講演要旨

P2. 震災後の仙台湾の植物プランクトン群集の季節消長
谷内由貴子(東北区水産研究所 資源海洋部 生態系動態グループ
研究等支援職員)・渡辺 剛・桑田 晃(東北区水産研究所)
【背景】
植物プランクトンは肉眼ではほとんど見えない小
A
さい藻類ですが、ワカメやコンブなどの海藻と同様
に光合成をおこなう基礎生産者です。基礎生産者は
海水中の栄養分を吸収して増殖し、動物プランクト
ンの餌となり、魚はそれらを食べて成長します。こ
のように基礎生産者には海洋環境と漁業生産をつな 珪藻キートケロス属の一種(A)、蛍光顕
ぐ役割があり、その中でも植物プランクトンは海洋 微鏡で観察した植物プランクトン(B)
全体の基礎生産の大部分を担い、海洋の生物を支え
る重要な生き物です。
仙台湾は 2011 年の東北地方太平洋沖地震で発生した大津波により、海岸や海底の地形や性
質が大きく変化しました。同様に、植物プランクトンの群集構造も大きな影響を受けたと考
えられ、例えば貝毒の原因となる有毒渦鞭毛藻の出現量が震災津波の後に増加しているよう
です。しかし、仙台湾の植物プランクトン群集に関する知見は乏しく、いつどのような種類
がどれくらい生育しているか十分に分かっていません。そこで、仙台湾の沿岸と沖合の 2 測
点で 2012 年 3 月から翌 4 月までほぼ毎月調査し、震災後の大型植物プランクトン(珪藻・
渦鞭毛藻)と微小植物プランクトン(真核藻類・シアノバクテリア・クリプト藻)の種組成
や細胞密度の季節変動の解明に取り組みました。
【研究成果の内容】
植物プランクトンの現存量の指標となる光合成色素クロロフィル a 濃度(Chl.a)は、沿
岸で 0.3-8.8 μg/L、沖合で 0.2-8.6 μg/L でした。このうち、春は 85%が大型植物プランクト
ンでしたが、夏から秋には減少し、50%以上を微小植物プランクトンが占めました。大型植
春に高く(最大値:5 月の沿岸 5.6×106 cells/L)
、
物プランクトンの細胞密度は Chl.a と同調し、
夏から秋に低下して(最小値:9 月の沖合 5.7×103 cells/L)、再び冬に増加しました。珪藻
と渦鞭毛藻の割合は、沿岸・沖合ともに概ね珪藻が 80~90%で優占し、沿岸では 6 月のみ渦
鞭毛藻が 50%を占め、沖合では夏に渦鞭毛藻の割合が 60%と高くなりました。
微小植物プランクトンでは、真核藻類・シアノバクテリア・クリプト藻すべてで 2012 年
11 月に共通して細胞密度の急激な増加が観察されました。他の時期では、真核藻類は年間を
通してほぼ一定の細胞密度(1.1-10.4×106 cells/L)でしたが、シアノバクテリアは 6‐9 月の
細胞密度(0.7-5.6×107 cells/L)が 1 月の 500-1000 倍に達するという大きな変動がみられま
した。クリプト藻は年間を通じて 0.6-5.6×105 cells/L と大きな変化は見られませんでした。
【今後の課題・展望】
仙台湾の植物プランクトン群集について、細胞サイズや種類ごとに詳細に調べた報告はあ
りませんでした。今回の研究では、植物プランクトンの群集についての詳細なデータだけで
なく、海洋環境データを収集しました。現在、植物プランクトン群集の季節による消長と海
洋環境との関係を解析しており、今後植物プランクトン群集の消長がどのようなメカニズム
で起こっているのかを明らかにしていく予定です。植物プランクトン群集の変化や増減は、
食物連鎖を通じて水産資源の増減に影響を及ぼすだけでなく、同じ栄養源を利用する有毒渦
鞭毛藻の増減にも関係します。したがって、このような植物プランクトン群集の消長に関わ
るメカニズムを解明することにより、漁場環境問題への対応や有用魚介類の生息環境が良好
な状況にあるかどうかを診断する技術の開発につながることが期待されます。