棒グラフの読み取りを促進する視線運動 -インデックス操作に着目して- 18120175 主担当教員 1. はじめに これまで視線運動の主たる機能は見たいものを 中心窩で捉えることとされてきた。しかしそれ以 外の目的で視線運動が行われていることが、近年 明らかになった。本研究では、特に図表現の読み 取りの過程で行われる、視覚的インデックスの操 作に着目する。 村松 健太郎 下嶋篤教授 副担当教員 杉尾武志教授 χ2 検定の結果、有意差が見られたため (χ2 (4) = 22.981, p < .01, Cramer’s V = .112 )、残差分析を行 い、目盛り線の有無において分類ごとの発生頻度 の有意な差を明らかにした。頻度と有意差を示し たモザイクプロットを図 1 に示す。 2. 先行研究 Pylyshyn (2007 小口峰樹訳 2012) によると人 は視野の複数の物体にインデックスを保持するこ とができるという。Shimojima & Katagiri (2013) は このインデックスに何らかの形状のタグ付けが行 われることを示した。本研究では、推論の前段階 である読み取りを促進するようなインデックス操 作の存在を、視線データに基づいて検証する。 3. 分析 3.1. 実験データ 視線計測器を用いて 30 人の棒グラフの差を読 み取る際の視線データを収集した。また刺激に対 する回答の正誤、反応時間を測定した。 3.2. 集計・事前分析 特徴的な視線運動が 5 種類確認されたため、各 分類の発生頻度を算出した。読み取り方の 5 分類 は差読み取り、間隔読み取り、パラレル現象、ア ンカー現象、目盛りアンカー現象であった。この うち、最初の 2 つは目盛りを活用した読み取り方、 残りはインデックスを活用した読み取り方とした。 その上で、それぞれの読み取り方の頻度が目盛線 の有無と比較する棒グラフの距離にどのように関 連するかを調べた。読み取り方の分類 (目盛りを 活用した読み取り方、インデックスを活用下読み 取り方) と目盛線の有無 (有、無) と比較する棒グ ラフの距離 (隣同士、間に 1 つ挟んだ比較、間に 2 つ挟んだ比較) に対してマンテル・ヘンセル検定 を行った結果、読み取り方の分類と、目盛線の有 無に関連はないという帰無仮説は棄却された (χ2 (1) = 20.902, p < .01)。層別して結果が同様であるか をオッズ比の均一性の検定を行った結果、有意差 は確認されなかった。各層で読み取り方の頻度は 目盛線の有無と関連があることがわかったため、 分類を 5 分類に細分化し、χ2 検定を行った。 3.3. 分析結果 図 1 頻度を太さ、有意差を色で示したモザイクプロット 調整済み標準化残差が 1.96 以上は黄色、-1.96 以下は赤色 4. 考察 図 1 に示されているように、間隔読み取りは目 盛線がない場合に発生頻度は減少した。パラレル 現象と目盛りアンカー現象は、目盛線がない場合 に発生頻度は増加した。目盛線がない中で間隔読 み取りを試みると、対象物無しで目盛線の間隔の 視線運動を行わなければならないため、精度が低 く、制御の負荷が高くなることが推測される。そ れに対し、インデックスを活用した読み取り方で ある、パラレル減少と目盛りアンカー現象は、目 盛線の存在に依拠した読み取り方を補完する役割 を持つといえる。これらのことから読み取りを促 進するような視線運動があることが示唆された。 本研究の結果より、本研究で確認されたパラレル 現象と目盛りアンカー現象は、図表現の読み取り を促進するインデックス操作であるといえる。 5. おわりに こうしたインデックスを活用した読み取り方が、 広く使われている棒グラフで確認されたことから、 日常的に行われていることが強く示唆される。 参考文献 Shimojima, A. & Katagiri, Y. (2013). An eye-tracking study of exploitations of spatial constraints in diagrammatic reasoning. Cognitive Science 37, 211-254. Plylyshyn, Z. W. (2007) THINGS AND PLACES:How the Mind Connects with the World. (ピリシン, Z. W. 小口峰樹訳. (2012). ものと場所:心 は世界とどう結びついているか. 勁草書房)
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