25-4 - 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター

課題番号:25-4
難治性ニューロパチーの診断技術と治療法の開発に関する研究
主任研究者: 山村 隆 (国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 免疫研究部)
分担研究者: 三宅幸子(順天堂大学医学部)/楠 進(近畿大学医学部)/桑原 聡(千葉大学医学部)/神
田
隆(山口大学医学部)/吉村昭彦(慶応義塾大学 医学部)/荒木敏之(国立精神・神経医療研究センタ
ー)/北條浩彦(国立精神・神経医療研究センター)/漆谷 真(京都大学大学院)/安東由喜雄(熊本大学
大学院)/池田修一(信州大学医学部)/関島良樹(信州大学医学部)/野寺裕之(徳島大学医学部附属病院)
/岡本智子(国立精神・神経医療研究センター病院)/井上 健(国立精神・神経医療研究センター)/中川
正法(京都府立医科大学大学院)/髙嶋 博(鹿児島大学大学院)/小池春樹(名古屋大学医学部付属病院)
/坂本 崇(国立精神・神経医療研究センター病院)
1 研究目的
慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)などの免疫性末梢
神経疾患、家族性アミロイドニューロパチー(FAP)、
Charcot-Marie-Tooth 病 (CMT)等の遺伝性末梢神経疾
患などの難治性ニューロパチーの予後を改善するために、
遺伝子・免疫・代謝異常等による神経障害機序を明らか
にし、患者個々の病態に応じた医療(個別化医療)を実
現するための基盤整備を行う。
2 研究方法
新規治療法開発を目指した基盤研究を進める一方で、班
員組織ネットワークを活用した国内共同研究や技術の相
互利用、新たな疾患概念の確立、新規治療法の開発を進
めた。倫理面への配慮については、各省庁のガイドライン
等を遵守して適切な研究計画を立て、倫理委員会の承認の
もとに研究を進めた。
3 研究結果及び考察
研究班の活動を通じて、多数のニューロパチー関連業績が
挙がった。また組織を横断した基礎と臨床の交流促進を目
指し、例えば CMT や FAP の遺伝子異常を是正する siRNA
治療の開発など確実に成果が上がった。また班員は全国の
医療機関の多数の依頼に応じて、特殊検査を実施して希少
疾患の医療に貢献し、新しい疾患の発見や原因遺伝子の発
見を行った。以下具体的な研究成果について記載する。
1)免疫性ニューロパチー
CIDP は、国内推定患者数 3000 名の代表的な免疫性ニュ
ーロパチーであるが、臨床的特徴や治療反応性に多様性が
あり、病態解明と合理的治療法の開発が望まれている。山村
班員は、CCR5 陽性 CCR6 陽性 T 細胞が疾患と関連し、病
原性の高い Th17 細胞を含むこと等を見出し、治療標的と
なりうることを示した。三宅班員は、自然リンパ球 iNKT
細胞や MAIT 細胞が患者末梢血中で減少するなど、他の自
己免疫疾患と共通する現象を見出した。神田班員は、血液
神経関門(BNB)モデルを用いて患者血清の BNB 破綻効果
と病型や重症度との関連性を明らかにした。桑原班員は、
POEMS 症候群に対する標準治療確立に向けて、サリドマイ
ド・デキサメタゾン療法および自己末梢血幹細胞移植治療の
医師主導治験を進めた。小池班員は、CIDP や抗 MAG 抗
体陽性ニューロパチー、POEMS 症候群および IgG4 関連疾
患の神経病理に関する新たな知見を得た。楠班員は、自己
抗体関連ニューロパチーとくに抗糖脂質抗体の役割につい
て解析を進め、抗 SGPG 抗体陰性の IgM パラプロテイン血
症を伴うニューロパチーや GalNAc-GD1a 抗体陽性症例の
特徴について新しい知見を見出した。
2)遺伝性ニューロパチー
CMT は、臨床的および遺伝的に多様であり、診断技術の発
展が求められている。また標準的治療法も確立していない。
髙嶋班員は、CMT の包括的遺伝子診断技術の開発を進
め、2012 年以降次世代シークエンサーを用いることにより診
断率を顕著に向上させ(常染色体劣性遺伝型については診
断率 50%以上を達成)、新規遺伝子変異も多数同定した。
髙嶋らはまた、モデルマウスで有効性を示したクルクミン治療
の実用化へ向け、バイオアベイラビリティを向上させた製剤を
開発し、臨床試験の準備が整った。中川班員は、CMT 患者
のリンパ球からの iPS 細胞樹立や神経超音波による CMT の
障害神経の評価など基盤研究を進めた。井上班員は、遺伝
性ニューロパチーでみられる遺伝子異常が小胞体―ゴルジ
体輸送経路を障害しうることを見出した上、機能を正常化さ
せる新規治療候補薬の選定に成功し、また PCWH
(peripheral demyelinating neuropathy, central dysmyelinating
leukodystrophy, Waardenburg syndrome, Hirschsprung
disease) の末梢神経病理をよく再現するモデルマウスを作
出した。
3)家族性アミロイドーシスポリニューロパチー
家族性アミロイドーシスポリニューロパチー(FAP)は、トランス
4 結論
難治性ニューロパチーの基盤研究および臨床応用研究の
両者において、多数の成果を挙げることができた。基礎と臨
床の交流をさらに推進し、遺伝性、免疫性ニューロパチーに
対する新規治療の開発を促進することが重要である。
5 研究発表
研究期間中の関係論文は 100 件を超える。その中でもとくに
代表的なものは以下の通りである。
サイレチン(TTR)遺伝子変異により TTR がアミロイド線維化
し臓器に沈着し末梢神経障害等を生じる疾患である。安東
班員は質量分析法を用いた診断技術を開発し、専門的な診
療体制を整備した。また池田班員、関島班員は、肝移植に
代わる新しい治療法ジフルサニルの治療経験をまとめ、長期
(10 年間)の安全性や有効性を確認した。
S. Wakatsuki, et al. The Journal of cell biology, 2015, 211,
881-896.
