371 昭 和43年1.月20日 原 著 昭 和40年 名 古 屋 地 方 に お け るSalmonella 菌 族 とそ の 薬 剤 耐 性 名古屋市立東市民病院 院 長 落 合 国 太 郎 検査孫長 内 藤 晶 之 助 まえ が き 赤 痢,大 腸 菌 等 の 薬 剤 耐 性 に つ い て は,早 くか ら研 究 され,そ の報 告 は枚 挙 に い と まが な い.混 合培 養 に よ る耐 性菌 か ら感 性菌 え の耐 性 伝 達 現 象 が われ わ れ1)2)お よび 秋 葉3)ら に よつ て 発 見 され 研 究 室 に保 存 さ れ た 腸 チ フス ・パ ラチ フス を含 むSalmonella菌 株 お よび 最近 は昭 和36∼39年 に 至 る4力 年 間 に名 古 屋 地 方 で 分 離 され たす べ て の Salmonella菌 株 につ い て薬 剤 耐 性 を 測 定 した. そ の結 果,昭 和38年 まで に 分離 した もの に は耐 性 て 以来,本 現 象 は細 菌 の薬 剤 耐 性 発 現 機 序 の究 明 の み な らず,広 く微 生 物 遺 伝 学 に導 入 され,そ の 菌 は1株 もな く,わ ず か に 昭 和39年 に分 離 した S.giveの1株 が 分離 当初 か らSMに 耐 性 を 示 し 研 究 は,今 な お後 続 学 者 に よつ て継 続 され つ つ あ る. た のみ で あ る. しか るに,腸 チ フス ・パ ラチ フ ス菌 を 含 むSalmonella菌 族 につ い て は,最 近,チ フ ス性 疾 患 の 減 少 のた め も あつ てか,あ ま り関 心 が もた れ て い な い. 腸 チ フ ス ・パ ラチ フ ス菌 も試 験 管 内 実験 で は耐 性 赤 痢 菌 また は 耐 性 大 腸 菌 か ら耐 性 が 容 易 に伝 達 され る こ とは,既 に 内藤4)お よび 多 数 の学 者 に よ つ て証 明 され てい る. な お,腸 チ フ ス ・パ ラチ フ スお よびSalmonella 症 患 者 に 抗 生 剤 を与 えれ ば,そ の 治療 の経 過 中 に 耐 性菌 を 排菌 す る こ との あ るの は,こ れ また,わ れ わ れ お よび 多 くの臨 床 家 に よつ て 明か に され て い る. 近 年,抗 生 剤 の普 及 につ れ て,耐 性 菌 赤 痢 患 者 で は もち ろ ん,健 常 人 で もそ の大 腸 菌 の多 くが 各 最 近,東 京 荏 原 病 院 の 斉藤 誠 博 士 は文 献 上 広 く 日本 にお け る耐 性Salmonella菌 に関 す る報 告 を 集 め,ま た,予 研 の 調 査 結果 を も記 載 して い る 。 そ れ に よれ ば,近 年Salmonella菌 は漸 次 増 加 の 傾 向を 示 し,耐 性 菌 も単 独耐 性 か ら2剤 な い し多 剤 耐 性 に 至 る各 種 の耐 性菌 が検 出 され て い るが, Salmonellaで は耐 性 菌 は まだ きわ め て 少 数 で あ る. わ れ わ れ は 久 しい 以 前 か ら赤 痢 ・大 腸 菌 のみ な らず,Salmonella菌 族 について も 薬剤耐性の獲 得 に 注 意 して きた.昭 和39年 ま でに 分 離 した もの に つ い て は 既 に誌 上 に発 表 した こ とは 前 に 述 べ た が,こ こに は 昭和40年1年 間 に 当 院 で 分 離 し,ま た は 他 か ら検 査 を依 頼 され たSalm・nella菌 族 に つ い て,そ の菌 型 並 び に各 種 薬 剤 に対 す る耐 性 を 種 の薬 剤 に耐 性 に なつ て い る.こ の よ うに して, 調 査 した結 果 につ いて 報 告 す る. 検 査 材料 万 一,腸 チ フス ・パ ラチ フス,Salmonella菌 族 が 赤 痢,大 腸 菌 族 の よ うに耐 性 を 獲 得 す れ ば,治 検 査 菌 株 は総 計21株 で あ る.う ち16株 は赤 痢 ま た は赤 痢 疑 似 症 と して 当院 伝 染 病 棟 に送 られ た 患 療 薬 が な くな り腸 チ フス ・パ ラチ フ スの 流 行 は 再 び 戦 前 に も ど り,国 民 の保 健 上 重 大 な 事 態 に 立 ち 者 か ら,2株 は 当院 科 外 来 を 訪 れ た 下 痢 症 患 者 か ら,1株 は 市 内 開業 医 師 か ら検 便 を 依 頼 され た も の か ら分 離 した もの で,他 の2株 は それ ぞれ 市 内 到 る で あ ろ う. これ に か ん が み,わ れ わ れ は5)6)7)昭和13年 以 来 中 保 健 所 お よび名 鉄 病 院 で分 離 され,そ の 同定 を 372 日本 伝 染 病 学 会 雑 誌 第1表Salmonella菌 依 頼 され た もの で あ る. 