要 旨 種々の細胞から分泌される粒子径 30~150nm 程度の膜小胞であるエクソソームは、これを取り込 んだ細胞に構成物質である脂質やタンパク質、核酸を送達することで細胞間物質輸送を担っている 内因性のデリバリーシステムである。このような特徴を有するエクソソームを利用することで、安 全かつ効率的なドラッグデリバリーが可能となると期待される。エクソソームを利用したドラッグ デリバリーの実現には、エクソソームの産生・調製法、エクソソームへの薬物の搭載法、エクソソ ームの体内動態制御法など多様な一連の技術開発を統合した戦略の構築が必要であるが、その多く については未だ十分な検討がなされていない。 我々はこれまでに、エクソソームを利用したドラッグデリバリー戦略の構築を目的として、薬学 的な観点から、エクソソームの製剤学的特性や薬物動態学的特性に着目した研究を行ってきた。そ の中で、エクソソームの体内動態制御に必要不可欠な体内動態情報を得ることを目的として、エク ソソーム移行性タンパク質を利用したエクソソーム標識法を開発した。エクソソーム移行性タンパ ク質として lactadherin を選択し、これを Gaussia luciferase(gLuc)と融合したタンパク質を設 計し、化学発光を利用した体外からのエクソソームのイメージングを可能とした。また、組織分布 の定量的評価を目的として、gLuc をストレプトアビジンに置き換えた融合タンパク質を設計し、125I 結合ビオチン誘導体を利用した放射標識体を開発した。各標識エクソソームを用いてエクソソーム の体内動態について解析するとともに、その体内動態の規定要因についても検討を行い、静脈内投 与されたエクソソームは、マクロファージに取り込まれることで速やかに血中から消失することを 見出している。また、その際には、エクソソームの膜中に存在する負電荷リン脂質であるホスファ チジルセリンが、エクソソームがマクロファージにより取り込まれる際に関与している可能性が示 された。また、エクソソームの回収法が回収されるエクソソームの物性と製剤特性に及ぼす影響に ついて、デリバリーシステムの開発に際して有用性が高いと考えられる超遠心を利用した 3 種の回 収方法について比較検討を行った。その結果、超遠心を利用したエクソソームの回収操作において は、特に密度勾配を利用した回収法によって凝集体の少ないエクソソームが得られること、そして 凝集体の少ない方が濾過滅菌後の回収率が高く、製剤利用に適していることを明らかとした。産生 細胞の種類の違いがエクソソームの物性や体内動態に及ぼす影響についても、5 種の細胞を用いて 比較検討を行い、産生細胞が違ってもエクソソームの物性および体内動態は大きくは異ならないこ とも見出している。本セミナーでは、エクソソームを用いたデリバリー戦略の構築に際し重要なこ れらの要因についての我々の検討結果について紹介するとともに、エクソソームを利用した核酸・ タンパク質のデリバリーについての我々の最新の知見についても紹介する予定である。 Exosome-producing cells B16BL6 C2C12 NIH3T3 (Melanoma cells) (Myoblasts) (Fibroblasts) MAEC RAW264.7 (Endothelial cells) (Macrophage-like cells) Ultracentrifugation Pelleting Density gradient Centrifuge Immunoprecipitation Column Chromatography Exosomes CD9 Physicochemical properties Reagent CD63 Size extrution etc. Pharmacokinetics 細胞回収 分離・精製 エクソソーム 産生細胞 分泌 体内動態 薬物 (核酸医薬品等) エクソソーム 投与 薬物封入 Endogenous loading Exogenous loading Drug Introduction into cell Encapsulation of drugs into exosomes Drug-loading exosomes 図 エクソソームを利用したドラッグデリバリー戦略の構築 参考文献 1. Takahashi Y, Nishikawa M, Shinotsuka H, Matsui Y, Ohara S, Imai T, Takakura Y. Visualization and in vivo tracking of the exosomes of murine melanoma B16-BL6 cells in mice after intravenous injection. J Biotechnol. 2013;165:77-84. 2. Morishita M, Takahashi Y, Nishikawa M, Sano K, Kato K, Yamashita T, Imai T, Saji H, Takakura Y. Quantitative Analysis of Tissue Distribution of the B16BL6-Derived Exosomes Using a Streptavidin-Lactadherin Fusion Protein and Iodine-125-Labeled Biotin Derivative After Intravenous Injection in Mice. J Pharm Sci. 2015;104:705-713. 3. Imai T, Takahashi Y, Nishikawa M, Kato K, Morishita M, Yamashita T, Matsumoto A, Charoenviriyakul C, Takakura Y. Macrophage-dependent clearance of systemically administered B16BL6-derived exosomes from the blood circulation in mice. J Extracell Vesicles. 2015;4:26238. 4. Yamashita T, Takahashi Y, Nishikawa M, Takakura Y. Effect of exosome isolation methods on physicochemical properties of exosomes and clearance of exosomes from the blood circulation. Eur J Pharm Biopharm. 2016;98:1-8.
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