4)その他の基盤研究
神経炎症や神経変性は多くのニューロパチーに共通する機
序が想定されている。神経科学、分子生物学などの最新の
知見に基づいたニューロパチーの基盤研究を進めた。
漆谷班員は、(H25)蛋白の自己リン酸化による構造変化を
評価する系を構築し、家族性 ALS の原因遺伝子である
SOD1 について、その病原性を与する構造に関する知見を
得た。SOD1 が自己酸化により切断された断片が神経細胞
毒性を持ち、ALS 病態への重要な役割が示唆された。吉村
班員は、(H25)脳虚血モデルを用いて神経炎症の拡大と収
束に寄与する因子を解析し、炎症惹起作用をもつペルオキ
シレドキシン(Prx)が受容体(Msr1 および Marco)を介してマ
クロファージへ取り込まれることが、炎症の収束に重要である
こと、その阻害により病態が悪化することを示した。荒木班員
は、(H25)神経軸索変性の分子機序の解明を目指し、ユビ
キチンリガーゼ ZNRF1 のリン酸化が酸化ストレス依存的に起
こり神経変性を促進するメカニズムを明らかにした。野寺班
員は、糖尿病性神経障害や神経障害性疼痛に関連するメチ
ルグリオキサール(MGO)に関する新たな知見の報告や、
cramp-fasciculation syndrome(CFS)について、遅い K+チャ
ネルの電位依存性ゲートの開閉異常が原因と考えられる新
規疾患を報告した。坂本班員は、神経超音波検査の新しい
診断技術について検討を進め、神経腫大や腱の肥厚、血流
評価の可能性を示した。本研究班では、各班員の研究活動
に加え、班員相互の共同研究を多数実施してきた。神田班
員、桑原班員、梶班員は MMN/CIDP 患者血清の BNB に
対する影響に関する共同研究を実施した。安東班員と池田
班員は FAP の経口治療薬であるジフルニサルの国際共同
治験に参加している。北條班員は、FAP や CMT の遺伝子
異常に対し、遺伝子発現抑制技術である RNAi を用いた新
規治療法の開発を行った。対立遺伝子特異的発現抑制を可
能とする siRNA の設計、評価系を確立し、TTR や CMT の
遺伝子変異のみを有意に抑制する siRNA の設計に成功し
た。今後は siRNA の生体内での治療効果を検討する段階に
進む予定である。
6 知的所有権の出願・取得状況
出願準備中
B. J. Raveney, et al. Nature communications, 2015, 6.
S. Misawa et al. BMJ open, 2015, 5, e009157.
H. Koike et al. Neurology, 2015, 84, 1026-1033.
M. Ito et al. Nature communications, 2015, 6.
7 自己評価
1)
達成度について
75%の達成率である。
2)
学術的、国際的、社会的意義について
英文学術誌に学術的および国際的な意義の大きい論
文を多数発表できた。成果は新聞等で紹介され、社会
的な反響を呼んだ。
3)
行政的意義について
政策決定に有用な疫学情報や治療成績に関する重要
な情報を集積することができ、行政的意義も大きい。
4) その他特記すべき事項について
分担研究者は国内の中核施設として難治性ニューロパ
チーの遺伝子診断や免疫診断を実施し、我が国の医
療水準の維持・向上に貢献した。