視線を一手に引き受けることもなくなる。
授業が終わると同時に、彼は昼飯を手に持って教室を出る。向かう
先は彼の中でベストプレイスとなっている場所。人が一切集まらず、
一人きりでいられる場所だ。
彼は自分のことを﹃ぼっち﹄であると自称している。最もそれを話
すような相手もいないため、自分の心の声で終わってしまうが。
昼飯を食べながら彼は、自身が唯一心を許している妹のことをふと
考えていた。
そ う、彼 に は 妹 が い る。名 前 は 比 企 谷 小 町。歳 は 彼 の 二 つ 下 で あ
2
り、性格や容姿はとてもじゃないが彼に似ているとは言えない。
しかし、それ以上に彼と妹には全く違う点があった。
││それは、親に愛されているかいないかということ。
彼の親は、彼が生まれた時にはちゃんと愛情を持って接していた。
しかし妹が生まれ、もともと親に甘えるような性格をしていなかった
彼に、親は愛情を注がなくなった。
なによりもまず妹のことを優先し、彼のことは二の次。そして、そ
れがだんだんと彼よりも親自身の方を優先するようになった。親か
らは家の中では彼のことをいないものとして扱われている。それ故
に、今ではごはんと家を共にするだけの、会話もない同じ寮の中に住
んでいる他人のような関係になっていた。
そんな中で、妹だけは彼にたいして明るく接していた。親がいると
きは親の手によって近づけないようにされていたが、親が仕事に出か
ければすぐに彼のそばに行き、他愛もない話をしていた。
妹からすれば兄に甘えているというごく普通な行為ではあったが、
彼の中でそれは、救いとなっていた。
今の昼休みの時間と妹といる時間、それが彼にとっての心の安らぎ
となる時間であった。
ごはんを食べ終わり、昼休みの終わりも近づいてくる。また、あの
教室の中に戻らなければならない。そう考えただけで体が震え始め
る。もう慣れてしまってはいるが、あの際限なく不安が掻き立てられ
るような空間には極力いたくなかった。しかし、行かないわけにもな
らない。
彼は重い腰をあげ、蛍光灯の光が届いていない暗い道を進んでいっ
た。
放課後。昼休みと同じく即刻教室を出る。彼は俗に言う帰宅部で
あるため、すぐに帰っても問題ない。正確には、すぐに帰れるように
帰宅部になっているが。
3
階段を下り、下駄箱へ向かう。彼の靴箱には大量の土が入れられて
いた。彼にとってはこれが普通だ。むしろ、朝のようになにもない方
が珍しかった。
彼はそういえば、とここに来るまでにも何もなかったと不思議に
思った。普段ならば男子生徒の誰かに呼び出され、人目につかないと
ころまで連れていかれ、蹴られ、殴られと暴行を加えられていた。
普通の人なら、なにもないことに喜ぶだろう。しかし、彼は警戒し
ていた。なにもないのは、何かを計画しているからではないかと。自
分に対して土を詰める程度のことしか出来ないほどに他のことに時
間を割いているのではないかと。
そこまで考えて、彼は思った。それがわかったところで、自分に止
められる手段は無いと。おとなしく理不尽を受けるしかないのだと。
であれば今は一刻も早く家に帰った方がいいと。
彼はその考えに従って家に帰っていった。彼の靴にはキラリとし
﹂
そんなの当然だよ
﹂
⋮⋮と話がそれちゃった。今
﹂
4
たものがついていた。
帰ると、妹が彼を迎え入れた。今の時間はまだ、親は帰ってきては
いない。家には彼と妹の二人だけだった。
﹁おかえりーお兄ちゃん﹂
﹁おう、帰ったぞ﹂
そんな挨拶だけでも心が軽くなる。学校の中では常に警戒してい
ないといけなかったが、今はその必要はない。そして、なによりも妹
がいる。心が軽くなるのも当然だ。
なんだ
﹁さてお兄ちゃん﹂
﹁ん
﹁それはそうだよ
!
日から三日間、お母さんたちが旅行に出るらしいのです
!
﹁小町、朗報なんて言葉知ってたんだな﹂
﹁ここで朗報がひとつあります﹂
?
﹁小町は行かないのか
?
!
?
