誘導図形の点滅呈示時間変化による幾何学的錯視の「見えの特徴」と

日心第70回大会(2006)
誘導図形の点滅呈示時間変化による幾何学的錯視の「見えの特徴」と「成立要因」との関係
○甲村 和三 ・ 後藤 倬男 ・ 大屋 和夫 ・ 寺本 一美 ・ 久世 淳子 ・ 高橋 晋也
(名古屋工業大学 ・名古屋芸術大学 ・名古屋大学 ・ 同朋大学 ・ 日本福祉大学 ・ 名古屋大学)
key words: 幾何学的錯視,誘導図形の点滅呈示時間,錯視の見えの特徴
問題: われわれは,これまで幾何学的錯視の成立機構を
錯視量(magnitude estimation)と変化,逆錯視の有無,運動
明らかにする目的で多様な錯視自体の「呈示条件を変化さ
印象,IF と TF の奥行き関係,明るさ印象などである.実
せる(錯視を揺さぶる)試み」を続け 1),錯視が「角度・
験は同一条件につき1回以上の練習試行の後,本試行1回
方向,同化・対比,空間・位置」の3要因によって構成さ
とする.被験者は5名である.
れ,“多様な錯視も基本的にこれら3要因の組み合わせに
結果と考察: 得られた結果は5名の被験者の観察所見の
よって総合的に表示されること”を提起した 2,3,6).その後,
質的分析を中心に表1に示す.IF の点滅時の推定錯視量は
調光式刺激投影器(三双製)を用いて刺激図形の輝度を変
先述したようにどの錯視図形でも IF500ms ほどで IF 静止時
化させ,各錯視の「出現過程」の様相を調べた,さらに各
錯視量に近く,また IF の点滅呈示時間が長くなるほど僅か
錯視における検査・誘導図形(TF・IF)の交互作用に注目
ながらも錯視量は増える.個々の錯視図形で見ると,ML
し,TF と IF の輝度変化においても「交差線を主要な成分
の IF 点滅に伴う錯視の見えは,とくに外向図形において著
とする錯視への影響があること」を認めた 6).こうして図
しいことが特徴的である.Eb では IFoff 時にも正錯視を報
形輝度変化では角度方向的錯視→空間位置的錯視→同化対
告する例があり,点滅に伴う反転効果を思わせる.Db, OK,
比的錯視の順に影響を受けやすいという結果を得た.また,
Pg は IF の点滅呈示による効果が出現しやすく,IFon 時の
錯視の出現には図形の微細な部分構造の知覚を必要とする
錯視出現は明瞭なものがある.しかし,もともと錯視量が
ことから TF に対する IF の点滅呈示という時間条件を加え
少なく,錯視量への点滅効果は明らかではなかった.また,
て錯視の見えを検討した 4,5).対象図形は同化対比的錯視と
Pg では,多くの被験者が IFon 時に IF と接する TF 先端部
思われるミュラー・リヤー(ML),デルブーフ(Db),エ
分が跳ねる印象を報告したが,むしろ IF が上下方向にスラ
ビングハウス(Eb),空間位置的錯視としてオッペル・ク
イドするという報告もあった.その他,観察結果からは,
ント(OK),角度方向・空間位置的錯視としてポゲンドルフ
同化対比的錯視に分類された ML,Eb および角度方向・空
(Pg),角度方向的錯視としてツェルナー(Zn)の6図形で
間位置的錯視に分類された Pg において,IF の点滅時間の
あった.先回の結果によれば,どの錯視図形も 500ms の IF
影響が認められ,ML, Db, Eb などでは,伸縮や膨張収縮の
呈示時間でほぼ確かな錯視が認められる,また,ML,Eb,Pg
運動印象が報告された.これらが被験者間の共通印象かを
については IF 呈示時間が 2000ms にかけて長くなるほど錯
さらに追究する必要があろう.
