事例7

特集
軽量化・高強度化に向けた部材置換技術∼新素材の特性と成形法∼
事例
カーボンナノチューブを用いた
高機能フッ素樹脂の開発
7
大陽日酸㈱
坂井
徹*、毛塚
佳代**
本開発の背景
ethylene)に着目し CNT 添加濃度を飛躍的に減らす
ことにより、所望の導電性・熱伝導性・機械強度など
カーボン材料と樹脂との複合材料は、主に半導体を
の機能を付与することを目指した。併せてフィラー添
製造する分野において洗浄装置、検査装置の帯電防止
加量を減らすことでフッ素樹脂本来の特性を損なうこ
や静電防止、および耐摩耗性、離型性、導電性、熱膨
となく、フィラーコストも最小限に抑えることを目指
張防止、放熱用などの目的で OA 分野において利用
した。
されている。樹脂複合材料の製造方法は、加熱溶融し
これまでの当社の研究開発において、CNT をフッ
た樹脂とフィラーを溶融混練する方法が一般的である。 素樹脂(特に PTFE のモールディングパウダー1))
また、フィラーとしてのカーボン材料は、帯電防止・
の原料樹脂粒子(以下、フッ素樹脂)の表面に定着・
静電防止の目的で、カーボンブラック(以下、CB)が
含浸し所定の性能を得るうえで、フィラー添加濃度を
利用されており樹脂に対して 5∼15 wt%が添加され
下げることが可能であることを明らかにした経緯があ
ている。
る2)。また、従来の CNT より繊維長の長い長尺 CNT
樹脂に対して多量のフィラーを添加することにより、 (長 さ 100∼150μm、直 径 約14 nm 長 尺 CNT3)∼7))
樹脂本来のしなやかさが損なわれ、硬く、脆くなる。
を用いることで、樹脂に対する CNT 添加濃度を極力
これにより、曲げが必要な部材としての活用が難しい
低くした場合に、高い導電性能が得られる可能性も明
問題がある。
らかにしてきた8)。
ナノサイズの直径をもった繊維状の炭素結晶である
本開発は、長尺 CNT を用いた高機能フッ素樹脂の
カーボンナノチューブ(以下、CNT)は、導電性・
性能および長尺 CNT の用途開発を目的として実施し
熱伝導性機能を付与する際、CB と比較して飛躍的に
たものである。
添加濃度を減らすことが可能となる。しかし、樹脂中
に CNT および CB を溶融混練法で混合すると、条件
によっては強いせん断力により CNT が短く切断され
てしまう。
本開発では、フッ素樹脂の PTFE(polytetrafluoro*
Toru Sakai:開発・エンジニアリング本部 山梨研究所
材料開発部 部長
**
Kayo Kezuka:同 安全・品質担当
〒408−0015 山梨県北杜市高根町下黒沢 3054−3
TEL(0551)42−4551
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CNT の特徴・仕様
当社の CNT は、多層 CNT(MWNT ; multi−wall
carbon nanotube)が垂直に一定方向に林立成長(配
向)しており、CNT の長さを制御できること、成長
した CNT の長さを均一にできる特徴がある(図 1)
。
基板の上に熱 CVD 法(Chemical Vapor Deposition)で結晶成長させる製造法であり、CNT の長さ
は製造条件により長尺 CNT(50∼600μm)を製造す
ることが可能である。