あの親が、小町を連れていかないはずかない、そう思って質問した
のだが、
どう、
﹁行くわけがないじゃん。小町、お母さんたちと三人で旅行なんて行
きたくないよ﹂
﹁⋮⋮そうか﹂
暗に一緒にいたいと言われた気がして、少し、嬉しくなる。
﹂
﹁というわけで、三日間お兄ちゃんは小町と二人きりなのです
嬉しい
うりうりー、と彼の頬を指でいじりながら聞いてくる。
棒読みなんてっ⋮⋮﹂
﹁わー嬉しいなー﹂
﹁ひどい
!
彼が棒読みし、妹が大根役者もびっくりの三文芝居をする。彼は
﹂
笑っていた。妹の前では笑うことができる。本心がだせる。
﹂
﹁そうだ、お兄ちゃんって明日終業式だよね
﹂
﹂
?
通りに家を出て、いつも通りに学校に着く。教室に入って、また嘲笑
終業式の日だからといってなにかが変わるわけでもない。いつも
比企谷兄妹は、親のいない時間を幸せに過ごしていた。
﹁⋮⋮よし、ごはんにしよっか﹂
﹁もちろんだ﹂
﹁じゃあ、明日迎えに来てね﹂
﹁そうか、なら大丈夫だな﹂
﹁うん、お金は昨日いっぱい貰ったから﹂
!
﹁そうだな﹂
﹁昼で終わりだよね
﹁ああ、そうだぞ﹂
﹁お金は大丈夫か
﹁じゃあ、一緒にお昼ごはんたべようよ
?
即刻肯定。さすがである。
?
5
?
!
われて。
そして、終業式が終わった。
教師の長ったらしいホームルームも終わる。
今日もまた何もなかった。
いよいよ不信感すら覚えてくる。一昨日までは蹴る殴るは当然、場
合によってはそれ以上のことさえもやらされることもあったのに、昨
日今日となにもない。
しかし、一旦その不信感は棚上げしておく。
今日なによりも優先すべきは愛すべき妹ととの約束だ。
そう思って校門を抜け、帰る途中にある細い路地に差し掛かったと
ころで、
││彼の意識は途絶えた。
6
second episode 目が覚める。辺りは既に赤みが射しており、太陽がいよいよ沈もう
としていた。起き上がろうとしても、力が入らない。頭も凄まじい痛
みを発していた。
なにがあったのか、彼は思い出そうとする。
少し時間かければ思い出すことはできた。でも、なにが起きたのか
がわからない。
妹の通う学校へと行こうとして、近道になる細い路地に入った、そ
れだけのはず。そして今、もう夕方になっていた。
自分でも気づかないほどに精神がやられていたのだろうかと一旦
結論づけ、妹に連絡をとる。
Prrrrrrrrrr Prrrrrrrrrr Prrrr
rrrrrr Prrrrrrrrrr ⋮⋮⋮⋮
無機質な機械音のみが聞こえる。﹁仕方ない﹂と一言だけ漏らして、
メールをすることにした。
FROM 比企谷八幡
TITLE すまん。
昼飯、一緒に食べれなくてごめんな。どうやら思った以上に疲れて
倒れてたみたいだ。こんど埋め合わせはする。
送信し、自分の家へと向かう。段々と暗くなってきている道に足を
踏み出した。
家の前についたところで彼は違和感を覚えた。
明かりが、ついていない。
もう明かりをつけないと暗いと感じる程度には太陽も沈んでいる。
だから、明かりがついていないのは不自然だった。
疲れて眠ってしまったのだろうかと思いながら家に入ろうとする。
7
しかし、鍵がない。
そのことに彼は驚いた。
いいや、
今日、彼は妹よりも遅く家を出ている。それ故に鍵を持っていない
のはあり得なかった。だとすれば帰ってくる間に落とした
そ れ も あ り 得 な い。鍵 は 落 と し た 時 に そ こ そ こ に 派 手 な 音 が す る。
普段から周りを警戒している彼がそれに気づかないはずもない。
だ と す れ ば な ん だ と 言 う の か。ま さ か 盗 ま れ た と で も 言 う の か。
それこそ最もあり得ない。なぜなら、鞄の中に財布があったからだ。
財布をとらずに鍵だけをとる理由がわからない。
混乱しつつ、彼は家に鍵を忘れていた時に必ず郵便受けに鍵がいれ
ると妹が言っていたことを思いだし、郵便受けを見た。
簡易なキーホルダーの付いた金属の塊があった。見違うことのな
い鍵だった。
彼はますます混乱する。しかし、鍵が郵便受けに入っていたのは事
実だ。きっと妹が彼の鍵を入れていたのだろう。
とりあえず家に入る。人の気配がない。
妹を探してリビングに入ると、机の上にひとつ紙切れがおいてあっ
た。
総武高校校門に来い
文字も言葉遣いも、明らかに妹のものではない。
一瞬にして彼は家を飛び出し、鍵をかけることも忘れて一目散に学
校を目指した。
自身の限界すらも越えて、自転車をこぐ。今彼の頭の中にあるの
は、妹の安否、ただそれだけだった。
総武高校の校門に着いた。そこには、一人の男子生徒がいた。その
顔は、狂気に彩られている。
﹁来たかぁ、比企谷ぁ﹂
妙に粘着性のある声で、彼に語りかける男子生徒。彼もまた、比企
谷八幡に暴行を加える生徒の一人であった。しかしそれ以外にもう
ひとつ、比企谷八幡と男子生徒には関係がある。
それは、同じ中学校であったということだ。
8
?