視量が増加する傾向が顕著であった.このように先回の報
われわれは,IF の運動印象,TF と IF の奥行き関係と錯
告では推定錯視量を主な指標に検討したが,錯視の見えの
視の見えとの関連などについて検討を進めているが,今後
質的分析については十分な検討ができなかったことから,
は,観察事項を絞って共通する錯視の見えを詳しく調べる
今回は観察所見の個人差や,表現の違いが見られる観察報
ことによって,錯視の成立要件を明らかにしていきたい.
告を改めて吟味し,あいまいな観察表現を確認しながら,
文献:
1)Goto T. et al. 1990, Psychologia, 33, 171-178.
錯視の見えの特徴と成立要因の関係を検討してみた.
2)Goto,T.1992,International Journal of Psychology, 27,31-32.
方法: 用いた装置はこれまでの報告と同じく調光式2光
3)後藤倬男 1997 西川泰夫(編)現代のエスプリ,362,99-112.
路刺激呈示装置である.観察図形は前述の6図形.図形の
4)甲村和三他 2004 日本心理学会第 68 回大会発表論文集,511.
大きさは例えば Zn の垂線成分 46mm,観察距離約 58cm か
5)甲村和三他 2005 日本心理学会第 69 回大会発表論文集, 524.
ら Zn の視角は約 4.54°である.TF および IF の輝度は
6)後藤倬男・田中平八(編著)『錯視の科学ハンドブック』2005
0.41cd/㎡(先の実験で得られた全体閾の平均値)一定.IF
東大出版会.
の呈示時間は 250,500,1000,2000ms の4条件,休止時間は
(
KOHMURA
Kazumi, GOTO Takuo, OHYA Kazuo,
1000ms 一定であり,IF を6回反復呈示する.その後,被
TERAMOTO
Kazumi,
KUZE Junko, TAKAHASHI Shin'ya )
験者が観察事項について回答する.観察事項は錯視の有無,
表1
錯視別観察報告のまとめ
錯視 図 形
IFの点滅時* 静止時平
錯視変動 逆錯視 IF運動感 奥行関係 明るさ
錯視量
均錯視量
ML
1.1,1.2,1.2,1.2
1.2
○
×
◎
○
×
Eb
1.0,1.1,1.1,1.1
1.1
×
×
×
○
×
Db
1.1,1.1,1.1,1.1
1.1
○
△
△
○
×
OK
1.1,1.1,1.1,1.2
1.2
×
×
○
×
×
Pg
0, 0.2,0.3,0.4
0.4
△
×
○
×
×
Zn
1.0,1.1,1.1,1.1
1.1
×
×
* IF点滅時間は250,500,1000,2000ms
総 括
同化+奥行的(Gregory的:近→小,遠→大.外向図形の伸縮運動が
一貫して見られる.
もともとの錯視量が少ない.対比+奥行的(反Gregory的:近→大,遠
→小.Dbとは対照的にofff時にも錯視(正錯視)が残る.点滅に伴うユ
ニークな効果と思われる.
もともとの錯視量が少ない(IF増に伴い微増). 同化+奥行的(反
Gregory的:近→大,遠→小.IFの運動はMLの場合より錯視量との関
係が深い印象あり.IFのofff時に逆錯視を報告する者あり.
対比+奥行なし+加算性あり(同化的).蛇腹様運動が一貫して報告
され,線運動錯視との関連が推測される.中→左端,左→中への運動
報告の違いは,on時の注視位置と関連しているかもしれない.
角度+奥行なし(Gillamの奥行説を不支持).IFのon時に見られるTF
の局所的運動は錯視との関係がありそうだが,因果関係の推測は困
難である.点滅に伴う運動印象に個人差があり,IF自体が傾く,あるい
はIFと接するTFの部分がピクピクと反発するとの報告もある.
錯視量が僅か.角度+奥行なし(?)+加算性あり(同化的).
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×
×
◎顕著,○あり,△ややあり,×なし
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