ダットスキャンにおける解析ソフトウェア DaTQUANTの臨床使用経験

MI
Molecular Imaging
ダットスキャンにおける解析ソフトウェア
DaTQUANTの臨床使用経験
JA 北海道厚生連 札幌厚生病院 医療技術部 放射線技術科
神経内科
西谷内 琢也 北口 一也 山田 泰司 永井 信
静川 裕彦
とってもダットスキャンは待ち望まれた検査であった。そこで、当院で
はじめに
使用しているSPECT 装置及びワークステーションがGE社製であった
2014 年 1 月より日本においてもイオフルパンによるドパミントラ
ことから、再現性に優れるとされるDaTQUANTの導入が検討された。
ンスポータシンチグラフィ(以下、ダットスキャン)が発売開始され
DaTQUANTは線条体への取り込み画像を自動処理にて標準脳ア
た。ダットスキャンは黒質線条体ドパミン神経の脱落の有無を評価
トラスへ変換し、線条体を尾状核・前方部分の被殻・後方部分の被
できるため、パーキンソン症候群やレビー小体型認知症のより早期
殻と 3 部位に細 分 化してそれぞ れに ROI を設 定する。さらに、正常
での診断が期待されている。
ノーマルデータベースとの比較を行えるといった特徴がある。また、
ダットスキャンによる診断の指標の一つとして線条体への集積率
このノーマルデータベースは加齢による線条体への取り込み低下に
( Specific Binding Ratio:SBR )を算出しているが、この定量値は
ついても考慮されたものとなっている。DaTQUANT を用いることで
解 析時の様々な要因で 変 動する。特に大きな要因と考えられるの
手動による誤差要因をなくし、より精度の高い解析が期待されるこ
が、基準線の設定である。ダットスキャンの集積像では脳実質への
とから導入するに至った。
集積が乏しく、基準線である AC-PCラインは前頭極と後頭極を目
視により設定する必要があるため、担当技師ごとの主観に影響され
再現性における検討
やすく、誤差が生じやすいと考えられる。
自動処理にて解析が行われるDaTQUANTの再現性について、現
当院においては、2014年5月より検査を開始したが、それに伴いGE
在広く普及している、基準線軸の設定を手動で設定する解析アプリ
社製の解析ソフトウェアであるDaTQUANTを導入した。DaTQUANT
ケーションである日本メジフィジックス社製の DaTViewと比較検
は自動処理にて解析されるため、基準線を目視にて設定する必要が
討を行った。表1に収集条件並びに解析条件を示す。
ない等の特徴を有する。本稿では、ダットスキャン導入にあたっての
検討方法は、線条体に正常に集積している症例(以下、正常例)と
DaTQUANTの臨床使用経験について述べる。
集 積 が 低 下して い る 症 例( 以下 、異 常 例 )につ いて 、同 一 術 者 が
DaTQUANTとDaTViewにて30 回ずつ解析しSBRのバラつきを検討
DaTQUANT導入理由
した。同様に、当院の技師20 名にDaTQUANTとDaTViewを1回ずつ
当院における認知症の臨床診断には脳 MRIによるVSRAD 解析や
解析してもらい、技師間でのSBRのバラつきについても検討した。
脳血流シンチグラフィ、心筋交感神経シンチグラフィなどが適宜行
同一術者内における再現性の検討結果を図1、図2に、術者間にお
われていたが、臨床上、早期のレビー小体型認知症を疑うが画像に反
ける再現性の検討結果を図 3 、図 4 にそれぞれ示す。同一術者内と術
映されない症例が散見された。先述の検査と今回発売されたダット
者間どちらにおいても、DaTQUANTでの解析の方がDaTViewに比べ
スキャンを併用することで、パーキンソン症候群やレビー小体型認知
て正常例、異常例ともに変動係数は有意に小さくなった。DaTViewで
症の早期診断につながるという期待があり、当院の神経内科医に
は、線条体への集積が低下している異常例において、変動がより大き
表1. 収集条件・再構成条件
収集条件
Mann-Whitney検定
p<0.05
再構成条件
偏差
平均
DaTQUANT
偏差
平均
5
5
静注後3 時間後に収集開始
再構成方法:OS-EM
4
4
3
3
収集時間:30min
Iteration:2
2
2
1
1
収集方法:連続収集
Subset:10
0
0
-1
-1
-2
コリメーター:LEHR
後処理フィルター:Butterworth
-2
-3
-3
回転半径:15cm
Cutoff 周波数:0.7cycle/cm
-4
-4
拡大率:1.5
Power:10
Matrix size:128×128
吸収・散乱補正は無
-5
18
×100(%)
変動係数 0.76%
×100(%)
-5
図1. 同一術者内における再現性の検討