分 離 培 地 と して はす べ てSS培 族 の 月 別,年 型別 検 出株 数 地 を 用 いた.菌 第41巻 第10号 令 別,菌 昭 和40年 度 型 の決 定 お よび薬 剤 耐 性 の測 定 は最 初 に分 離 され た 菌 株 を用 いた.な お菌 型 の 同定 はSalmonella 研 究 班 の約 束 に 従 つ て 予研 に送 り,坂 崎 利 一 博 士 に よつ て 最 後 的 に 決 定 され た もの で あ る. 月 別 年 令 別菌 型 別検 出 株数 季 節 的 にSalmonellaが 検 出 され た の は4∼9 月 の各 月 と11月 で あ る.1月 か ら3月 まで と10月 と12月 には 検 出 され な かつ た.こ の よ うに,本 菌 族 が 暑 気 に 多 か つ た の は 本症 の ほ とん どす べ てが 赤 痢 と して送 られ たか らで あ ろ う.う ち7月 の7 例 が 最 も多 い の は3例 の家 族 発 生 が あ るた め で あ る. 患 者 は 男17例,女4例 に は 小 児5例,大 男17例 で 男 に断 然 多 い.年 令 的 女4例 人13例 で,他 の3例 は よそ か ら は56才 検 査 を依 頼 され た もの で,年 令 は 判 らな い.年 令 5∼9才 各2例,10∼14才1例,15∼19才 が 判 つ て い る もの の最 幼 年 者 は2才,最 く,20才 台6例,30才 第2表 註No.20はSMに100mcg/m1で 高年令者 昭 和40年 度 検 出Salmonellaの は 感 性,50mcg/mlで は 耐性 で あ る.そ の 各 年 台 別 株 数 は1∼4才 菌 型 と薬 剤 耐 性 台5例,40才 と にはな 台 と50才 台 各 373 昭 和43年1月20日 1例 で あ る. こ の ほ か,昭 菌 菌 型 はS.typhi 型 者 が あ り(い murium,thompson,mikawasi- 院 中,各 ma,give,bareilly,nagoya,infantis,enteritidis お よ びpotsdamの9種i類 nagOyaが5株 で あ る.そ の うち,S. が 家族 的発 生 で あ る た め で も あ ろ う.次 い でS.typhi thompson,mikawashimaお れ ぞ れ3株 で,そ そ 種 は い ず れ も1株 ず 年 度 当 地 で 初 め て 検 出 され た の は S.infantisで,こ 種 の 抗生 剤 また は抗 菌 性 製 剤 の経 口投 与 れ は 外 国 船 の 船 員 か ら分 離 した 摘 出 に よつ て 完 全 に排 菌 を停 止 させ る こ とが 出 来 た.そ し て こ の 菌 は 長 期 間CTを らず 終 始 感 性 で,耐 検 出菌 の薬 剤耐 性 ロ ラ ム フ エ ニ コ ー ル(CP),テ 剤耐性 菌 お よ び そ の 耐 性 パ タ ー ンに お い て も,漸 次増加 す る も の と思 わ れ る.こ 年4月 第40回 日本 伝 染 病 学 会 総 会 の シ ン ポ ジ ウ ム 内細 菌研 究 班 の… 寒 天 平 板 稀 釈 法 に 従 い,各 薬 剤 と も50mcg/ml 階 に つ い て 検 査 し,100 発 育 し た も の を 耐 性 菌 と した.な に つ い て はMUIIer-Hinton培 フ ア チ ァ ゾ ー ル100mg/d1に おS 地 を 用 い てサ ル 生 えた ものを 耐 性 菌 と した. そ の 結 果,19株 は5種 類 す べ て の 薬 剤 に 対 して 感 性 で あ つ た.他 の2株 中 第20例 riumはTC・SA耐 のS.typhimu- 性 で,SMに100mcg/mlで は 感 性 で あ つ た が50mcg/mlで は 耐 性 を 示 し た. な お 第21例 の 同 じ くS.typhi muriumはSMお よ びTCの2剤 耐 性 で あ つ た. 献 本 医事 新 報 (1861): 34, 昭 和34, 12月. 2) 落 合 国 太郎: 日本 細 菌 誌, 17 (7): 503∼508, 対 す る耐 性 を 測 定 し た. 