もともと彼は、同じ中学校の人たちと離れるためにこの総武高校へ
と進学した。しかし、この男子生徒も総武高校を目指しており、両方
ともに合格した。
﹁小町は無事なんだろうな﹂
誰が聞いても、その容姿と相まって、怯えるような低い声を出しな
がら彼は尋ねた。
﹁まだ、なぁ﹂
その返答は、彼を一瞬安心させるものではあったものの、まだ危機
は去っていないと認識させるにも十分なものだった。
﹁今小町はどこにいる﹂
﹁お ぉ っ と、そ れ を 言 う 前 に ま ず こ っ ち に 来 て も ら お う か ぁ、比 企
谷ぁ﹂
聞いているだけで吐き気のしてくるような声としゃべり方に耐え
﹂
つつ、彼は男子生徒についていった。
い返す。
﹂
確かにその記憶はあった。ただし、本気のものではなかったが。
彼が中学生だったころも、彼は周りからいじめを受けていた。その
中のひとつに、女子生徒から、罰ゲームとして彼に告白する、という
のがあった。
七海奈々もそれをやった一人だった。
彼女はいわゆる美少女であり、彼女のことを好きになる人もそれこ
9
﹁まだ、奈々とは続いているのかぁ
﹁⋮⋮なんのことだ﹂
比企谷ぁ
その態度に男子生徒は心底腹をたてたようで、
﹁ふ、ふざけるなぁ
﹁中学校の時にお前が告白されたあの七海奈々だよ
﹂
彼の返答はとぼけているのではない。本当に心当たりがなかった。
そこで、そんな質問をされた。
ついていった先は、いつも殴られ蹴られとされている場所だった。
?
と、彼の胸ぐらをつかんで激しく言い寄った。
!
そう言われて、彼にとっては思い出したくもない中学校の記憶を思
!
!
そダース単位でいた。
今彼に言い寄っている男子生徒もその一人だった。中学生の頃か
らずっと好きで、総武高校を目指した理由も、彼女が目指していたか
らだった。生憎、彼女は総武高校に受からず、普通の公立高校に行っ
た。彼もそれを追いかけようとしたが、すでに総武高校に対して必要
なお金を振り込んだ後であり、公立高校に行くことは不可能だった。
﹁それがどうした﹂
しかしそんな事情も、彼にとって見ればどうでもいいことだ。なぜ
彼のなかで比企谷八幡と七海奈々が付き合っていることになってい
るのかは分からないか、興味もない人の恋愛事情などまったく気にな
らない。そんなことよりも、妹が無事なことを早く、自分の目で確か
めたかった。
﹂
お前みたいなやつが
奈々と付き合ってるんだ
その態度に、さらに腹を立たせた男子生徒はもはや絶叫する勢いで
捲し立てる。
﹁なんで、お前が
お前みたいなクズがぁ
!
姿は、実に滑稽で、醜いものだった。
﹁そんなことよりも、小町はどこにいる
笑顔を浮かべ、
﹁そうだねぇ、妹さんねぇ﹂
と楽しげな声で言った。
﹂
その言葉に焦燥感が高ぶる。
﹁どこにいる
﹂
ニタニタと笑いながら、男子生徒が指を指す。
﹁あそこにいるの、妹さんなんじゃないのかなぁ
﹂
その言葉に、男子生徒はにやぁ、とこれもまた吐き気のするような
いよいよ彼も耐えがたくなり、思わず叫ぶ。
!