(正常例)
DaTView
変動係数 1.81%
Molecular Imaging
くなっており、異常例における基準線の手動設定の限界がみられる
が、DaTQUANTにおいては異常例においても非常に高い再現性を有
していることが示唆された。
右差においても精度が高く有用性が示唆された症例であった。
おわりに
ダットスキャンはパーキンソン症候群やレビー小体型認知症の早
当院における臨床への応用
期 診断に期待されている検査であるが、その定量値 解 析には様々
D aTQUAN T の自 動 処 理 解 析 によって得られ た画 像を用 いた
な誤差要因があり、その中でも目視による基準線の設定は大きな
DaTViewでの解析とDaTQUANTでの解析との SBR の相関性につ
要因の一つといえる。
いて検討を行った結果、図 5に示すように非常に強い正の直線的相
DaTQUANT は自動処理にて解析されるため、術者に依存するこ
関が得られた。
となく、簡 便かつ 安 定的に再現性のある解 析が 可能となった。ま
DaTQUANT は GE のワークステーションでのみ使用できるため、
た、細かい部位ごとに年齢も考慮された正常ノーマルデータベース
導入している施設は限られており、DaTView による解析を行ってい
と比較できるため、より精度の高い検査となっている。ただし、この
る施設が多い。また、当院ではダットスキャンはまだ開始されたばか
ノーマルデータベースは日本人の脳データではないため、その影響
りであり、十分な症例数ではない。そのため、当院では、DaTQUANT
についても含め、今後も検討をしていくとともに、有効に活用してい
の解析に加えてDaTViewでの解析も行い、両方の解析結果を参考
きたいと考えている。
に総合的に評価している。しかし、先述のようにDaTView の解析で
は 手 動 に よ る 変 動 誤 差 が 生 じ や す い 。そ こ で 、当 院 で は 、
Mann-Whitney検定
p<0.05
DaTQUANT にて自動処理解析された画像を用いてDaTViewでの
偏差
解析を行うようにしたことで、誤差の要因となる基準線の設定を手
動で行う必要がなくなったため、DaTView においてもより再現性
の高い解析が行えるようになった。
平均
DaTQUANT
×100(%)
偏差
平均
20
20
15
15
10
10
5
5
0
0
-5
-5
解析画像を提示する。DaTQUANTとDaTViewのどちらの解析におい
-10
-10
-15
-15
ても両側線条体は高度集積低下を認めたが、SBRの左右差において
-20
-20
図6に早期のレビー小体型認知症を疑い施行したダットスキャンの
-25
ムを認めており、DaTQUANTの解析ではSBRが軽度ではあるが左に
-25
変動係数 0.57%
異なる結果が示された。臨床症状では右半身に軽度のパーキソニズ
DaTView
×100(%)
変動係数 7.85%
図4. 術者間における再現性の検討
(異常例)
優位な低下を示しており矛盾しない結果となった。DaTQUANTが左
Mann-Whitney検定
p<0.05
偏差
平均
×100(%)
DaTQUANT
偏差
平均
15
15
10
10
5
5
0
0
-5
-5
-10
-10
-15
-15
×100(%)
DaTView
7.00
y = 4.02x - 1.08
R² = 0.96
6.00
DaTView
5.00
4.00
3.00
2.00
変動係数 0.44%
1.00
0.50
変動係数 5.96%
0.70
0.90
1.10
1.30
1,50
1.70
1.90
2.10
DaTQUANT
図5. DaTQUANTとDaTViewの相関性の検討
図2. 同一術者内における再現性の検討
(異常例)
DaTView
DaTQUANT
SBR
R = 1.26 L = 1.54
SBR
R = 0.73 L = 0.64
Mann-Whitney検定
p<0.05
偏差
平均
×100(%)
DaTQUANT
偏差
平均
5
5
4
4
3
3
2
2
1
1
0
0
-1
-1
-2
-2
-3
-3
-4
-4
-5
変動係数 0.56%
-5
×100(%)
DaTView
図6. 70歳代男性。右半身に軽度マヒ(Yahrの重症度分類Ⅰ度)があり、記憶障害や判
変動係数 2.21%
断力の低下も見られ臨床上は早期 DLBが疑われる。DaTViewの解析ではSBRは右優
位に低下を示し臨床症状と矛盾しているが、DaTQUANTの解析ではSBRは左優位に
図3. 術者間における再現性の検討
(正常例)
低下しており、臨床症状と一致している。
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