生 剤 に つ い て は,腸 文 崎利 よび サ ル フ ア 剤(SA)に A剤 の よ うな 傾 向 は 昭 和40 1) 落 合 国 太 郎, 山 中敏 樹, 木 村 勝 直, 沢 田 収: 日 ナ マ イ シ ン(KM)お mcg/mlに 年 わ が 国においては 族 は そ の 菌 種 に お い て も,薬 トラサ イ ク リ ン(TC),カ と100mcg/mlの2段 性 菌 に は な ら な か つ た. 以 上 に よつ て み れ ば,近 Salmonella菌 検 出 菌 の す べ て に つ い て ス ト レ プ トマ イ シ ン そ の 方 法 は,抗 与 えた に か か わ 「サ ル モ ネ ラ菌 症 」 に お け る 善 養 寺 浩,坂 一 ,斉 藤 誠3博 士 の 演 説 に も 述 べ られ た. も の で あ る. (SM),ク 科的胆嚢 まとめ つ で あ る. こ の うち,本 ず れ も 中 年 の 婦 人),長 期 に わ た る 入 murium, よびenteritidisが の 他 の4菌 の腸 チ フス保 菌 に よ つ て は'菌の 消 失 を み な か つ た が,外 で 最 も 多 い の は,本 菌 の 発 祥 地 が 名 古 屋 で あ る た め で も あ ろ うが,3株 和40年 度 に は2例 昭 和36. 5. 3) 秋葉 朝一 郎, 木 村 貞 夫 他: 日本 医 事 新 報 (1866): 46, 昭 和35. 1. 4) 内藤 晶 之助: 名 市 大 医 会 誌, 11 (4): 599∼ 1002, 昭 和36. 2. 5) 落 合 国太 郎, 内藤 晶 之 助: 綜 合 臨 床, 10 (6): 860∼869, 昭 和36. 6. 6) 中島 浩 二, 岡 島 雪 男, 沢 田 収: 綜 合 臨 床, 4 (9): 1585∼1590, 昭 和30. 9. 7) 落 合 国太 郎, 内 藤 昂 之 助3日 伝染 会 誌, 40 (3): 54∼61 ,昭 和40. 3. 8) 落 合 国太 郎, 内藤 晶 之 助: 日伝染 会 誌, 39 (5) : 169∼172, 昭 和40. 8. 9) 斉 藤 誠: 医 学 の あゆ み, 56 (5): 342∼346, 昭 和41. 1. 10) 薬 剤 耐 性 赤 痢 研 究 会: 日伝染 会 誌, 41 (2): 99 ∼107, 昭 和41 . 1. 374 日本 伝 染 病 学 会 雑 誌 Species and Drug-resistance Kunitaro Higashi of Salmonellae OCHIAI Isolated and Shonosuke Shiminbyoin, Nagoya in Nagoya Districts 第41巻 第10号 in 1965 NAITO City The number of strains and speciesof Salmonellae isolated from patients in Nagoya districts in 1965 was 21 and 9, respectively. The details were as follows: The largest number of them was 5 strains of Salmonella(S) nagoya,followed by 3 strains of S typhimurium,S thompson, S mikawashima, S enteritidis,and. 1 strains of S give,S bareilley,S infantis,and S potsdam,respectively. The strain of S infantiswas obtained from a crew of foreign ship, and this is the first isolation of that species in this country. Their drug-resistance was tested against streptomycin (SM), chloramphenicol (CP), tetracycline (TC), kanamycin (KM), and sulfonamide (SA). Nineteen strains out of 21 was proved sensitiveagainst. all the drugs. The other two, both belonging to S typhimurium, were proved to have duple-drugresistance to the combination of TC-SA, and SM-TC, respectively.
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