いた。
妹だと確信し、走り出す。その間も、男子生徒はニタニタと吐き気
10
!
はちゃめちゃな論理を振りかざし、彼に激しく言い寄る男子生徒の
!
!
指を指したところをみると、一人の少女が校舎にすがって、座って
?
!
分かるか
お兄ちゃんだぞ
のする笑顔を浮かべていた。
﹁小町
!
﹂
お兄ちゃんだ
﹁お兄⋮⋮ちゃん
﹁あぁ、そうだ
﹂
﹂
なんか体が痛かったりするか
思わず抱き締める。
﹁大丈夫か
!
?
お兄ちゃん。別になんともないよ﹂
?
!
ならよかった⋮⋮﹂
﹁どうしたの
﹁そうか
?
?
また俺は指を加えて見てろってか
﹂
また、お前
!?
﹂
最初は彼も抵抗していたものの、徐々に力が弱くなっていく。
それ故に人の命を奪うという禁忌を犯そうとしていた。
つかみかかったのは喉。男子生徒ももはや考えなしに動いている。
それを避けられるはずもなかった。
ふたたび彼につかみかかる男子生徒。放心状態になっていた彼に、
﹁お前のせいでぇぇぇ
す理由があるということになっていた。
八幡は自分の好きな人を奪い取った悪人であり、自分は彼を叩きのめ
だが、そんなことは男子生徒には関係がない。彼の中では、比企谷
のでもなかった。
ゆるヘタレだったのが悪く男子生徒の物言いは責任転嫁以外の何も
彼が男子生徒にそうさせたのではない。あくまでも男子生徒がいわ
先程以上に無茶苦茶な理論を振り回しながら、絶叫する男子生徒。
のことを見なきゃ行けねぇのかぁ
﹁また俺は傍観者か
もはや怨念のような、呪いのような声が男子生徒から放たれる。
﹁⋮⋮二人で仲良しこよししてんじゃねぇ﹂
た。
妹の安否が確認できたことで無意識の内に頭の中から消し去ってい
だが、この場には彼と妹だけがいるのではない。彼は、そのことを
ける。
ケガもなにもない妹を見て、彼は安堵した。そして、ふっと力が抜
!
﹂
その言葉にうっすらと少女の目が開かれる。
!
!?
!?
!!!
11
!
﹁や⋮や、やめろおおおおおお
﹁ガハッ﹂
バキッ
﹂
﹂
そんな音と共に妹は吹き飛び、校舎に頭を強く打ちつけた。
﹂
妹は動かない。
﹁こま⋮⋮ち
妹は、動かない。
﹂
邪魔をするから、邪魔をする
あと少しのところでェ
﹁ハハハハハハハハハハハハハハハッ
のが悪いんだよォ
!
﹁よくも、やってくれたな。うちの妹を﹂
低い声が男子生徒に届く。
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
お前みたいなやつが、奈々と付き合っている
段々と後ろに下がっていき、ついに壁際まで追い込まれた。
なにも言わずに、ゆらり、ゆらりと男子生徒に近づく。男子生徒は
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
男子生徒は、先程までの威勢を失い恐怖に囚われていた。
﹁ひっ
?
ていき、
そして、妹に殴りかかる。その拳はみるみる間に妹の顔へと近づい
﹁この⋮クソガキがぁ
男子生徒もまた、妹を必死の形相で睨んでいた。
は、必死に息を吸いながら男子生徒を睨む。
突然後ろから加わった強い衝撃に耐えられず、彼を手から放す。彼
男子生徒の背中に妹が強く体当たりをする。
!!
お前のせいで、お前のせいでぇ
!
!
このクズやろうが
!
﹁お、お前が悪いんだぞ
のがぁ
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ゴフッ
!
12
!
彼は、うつむいたまま返事をしない。
!
!
?
比企谷ぁ。妹が死んで、生きる気力でもなくしたかぁ ﹁黙
﹁なんだ
?
﹂
れ﹂ん
?
!
!
一発。
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁グガッ
二発。
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ギエッ
三発。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
四発。
五発。
六発。
七発。
八発。
九発。
十発。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
男子生徒が気絶したあとも、ただ力任せに、顔を、腹を、腕を、背
中を殴っていた。
そして、なにも言わずにゆらりと立ち上がった。
不思議と、冷静になれていた。
救急車を呼び、すぐに病院へと運んでもらう。
付き添うことは、しなかった。
﹁帰ろうか﹂
先程まで妹がいた場所にそういい残し、彼は総武高校をあとにし
た。
13
!
!
次の日の朝。病院に行ってはみたものの、今夜がヤマと言われてし
まった。なぜか、悲しみは湧いてこず、強い空虚感だけが残っていた。
学校も休み、ずっと部屋にいるうちに、夜が来る。なにも食べずに、
一日を部屋の中で過ごしていた。病院に行く気には、なぜかならな
かった。
ふと、窓に目をやった。
気がつけば、彼は窓を開け、さんの所に足をかけ、窓から飛び出そ
うとしていた。
彼は少しの間考える。
だが、いきる意味は見つけられなかった。
体は震えている。死ぬことに対しても、今になって湧き上がってき
た悲しみや悔しさにも、耐えられなくなった、本当の意味での孤独に
も。
いろんなことが頭に浮かんでは消えていく。でも、どれも生きる意
味を見つけさせてくれるものはなかった。
だから諦めよう、人生を、今更思い出した、叶うことのない望みを。
部屋の中でカーテンが寂しくはためく。
そして、誰もいなくなった。
14
third episode 暗い部屋の中に、少女はいた。いつも一人で、誰にも会うことなく、
正しい時間さえも分からずに、ずっと過ごしていた。
部屋の中には、たくさんの人形があった。そのうちいくつかは、中
の綿がとびたして、無惨な姿になっていた。
少女には姉がいた。少女は、姉のことを心から慕っていた。だが、
姉はこの部屋に自身を閉じ込めた。
それでも少女は姉のことを信じ続けた。
部屋の中に入ってくるのはメイドだけ。それも、一瞬で現れて、一
瞬で消えていってしまうから人と話す機会なんてなかった。 信じても報われず、ずっと一人でいる少女は、いつしか狂気に囚わ
れるようになった。少女には、その可愛らしい姿には似合わない、凶
悪な力を持っていた。
この世に存在する全てを破壊する力、それが少女の持っている力
だった。
この力ゆえに少女は姉に閉じ込められていた。
少女は、一人呟く。
﹁寂しいな⋮⋮﹂
呟きは、部屋の中には反響すれども、人の耳に届くことは決してな
かった。
少年が目を開ける。彼の前には異様な光景が広がっていた。
見るも無惨な姿に変えられた人形。天蓋付きのベッド。そして、そ
こで眠る、ビスクドールのように愛らしい少女。
彼はこんな場所に来たこともなければ、記憶にもないし、少女のこ
とを知っているわけでもない。そもそも彼は命を絶っていたはずだ。
15
彼は天国や地獄なんてものを信じてはいない。それ故に、自分がま
だ生きている、ということを自覚した。そして、その事実に、涙が出
てきた。
自分には、死ぬことすらも許されていないのかと。
とはいえ涙をながし続けているわけにもいかず、少女に自分のこと
をみられて、叫ばれるのも嫌なので、この部屋から一刻も早く出るこ
とにした。しかし、それは叶わない。
ドアを開けようにも、鍵がかかっているようで、開けることはでき
なかった。なぜか内側から鍵を開けることができない、など突っ込み
どころはあったが開けられないことは事実だ。彼は、﹁どうなってん
だよ⋮⋮﹂と独りごちながら、結局もといた場所に戻ってきた。
少女は未だ、穏やかに寝息をたてながら眠っている。
彼は、少女が起きるまで待つことにした。いや、それしか
とる手段がなかった。
16
少し時間が経って、少女が目を覚ました。辺りを見回す。そして、
少年の姿を視界に写した。
始めは目を見開いて驚いたものの、すぐに柔らかい目付きに変わっ
た。
﹁いらっしゃい﹂
その言葉を聞いて少年はずっこけそうになった。
普通であれば叫んだりして戸惑うようなものを、この少女は、﹁い
らっしゃい﹂ですませたのだ。肝っ玉が据わっているとでも言うべき
か、はたまたぬけていると言うべきか
﹂
。どちらにせよ、少女が普通とは違っているということを少年は理
解した。
﹁見たことがない人だけど⋮どこから来たの
少年は少女のことを警戒していた。しかし、少女は、少年のことを
少年がすこし怯えたように、口を開く。
﹁⋮⋮⋮千葉から﹂
金色の髪が揺れる。実に絵になる光景だった。
可愛らしく首をかしげながらたずねる少女。その動きに合わせて
?
警戒しているようには見えない。普通なら、逆だからこそ、その光景
﹂
はひどく滑稽に思えた。
﹁チバ⋮
少しおかしなイントネーションで発音する。どうやら、少女は千葉
を知らないらしい。そのことに少年は少し違和感を覚えたものの、容
姿を見て納得した。金色の髪に、真っ赤な目。そして、背中から生え
﹂
た七色の宝石のついた羽。
﹁⋮⋮ん
少年はなにかがおかしいと気付く。
金色の髪、真っ赤な目。まぁ、ここまでは普通だ。しかし、宝石の
ついた羽⋮⋮
いた。
そんなお伽噺に出てくるような存在が実在するのだ
そして、その怯えかたには、どこかデジャヴのようなものを感じて
してしまうような、そんな心の傷があるのではないかと。
ないかと。自分がおどけたような声で出した言葉にでさえ、強く反応
そこで少女は感づく。少年にはなにか大きな心の傷があるのでは
く表情までもがさらに暗くなった。それには少女もうろたえる。
それ故に口に出たのは心からの謝罪の言葉。しかも、謝るだけでな
﹁⋮⋮すまない﹂
なかった。
本来ならば軽口で済むような言葉。しかし、少年にはそうとはとれ
﹁私の存在、全否定しないでよ﹂
そっと漏れてでた呟きに、少女がからかうように言う。
﹁吸血鬼なんているのか﹂
ろうか。
⋮⋮吸血鬼
その言葉にますます困惑を深める少年。
羽になっちゃったの﹂
﹁これはね、私、なんだか特別らしくてほかの吸血鬼とはまったく違う
少女。
少年のいぶかしむような様子に気づき、どこか納得したように頷く
?
?
17
?
?
大分昔に、メイドがこの部屋に入って、一言だけ口にした言葉が
あった。その言葉はもうすでに覚えてはいないが、ひどく傷ついた覚
えだけはある。その頃は丁度、姉のことすらも信じられなくなり、だ
が同時に、誰かのことを信じてみたいとも思っていた頃だった。
﹂
相手の言葉で傷つくというのは、信じている相手の言葉か、赤の他
人の言葉かでしかない。
﹁あなたも、私と同じなの
その言葉に少年が顔をあげる。
少女は、初めて見るはずの少年の顔に、どこか既視感すら覚えてい
た。いや、顔というよりは目に。
大きな違いはいくつもあるにせよ、含んでいる感情が同じように思
えた。
誰も信じられない。誰かを信じたい。そんな、相反する感情、願い。
それは少年も同じだったようで││
﹁お前も、なのか⋮⋮﹂
少し驚きながら言葉を吐き出す。
互いに赤の他人であるはずなのに、そうとは思えなかった。
無言のままで、時間が過ぎていく。
一秒が一分、一時間のように長く感じていた。
永遠に続くかと思われた時間は、唐突に終わりを告げた。
﹁ねぇ﹂
少女は言う。
少年はただ黙って、少女の言おうとしていることを聞こうと、待っ
ていた。
﹁私はあなたが誰なのかは知らないし、あなたは私が誰なのかは知ら
ないと思う﹂
少女は、何も考えず、思ったことをそのままに口に出す。
少年は、やはり、黙って聞いている。
﹁だけど、﹂
そこで、一度言葉を切る。
そして、ふたたび息を吸って、言葉を続けた。
18
?
﹁私はあなたを理解できるし、あなたは私を理解できると思う﹂
根拠は、ない。ただ、自分と少年が似ていると思っただけ。
運命、なんていうものではない。そんなロマンチックなものでもな
ければ、夢に見るようなものでもない。
﹂
言うなれば、勘。そんな気がする、というなぜだかほぼ確信の持て
る、勘。
﹁私は、あなたを見て、そう思った﹂
﹂
﹂
少年は、やはりなにも口に出さない。
﹁あなたはどう
少女は尋ねる。
﹁あなたは私を見て、どう感じた
少年は、応えない。
﹁もし、私と同じ気持ちなら、名前を教えて
ふたたび、沈黙の時間が訪れる。
少女からは少年の顔を窺うことはできない。ただ、待つのみ。
長い、長い時間がたった。
﹁⋮⋮比企谷、八幡﹂
少年はかすかに、しかししっかりとした意思を込めて、自身の名前
を口に出した。
﹁私は、フランドール・スカーレット。よろしくね、八幡﹂
少女は、無垢な笑顔で笑った。
19
?
?
?